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「さて、まずは皆さんに発展六属性の『光』と『闇』の魔法がどのようなものか、今から教えて差し上げますわ。まずは光の魔法から!」
レイアが持っているそれぞれの属性の杖を魔導石の色に合わせて『白杖』と『黒杖』と呼ぶのなら、最初にレイアが魔力を込めていたのは光属性の魔導石が付いた白杖。性能の良さも相まって、直ちに魔力を込め終えたレイアは杖を前に突き出した。
「セキラさん、行きますわよ?-『光球連弾』!」
レイアは当然と言わんばかりに詠唱破棄を行い、次の瞬間には宙に数多の光球を浮かべていた。直視するのが眩しい程に輝きを放つその球は、レイアの振るう杖の動きに従って、それぞれ続けて放たれる。その速さは通常の『球弾』よりも速く、あっという間にセキラの目の前まで迫っていた。
「光属性は、あらゆる攻撃の速度を上げる性質を持っているようですわ。だから1つ1つは単なる初級基本魔法の『球弾』であっても、応用魔法の『速球』のような速度になりますの。それが数を増やした『球群』にて放たれれば、失礼ながら多くの生徒はそれだけで太刀打ちできないのだけれど……、流石はセキラさんと言ったところですわね?」
「ああ。その程度の速さになったところで避けることに支障はない」
背負う大剣を地面に突き刺したセキラがとった行動は、ただ左右に走るだけ。それだけでレイアの攻撃を見切り、彼は息が上がることもなく、全ての光球を躱しきった。だが避けたセキラはもちろんのこと、外したレイアも表情には余裕が見える。
「さて、今の話を聞いて気になった方も少なくないでしょう。では、光属性で『速球』を放ったらどうなるのか、と。その答えを今、見せてあげますわ!-私の魔力。数多の光を疾く放て。『速光連弾』!」
「っ!」
今度は詠唱破棄とはいかなかったが、それでも短く詠唱省略されたレイアの魔法。先ほど同様に浮かんだ光球は、次の瞬間にはセキラの眼前にあった。これにはセキラも躱すことはできなかったようで、次々と球弾が吸い込まれるようにセキラに襲い掛かった。
「見て分かったことでしょう、『速球』はもはや人間には躱せるものではないことを。とはいえ欠点ももちろんありまして、とても制御が困難なんですの。この私も、詠唱をして集中力を高めないと、全てを制御しきることができないぐらいには難しいですわね。それと」
先ほどから戦いながら解説を行うレイアが振り返れば、攻撃により砂埃が立ち上がり、見えなくなっていたセキラの姿が時間の経過で見えており、しかしそこには汚れながらも御守り石を発動させることなく防御しきったセキラの姿が。
「もう1つの欠点。それは他の属性に比べて攻撃力が多少低いということ。もちろん魔物を倒せないことはないですし、特別光を弱点とする魔物もいるのだけれど、セキラさんは魔物ではないし、防御力も御守り石が危機と判断しないぐらいには高いみたいですわね」
「無傷とまではいかないがな。……そろそろ俺からも攻撃をさせてもらおう」
「ええ、もちろんですわ」
セキラは大剣を刺した位置にまで戻り、片方を抜いて両手で目の前に構える。そして脚に力を込めると、フィールドに跡が付くほど力強く大地を蹴り、大きな加速と共にレイアに斬りかかった。
高速でセキラが迫る様子を見て、レイアは再び杖を突きだす。だがいつの間にかそれは黒杖になっていて、既に暗い光が魔導石の外にあふれていた。
「お次は『闇』の魔法。-『闇連壁』」
「そんなもので俺の剣は、っ?」
「止まりますのよ、『闇』の性質によって」
レイアが発動したのは防壁を複数連ねる応用魔法、『複壁』。セキラは自身が持つ筋力への自信からか、回り込むなんてことはせず、愚直に壁に斬りかかったが、彼は振りぬこうとして違和感を覚える。
