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「-僕の魔力!その力で氷槍を撃ち出せ!『氷槍連弾』!」


 イアンは手早く魔力を込めると、次々と浮かべていた氷槍を撃ち出した。それは確実に相手を追い詰めるためか、はたまた自らの実力を顕示するためか、全てが異なる軌道を描いてユカに向かい、四方八方から迫り来る。しかしそれまでに魔力を込める時間が多分にあったユカは冷静に魔法を発動する。


「-私の魔力。その力を炎に変え、敵から身を守り、私たちを覆う盾となれ。『火炎包壁』!」


 ユカの周囲を炎の壁が包み込み、氷槍は壁に阻まれ、触れた個所から蒸発し、ユカに届くことはなかった。


「ふーん、防壁の応用、それもなかなかの魔力量じゃん。でも、完璧に防げたわけじゃあなさそうだ」


 それは誰から見ても明らかで、氷槍が当たった位置には穴が開き、氷槍の破片が壁の中に散らばっている。それもそのはず、『包壁』は全方位からの攻撃に対応できる代わりに、込められた魔力は通常均等に壁に割り当てられるため、通常の『防壁』よりも耐久の面では弱くなる。


 ユカは発動継続により新たに魔力を継ぎ足すことで、あっという間に壁を修復する。だがそれを見たイアンは笑みを浮かべて再び『氷槍連弾』を繰り出した。しかしそれらの軌道は先ほどと異なり、全てが真正面から『火炎包壁』に迫る。


「はん、お前は包壁を保つので精一杯だろうけど、それなら最初の1つで穴をあけて、残りで穴を広げて攻撃すれば問題は……」

「-私の魔力。その力を炎に変え、数多の火球となれ。宙に漂い、私を護れ。空に舞い、かの者に降り注げ。『火球乱舞』!」

「なっ!?」


 イアンはユカが魔法の並列発動をできることを知らない。というより、自身ができないことを出来るわけがないと決めつけ、可能性を全く考慮していなかった。だが実際にユカは新たに『火球乱舞』を展開し、包壁の中から氷槍に向けて撃ち出して迎撃する。


「狙いが定まっていると対応が楽で助かります」

「なんだと!」


 思わず本音が漏れたユカに対し、苛立ったイアンは途中で軌道を変え、2つずつをそれぞれ四方から包壁に向けて放った。だがユカもまた、火球を四方に向けて放つことでいとも容易く対応して見せる。


「できないとは言っていません」

「はんっ、これを乗り切ったぐらいで!」

「いいんですか?まだ火球は残っていますが」

「っ!?」


 ユカが作り出した火球は氷槍を壊してなおまだ数個残っており、それらをイアンに向けて撃ち放つ。そんなイアンは自称最強を名乗るだけあり、魔力をこめる判断は早く、なんとか火球も防いで見せた.


 だが防ぐのに使った魔法は。イアンの前には水で構成された防壁が漂っていた。


「水属性の防壁魔法、ですか」

「-っ、この僕が水属性も使えることを証明しただけだ!火球ぐらいなら、氷壁でも防げたしな!」


 馬鹿にしたわけでもなく、単に事実の確認として口に出したユカだが、自分のプライドに傷をつけられたイアンは歯を食いしばり、杖を握る手に力がこもっていた。だがそれも束の間、自身の杖が煌めくのを見ると息を吐いて笑みを零し、杖をユカに突き付けた。


「……いいよ、認めてやるよ。お前は強い。この僕が本気を出さないと勝てないぐらいにな」

「そう、ですか」

「ただな、この僕が本気出せば、お前なんかあっという間に倒せる!」


 そう言ったイアンの杖が放つ光は初級魔法のそれではない。ユカはそれを視認すると、自身もまた杖に魔力をこめる。


『両者魔力をこめ続けて動かない!ただイアンが放つ光はこちら、実況席からもその輝きが分かる程!けれど魔力暴走ではないようだ!さあ、どんな魔法が繰り出されるのか!』


 先に魔力を込め終えたのは、杖の性能もあってイアンである。多くの観客の生徒達はそれが魔力の制御の失敗なのではないかと疑っていたが、フュルカにはそれが意図してやっていることであると分かっていた。


