34
「いや~、久々にあんなに人に囲まれたな~」
「そうね、ホンット困っちゃったわね!」
「うん、とっても嬉しそうだね、テイガさん、モモコさん」
「ゆ、ユウシくん?」
前半戦で最も活躍した生徒達と言っても過言ではない戦いを見せたテイガとモモコは、食堂に向かうと注目の的だった。それは食堂に入る前から一緒の机で魔法の話を聞かせてほしいと頼まれるほどであり、ユウシとフーシュは空気を読んでテイガとモモコと離れたのだが、遠目に見た2人の周りには知り合いになろうと数えきれない程の生徒達が集まっていた。
ユウシなら気絶してしまいそうな人だかりに揉まれても、ある程度その場を取り仕切れるコミュニケーション能力を持った2人はそれぞれ交流を楽しんでおり、怪我のせいもあって食べ終わるのが遅いユウシだが、テイガとモモコよりも食堂を出るのが早かった。
その結果、ちやほやされて上機嫌の2人に対して疎外感を感じたユウシが拗ねて微妙に他人行儀となっていて、しかしテイガもモモコも相手にしなかった。
今なお向けられる視線にテイガもモモコも手を振り返すのに忙しかったが、大方生徒達が観客席に帰ってきたのを見て、ようやくそれぞれ席に座る。そしてその場にシガナとユカがいないことに今更気付き、それぞれ辺りを見渡した。
「なあユウシ、ユカとシガナ知らない?」
「ふーんだ」
「ううん、2人ともまだ来てないよ」
「はっ、まさか、ユカさんを1人占めしようとしてるのか!?」
「うわ、せっかく来てあげたのにすごい風評被害。帰ろうかな」
「食堂に遅れて行っただけです、変なこと言うの止めてください」
またしてもユウシの発言が無視されるが、テイガが邪推したタイミングでちょうどシガナとユカは合流した。2人はこの日の昼食は利用のピークとなる時間が早かったため、逆に遅らせていたのであった。
「午後の魔武戦は面白いかしらね」
「そりゃおもろいだろ、だってユカさんやレイアさんがまだ出てないんだぜ!」
「そっか、ユカちゃんは午後だもんね!」
「はい、少しドキドキしてます」
「ふーん、ふーんだ」
「なんだよ、今日はいつにもましてしつこいな?」
話題が変わっても拗ねている自己主張が激しいユウシに、呆れたテイガが反応した。やっと気づいてもらえたことにユウシは思わず顔を輝かせたが、すぐに首を横に振って頬を膨らませた。
「だって、モモコはまだいいけど、テイガはずるいもん」
「何がだよ」
「テイガも怪我したのに試合に出て、人気者になっちゃってさ」
「なによ、怪我に関しては納得したんじゃなかったの?」
「ああ、つまりは人気者になったことが不満って話だな」
テイガの推測は正しかったようで、ユウシは大きく何度も頷いた。ただし膨れた頬はまだ縮まず、シガナがつついて空気を抜き、ユウシはシガナをポカポカ叩く。
「大丈夫よ、ユウシも、ほら。次は人気になれるわよ!」
「それは、そうかもしれないけど!違うもん!」
「あー、じゃああれだ、友達が羨ましいってことだろ?」
「それは、そうかもしれないけど!違うもん!」
「ユウシ、壊れた?」
「それは、そうかもしれないけど!違うもん!」
ユウシの受け答え方は間違いではないが正解ではないことを示しており、正解を引き当てられないと機嫌を直さないと知っているテイガとモモコはなんとか正解を見つけようと回答に悩む。だがここで手を挙げたのはフーシュだった。
「えっと、ユウシくんは嬉しそうな2人を見て、ちょっと寂しそうだったよ」
「それは……うん」
「だからもしかして、2人を他の人に取られちゃうって思ったとか、かな?」
「……うん」
ユウシは現状魔法が使えるようになる見込みはまだなく、足踏みした状態である。それに対し、テイガとモモコに話しかけた生徒達はその多くはある程度魔法が扱えたり、武技で戦えたりする人であることは魔武戦を見て分かっていた。そんな人たちを相手にあれだけ楽しそうだったのは、もしかしたら、自分よりも頼れる人を、話が合う人を、一緒にやっていけそうな人を見つけたからかもしれない。ユウシはあんなことがあったあとだからか、いつもなら思わないことを考えてしまっていた。