剣が重くなった。その感覚は1つ目を斬り裂いても消えず、2つ目、3つ目と斬り裂くにつれて重さは増し、5つあった全てを斬り裂いてレイアに斬りかかったが、その頃には速度は失われ、レイアは目を丸くしながらも難なく回避に成功。セキラは目を細めて自身の剣を見れば、斬り捨てた筈の壁の魔力がまとわりついて離れなかった。
「『闇』の性質。それはものを引き付けるというもの。その作用で剣に私の魔力が取り付いて、その魔力を地面に広げていたもう1つの壁と引き合わせることで動きを止めたかったのですけれど、そううまくは行かなかったようですわね。ただ、行動の阻害はもう少しだけ続きましてよ?」
「……」
レイアが込めた魔力が残る限り、その魔法は効力を発揮する。そのため。セキラの剣はまるで磁石に引き付けられるように強い力で地面に吸い寄せられていた。そんな剣を抵抗するように持ち上げるセキラに、レイアは新たに魔力のこめ終えた杖を向けた。
「ではこの『闇』の性質を持った『球弾』を放ってみましょう!-『闇球連弾』!」
レイアが光球のように数多の闇球を放つ。それらの速度は光球はもちろんのこと、他の属性の球弾よりも遅い。だがセキラが重い大剣と共に横に避ければ、その闇球は軌道を変え、再びセキラにまっすぐと飛んできた。
「そう、闇属性は防御に用いれば相手の動きを阻害して、攻撃に用いれば制御せずとも相手を追うようになるのよ。さあ、セキラさんには防ぐことができるかしら?」
「舐めるな!」
セキラは強引に大剣を持ち上げると、向かってくる闇球を全て斬り裂いていく。それは闇球が他の球弾よりも遅いためにできたことだが、しかし斬りつけるたびに剣は重くなり続け、セキラが最後の闇球を斬り裂くと、剣を地面に放り投げた。それは重力に魔法が加わったことで、フィールドを数センチほど陥没させるほどの重量となっていた。
セキラはそんな有様となった自分の剣を見下ろしていると、レイアが拍手している音が耳に届いた。
「これは驚いたわ。まさか全てを斬り裂いてしまうだなんて。ただ、あなたの剣はしばらくの間、使えなくなってしまったようですわね」
「問題ない。俺にはもう1つある。それに次は不用意に闇の壁を斬り裂こうとは思わない」
セキラはもう1つの大剣の元まで歩く。そして剣を抜き、レイアに向けて構えて気付く。彼女の手には、白杖と黒杖、その両方が握られていた。
「そう、なら私も皆さんに説明を終えたことですし、そろそろ本気を出させてもらいますわ。-『光闇混球連弾』」
レイアは光と闇の属性の魔法を同時に発動。宙には両極端の色の球弾がどんどんと浮かび上がり、微笑んだレイアの杖の動きに従い、放たれた。
『なんと!レイアは同時に異なる属性の魔法を繰り出したー!これはいかに同じ魔法といっても、重複発動であって重複発動でない!なんなら並列起動よりも難しいのではなかろうか!そこんところ魔法を使わないボクには分からないけれど!どうだいランクル先生!?』
『……何故今になって解説を求めたのかは分からないが、答えは人によって異なる。そもそも複属性の適性者がそこまで多くないこともあるが、ただ簡単なことではないのは間違いない』
『だそうです!そんな魔法を平然と使うレイア!やはりウェミナの生徒は只者ではなかったー!』
実況のフュルカが盛り上がり、観客の生徒達もレイアの魔法にくぎ付けになる中、セキラは苦戦を強いられていた。
光球は気楽に避けることができていたが、今は攻撃に闇球が忍び込んでいる。そればかりは避けることが難しいために斬らざるを得なかったのだが、闇球を斬った途端、周囲の光球までもが僅かにセキラを追うようになった。最初のうちは少し軌道が逸れた程度だったが、いくつもの闇球を斬るにつれ、光球が闇球のように動きだし、セキラに命中するようになる。それにより一瞬ではあるがセキラの動きが鈍くなり、それを境に次々とセキラを二色の球弾が襲い掛かった。
「闇球もあることだし、これで倒せたとは思うのだけれど、念のため。-私の魔力。数多の光の矢を成し放て。『光矢連射』!」