「この魔法は人に見せるのが初めてだ、光栄に思え!-僕の魔力!その力で氷を生み出し、人の形を成せ!氷の骨格、氷の肉体、氷の鎧、氷の剣!作り出されるは全てを切り伏せる凍結した大剣士!」


 イアンの杖から極寒を思わせる冷気が吹き荒れ、それらはイアンの目の前で渦を巻く。やがてできあがった氷の骸骨は更なる冷気を纏って人となり、身長2メートルを超す剣士となった。その手にはそれぞれ剣と盾が持たれていて、日の光を浴びて煌めていた。


「僕に従い、敵を斬り刻め!『氷結騎士』!」

【……】


 額に汗をかくイアンは呼吸が荒く、その魔法の形成は相当困難であったことが分かるが、しかしイアンは魔法を作り上げることに成功した。氷の剣士はイアンと同様に動き、イアンが杖を剣に見立てて振り下ろすと、剣士も同じように剣を構えて振り下ろし、観客の生徒達は大きな歓声を上げた。


『これは!イアンが作り上げたのは中級基本魔法『人形』をアレンジした固有魔法か!自由に動かすのが困難なこの魔法を、自分の動きと重ねることで見事に成功させている!これはすごい!すごいと言わざるをえない!』

「ど、どうだ!この剣士の力はすごいぞ!なにせ樹木を半ばから切り倒すことだってできる!お前のその壁なんか、紙を破くぐらい……」

「-私の魔力。その力を炎に変え、勢いよく燃え上がれ。炎を集め、炎を束ね、1つの命を形作れ」

「あ?なんだ、壁を壊して。降参か……はあ!?」

『なななんと!?壁に覆われて気付けなかったけど、ユカの杖が放つ光は先ほどのイアンと並んでいる!いや、もしくはそれ以上か!?』


 ユカを覆っていた包壁が崩れるとともに、夜明けの朝日のような光が中から溢れた。それは直視すると眩しい程で、近くで見たイアンと、連動する氷の騎士は驚きと共に後ずさる。


「-炎を宿し、炎を纏い、炎を生み出す蛇となれ。喰らう命を遍く焼き尽くせ」

【……ゥゥァ……】

「ひいっ!?」

【……】


 炎の中から生まれた蛇の目は鋭く、睨まれたイアンは腰が引けている。だが観客の生徒達がそんなイアンを咎めることはない。誰もがユカとその魔法に目を奪われ、ユカを守るように長い身体を巻いた蛇をある者は恐れ、ある者は憧れた。


「……イアンさん。あなたのその魔法もなかなかのものですね」

「なっ、な、なんだよ急に」

「私のこれもまた中級基本魔法『動物』の一種。まさかこの場で中級魔法の戦いができるなんて、思ってもみませんでした」

【ルゥゥアァ】

【……】


 ユカはイアンの『氷結騎士』を前にして、嬉しそうに微笑んでいた。そんな主の感情に呼応するかのように、炎の蛇も高い鳴き声を上げて感情の無い騎士を睨む。


「決めましょう、どちらの魔法が上なのか」

「……はんっ、そうだ、同じ中級魔法なら、この僕が作った魔法が負けるわけがない!」


 意せずしてユカの言葉はイアンを元気づけ、イアンは杖を構えて騎士を炎の蛇と相対させる。ユカは熱気に、イアンは冷気に満ちた己の魔法に全幅の信頼を置き、両者ともに杖を掲げた。