頭では親友が自分を突然見捨てるなんてことをする筈はないと、分かり切っているはずなのに、それでもその不安が消えてなくならないのはなぜだろう。何度でも口にしてほしいし、何度でも自分が大切であると言ってほしい。そんなわがままなこと、自分から言い出せるはずもなかった。
「馬鹿か、何回言えばわかるんだよ、お前は俺の一番の親友だって」
テイガはそして、いつも欲しい言葉を自分にくれる。
「俺ら4人は一緒のパーティーで、一流の冒険者を目指すんだろ?」
「うん、うん、……うん!」
「分かってんじゃねえか。大丈夫だ、安心しろよな」
「そうよ、アンタを置いてくなんて、するわけないじゃない!」
「良かったね、ユウシくん」
「ありがと、みんな」
ユウシは目を瞑って弱い自分の心を叱責する。こんなにも頼もしい仲間に恵まれたことを感謝し、頬を叩いて目を開ける。
「うん!ありがと!」
「わー、なんだろう、おめでとうといえばいいのかな?どう思う?ユカさん」
「私に聞かないでください、正解は知りません」
結束を固める4人と、拍手をするシガナ、気まずそうなユカ。そんな2人にユウシが謝ったあたりで、先生がアナウンスをして注目を呼びかけ、午後の魔武戦はスタートするのだった。
午後の魔武戦は、最初から熱い戦いを繰り広げる生徒達が多くいた。魔法について、球弾の魔法を狙って当てることはもちろん、複数の球弾を放ったり、主に対武技戦において防壁魔法を効果的に使ったり。武技については単に武器をぶつけ合うだけでなく、1つ1つの攻撃後の隙をなくす立ち回りを意識したり、対魔法戦において考えなしに突っ込むことを止めたりと、先生たちも感心するような試合が数多く見受けられた。
そんな試合の数々の中には、ユウシが名前を知っている生徒もいた。
「あ、次の試合クロアスだって」
「ユカに告白した人じゃない」
「……思い出したくありません」
「でもお相手は今もユカさんを見つけて手を振ってるよ」
「…………」
フィールドに出た彼はユカの姿に気付き、抱いた恋心はまだ失われておらず、対戦相手を見ることなく、ただユカにのみ熱い視線を送っていた。
そんな彼だが、試合が始まると、ユカに対して話していた通り、魔法の腕前は平均を上回っていた。相手生徒が繰り出した水魔法を草花の壁で受け止めると、続いて宙に赤い薔薇を模した花びらを浮かべ、相手生徒に撃ち出した。それは属性も相まってモモコが繰り出した『木葉手裏剣』とそっくりであったが、数が少ない代わりに花びらの動きは大方制御されており、少量ずつ相手に向けて放たれたそれは半分以上を残した状態で相手の御守り石を発動させるに至った。
「チッ、あの顔が無様に水でびしょびしょになるのを見たかったのによ」
「テイガ、ライバルだからって言い方良くないよ」
「ねえ、アイツ私の魔法真似してない?」
「うーん、偶然じゃないかな、モモコちゃん」
「ほら、また見られてるよ。ユカさん、拍手してあげれば?」
「……はぁ」
観客席の生徒達は元々の人気と花を舞わせる魔法の美しさから大きな歓声を上げていたが、ユウシ達のうちの半分は彼に対して何かしらの不満を抱えているようだった。
「……あ!この次はテツジだって!」
「シガナくん、ユカちゃん、テツジくんは今週に知り合った男の子だよ」
「男の方ですか……」
性別を聞き、ユカは苦い顔をする。この先関わることもなさそうだ、と話の興味がなくなりかけていたが、しかしそうもいかなかった。
「噂が好きらしくて、ユカのことも『紅炎』のユカ様って、変な呼び方してたわよ?」
「っ、い、いいじゃん、ぴったりじゃん」
「シガナさん、ならなぜ笑っているんですか?馬鹿にしてますよね?」
二つ名と様付けを合わせて呼ばれるユカを想像して吹き出したシガナ。ユカは遠くで自身をその名で呼ぶ声を最近聞いており、羞恥心からやめてほしいと思っていた中での今回だったため、笑ったシガナに対して過剰な反応を見せた。
「そんなことないって、いや、そんなことありませんよ『紅炎』のユカ様」
