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「時間になったな、それじゃあ月が替わって春後月初めての講義を始めよう!」
Dランクを超える魔法の講義を担当するのは変わらずゼイド。ユウシは彼の講義を久しぶりに受講するが、心なしか彼は上機嫌に見えた。それは他の生徒の目にも同様に映っているようで、首を傾げる生徒や、中には見とれる女子生徒もいるようだった。
「早速だが、改めてこの講義の形式についておさらいしておこう!とはいっても至って単純で、まずは俺が課題となる魔法を見せる。それを使えるようになるまでひたすら練習して、分からないところを質問しに来る、以上だ!これはランクが上がっても同じで、講義を受ける場所も学校の敷地内であればある程度自由。仲の良い友達とやるもよし、1人でとことん突き詰めるもよし!とにかく翌月の試験に合格するよう頑張ってくれ!
それじゃあまずはDランクで学ぶ魔法からだな。ほとんどの生徒は見たことあると思うから、もう一度見たい、自分の魔法の参考にしたいという生徒以外はもう、自主練習を始めてもいいぞ!」
ゼイドがそう口にするも、半分以上の生徒は動かず、もう一度ゼイドの魔法を見ることを選択したようだ。これにはゼイドも嬉しそうであり、教本を閉じると腰の杖を手に取って前に構えた。既に魔力を込め始めているのか、杖の魔導石は水色の輝きを放っている。
「さて、Dランクでは3つの初級魔法をマスターしてもらう。まず初めは『放出』の魔法。自分の魔力をその属性に変えて、そのまま放つようにする魔法だな。もちろんただ魔力を垂れ流しにしてもそれは魔法とは言わないからな。それじゃあお手本だ。-私の魔力。その力を氷に変え、放て。『氷雪』」
そして生徒達から感嘆の声が上がる。ゼイドの杖の光が魔導石を包み、キラキラと輝く氷の粒が飛び出して宙を舞った。ゼイドが杖を動かせば、新たな氷の粒たちが生み出される光も共に移動する。
なんてことのないただそれだけの魔法ではあるが、ユウシにはやはり彼の使う魔法は綺麗で丁寧だという印象が強く残った。
「と、まあこんな感じだ。ただこれはあくまで一例に過ぎない。どういうことかと言えば、次に見せるのもまた『放出』の1つということだ。-私の魔力。その力を氷に変え、その地を凍てつかせろ。『凍結』」
先ほどよりも弱い光の杖の柄を、ゼイドは地面に突き立てた。すると接触した位置を中心として、パキパキと音を立てながら地面を薄い氷が覆い始めた。じわじわと範囲を広げるそれは、ゼイドが杖を持ち上げると止まり、しばらくして溶けて消え、元のグラウンドが露出した。
「この放出の魔法は水や風など、流動的に動くイメージがしやすい属性はほとんど生徒がすぐに習得できるが、土はまだしも、草なんかはある程度形が定まっていることで放出のイメージを立てにくいという生徒が多い。そういったときはイメージの形を細分化したり、そもそも考え方を変えてみたりすることが大切だ。なにせ杖を用いた魔法は自由な創意工夫が可能だからな!
