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「あー、疲れたぁー」
「なー、ほんとなー」
「ふぇええ、ユウシくん、テイガくん、大丈夫?」
「もう、アンタたち、みっともないわよ!」
時刻は第2週1日目の夕食時。この日の座学と魔法の講義を終え、ユウシ達4人はいつものように食堂のテーブルを囲んで夕食を食べている。ただしユウシもテイガも背中を丸めて机に頭を乗せており、楽しい食事の場所で行儀が悪いとモモコは怒っていた。
「だって、腕が使えないの辛いんだもん~」
「俺は全身筋肉痛だし、座学に集中してたからいろいろとだりいんだよな~」
理由は2人が話した通り。ユウシは右手に包帯を巻いており、骨折した腕から指先に至るまで固定されているため、食器や筆記用具を持つことができなかった。また少しでもぶつけたり激しい動きをしたりすれば鋭い痛みが走り、ユウシは常に気を張って1日を過ごしており、今日のほとんどが終わったこの時間、反動で疲労がどっと表に出たのである。
なお毎日のようにフーシュが癒属性の魔法をユウシに施しているが、そもそも魔法や回復薬での治療は戦闘中や大怪我を負った時など、緊急時でのみ使用が推奨されるものである。それ以外の場合であれば、各々が持つ自然治癒力に頼るのが最も良い。そのことはフーシュも知っており、彼女がかける魔法も治癒力を促進させるものや、痛みを和らげるものに留めていた。
対してテイガは昨日からギガスライムと戦った時の筋肉痛で全身を痛めている。そんな中で今までで一番真面目に座学に取り組んでおり、普段とは違う脳の使い方をしたことで疲れていたのだった。
「言われてみれば、アンタは座学の時間終わってからもずっと紙になんか書いてたわよね」
「なんかて。ちゃんと講義内容まとめてたんだよ」
「どうしたのよテイガ!悪いものでも食べたの!?」
「モモコちゃん?」
今までのテイガからは考えられない発言にモモコが目を見開いて体調を心配し、頑張ることがおかしいと言わんばかりのモモコにフーシュの視線が厳しい。最近はユウシよりもフーシュが怖いモモコは、静かに席に座り直して食事を再開した。テイガはそんなモモコに苦笑するも、しかし長年の付き合いであるモモコが驚くのも無理はない、と今日の自分を振り返る。
それまでテイガはユウシのこともあり、急ぎ過ぎても擦り切れてしまうだけ、と講義も自主練も慌てず焦らず自分のペースで頑張ってきた。途中イアンの一件で駆け足になったこともあったが、フーシュに教わってその日のうちにできるようになったことで、すぐに元のペースに戻っていた。
しかし、ギガスライムに辛勝し、ゲルセルに打ちのめされてからはそう悠長に考えている場合ではないと思い始める。増して冷静に考えれば、尊敬の眼差しで見ていたユカは同級生で、話を聞けば魔法を始めた時期もテイガと同じ。ステータスによる向き不向きはあるが、それならなおさら元から開いている差の分努力しなければ、到底追いつくことなど叶うはずもない。そして何より、テイガは仲間想いである。
「もう、お前らが泣くとこなんて、見たくないしな」
「え、なんていった?」
「いーや、なんでもねぇよ」
テイガは小声の呟きを誤魔化すと、もうそれ以上身体の不調を訴えることはしなかった。そんなテイガを少し訝しむも、すぐに意識を切り替えたモモコは食器を机に置いた。
「まあまずは魔法で私に追いつくことね!ごちそうさま!」
「え!僕、まだまだ食べ終わらないよ!」
「それは、いつも通り遅いのか、腕が不自由だからなのか、どっちなのよ」
どっちもである。加えて3人に労わってほしくて机に伏していた時間も短くなく、ユウシの皿は1割も減っていなかった。
「まったく仕方ないわね、片付けのついでにもっと使いやすいスプーンとかないか聞いてくるわよ」
「ありがとー」
そう言ってモモコは食器を重ねて席を離れる。その足は当然料理を受け取った入口付近に向いているが、ふとその背中を見てテイガが冗談を言う。
「あのまま部屋帰ったらおもしろいよな」