「行くぞ、『氷結騎士』!あの蛇を斬り刻め!」

「-私の魔力!集めた力を今こそ放て!火炎を纏ったその名は『紅炎大蛇』!」

【ルゥゥアアッ!】


 炎蛇は身体をうねらせながら騎士に接近し、騎士はその牙を盾で防ぎ、剣で身体を両断せんと斬りかかった。


『なんてことだ!こんな試合、後期の最後にやっとみられるような戦いが今、春のうちから見られるなんて!っと、驚いてる場合じゃあない!実況実況!って、ああ!今、騎士の足に蛇が噛みついて、あっ、でも騎士が炎蛇を真ん中で斬った!?けどつながったぁ!?』


 興奮するフュルカの実況は冷静さを欠いていたが、起こった出来事はそのままである。騎士は足に噛みつかれ、その拍子に罅が入る。しかしおかげで狙いが定まり、騎士の攻撃は炎蛇の身体の中央を捉えた。とはいえ炎の身体を持つ炎蛇に実体はなく、ギガスライムのように斬れた端から身体はつながり、騎士の攻撃は無駄に思えた。


 だがイアンは見逃さなかった。炎蛇は氷槍によって火炎包壁が崩れたように、騎士の剣で幾分か身体が小さくなっていたのだ。


「捕ま、えたぁっ!!」

【ルゥアァッ】


 イアンはしゃがんで杖を持たない腕を地面に押し付ける。それは騎士に盾を炎蛇に押し付けさせ、騎士は噛まれた左足を犠牲に炎蛇の首から上を固定した。


 炎蛇に触れる氷の盾から水蒸気が漏れ出て魔素に還る。それは氷の盾が削れていることを示し、やがて音を立てて盾は砕け散ったが、炎蛇も顔に近い位置でダメージを受けたためか動きが鈍くなっている。


「はははっ!いいぞ、氷結騎士!このまま炎蛇を押し潰せ!」

「そうはさせません!」


 ユカは杖を構える。その杖には新たな光が灯っていた。


 ユカの『紅炎大蛇』はイアンの『氷結騎士』と異なり、動きが同期していなければ、ユカが細かく指示を出しているわけでもない。そのため、新たに魔法を形成するだけの余裕があったのだ。


「-私の魔力。その力を炎に変え、数多の火球となれ。宙に漂い、私を護れ。空に舞い、かの者に降り注げ。『火球乱舞』!」

【ルゥア!】

「なんだと!?」


 空いた手で炎蛇を捉えようとするイアンだが、ユカが新たに繰り出した魔法に驚いている隙に炎蛇が火球に飛び込んだ。炎蛇はそれらを食べることで熱を得て、欠けて薄い身体を修復する。そうなれば、そこにあるのは始まりとなんら変わらない炎蛇の姿。余りに魔力を惜しまず魔法を使うユカにイアンは彼女の欠乏症を期待したが、しかしその顔には魔法を存分に振るえる幸福のみ。


「-喰らえ!」

【ルゥゥアッ!】

「しまった!?」


 余計なことを考えて気が逸れているうちに、炎蛇は騎士の身体に巻き付いた。そして身体を登り。首元に牙を突き立てる。イアンは焦るあまり、剣を手放して両手で引き剥がそうとしたが、それは杖を放棄したということ。騎士は電池が切れたように項垂れ、イアンが杖を持ち直した時には全身に罅が入っていた。


「-砕け!」

「や、止めろっ!」

【ルゥアアアッ!!】

【……】


 杖で振り払うようにして指示を出したユカ。炎蛇は命令に従うように身体を締め上げ、イアンの制止もむなしく、騎士は全身砕け散ってしまった。後にはいくつもの氷塊が残り、炎蛇は身体の至るところが欠損したものの、それでもまだ動いている。ただその動きは遅く、イアンはまだ勝機が残っている、と震える手で杖に魔力を込めようとした。しかし、先に詠唱するのはユカだった。


「-その身を解き、編みなおせ!」

【ルゥゥ……ぅあっ】


 炎蛇はその身体を崩し、ただの燃え盛る炎となったが、すぐにまた蛇の形を作り直した。そうすれば、欠損した身体の分大きさは縮小したが、そこには元気を取り戻した蛇の姿が。