さて、次の魔法は『球弾』の魔法。魔力を属性に変えた後、丸い形を作って、そのまま真っ直ぐ前に飛ばす魔法だ。これは最も基本的な魔法で、君たちが一番使うであろう魔法でもある。今回は例として、2つ同時に作りだして、先に撃ちだした氷球に後に撃ちだす氷球をぶつけてみせよう。-私の魔力。その力を氷に変え、球を成し、放て。『氷球』」
ゼイドの詠唱後、宙に形成されるのは、以前のような水晶玉を思わせる2つの氷の球。ゼイドが杖を振り上げれば片方の氷球が山なりに飛んでいき、続いて杖を横に振れば、放たれた2つ目の氷球は真っ直ぐ正面に飛んでいった。やがて初めの氷球が地面に近づけば、着弾点にはちょうど飛んでくる後続の球。結果、見事に2つは衝突し、どちらも衝撃で割れて地面に転がり、十数秒の後に宙に溶けてなくなった。
「『球弾』の魔法は簡単なように見えて、実は気をつけないといけないところがたくさんある。魔力量が少なければ命中する前に消えてしまうし、多ければ形を作るのが難しい。綺麗に作らなければまっすぐ飛ばせないし、撃ちだすのにも魔力は必要だ。また、上辺だけ整えて中身の魔力の密度が不均一だと、飛んでいる最中に形が乱れて崩壊してしまう……なんて、既に心当たりがある者が大半みたいだな」
ユウシが周囲を見れば、図星だと頭を掻く生徒や、解決方法が分からずに悔しがっている生徒の姿が。かく言うユウシも、昨日の音球は魔力量に物をいわせて強引に成功させていただけであり、狙い通りに飛ばせたわけではなかった。
「加えてこの魔法は基本中の基本でしかないから、そのうち形状を変えたり、個数を増やしたり、大きさを変えたりして強化しないことには倒せる魔物も限られてしまう。実際Cランクの昇格試験でも、なにかしら手を加えたものを見せてもらうしな。とはいえ、まずはただの『球弾』を成功させることから始めてくれ。
さて、最後は『防壁』だな。これは魔力を属性に変えた後、自分を守る壁を作り出す魔法だ。これは特に運動能力に自信がない魔法使いは使えて当然となる。-私の魔力。その力を氷に変え、私を守る壁を成せ。『氷壁』」
最後の初級魔法の詠唱を口にし、杖を翳したゼイド。するとゼイドと生徒達の間に大きな氷の壁が形成される。それは正面から見ると、長さが大人の身長より頭数個分大きな正方形をしており、氷越しに映るゼイドは魔法を保ったまま説明を始めた。
「この魔法の主な目的は、当然相手の攻撃から身を守れるようにすること。だから基本は自分よりも大きい壁を形成することが多い。相手が攻撃範囲の狭い近接攻撃をする場合は移動を阻むように小さな壁を複数作ることもあるな。あとは注意点だが、『放出』魔法の要領で壁を作ることができる生徒は多いが、厚さや魔力量が場所によって不均一にして、壊れやすい無意味なものにならないよう気をつけてくれ。
……以上がみんなが覚えることになる初級魔法だ。Dランクの生徒は試行錯誤して、分からないところは俺や他の先生に聞いたり、友達と意見を交わしたり、図書室に行って調べたりして、確実に成功させられるように練習してくれ!それじゃあDランクの生徒は各自練習を始めてくれ!」
半分以上の生徒がその場を離れるとともに、ゼイドは更に上の等級の魔法の指導に入った。まだ全員Dランクのユウシ達は4人でグラウンドの端に行き、それぞれ杖を構えた。
「さて、今日はどうやって練習するか?」
「はい!はーい!僕、みんながどんなふうにやってるのか見てみたーい!」
「いいわよ、この1ヶ月間先に練習してきた私たちの実力、見せてあげるわ!」
「じゃあまずはモモコちゃんだね!」
ユウシを励ますために送られた手紙に書かれていたことを実行するときがきた、と積極的に前に出たモモコ。他3人は万が一にも誤射されないようにモモコの後ろから見ることにした。
不敵な笑みを浮かべるモモコが杖を光らせる。深い緑色の光が魔導石を覆ったところで、モモコは詠唱を口にする。
「それじゃあ順番に行くわよ!まずは放出の魔法!-私の魔力!その力を草に変え、数多の葉っぱを作り出せ!『木葉』!」