「モモコちゃんはそんなことしない、よ?」
「だよな、ちょっと疑問形になるよな」
「んー!」
「あ、ユウシくん、急いで食べなくてもいいんだよ」
モモコならやりかねない、と3人は可能性を否定することができなかった。そのため、ユウシは置いて行かれないようにと口に運ぶペースを早め、結果喉に詰まらせる。ユウシにフーシュが水を渡したとき、3人に近寄る生徒がいた。
「なあ、この席空いてるか?」
「え、あ、えっと」
「いや、そこは用事で離れてる友達がいるから。ただこいつの隣は空いてるぜ」
「お、サンキュー」
突然話しかけられてしどろもどろなユウシに代わり、テイガが話しかけてきた男子生徒の受け答えをした。彼はテイガに礼を言うと、ユウシの隣の椅子を引いて手にしていた食器を机に置く。そして席に座ると食器を持つ前にユウシの方を向いた。
「初めまして、だよな。俺はテツジ、ラストロニーク出身の冒険者志望だ、よろしくな」
「ぼ、ぼぼぼくは、ゆ、ユウシ、です」
「ユユウシか、分かった」
「ユウシ、な。で、俺はテイガだ」
久しぶりな自己紹介で口が回らないユウシの名前の訂正をテイガがすれば、ユウシの緊張した様子をテツジはすぐに理解して笑った。
「ははっ、大丈夫だよ、俺はレイアさんやセキラさんみたいな大した人間じゃねえって。気楽に話しかけてくれよ、な」
「う、うん、ありがとう」
「テツジくん、優しいんだね」
「はえ!?」
「「え?」」
フーシュが話しかけた途端、彼は裏返った声で返事をした。フーシュはなにかを彼が言いたいのかと思って少し待ったが、テツジは固まったまま動かない。なのでフーシュは遅れて自己紹介をする。
「えっと、私はフーシュです。テツジくん、よろしくね」
「はっ、はい!よ、よよよろしくお願いしますっ!」
「……あー、テツジはあれか、女子に緊張するタイプか」
1人外野の立ち位置で聞いていたテイガの推測は、果たして正解であった。
農業の盛んな街、ラストロニークで4人の男兄弟の次男として産まれたテツジ。家業の農業を手伝って毎日を過ごしてきた彼はこの年になるまで、同年代の異性と話すことはほとんどなかった。そのため農地を荒らす魔物を倒す実力を身につけようと選んだこの学校にて、数多の異性が身近となった環境についていけず、うまく話すことができなかったのである。
とはいえ、ラストロニークの街に別段同年代の女子がいなかったわけではない。ただ彼は、ひたすらに運が悪かったのだ。フーシュを視界に入れないことでなんとか我を取り戻したテツジはテイガとユウシに訳を話した。
「俺さ、年の近い兄がいるんだけどさ、アイツがまぁ悪ガキで」
「兄のことをガキて」
「悪ガキなんだよ、で、昔から女の子に嫌われててさ」
畑作業で見つけた虫を投げつけたり、お気に入りの服に泥をかけたり。当時のテツジの兄は年齢相応の悪ガキだった。
「で、双子でもないのに兄と俺、結構顔似てんだよ」
「あー、それでお前も嫌われたと」
「テツジくん、可哀そう……」
「そ、そんなことないすけどねぇ!」
ただ彼の不運はそこに留まらなかった。例えば兄がテツジの背中に虫をつけていて、気づかなかったテツジが女子から逃げられたこと。例えば兄は関係なくても、祭りのイベントに体調不良でいけなかったこと。例えば遊びに呼ばれたときに限って両親が忙しく、弟達の子守で行けなかったこと。他にも挙げればきりがなく、ユウシ達が同情するような出来事は無数に出てきた。
「極め付きは診断で分かった俺のステータスだよ」
「お、見ていいのか」
テツジは胸ポケットから学生証を取り出し、3人に見えるように机の上で起動した。
ー・ー・ー・ー・ー・ー
テツジ ステータス詳細
魔力: C
体力: B
攻撃力: C
防御力: D
敏捷: C
器用: C
魔適性: D(火、土)
幸運: G
ー・ー・ー・ー・ー・ー
「スッゴーい、ほとんど平均以上……あ」
「そうなんだよ、運だけ、運だけっ!」
「テツジくん……」
「あー、こりゃ誰かさんとは反対だな」