「さあ、とどめです!-いけっ、『紅炎大蛇』!」

【るぅあっ】

「くそっ!」


 素早く迫る炎蛇に、イアンは杖に魔力をこめるのが間に合わない。そして炎蛇があと少しで手の触れる距離に届く、そんなとき。




 パキンッ




「……あっ」

「へっ?」


 イアンは思わず目を瞑っていたが、肌に吹き付けた熱風が過ぎれば、目を開けてもそこに御守り石の防壁は形成されていなかった。呆けた声を出し、ゆっくりとユカに視線を向ければ、彼女はしゃがみ込んで何かを拾い集めている。


 よく見れば、それは宝石の欠片のようで。それが杖先にあった魔導石のだったものだと理解するまでに時間はかからず。イアンが、フュルカが、生徒達が、何が起きたのかを把握する前に、ユカは静かに呟いた。


「……少しの間だったけど、ありがとう。おかげで私、成長できたよ」


 優しく微笑んだユカは立ち上がり、杖と魔導石を胸に抱え、実況席にいるフュルカの方を向いて告げた。


「フュルカ先生、私は降参します」


 魔武戦最後から2試合目のユカ対イアン戦。勝者はイアン。


 ー ー ー ー ー


「あ!ユカちゃんお帰り!」

「……」

「ふぇ?ゆ、ユカちゃん?」


 観客席のユウシ達の元へ戻ってきたユカは口を固く結んで不機嫌な顔をしており、フィールドで見た笑顔はどこへやら、今は近寄りがたい雰囲気が溢れていた。これにはフーシュも気付かないうちに悪いことをしていたのではないかと不安になったが、その心情を察したシガナが1人呑気に呟いた。


「あ~あ、これでユカさんもいよいよ、学校じゃ安心して過ごせないね~」

「分かってはいましたが、もう憂鬱ですね……」

「ど、どういうこと……?」


 話についていけないユウシが尋ねれば、シガナは周囲一帯を指差す。ユウシが見渡せば、周りにいる生徒の大方の視線がユカを見ており、向いていない生徒達も、会話の話題はユカの魔法についてだった。


「もう噂が真実になったから、武技の生徒とかを中心に、明日以降詰め寄る生徒が急増するって話」

「でもテツジが言うには、男は近寄らなくなったんでしょ?」

「さあね。今の自分たちを見て例外もいるってわかっただろうし、それに魔法に魅了されるのは異性だけじゃないよ」

「はぁぁ……」


 ユカとしても友達が欲しくないわけではないため、話しかけてくれること自体は嫌ではなく、むしろ嬉しいしありがたいと思っている。だが、今のユカは良くも悪くも自分の魔法に夢中であり、できることなら使える時間は全て自らの魔法技術を高めるのに使いたかった。そのためユカは、今後どうやって相手の好意を無碍にせず、自分の時間を確保すればいいのかを考えなければならず、試合後の心地よい疲労の質が徐々に悪化するのを感じていた。


 せっかくの試合で盛り上がっていた空気がどんよりとし始めたのを感じ、その空気を嫌ったモモコが手を叩いて声をあげた。


「それより!ユカ、さっきの試合なんで降参なのよ?どうみてもユカの圧勝だったじゃない!」

「ええ、それは私の杖が壊れてしまって」


 観客席からは遠かったために何が起きたのか分からなかったモモコ達のために、ユカは自身の杖を取り出して見せた。その杖は大切に使われていたためか、特に柄に汚れや傷は目立たない。だが肝心の魔導石の部分は全体に大きな罅が入っているほか、一部は欠け落ちてしまっており、そんな惨状を見たモモコは目を見開いた。