モモコが杖を翳すと、杖の先から突風後の木から落葉が舞うように、木葉が落ちる。しかしその数はとても数えきれるものではなく、杖の光が消えたころには若葉はこれまた集められた落葉の山のような光景を作り出していた。
「次は球弾!-私の魔力!その力を草に変え、球となって飛んでいけ!『草球』!」
必要な魔力が溜まるや否や、すぐさま次の魔法を繰り出すモモコ。作り出された球弾は葉を丸めて作ったような見た目をしており、それ故かところどころに歪な様子が見える。またモモコが杖を振ってまっすぐ飛ばせば途中で数枚別れて散ったが、地面に落ちるまでに全体が崩れることはなく、これまた十分攻撃力はあるように感じられた。
「最後!-私の魔力!その力を草に変え、壁を作れ!『草壁』!」
モモコが杖を翳せば、これまた葉を押し固めて作られた見た目の壁が形成された。後ろから見た分には何も問題はなく、モモコがユウシに触っても大丈夫であると告げればユウシは万遍なく全体に力を込めてみた。近寄ってもその厚さに差があるようには見えず、ユウシのステータスの問題かは分からなかったが、少なくとも寄り掛かったぐらいで壊れる壁ではなかった。
「どうよ!これが私の実力よ!」
「スッゴーい!スゴいよモモコ!もう全部かんぺきじゃん!っうわあいたっ」
「そう、私は3人の中で一番上手にできたの!」
いつまでも草壁に寄り掛かっていたユウシが、魔法の時間に伴う消失とともにバランスを崩して倒れたが、モモコは自慢に勤しむあまり気が付かなかった。代わりにテイガが手を差し伸べてユウシを引き起こす中、ユウシの手に切り傷があることに気が付く。
「ユウシ、いくつか指先怪我してんぞ」
「あれ、ほんとだ。さっきモモコの壁に触ったときかな?」
「ちょうどいいじゃない、フーシュに治してもらいなさいよ」
「うん、任せて!」
モモコのお披露目が終わったこともあり、次はフーシュの番のようだ。フーシュはユウシに手のひらを上にして動かさないよう伝えると、その手に杖を近づけて魔力をこめた。
「いきます!-私の魔力、その癒しの力で、怪我を治せ。『治癒』!」
「わぁ、あったかぁい」
魔導石に灯った桃色の光が中心から放射状に広がるようにしてユウシに届き、ユウシは良く晴れた春の日に日向ぼっこをしていたときの温かさを思い出す。光が消え、ぬくもりの無くなったユウシが物足りなそうに手のひらをみると、見事に傷が無くなっていた。
「小さな怪我だったので、すぐに治せました!」
「ありがとうフーシュさん!」
「どういたしまして!えっと、次は球弾の魔法をやるね」
「あっ、僕、また手に当ててほしい!」
「ふぇ?」
すっかり癒属性の魔法を気に入ったユウシは続く魔法の的になろうと遠くに駆けてゆく。今まで球弾の魔法を人に当てようと思ったことがないフーシュはユウシの突飛な提案に驚くも、危険性は全くないことから頷いて杖を構えた。
「いきます!-私の魔力、その癒しの力を球に詰め込み、放て。『癒球』!」
「……あっ!来た!」
なんだかんだ自身に向かって物が飛んでくるのが怖かったユウシは固く目を瞑っていたが、フーシュの魔法は綺麗な球形をしており、飛んでいく途中も曲がることなくまっすぐ進んでユウシの手に命中した。ユウシは手に再び温かな感覚を得て目を開けば、桃色の光が間もなく消えようとしてはいたものの、しっかりとユウシの手を中心に広がっていたことを確認した。
「当たったよ、フーシュさん!」
「初めて的に撃ったけど、当たって良かったです!」
「いいわね、それ。ねえテイガ、アンタも的やらない?」
「怪我しろってか」
「そしたらフーシュの出番ね」
モモコの的になってボロボロになり、傷んだ身体をフーシュが癒す。モモコは無限ループができたと喜んでいたが、被害者となるテイガは、いくらユウシが言うように癒属性が心地よかったとしても、ただ魔法を撃たれるだけの的になりたいとは思える筈がなかった。
「でも、次の魔法はうまくいかないんだ」
「『防壁』の魔法?」
「うん、どうしてもイメージできなくて」