あらゆるステータスが優れている代わりに、運だけが表示される最低評価を示していたテツジのステータス。テツジは改めて自らのステータスを振り返ってため息をついたが、テイガの発言に首を傾げる。その反応に答えるようにテイガがユウシを見れば、ユウシも学生証を取り出して隣に並べ、それを見たテツジは目を丸くした。
「幸運B!?魔力とか攻撃力がAってのは聞いたことあったし、その他もBは聞いたことあったけど、高い幸運値を持っているヤツは初めて見た!」
「ま、その代わりに全体的にひ弱だけどな」
「そうなの、だからテツジが羨ましいよ」
「マジかぁ、俺ら、正反対だけど似た者同士ってわけか」
テツジはユウシの腕の怪我に気付き、ステータスの低さ故だと誤解しつつ、仲間を見つけた空しい喜びを握手で分かち合う。そしてぬるくなり始めた食事を口にして、顔をしかめた。
「いてっ、骨入ってた」
「「「……」」」
「スープの野菜、まだ固くね?え、俺だけ?」
「「「…………」」」
「なあ、この野菜炒め、塩と砂糖」
「いやあ、それにしてもモモコ、おっせーなあ!!」
「そ、そーだね!」
あまりに居たたまれない気持ちになったテイガが耐えきれず、ユウシの食器を探しに行ったモモコがまだ戻ってきていないことに触れた。するとテツジはその名前に聞き覚えがあるようで、身を乗り出してテイガに尋ねる。
「もしかしてモモコさんって、顔が可愛い女子生徒の?」
「あ?……あー、否定はしねえけど、あんまり夢見ない方がいいぜ?」
「え?それってどういう意味だ?」
どうやら噂でしかモモコのことを知らないらしいテツジに、テイガは現実を教えようとする。そんなとき、4人の元へ笑顔の女子生徒が近づいてきていた。
「あいつは男みてえだし、講義嫌いで寝てばっか、自分勝手ですぐキレる。暴力は振るうわ口は悪いわ、おまけに」
「たっだいまー!」
「引くほど大食いだ」
「誰が大食いよ!」
「お前、今手に何もってんだよ」
「お代わりよ!」
「二重人格かっつーの」
どうやらユウシが使いやすい食器を探している途中で食欲が再燃したモモコはお代わりを受け取っていたために時間がかかったらしい。既に食べた夕食と変わらない分量の食事が乗ったトレイを運ぶモモコは機嫌が良く、またギリギリモモコの悪口はほとんど聞こえていなかったようである。
そんなモモコはユウシの隣に座るテツジが視線を向けているのに気づき、次いで机の上に並んだ学生証から一緒にご飯を食べていたのだと気づく。テツジは自身を見る女子への緊張に加え、テイガの言った悪口を気にして喋れなかったが、そんなことを知る由もないモモコは学生証を再び見て、自ら話しかけた。
「テツジっていうのね。見たことないけど、テイガの友達?」
「へあ!?い、いやぁっ」
「なによ変な声だして、ユウシみたいに」
「ん?モモコ?」
突然の風評被害に目を瞬かせるユウシだが、その点についてはテイガはもちろん、フーシュも否定しきれなかった。ユウシは頬を膨らませる。
「わ、ステータスみんな高いじゃない、運以外」
「そっ、そんなこと!」
「てか、適性2属性ってことよね、すごいじゃない!」
「言われてみれば、確かに」
運の低さに着目する余り、珍しい2属性適性を見落としていたユウシ達だが、モモコは目ざとく見つけて褒め称えた。そうなれば、可愛い異性に明るく元気な表情を見せつけられたテツジは赤面し――
「いろいろ話を聞いてみたいし、これからよろしく!」
「はっ、はい!」
「あー、これは落ちたな」
「落ちたね」
「ふぇ?」
テツジは差し出された手と握手をし、すぐ離されたが、その手を胸に当てて余韻に浸っていた。テイガとユウシはタユニケロの街以来久々に見る光景に懐かしさを覚え、2人でこの恋心がいつまで続くのか予想する。フーシュは1人、話について行けずに困惑していた。
ー ー ー ー ー
「そうだ、せっかくならなんか面白い話ない?」
「無茶ぶりが酷いな」
早々に食事を食べ終えたモモコ。ある意味最後に食べ始めたはずなのに、食べ終えるのは誰よりも早かった。しかし流石にこれ以上お代わりはする気がなく、かといってユウシが食べ終えるまではまだまだ時間がかかりそうと思い、モモコはテツジに質問した。するとテイガの意に反して、テツジは嬉しそうに頷いた。