「つ、杖ってそんな風に壊れるものなの!?」

「うーん、まあ普通はそうなる前に実力に合わせて買い替えるんだけどね」

「実力に合わせて?」

「ってことは、ユカさんが強すぎたってことか」

「簡単に言えばね」


 ユカが用いていたのはこの学校で支給された杖。それは魔法の入門者や初心者用のもので、その使用目安は初級魔法の応用を行う程度であった。にもかかわらず、成長が早かったユカは初級魔法の応用を越え、初級魔法を複数同時に発動させたり、中級魔法に手を出したりしていた。


 そのためいかに品質の高くない魔導石であっても、本来であれば最低でも半年は持ったはずだが、ユカの杖の魔導石は多大な魔力を用いた魔法の連続した行使に耐え切れず、限界を迎えて壊れてしまったのだった。


「今日のユカさんの『紅炎大蛇』に使われてた魔力は、事前の魔法と継ぎ足された魔法の魔力も含めたら、もう少しで上級魔法に手を出せそうなぐらいだっかな」

「そんな魔法を使いこなしてたってことでしょ!?それならもうユカの勝ちで良かったじゃない!」

「いえ、でも負けは負けですし」

「いやいや、他の奴らだってユカさんが勝ったって思ってるぜ、なあ!」


 テイガが声をあげれば、野次馬のごとく聞き耳を立てていた近くの生徒達が頷く。ユカに冷たい視線を送られ、揃って目を逸らす。


 とはいえユカが降参してイアンが勝ったことを不満に思っていないのはイアンぐらいであり、嫌々といった様子でイアンの勝利を告げたフュルカの言葉にイアンが勝ち誇ったとき、少数の生徒は拍手を送ったものの、その全ては他の生徒達のブーイングで埋め尽くされていた。イアンは何やら叫んでいたが、誰も気にしていなかった。


「ホントにすごかったわよ!もう、こう……っ、すごかったわ!」

「今日見た中でいっちばんスゴいスッゴくスゴかった!」

「俺なんて、試合中なんど流石ユカさん!って叫んだか覚えてないぜ!」

「ユカちゃん、とってもかっこよかったよ!」


「イアンが凄いのは聞いてたけど、それ以上の魔法だった!」

「ユカさんって見た目だけじゃない、すごい魔法使いなんだね!」

「最後の魔法、ほんとに同級生なのかって驚いたよ!」

「火球ですらヤバかった、何あの精度、マジでスゴイ!」

「とても見ごたえのある良い魔法といい試合だったな!」


「……」


 ユウシ達が口々に褒め称えれば、それを聞きつけた周囲の生徒達も純粋な気持ちで試合の感想をユカに送る。もちろん中には男子生徒もいたが、今回ばかりはユカもそっけなく返すことができなかったようで。


「え、ええと、その、ありがとう……。……ございます」


 思わずいつもの丁寧語を忘れてしまうほどに心が嬉し恥ずかしさで満たされていたユカは、顔を赤らめて俯いた。槍と見紛うほどの恋の矢が男子生徒を中心に胸を貫いた。


 慌てて取り繕うようにございますをつけ足したが間に合うはずもなく、テイガを筆頭に男子生徒と、少数の女子生徒が胸を抑えて崩れ落ちる。だがいつもならテイガを激しく揺すり出しそうなモモコは、今回顔を隠すユカの両肩に手を置いていた。


「ねえユカ、もしかしてだけど今の言葉遣いが素なの?」

「え、いや、これは」

「今までの話し方、ずっと堅苦しいと思ってたのよね!ね、今度からもっと砕けた言葉遣いでいいわよ!」

「そんな、急に言われても」


 追い打ちをかけるように言葉遣いを指摘され、ユカはモモコから逃げようと身体を逸らすが、モモコは肩から手を離さない。直視しようとまっすぐ見てくるモモコのキラキラした目を、なんとか躱すことが精一杯である。