砂埃の舞うセキラの元へ、レイアは『弓矢』の魔法を続けて放った。先端が鋭利に尖ったそれは威力は低いが、球弾よりも確実にセキラにダメ―ジを与える。また闇球の働きにより、特に狙いを定めずとも勝手に命中するそれをレイアは少し多めに放つと、観客の生徒達の歓声もあって、彼女は勝利を確信していた。
そんな中、ふと思い出したのはユウシ達との会話。あのときセキラの技は魔武戦で披露するのが相応しいなどと言ったが、それをセキラは見せる前に試合が終わってしまいそうである。
「少しユウシさん達には申し訳なかったかしら。とはいえ、セキラさんの噂が本当であれば私もただではいられないでしょうし」
「ああ。だから俺もそう簡単には全力が出せないと言ったのだが」
「あら、聞こえていらしたの、ね」
レイアはセキラの方を向き、張れた砂埃の中にいた彼の周りに御守り石の防壁がなかったことで言葉を詰まらせた。
セキラは自身の剣を地面に突き立て、その陰に隠れるようにして身を守っていた。とはいえいかに大剣と言えども彼の身体を隠しきれるはずもなく、身体のいたるところが光矢によって傷つけられ、中には出血しているところもあったが、それでも御守り石は発動しなかったようだ。
「大丈夫なのよね?御守り石、壊れているわけではなくって?」
「俺はこの通り動けるし全く問題はないのだが」
『うーん、ちょっと念のため調べておこうかな?』
生徒が身体から血を流している姿を見れば、フュルカとしても試合を中断して御守り石の不具合の有無を確認せざるをえなかった。これには生徒達もざわめいたが、しかしフィールドに飛び降りたフュルカがセキラから御守り石を預かり、剣を突き立てようとして防壁に阻まれれば、御守り石は正しく機能していることはすぐに分かった。フュルカは判断に悩むも、セキラをチラリと見て、頷いた。
『うん、本人が大丈夫そうだし、このまま続けちゃおう!なによりこのボクが続きを観たい!そして魔武戦の責任者はこのボクだからね!それじゃあ遠慮なく始めちゃってね!っとう!』
実況席に戻るフュルカに、生徒達から何とも言えない視線が送られるが、彼らも最後の試合が中途半端に終わってほしくはなかったため、特に反対意見が出ることはなかった。間もなくしてフュルカから試合再開のアナウンスがなされ、レイアは困ったように肩を竦める。
「参ったわね。あれで倒せる自信が結構あったのだけれど」
「俺も咄嗟に剣に頭や急所を隠さなければ危なかった。それにあなたの魔法の数々は厄介でこのまま戦えば俺はいずれ負けてしまうだろう」
そう言って剣から手を離したセキラは腰の杖を抜いた。黄緑色の魔導石の杖、それが何の属性を示すのか、レイアはセキラと交流する中で聞いており、それ故にできれば自分との戦いでは使ってほしくはなかった。
「私と同じ発展六属性の1つ、『護』属性。その性質は、あらゆるものを強化する……」
「魔力量も魔適性も低い俺には使いこなせないがそれでも頼らせてもらおう」
そうして杖に魔力を込め始めたセキラのステータスは以下に示すとおりである。
ー・ー・ー・ー・ー・ー
セキラ ステータス詳細
魔力: G
体力: B
攻撃力: A
防御力: B
敏捷: B
器用: E
魔適性: F(護)
幸運: E
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極端なまでに武技に特化した彼は体力から敏捷までがB以上だが、魔法は魔力量が最低評価であり、適性も属性こそ発展属性であるが、下から2番目のFは、満足に初級魔法をこなすことも難しいといったもの。
「故に俺が本気を出してもレイアさんが勝利する条件がある。それは俺が魔法を発動してから魔力が無くなる1分間の間に攻撃を一度も受けないことだ」
「あら、そんなことを教えちゃっていいのかしら?」
「そちらこそ俺が魔法を使う隙に攻撃をしなくてよかったのか?」