「止めてください、寒気がします!」
「俺もかっこいいと思うぜ!なんなら今後その呼び方で」
「不快です」
「もー、みんな!テツジの試合始まってるよー!」
悪ふざけでユカを敬うように話すシガナ、頬を引き攣らせるユカ、そっけなく拒絶されて撃沈するテイガ。雑談して試合を観ていなかった彼らをユウシは叱るが、いざテツジが魔法を使えば、驚きと共に試合に引き付けられた。
武技の相手と戦うテツジは、初手に茶色の杖に魔力を込めていた。相手の生徒は魔法を警戒しながらも接近していたが、テツジが込めた魔力はかなり膨大で、発動した土属性の防壁の魔法は観客席に届くほどの高い壁となった。
しかし魔力量のステータスが平均以上の彼は全く疲れた様子を見せることなく、続いて赤い色の杖に持ち替えると、再び眩い光を杖に灯していた。これにはようやく壁を回り込んでテツジを視認した相手生徒も、慌てて壁の裏に飛びのくが、テツジが放った巨大な火球はその壁に命中し、半ばから押し倒した。
誰もがテツジの勝利を確信したが、なんと壁の隅で震えて蹲っている生徒はギリギリ倒れる壁に押し潰されず、御守り石を発動させずにいた。フュルカの試合終了のアナウンスが為されないことで試合の継続を知ったテツジは首を傾げて壁の裏を見に行くが、そのとき、ぎりぎり壊れずに残っていた壁が倒れようとしていた。
テツジは倒れ始める直前でそれに気づき、全速力で逃げ出した。判断が早かった彼は押し潰されずに済んだが、ポケットから零れ落ちた御守り石には気付かなかった。
御守り石が落ちたのは倒れた壁のど真ん中。込められた魔力が尽き、土壁が魔素に還れば、そこには半透明の防壁を出した御守り石が転がっていて、テツジの負けを示していた。
「言い忘れてたけど、テツジ、運のステータスが一番低いんだって……」
「だろうね。そうでもないとこうはならないよね~」
「なんといいますか、可哀想な方、なんですね」
フィールドで四つん這いで嘆くテツジを見れば、その魔法の規模に思わず見入っていたユカも同情せざるを得なかった。同様に何とも言えない観客の生徒達は暫くぶりに無言となり、疎らな拍手の中、勝ったはずの対戦相手もとても気まずそうであった。
そんな試合もあり、他に知っている友達がなかなかいないユウシがテツジとモモコにいじられる中、ようやくユウシ達が待っていたアナウンスがフュルカから為される。
『さあ!楽しい魔武戦も残すところあと2試合!終わりが来るのはさみしいけど、残りの4人の生徒はみんなが良く知っている生徒達だー!まず戦うのはこの生徒!驚異の魔力量を誇る火属性の魔法使い、ユカ!』
「わっ、スッゴい声援」
「流石はユカさm、さんだぜ!」
名前を呼ばれただけで、男子生徒を中心に多くの生徒達から歓声が湧き上がる。そんな声援を聞き、いつもなら顔を顰めるユカだが、今回ばかりはようやく番が回ってきたことで高揚しているのか、口を噤んで杖を抱くように持って立ち上がった。そんなユカの魔法を間近で見たユウシ達は誰が相手でも負けることはないと思っていたが、その相手はまさかの生徒だった。
『その容姿と魔法の腕前で数多の生徒を魅了したユカの実力は言うまでもないだろう!じゃあそんなユカの相手の生徒は誰なのか!答えは氷属性の魔法使い、イアン!』
「なっ、アイツか!?」
「ユカ、絶対ぶっ飛ばしてきなさいよね!」
「モモコさん、ど、どうしたんですか?」
イアンに恨みでも持っていそうなモモコの物言いに、イアンを知らないユカが困惑する。そんなユカにモモコが事情を説明していると、フュルカのアナウンスでは聞き逃せないことを述べていた。
『発展属性の氷属性を使うことで有名なイアンだが、なんと、もともとは水属性の使い手だとか!つまりはユカの火属性は圧倒的に不利!さあ、そんな中でユカは勝利することができるのか!』
「マジかよ、そんなんありなのか!?」
「まあ、発展属性を有する人の2、3割は元となる基本属性に適性を持つらしいからね。別におかしくはないんじゃないかな」
「今はそんな説明どうでもいいわよ、ユカ、マズイじゃない!」