「分かったわ、じゃあまずは私とフーシュを呼び捨てかちゃん付けで呼ぶとこから始めよ!」

「あっ、モモコちゃん、それいいね!」

「ふ、フーシュさんまで……」

「そこはフーシュまで、だよ!」

「う、うぅ」

「はいはーい、ユカさん試合で疲れてるだろうし後でにしなー。ほら、フィールドの整備終わったみたいだし、"最後"の試合始まるよー」

「「「!」」」


 倒れるテイガや生徒達、困惑極まるユカ、ユカに迫るモモコとフーシュ、喧嘩ではないため仲裁できないユウシ、とそんな彼らを見てずっと笑っていたらしいシガナが浮かんだ涙を拭って呼びかければ、次々と生徒達は座りなおして前を向く。それまでユカとイアンの戦いで荒れたフィールドを綺麗に均しており、それが終われば始まるのは本日最後の魔武戦である。なお救われる形となったユカはシガナに感謝しようとしたが、とっても笑顔だったのでやめた、むしろ睨んだ。


「さて、最後の試合、誰と誰なんだろうね~」

「とか言って、分かってんだろ?」

「まあそうだけど」


 テイガがわざとらしい様子を指摘すれば、シガナは頷くが、しかしテイガの顔を見て考えていることが違うと気づく。だがシガナが口を開く前に、テイガはシガナの肩に手をまわした。


「だって、お前はまだ試合に出てねえもんな!」

「そっか!シガナも戦うのか!」

「えー、アンタってそんな強いの?」

「そういえばシガナさんは私も知らない魔法を使いますよね」

「そうなんだ、それじゃあ見るのが楽しみだね!」

「んー、盛り上がってるとこ悪いけど」


 自身に集まる視線にシガナが苦笑すれば。


『さあさあみんなお待ちかね!本日最後の魔武戦の出場者!その生徒はぁ……ジャジャン!光と闇の火の3属性を使う秀才生徒、レイア!そ!し!て!攻撃の破壊力は見る者全てを驚かす!セキラ!お二人とも、早速控室へレッツゴー!』


「「「「シガナ(くん)(お前)(アンタ)じゃないの(じゃねえの)!?」」」」

「言ってなかったっけ?」

「別の機会と言われましたが、いつ教えてもらえるのでしょうか」

「魔法についてはぶれないなあ、『紅炎』のユカ様は」

「や、止めてください」


 ユウシ達が驚く横でユカをからかうシガナだが、ユウシ達が当然それで終わるわけもなく、すぐさま理由を尋ねれば、シガナはさっきの失敗を思い出して頭を抑えるユカを指差す。


「だって別に、ユカさんみたいに有名になりたくないし」

「う」

「魔法は好きだけど、だからこそ自分の時間を確保するために、わざわざ目立つようなことをしようとは思わないからさ♪」

「……他の人に魔法のこと聞かれたら、全部シガナさんから学びましたって言いますから」

「うん、止めて?」


 シガナは真面目な顔で制止した。もしもこれがシガナ以外から教わったと言ったならば、その信憑性はそこまで高くはなかっただろう。だが、シガナは失敗したことの1つとして、座学の試験で歴代最高得点を得てしまっている。座学の講義の免除など、様々な利点を考えての結果でもあるが、それによりユカがもしそれを言いふらせば、生徒達は納得するとともにシガナに話を聞こうと殺到するだろう。