セキラとしては1分を過ぎれば魔力欠乏症で倒れてしまうため、教えようが教えまいが倒せなければ負けることが確定しているために関係なかった。だがレイアはこの試合が始まってから、セキラがレイアの魔法の発動後に動き始めていたことに気が付いていた。
他にも先ほど思い出したユウシ達とのことや、一つ前の試合でユカが自身らよりも目立つ戦いをしていたため、せっかくならレイアももっと盛り上げたいと思っていたことなど、セキラの魔法の発動を待つ理由は意外と見つかった。
「……いいんだな」
「ええ、私も気になっていましたし」
「後悔するなよ……-俺の魔力。その力を加護に変換。この俺に豪傑の如き怪力をもたらさんことを。『武神の加護』!」
セキラの杖から黄緑色の光が伸びて、両腕を覆っていく。やがて全てが腕に移ると、光は赤い色へと変色した。すると彼は杖を腰に戻し、目の前の剣を抜いて持ち上げる。
「はあッ」
「なっ!?」
レイアは当然セキラの『地割』は知ってはいるが、見たことはない。そのため、噂で聞いた、『地震を思わせるほどに地面が揺れた』『立っていられないほどひび割れた』『先生が割れた地面を直すのに数時間はかかった』といった大げさに聞こえるそれらが、むしろ遠くにいたために過小評価していたものであるなんて、思いもしなかった。
セキラが剣を地面に叩きつけると、セキラとその周囲十数メートルが陥没し、そのまた周囲が大きく隆起した。フィールドの中央付近からおよそ半分程度は変形しており、巻き込まれるレイアがそのまま立っていられるはずもなかった。観客の生徒達が唖然とする中、元の高さから数メートルは陥没したであろうフィールドの中央で、セキラは酷く変形した大剣だったものを持ち上げる。
「やはりこれも耐えきれないのか」
「なんて威力なの……」
「さて。……うまく避けてくれよ」
「!」
『お、驚きの連続!そんな中、セキラはぐしゃぐしゃの剣を、振りかぶって、な、投げたー!?』
レイアはセキラと目が合うと、彼が投擲の構えを取ったことに気付き、すぐに立ち上がって横へ跳んだ。直後、元居た位置を鉄塊が通り過ぎ、勢いの落ちないそれは観客席の真下の壁に突き刺さった。壁には大きな罅が入り、すぐ上の生徒達は怯えて恐怖を抱き、ちょっとしたパニックとなっていた。
制限時間が迫るセキラはそんなことが起きているとはつゆ知らず、彼はその場から走り出し、大地のひび割れに突き刺さっていた1本目の大剣を引き抜いた。そしてレイアを視界に捉えると、大きく跳躍する。
『セキラはこの次の攻撃で勝つ気満々のようだ!さあ、レイアは何か対する手段はあるのか!?ってか、御守り石の防壁、砕けないよね?ね?』
「っ」
「お気になさらずどうぞ、セキラさん」
セキラの攻撃力が想像以上であり、まさかの事態を恐れたフュルカの声はセキラにも届き、セキラにその身を竦ませた。だがそんな不安を打ち払おうと声をかけたのはレイア本人。流石に余裕は失い、頬を引き攣らせてはいたが、彼女はまだ諦めていなかった。なぜなら、杖に光が灯っている。
「私はまだ、負けてはいなくてよ?」
「……ああ。それはすまないことをした!いいだろう!あなたの魔法を今度こそ叩き斬る!」
そう言ってセキラは止まっていた足に力を込めて前へ前へと駆けた。そして残り数歩でレイアに剣が届くというところで、レイアは目を瞑った。驚くセキラが恐怖故かと疑ったその時。杖が激しく光り輝いた。
「-『発光』!」
「ぐっ!?」
それはなんてことのない『放出』の魔法。激しい光は魔力の高まりを示したのではなく、魔法の効果として彼女が放った結果だった。それにより、杖を直視してしまったセキラは一時的に失明状態となる。そんな中でも彼は走りぬき、最後にレイアがいた場所へと剣を振るったが、セキラの剣には当たった感触は全くなく、振り返って気付けば、首筋に何か細いものが触れていた。
「今、あなたの首には私の剣が触れていますわ。これより少しでも前に歩けば、あなたは貫かれてしまうでしょう」