「ある、り、ます!こ、こう見えて」
「聞きにくいから、一旦落ち着いて?」
「は、はい」
モモコは容赦がなかった。テツジは肩を落としたが、それは確かに彼を落ち着かせた。
「え、っと、こう見えて、俺は生徒の噂を集めるのが好きで」
「ユウシも最初はそうだったっけな」
「ん?んー」
頷こうとして、やっぱり否定しようとして、ふと気づく。ユウシが噂を集めていたのは話しかけられなかったから。じゃあもしかして……、と、ユウシは考えるのをやめた。ユウシの仲間を見る目に気付かないテツジは話を進める。
「前はそれこそ美人だとか、イケメンだとか、頭がいいとか、そういうのが多かったんだけどさ」
「うん、うん!」
ユウシ、激しく同意。
「最近は魔法とか武技の噂が増えてきたんだよ」
「へえ、確かに面白そうね」
「だろ!」
興味を持たれたことが嬉しいテツジは少し声色が明るくなった。そして聞いた中でも数が多かった生徒の名前を挙げる。
「これは今日聞いたばっかりの話なんだけどさ、あのユカ様が先生顔負けの魔法を使うようになったんだってさ!」
「ゆ、ユカ、"様"?」
「あれ、知らないか?『紅炎』のユカ様のこと」
詳しく聞けば、元々ファンが多かったユカだが、今月初めに校内でも上位の女子人気を誇るクロアスを事実上振ったこと。またそれまで同様人前にはめったに姿を見せないが、魔法の講義で稀に目撃されるユカの魔法があまりにも実力がかけ離れていたこと。そして元々同じ人間とは思えないほど可憐で美しい存在であることから、いつしか様付けで崇められるようになり、男子生徒の間では不要に近づかないことが暗黙の了解となり、また扱う魔法を基にした二つ名がつけられたのだとか。
「結構有名な話だと思ったけど、テイガとか、知らなかったのか?」
「俺はうっすら聞いてたけど、わざわざ本人に伝えんのもなって」
「私たちは友達だけど、聞いたこともなかったわね」
「うん、ユカちゃん聞いたら嫌がりそう」
テイガ達は何の気なしに各々思ったことを話しただけだが、言葉の端端に見える親しさにテツジは驚いて震える。
「ま、まさか、4人はユカ様と交流があるのか!?」
「んう?……っと、一緒に魔法練習したり、まも、あ」
「はいストップ!」
ユウシが口に含んだものを飲み込んだ途端、またもや自然な流れで魔物討伐をバラしかける。それはなんとか言い留まって気付かれずに済んだが、今のテツジにとっては、それより重要な情報があった。
「それはすごい情報だ!まさかユカ様と親」
「テツジお前もストップだ!」
「んん!?」
「ユカさん、いや、ユカ様が困るだろ?そんな話広めたら」
「た、確かに」
興奮の余り、大声で情報を漏らそうとしたテツジの口をテイガが塞ぎ、その甲斐あって周囲の生徒はテイガの行動を怪しく思うだけに留まった。しかしテツジは納得こそしたものの、ユカに憧れる男子生徒の1人として、交流している男の存在は見過ごすわけにはいかなかった。
「俺にはこっそり教えてくれよ、どうやって知り合ったんだ?」
「だってよ、ユウシ」
「えー、そんなこと言われても、シガナが会わせてくれたとしか」
「シガナ、ってあの座学Aランクの?これまたすごい情報じゃないか!?」
入学してからもうすぐ2ヶ月が経つが、それでもユカ以上に目撃情報や個人の情報がないシガナの名前を聞いてテツジは1人で高揚し続けている。
「なあ、シガナさんはどんな人なんだ!?」
「え、えっと、目に傷があって」
「え、ちょ、それはつまり、男!?」
「あー!もう、さっきからぜんっぜん話が面白くないんだけど!?」
「あっ、すいません……」
モモコの怒りによりテツジは身を縮こまらせ、泣く泣く貴重なユカとシガナの情報収集を中止した。しょんぼりとしたテツジだが、気が合いそうだと考えたテイガが食後に語らおうと持ち掛ければ、モモコの機嫌は少し悪化するが、テツジは元気を取り戻して他の噂を話し始めた。
「ユウシ達が魔法ってことは、武技の講義を受けてる『地割』のセキラさんとかは知らないんじゃないか?」