「シガナさんはとっても頭がいいですもんね?」

「あー、調子に乗ったことは謝るから、教えてあげた恩を仇で返すのはやめようか」

「あら、ユカさんが強いのはシガナさんが関係していらしたのね」

「げ」


 近くで聞こえたその声に、シガナは思わずなにか苦手なものに遭遇したかのような声が喉から漏れた。その声の主はその反応に目を見開く。


「そのような反応をされたのは初めてですわ。私、何か気に障ることでもしていたかしら?」

「いえ、すみません。忘れてください、レイアさん」

「そうですわよね。てっきり会って頂けないのはそのためかと思うところでしたわ」

「あはは……」

「ふふふ」


 苦笑するシガナと怪しく微笑むレイア。そんな中、シガナにとっては空気を読んだ、レイアにとっては空気の読めないテイガの発言。


「レイアさん!次、試合なんですよね?どうしてここに?」

「ああ、それは控室に向かう途中であなたたちを見かけて。一言、あなた達の試合がどれも素晴らしかったと伝えておこうと思いまして」

「俺たちの試合も見てくれてたんですね!」

「そんな、褒められても何も出ないわよ」


 あからさまに嬉しそうなテイガと、言葉とは裏腹に頬が緩み切っているモモコにレイアが微笑むと、次いでユカに視線を移した。


「初めまして、ユカさん。あなたの魔法、大変素晴らしかったですわ。私も幼少の頃から魔法を修める身として、この学校で最上位の使い手と自負しておりましたが、あの魔法には正直言って敵いませんもの」

「ええと、ありがとうございます」

「これからよろしくお願いいたしますわね。それにしても、やはり学校というのは良いところですわね。私よりも優れた才能を持っていらっしゃる方がこんなにもいるだなんて。ねえ、シガナさん?」

「さて、それについてはなんとも」

「そうですわよね、私の実力をまだご覧になったことはないですものね」


 再び話しかけられたシガナは困ったように返事を返すが、レイアはそんな彼の反応に満足したのか、一歩離れて優雅に礼をする。


「それではこの後の試合にて、是非ご覧になっていただきましょう。とはいえユカさんには劣ってしまいますけれど、精一杯戦わせていただきますわ。ではみなさんごきげんよう。ああ、ユウシさんとフーシュさんの魔法も、またの機会に見れること、楽しみにしていますわ」

「あ、うん!」

「はい!」


 そうして髪をかき上げ、レイアは控室へと向かっていった。彼女がされば、周囲の生徒達はこれまたざわめき、ユウシ達も嬉しそうに話す。


「レイアさん、僕のことも励ましてくれた!スゴい!」

「なんていうか、フツーに良い人よね、レイアって」

「おいシガナ、なんでお前はそんなに話しかけられてんだよ」

「さあね、できれば代わってあげたいぐらいだよ」

「べ、別に羨ましくはねえし!」


 ユカが目の前にいるため、テイガは気にしていないと言わんばかりに声を大にして否定したが、チラチラと視線を送る先のユカには、その意図は全く届いていなかった。テイガは項垂れた。


 それからそう時間はかからずに、フィールドにセキラとレイアが向かい合う。扱う武器は、レイアは入学式の日にも見た細剣と、2本の杖。その魔導石の色は、黄色を帯びた白色と黒に近い紫色で、どうやら火属性の杖は持ってきていないようだが、どちらもそこそこ高級そうな柄をしており、魔導石の透明度もけして初心者用のそれではなかった。


 対してセキラの武器は、背中に目立つ2本の大剣。1本でも持ち歩くのが大変そうなそれを2つ難なく持ち歩き、それだけで歴戦の強者を思わせる。そして大剣が目立つ余り、見落としている生徒が多いが、腰には杖も差してあり、その色は見慣れない黄緑色をしていた。


「さて、セキラさん。日頃は仲良くさせていただいてますけれど、これが試合である以上、私の持てる力全てを出し切らせてもらいますわ!」

「ああ……だが俺はそう簡単には全力は出せない。だからまずは俺に全力を出さないと勝てないと思わせるような」

「あら、随分と私を甘く見てますのね?」

「いやっ、そ、そんなことはっ」

『2人とも準備が整ったみたいだね!さあっ!いよいよ魔武戦最後の試合!それじゃあみんな一緒に行くよ!せーの!魔武戦……』

『「「スッタート!!」」』


 レイアがセキラを慌てふためかせる中でフュルカと観客の生徒達による開始の合図が宣言され、レイアは微笑んで杖を構え、魔力を込め始めた。

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