「……そうか。俺は負けたのか」
『な……なななんと!最後の最後で放った魔法でセキラは視界を奪われ!結果!レイアが逆転勝利したーっ!』
最初こそ生徒達は誰もがレイアの勝ちを確信していたが、セキラの『地割』を見ればその考えも打ち砕かれてしまっていた。だが結果、レイアは最後まで諦めず、機転を利かせて自身を勝利へと導いた。そんな彼女にイアンのようなブーイングが送られるはずもなく、大きな歓声と拍手が送られた。
レイアがほっとした表情で細剣をしまえば、セキラの腕から光が消え、彼は目を閉じたまま両膝を地に着いた。
「いくらあなたがすごいとはいえ俺の本気には適うはずがないと思っていた。だがまさか制限時間を耐え抜くのではなく時間内に俺を負かすとはな」
「あれはあなたが私を信じてくれたおかげね。ごめんなさい、叩き斬れない魔法で不意打ちした形となってしまって」
「気にすることはない。それよりも俺は本当にあなたのことを甘く見ていたようだ」
そう言って自身の発言を振り返る彼は負けたにもかかわらず、どこか清々しいような表情をしていた。そんな彼の考えに気付いてか否か、レイアはセキラの前に立って微笑んだ。
「そうね。私はこの代の首席を目指し、いずれは勇者や英雄のような存在となるんですもの。そうやすやすと負けるわけにはいきませんわ」
「そうか英雄か。……ははっ。それは俺が勝てないわけだ」
「なんですの、馬鹿にしていらっしゃるの?」
「い、いや、そんなことはない」
日頃から無表情なセキラだが、レイアの目標を聞いて思わず笑いを零す。そんな彼にレイアはからかうようにむくれて見せ、セキラを焦らせて満足したのか、セキラに手を伸ばして振り向いた。
「さて、控室に戻りましょう。きっと皆さんがお待ちしていますわよ」
「そのことなんだが申し訳ない。魔力を使い果たした俺は欠乏症の症状でまともに歩けそうにない。加えてまだ目が見えるようになるまで時間がかかりそうだ。だから誰か先生を呼」
「あら、そうでしたの。それなら私のせいでもありますし、私が肩を貸して差し上げましょう」
「な、そ、それはっ」
慌てて後ずさろうとしたセキラは体勢を崩し、後ろに回り込んだレイアがそれを抱える形となった。そうなれば、セキラは異性の柔らかい感触と鼻腔をくすぐる甘い匂いに頭が混乱し、それ以上逆らえなくなる。
「無理をするのは良くなくってよ。ほら、まっすぐに手を伸ばして」
「……わ、分かっ、た……」
セキラは手を伸ばし、レイアに支えられて立ち上がった。2人が並んで歩きだせば、観客席からはよくわからない声が上がっている。
「そういえば試合中、うまく避けてくれ、と仰っていましたわね」
「そ、それは、あなたに何かあれば、いや、攻撃しておいて説得力はないのだが」
「優しいのね、セキラ」
「っ……」
そう呼び捨てで呼ばれれば、彼はもう何も言うことができず、ただ顔を背けるだけだった。空いている手で顔を覆っていたが、隠しきれない頬や耳が真っ赤に染まっていて、観客席からは男女それぞれ羨む声や野次を飛ばしている。
「あ、あいつ、レイアさんとあんなに密着して!な、なんて羨ましいんだ……」
「だってさユカさん」
「見るに堪えませんね」
「ガーン」
「テイガのバーカ」
肩を落としたテイガに呆れた眼差しを一同が集めていると、砕けた大地の真ん中にフュルカが降り立ち、閉式の言葉を述べ始めた。
『みんな!今日の魔武戦は全て終わったけど、楽しめたかな~?』
フュルカが耳を傾ける仕草をすれば、生徒達は大声で肯定的な返事を返した。それを聞いてフュルカも満足そうに頷く。
『良かった良かった!ボクもランクルとかゼイドが1ヶ月前倒しで魔武戦やるって言いだした時はどうなるかと思ったけど、例年よりも上手に戦う生徒が多いだけじゃなくて、固有魔法を使いこなす生徒だとか、卒業試験って言われても驚かない戦いを繰り広げる生徒がいて、ほんとにビックリしちゃったよ!