敵の攻撃から身を守る防壁の魔法。果たして人を癒す性質の癒属性で、敵を阻むことができるのか。フーシュは答えが出ず、防壁の魔法の練習より、先に他の2つの完成度を高めることを優先して今日に至ったという。
「おかげで放出と球弾はもう基本は大丈夫になったけど、当然防壁は全然ダメです」
「そっかぁ……あ、じゃあ触ったら怪我が治る壁は?」
「そううまくは行かねーよ。ってなわけでついでに俺の防壁も見せてやるよ。-俺の魔力。その力を風に変え、俺を取り囲む壁となれ!『風包壁』!」
ユウシとしてはいい考えだと思ったが、フーシュに加えてテイガもそのアイデアを否定した。またテイガはその理由を体験してみろと言わんばかりに、風属性にて防壁の魔法を作り出した。
テイガが作り上げたのは、小さな円柱のような壁。それはテイガのイメージする風の色なのか、白色の魔力の速い魔力の流れが渦を巻くように壁の形を成している。壁を曲面として両端をつなげることで、一周して風が循環する形をとったそれは、ぱっと見では何も問題はないように見える。
「一応分類としては『包壁』っつって、防壁を全方向から守れるように応用した初級魔法ではあるらしいけどよ」
「いいじゃん!でもこれがどうかしたの?」
「ユウシ、その壁突っ切って歩いてみ?」
「え?」
砂埃や落ち葉を巻き込んだ小さな竜巻のようにも見えるそれの中に入れと言うテイガに首を横に振りたくなったが、物は試しと、ユウシは目を瞑って駆け抜けた。すると肌に一瞬突風を感じ、煽られるも何とか体勢を立て直す。それをもう一度繰り返し、ふと目を開けて振り返れば既に壁は後ろにあった。
「そういうこった。風属性は形がねえから、よっぽど魔力込めて速度調節上げねえと攻撃邪魔することはできねえんだよ。でもそうすると当然制御すんのが難しくなるってわけだ」
「私の癒属性はたぶん、どれだけ魔力込めても通り抜けられちゃうと思うし、ずっとどうすればいいのかわからなくて」
「そっかぁ……あれ、もしかして僕の音属性も?」
テイガとフーシュは揃って頷いた。果たしていいことなのか、悪いことなのか、ユウシは練習前から苦戦するであろうことが予想できてしまった。
「そんなことで悩んでてもしょうがないわよ」
「大丈夫かモモコ、今は3対1だけど」
「えっ、……テイガ、まだアンタ、放出と球弾やってないわよね!」
「はいはい、見せりゃいいんだろ」
流石に不利すぎることを自覚したモモコはすぐさま話を切り替えた。テイガは勝ち誇った態度を滲ませながらも、杖に魔力を込めた。そして黄緑色に光る魔導石をユウシに向ける。ユウシは目を丸くする。
「-俺の魔力。その力を風に変え、放て。『送風』!」
「わ、風来た……乾く!目が!口の中がぁ!」
「なんでわざわざ見開いてんだよ」
テイガの杖からは風が吹き出し、初めはそよ風程度だったためにユウシは気持ちよさそうに目を細めていたが、だんだん強くなるとユウシは抵抗するつもりだったのかはわからないが目を開け、騒ぐことでどちらも乾燥し、悲鳴をあげつつしゃがみ込んだ。テイガとしては対象がいないと風が分かりづらいためにユウシに向けただけであり、無駄に苦しむユウシを憐みの目で見降ろしていた。
「で、俺は球弾もまだうまくいかねえんだよなぁ」
「いいから早くやって見せなさいよ!」
「急かすなって」
「待って、まだ僕見れない!」
「お前らさぁ……」
「テイガくん、が、頑張って!」
一番に自分の番が終わり、モモコは見慣れた光景に飽きて魔法練習を始めたがっていた。対してユウシは一生懸命瞬きをして目を潤そうと必死である。わがままな2人に挟まれたテイガはため息をつき、フーシュはとりあえず苦労しているテイガを応援した。
「……うん!バッチリ、さあどうぞ!」
「期待されてもたぶんまだできねえよ。-俺の魔力。その力を風に変え、球を作って、撃ちだせ!『風球』!」
テイガは今までで一番集中した様子で詠唱と共に風の球を作り上げる。球の中では風が渦巻いており形も少し歪んでは見えたが問題はなさそうだった。しかしテイガが杖を振って撃ちだすと、飛んでいく方向が途中で曲がり始め、さらには球が綻んで途中で壊れてしまった。