ユカのように二つ名がつけられたセキラは適性診断にて攻撃力Aのステータスを有していたことが知られており、その膂力は武技の昇級試験にて、防御の姿勢を取っていた試験官の木剣をへし折るほど。またその後の講義にて、彼は自前の大剣で地面を大きく陥没させる技を見せたと言われており、多くの生徒は疑ってかかったが、その声を覆せるほどには目撃者が多いのだとか。
「へぇ~、セキラは友達だけど、『地割』?は初めて聞くよ」
「あー、確かにテラス席のときから話してねえもんな」
「え、ユウシ達、セキラさんとも友達!?……ま、まさか、『光闇』のレイアさんは……?」
「あら、名前を呼びまして?」
「!?」
気づけば生徒が食堂を利用する時間のピークは過ぎており、多くの席が空席となった今、偶然レイアが近くを通りかかり、テツジが呼んだ名前に反応してユウシ達の席に寄って挨拶した。
「ごきげんよう皆さま。およそ1週間振り、でしたかしら?」
「うん!タリユスも元気?」
「ええ、元気ですが、ユウシ、その手は?」
「えっと、ちょっと失敗しちゃって」
「ん?ユウシ、アンタは魔法って聞いてたけどなぁ」
「あ、グラン!セキラも!」
「!?!?」
どうやら今日はセキラとグランもレイア達3人と共に食事をとるようで、噂の2人が一緒にいるところを見て、テツジは驚きの余り何も言えなくなっていた。
「レイアさん!俺も噂で発展六属性の『光』と『闇』を使える逸材って聞いてました!」
「それは少し間違いね。正しくは、そこに火属性を加えた3属性の適性者なのよ」
「3つも!?そ、それはホントにすごいわね」
「うふふ、ありがとう」
いつもは反抗的な態度を取りがちなモモコもこれには驚きを隠せず、素直な反応にレイアも微笑んで礼をする。
「ねえねえ、セキラが剣で地面を割ったってほんと?」
「ああ。とはいってもただ純粋な力だけでやったわけではないのだが」
「ねえセキラさん、その先は今週末に実際にやって見せた方が楽しいんじゃないかしら?」
「え、あ、ああ、そうかもな」
「ふっ、これでどこが惚れてなぬぐっ!?」
「何のことだか分からないな」
「今週末?……あっ、魔武戦!」
レイアにトントンと肩を叩かれたことで動揺したセキラをグランが小馬鹿にし、言い切る前にセキラに沈められる横で、ユウシはそんな2人に反応することなく、レイアが言う今週末のイベントを思い出していた。そしてユウシが魔武戦の名前を出せば、レイアも正解と言うように頷いて続ける。
「私達は当然参加するのですけれど、ユウシさん達はどうなさるの?」
「俺は出るぜ、まあ今は戦い方を調整中だけどな」
「私も!私はもう必殺技作ったんだから!」
「はっ、どうせしょうもないくせに」
「なによ、アンタこそ別にゼイド先生よりはすごくないでしょ?」
「なんだと!」
「止めなさい、イアン」
「モモコちゃんも、落ち着こ?」
「……ふんっ」
実際イアンはゼイドが氷魔法を用いていることで常日頃から周囲に比べられており、モモコの発言は彼の逆鱗に触れるものだった。しかし前回テラス席で魔法を使用してからはイアンは食堂への杖の持参を禁じられており、レイアに窘められると彼は鼻を鳴らし、1人で先に行ってしまった。
「ごめんなさいね、本当は悪い子じゃないのだけれど……。……このことは一旦置いておきましょう。さて、フーシュさんとユウシさん、あと、そこの方も」
「えっ、俺!?あっ、あっ、テツジ、テツジっす!」
それまで話に加わることもできずに覗き込むだけだったテツジがここぞとばかりに自己紹介をする。慌てる余り、食器を音を立ててトレイに置き、口調も早口で少しみっともなかったが、レイアはそれについて口を出すことはなかった。
「テツジさん、ね。覚えましたわ。それで、あなた達3人は魔武戦をどうなさるのかしら?」
「はい!お、俺はっ、魔法で出ます!火と、土ができるんで!」
「あなた、2属性使えるのね」
「あなたほどじゃあないっすよ、ええ!」
「(……なあ、もしかして、いつもの俺、あんなかんじ?)」
「(あんなかんじもなにも、あれが鏡の中のアンタよ)」
「(マジかぁ……)」