さて!そんな魔武戦についてだけど、朝も言った通りこれは毎月行われるイベント!だから今日失敗しちゃった生徒のみんなも、今日は怖くて出られなかった生徒のみんなも大丈夫!失敗を反省して講義で練習を繰り返して、次こそはうまく戦えるように頑張ろう!ではではこれにて!第1回ラルド魔武戦を終わりにするよ!みんな、お疲れ様ーっ!っとーう!』
そう言って決めポーズを取ったフュルカは大きな声と共に実況席の更に上を飛び越える。そのまま彼女は競技場を後にし、本日数々の驚き体験をしてきた生徒達に最後の驚きを与えたのだった。
イベントが終わり、生徒達は各々行動を始める。そんな中、最後のフュルカの閉会の言葉で気にしたことがあるテイガは悪い笑みでシガナに話しかける。
「なあシガナさんよ、お前ももしかして、本当は怖くて出られなかったとかじゃねえのか?」
「ん?あー、面倒だからそれでいいや」
「いや否定しろよ、なんか俺が悪者みたいだろ」
「「「それは事実じゃない?」」」
「ざっけんなお前らぁ!」
シガナだけでなくユウシとモモコも声を合わせてそんなことを言えば、テイガは当然抗議の意を示すが、またしても取り合うことのないシガナは立ち上がり、すぐに観客席を離れようとした。
「ほら、シガナ怒ってるよ」
「は?いや?今怒ってんのは俺だろ!」
「うん、自分は急いでるだけで怒ってないから安心していいよ」
「急ぐって、シガナくん、このあと用事でもあったの?」
フーシュが訳を尋ねれば、シガナはテイガ、モモコ、そしてユカを指差し。
「さっさとこの有名人たちから離れなきゃ。特にユカさんが自分を巻き込もうとする前に」
「分かりました、あなたを追いかければいいんですね」
「シガナァ!!」
「テイガ、ちょっと待ちなさいよ!!」
逃げるように階段を下りるシガナを少し頭に来たらしいユカが追いかけ、その後ろを羨ましさからか、シガナに親の仇のような視線を向けつつもユカとの距離をしっかり離すテイガと、そんな彼を引き留めようとするモモコ。そしてそんな有名人達に気付いて立ち上がる観客の生徒達。
「ちょ、ユカさん、いつもの自身の姿を思い出してもらってもいいかな!?」
「知りません。ただ逃げるあなたが気に入らないだけです」
「シガナァ、てめぇ!ふざけんなぁ!」
「ふざけてんのはアンタもよ!」
4人が競技場を後にすれば、続いて大勢の生徒達も流れるように競技場を抜けていく。そんな中、出遅れたユウシが呟く。
「僕、怪我してるから走れないんだけど」
「げ、元気出して、ユウシくん」
あっという間に人気が無くなった競技場にて、走れないユウシは寂しく俯き、わたふたしてるうちに流れに乗れなかったフーシュが慰めた。
そんなこんなで終わった初めての魔武戦は、良くも悪くも出場者の実力を広く生徒達に知らしめた。試合を観て、単純に磨かれた実力を褒め称える生徒達がいる一方で、中には良からぬ考えを抱いた生徒達もいる。
「無名で午前中の試合にもかかわらず、生徒達の注目を集めたあの2人の生徒。それだけではなく、彼らはあの『紅炎』のユカ様と共に観戦していた……となれば、もしや彼らはユカ様に……先に接触すべきはこっちか。……ああ、より美しい魔法を使いこなすユカ様、今日は私の魔法も見て頂けただろうか……!」
以前多くの生徒の前で告白し、ユカに返事をもらうことすらできずに逃げられた男子生徒。
「ああ、あれが噂のユカ様……とってもかっこよかったです!ぜひとも魔法を教わって、私もすごい魔法使いになって……へへへ。でも、一体どうやって……はっ!ユカ様を困らせる男子生徒を追い払えば、ユカ様は私に感謝して喜んで教えてくれるはず!よし……早速明日から!」
噂のユカの姿に憧れ、なにやら邪な思いの籠った計画を企む女子生徒。
「今日で大方の生徒の実力は把握できましたわね」
「やっぱり注意すべきはそれぞれ武技と魔法で1位と思われる、セキラとユカさんでしょうか」
「それはもちろんだけれど、新規属性のユウシさんと、未知の魔法、もしくは魔導具を用いるシガナさんは引き続き気になるところかしらね」
「そんなこと考えるだけ無駄ですよ。どうせあなたには適わないですし」
「でも実際あなたもユカにほとんど負けてたじゃない」
「そっ、それは……!」
「いい?これは私が首席になるために、そして行く行くは勇者を目指すうえで、必ず生きてくるものなのよ」
高みを目指し、そのための情報収集を怠らない女子生徒と、そんな彼女に付き従う生徒、そして。
「初めてテラス席が使えた日に集まってた人達、すごい人ばかりだったなぁ。僕もそれなりに強いし、今日はそれを見せられると思ったんだけどなぁ。どうして……僕の名前……呼ばれなかったんだろうなぁ……」
「あれ、僕たち以外にもまだ誰か残ってる」
「ふぇ?」
出場希望を出したにも拘らず、名前を呼ばれることがなく、楽しみにしていた自分の番を迎えることのなかった男子生徒の寂しげな呟きを、そろそろ帰ろうかと立ち上がったユウシが耳にした。
こうしていろんな思惑が生まれる中で、ユウシとフーシュは新たな友人を得たのだった。