難しいことは分からないが、それでもモモコは火と水の有利不利を分からないほど馬鹿ではない。そのためユカの心配をするが、当の本人は全く気にしていない様子だった。
「私は勝敗は気にしません。ただ、持てる力で頑張りたいと思います」
「そうだね、ユカちゃん、楽しんでね!」
「はい、楽しんできます!」
魔法を使えること自体が嬉しいユカにとって、試合の勝ち負けは重要ではない。もちろん勝てば嬉しい感情が無いわけではないが、ユカの望みは出場の時点で達成しており、そんな彼女の笑顔を見れば、テイガもモモコもそれ以上勝敗に触れることはなく、その背中に応援の言葉を投げかける。
「力の込めすぎには注意だよ~」
「分かりました」
「頑張れ、ユカさん!」
「みんなが驚く魔法、期待してるわよ!」
「スッゴい魔法、僕も楽しみ!」
「はい、それでは行ってきます」
ユカは観客席の階段を下り、控室への通路に姿を消した。観客席では生徒達の間で勝敗の予想がなされ、ユウシ達もその流れに乗るが、当然イアンの勝利を選ぶ者はいない、かと思えた。
「だよな、ユカさんが勝つに決まってるよな!」
「ええ、だってゲルセルにも勝つのよ?負けるわけないじゃない!」
「うん!……あれ?もしかして、シガナは違うの?」
「は?イアンが勝つと思ってんのか!?」
「いや?でも、ユカさんが負けることはあるかもねって」
隣で騒ぐテイガの言葉を聞き流しながら、シガナは先ほどの自らの忠告を聞いたユカの勘違いしていそうな顔を思い出していた。
ー ー ー ー ー
「すー……はー……。……よし」
深呼吸してユカは歩き出す。模擬戦とはいえ、人と魔法で戦うことが初めてのユカ。加えて今回は無数の生徒達の視線に晒されているため、控室に来て、その緊張はさらに増していた。
日頃から異性の視線を嫌っていたユカは、今日この魔武戦のイベントに出るかどうかを直前まで迷っていた。ユカは自慢でもなんでもなく事実として、この魔武戦に出れば、それまでも隠しきれてはいなかったものの、ユカの実力が広く知れ渡ることとなり、以前にも増して生徒達の注目を集めることとなることが分かっていた。しかし、ユカは魔法が大好きだった。
綺麗で美しく、神秘的な魔法そのものに惹かれていたユカは、魔法を自由に使えるこのイベントに出てみたかった。自分が魔法に惹かれたように、自分の魔法で他の人も魔法を好きになってもらいたい気持ちがあった。そんな注目を浴びたくない気持ちと魔法を披露したい気持ちの葛藤があったものの、結局魔法への意欲が勝ったユカは参加を決意し、多くの生徒達の試合を観戦した今、その決定をして良かったと思っていた。
御守り石を受け取り、ユカはフィールドに足を運ぶ。案外距離のある通路の先には外の光が漏れていて、近づけば近づくほど生徒達の声は大きく聞こえ、そして影から日向に足を踏み出せば、それだけで割れんばかりの大歓声が競技場を包んだ。
歓声というだけあって、それは決して悪意の籠ったものではない。だがユカは純粋にその好意を受け取ることができない。人から褒められることは嬉しいし、魔法を褒められれば胸が弾む気持ちにもなるが、なぜそれが異性のものとなると、途端に気味が悪く思えてしまうのか。自分のことなのに、ユカにはそれが良く分からなかった。
「……いや、今は魔武戦に集中。他のことは後にしよう」
指定された位置にまでユカは進み、対戦相手の準備を待つ。間もなくしてイアンがフィールドに現れ、同じように指定の位置で立ち止まる。その頃には歓声も小さくなり、相手の声が届くようになってたが、聞こえたイアンの声はとても不機嫌そうだった。
「ったく、なんだよ、この僕の試合だというのに、急に観客たちは静まっちゃって。おい、ユカだっけ?」
「……なんですか」
「ちょっと顔が良くて歓声を集めていい気になってるけど、この僕が相手で残念だったな」
珍しくこちらに明確に敵意を向けてくる異性。それは嫌な気持ちにはなるが、それでも好意を寄せて近づいてくる異性よりかは幾分かマシに思える。そんな彼が残念だと言ったのは属性の相性故かと思ったが、そんなことはないらしい。