あまりにテツジの姿が必死過ぎたことで熱が少し冷めてしまったテイガはモモコにこっそり尋ね、モモコは即答した。テイガは今後、抑えられるかは別にして、少し対応を控えめにしようと決めた。テツジはまだレイアに尋ねようとしていたが、話が区切れるとレイアはすぐにフーシュとユウシの方を向いた。テツジは自分の番が終わったことを悟って静かに前を向き、それはそれは静かに食器を口に運んだ。
「私は属性が癒属性だけだから、みんなを応援します」
「あら、フーシュさんは珍しい属性だったのね」
「えっと、珍しいのはそうだけど、でも、珍しさで言ったらユウシくんが上だから……」
「そういえば、まだユウシさんの属性は聞いたことありませんでしたわね」
そう言ってレイアは癒属性以上に珍しい属性について考えるが、彼女は複数の属性の適性か既存属性の分岐属性としか考えていなかった。そのため、ユウシの口から告げられる新規属性の名前を聞いても、すぐには反応ができなかった。
「僕はね~、なんと音属性!」
「……音?ですの?」
「うん、!」
「……グラン。発展属性の中に音属性なんてものは存在したか?」
「セキラさんよぉ、それぐらい自分で覚えておけって」
「なんだっけ、他属性っつったかユウシ、音属性って」
「そう!」
実は座学の成績があまり良くはなく、そのことを知る一部からは脳筋と呼ばれていたりするセキラ。そんな彼も含め、レイア達はテイガが補足したことでその存在を思い出し、驚きに満ちた表情を浮かべる。
「先生が新規属性の適性者がいるっておっしゃってましたけれど、ユウシさんのことでしたのね!」
「すごいですね、ユウシ!でも、どうやって音で戦うのですか?」
「えっと、それはねぇ」
「タリユス、ユウシさん、それこそ、魔武戦で披露すればいいのではなくて?」
勇者や英雄の多くが他属性の適性を持つことは有名な話であり、興奮のままに尋ねようとしたタリユスだが、レイアは素直に話そうとするユウシを止めた。
「そっか!じゃあ楽しみにしてて、きっとびっくりさせるから!」
「はい、僕も強くなったところを見せてあげますね!」
「ふふ、それではイアンを待たせているし、私たちはこのへんで」
「またね、ユウシ!」
「うん!」
ユウシは食堂の2階へと上がるレイア達に手を振り、ちょうど食べ終えた皿を前に両手を合わせた。
「ごちそうさま!よーし、魔武戦に向けて練習頑張るぞー!」
「いやいやユウシ、言いそびれたけど、アンタその怪我じゃ無理でしょ」
「え」
ユウシの食器を代わりに片付けているモモコがユウシの右腕をつつく。ユウシは小さく跳ねて腕を抱き寄せる。
「そうだよユウシくん、その腕じゃ走るのも駄目だよ」
「あー、相手が魔法だけならなんとかなったかもしれねえけど、魔"武"戦、だからなぁ」
魔武戦は生徒が魔法や武技を用いて戦う模擬戦。その対戦相手はそのときの成績や過去の戦績、またその生徒の戦い方をもとに決定されるのだが、今回は初回であるため、基本的には成績で分けられ、そこに教師達の偏見を加えられて対戦相手が決まる。
そのため、テイガのように魔法と武技をどっちも扱う生徒がどちらかのみを扱う生徒と対戦することはざらにあり、ユウシの対戦相手が武技を主体とする生徒になる可能性も低くはなかった。
「いや、そもそも魔法相手でも、ユウシが防壁の魔法使えねえなら関係ねえか」
「そうよ、攻撃を避けるなら動き回らないといけないし」
「……治すもん!きっと治るもん!」
「「無理だろ(でしょ)」」
「ユウシくん、今回は私と一緒に応援しよ、ね?」
「うう~!!」
このときはもしかしたら治るかもしれないと淡い希望を胸に抱いていたユウシだが、回復魔法を毎日使っていたとしても1週間未満で治るはずもなく。春後月第2週5日目の魔武戦当日、ユウシの手にはまだ包帯が巻かれたままなのであった。
「れ、レイアさんやセキラさんと知り合いになっちゃった……俺、こんな幸運なこと、初めて……ありがとう、ユウシ……あれ?ユウシ?」
怪我を治そうといち早くベッドで安静にするため部屋へと急いだユウシはテツジのことを忘れていたのだった。