「あー、成功、ではないね」
「これでも大分よくなったんだけどな」
先月練習し始めたばかりのときは、まっすぐ進んでいく風を球の形に留めるイメージが全く湧かなかったテイガ。その後はユウシのことを考えて集中力が欠けながらも、男友達や教本を読んで知識を得ていたフーシュに助言をもらい、なんとか形にして今に至る。
「モモコはうまくできてるし、難しく考えすぎか?」
「どういう意味よ」
「でも、やりたいようにできるのが魔法って書いてある本もあったし、そうなのかも」
「ん?フーシュ?」
ひと月以上モモコと共に過ごし、人となりをあらかた把握できていたフーシュは、時折モモコを静かに刺すような発言をするようになっていた。驚くモモコがフーシュを見たが、フーシュは微笑んで首を傾げている。ほんの少しフーシュが怖くなったモモコは聞こえなかった振りをした。
「なんでもいいけど、あんまり遅いとユウシに抜かれるわよ」
「うん!僕が抜いちゃうよ!」
「流石に……ん?」
テイガは考えた。昨日のユウシは不格好ながらに、制御しきれていなかったが球弾を成功させている。防壁は試したことはないだろうしおそらく手間取り、放出はイメージがつきやすいためすぐに成功するだろう。
テイガは考えた。自分は球弾を成功までもう少しまで近づけ、防壁は成功と言っていいのかわからない。唯一放出は成功と言って良いだろうが、それだけである。
テイガは思った。ユウシと自分は、既に大差がない状況ではないかと。その原因は先月のテイガの作業効率が落ちていたこともあるが、ユウシがユカの球弾の魔法を間近で見続けてきたことが大きい。
「あー、そろそろ各自で練習始めるか!」
「待って!次は僕がみんなに見せる番!」
「アンタはまだ練習し始めたばかりでしょ?」
「きっとできるよ!」
すぐにでも分かれて自主練を始めようとしたテイガだが、ユウシの希望によりユウシの今の腕前を見ることになる。もしユウシに抜かされればモモコには笑われ、フーシュには励まされ、ユウシには少し先を歩いているだけなのに自慢されることだろう。ため息をつくテイガだが、その表情はむしろ少し微笑んでいた。
たまには自分が最下位になるのも悪くはない、それでみんなが楽しいなら。そう思ったテイガは杖を構えるユウシと、それを見守る2人を見る。
「アンタ、それじゃ魔力弱すぎるわよ」
「もっと強く、ぎゅーってして……」
「ユウシくん、それじゃ強すぎます!」
「え、待って、どうやって戻すの!?」
「全然杞憂だったな、あっはっは」
ユウシの実力は、魔法の発動以前の問題であった。魔力の制御に苦戦するユウシを見て、テイガは先月の講義の最初を思い出した。
魔法を使用する手順は、魔法の発動準備、詠唱と共に魔法の構築、そして発動や射出といった流れとなる。
発動準備はEランクの講義で練習してきたことであり、基本的には魔力が多いほど高威力、小さいほど安定した魔法を使える。そのため魔法使いは想定する魔法や自らの力量に合わせ、適宜必要な魔力量を調節しなければならない。
本来であれば発動準備はEランクで繰り返し練習しており、Dランクに上がるときにはある程度自由に調節が可能となっている生徒が多い。しかしユウシは発動準備ができるようになってまだ数日である。適性が高いのならまだしも、今のユウシには安定した制御はできるはずもなかった。
「しばらくユウシくんはその練習しなきゃだね」
「えー」
「えー、じゃないわよ。昨日みたいに失敗したらどうすんの」
「むー」
「ここはおとなしく、着実にいこうぜ」
「……はーい」
昨日迷惑をかけたことに対する罪悪感が残っていたユウシは渋々従うことにした。とはいえ着実に前には進んでおり、後期に入る前には初級魔法を使いこなせる自分を思い描くことができたため、今現在は理想の魔力制御ができずとも、ユウシの心は落ち着いていた。
しかし明日の講義にて、ゆっくり進もうとしたユウシを焦らせる2つの知らせがなされることを、このときはまだ知る由もなかった。