「この僕の優雅な『氷』属性は講義での練習を経て完璧なまでに仕上がった!それこそ、光と闇の練習を同時にこなすレイア様より、1つの属性を極める僕の実力は上!そう、この学校の魔法最強はこの僕なのさ!」
「水属性、は、使わないのですか?」
「は?……ああ、お前は火属性なんだっけ?確かに水属性を使えば、まず負けることはないね」
する気のなかった疑問が口から零れたユカだが、それはイアンの耳に届き、彼は自信満々に続けた。
「だけどそれじゃあつまらないし、なによりありふれた基本属性より、選ばれた者が使える発展属性の方がこの僕に相応しい!だから安心して全力で戦って負けるといいさ!……なんだよお前ら!黙れ!」
高らかに勝利宣言をするイアンに、観客生徒達のブーイングが飛ぶ。だがユカは自分の魔法に絶対的な自信を持っている彼に、少し感心していた。とはいえ、基本属性が馬鹿にされているように感じてムッとすると、ブーイングに怒鳴り返す彼に向かって杖を突きつけた。
「イアンさん、私も魔法は得意です。あまり簡単には勝てませんよ」
「……はっ、いいさ、この僕の偉大な魔法、お前にも見せてやるよ!」
『いいねいいねー!バッチバチの2人は既に準備万端!それなら待っている意味もない!早速始めよう、魔武戦、スッタート!』
フュルカの開始のアナウンスと共に、2人は杖に魔力を込め始める。そこでユカはイアンの杖が学校支給のものではない、特別なものであることに気がつく。イアンは自身の杖を見る視線に気づいたのか、これまた自信満々に杖を見せつけた。
「気付いたか、この僕の『氷雪の銀杖』は僕専用に作ってもらった特注品!学校の杖なんかとは性能面でも格が違う!さあ、これが僕の魔法だ!-僕の魔力!その力で氷を生み出し、氷の槍を作り出し、撃ち出せ!『氷槍』!」
「-私の魔力。その力を炎へと変え、球を成し、放て。『火球』」
銀の杖の透き通った水色の魔導石から放たれたのは氷の槍。しかしユカは焦ることなく球弾の魔法を放ち、火球は氷槍と正面からぶつかって打ち砕く。
飛んでくる魔法に合わせて自身魔法をぶつけることは至難の業で、増してどちらかが力負けすることなく相殺させることは滅多にできることではない。だがイアンが再び『氷槍』を放つも同様の結果を迎えれば、彼はユカが狙ってやっていると理解したようだ。
「……へえ、お前、なかなかやるじゃん。この僕を感心させるなんて、なかなかないことだよ」
イアンはそれでも余裕の笑みを崩さず、対してユカは表情には出さなかったが、少しばかり対応に困っていた。
「(あの杖の影響か、魔力をこめる速度は相手が早いし、初級応用魔法『鋭槍』は『球弾』より威力が高い……)」
ステータスではユカが上回っていても、杖の性能で相手に先手を取られてしまう。また『鋭槍』を自分が使うと相殺の難易度が格段に上がる他、万が一相手が魔法操作を可能としていた場合、対応に遅れを取ってしまうと判断し、ユカは魔力量を増やした『球弾』で対応していた。そのため時間に猶予はなく、少しでも操作を誤れば負けが確定する中で対応しており、2回を凌いだユカは溜めていた息を吐いた。
「はん、返事もできないところをみると、そっちは限界みたいだな」
「そういうわけではないですが」
「強がっちゃって、まあいいさ!まだまだ僕は本気じゃないからね!-僕の魔力!その力で氷を生み出し、数多の氷の槍を成せ!『氷槍連弾』!」
魔力をこめた杖を振るい、それまで1つでも対応がなかなか大変だった氷槍を、イアンは次々と宙に浮かべていく。それを見て気を引き締めるユカの表情を見て、イアンは高笑いする。
『おーっと!イアンはこれで勝つつもりなのか、多くの魔力が込められた杖からは初級応用魔法の『鋭槍』と『球群』を掛け合わせた魔法が飛び出した!』
「これはまだまだ序の口さ!精々耐えて、僕に本気を出させてみろよ!」
「っ!」
大きく両手を広げるイアンと両手で杖を構えるユカ。その試合はまだ始まったばかり。生徒達が息を呑んで展開を見守る中、その氷槍群は今、動き出す。




