23
「今日は朝に全体で連絡事項があってホールに集合らしいよ」
「そんなお知らせあったっけ?」
「ううん、先生がさっき言ってた。なんか緊急の話だって」
「……」
「なんの話ぃ?まだ眠いんだけど」
「あれじゃね?ほら、昨日の異常現象」
「あ~、あれマジビビったぁ」
「てっきり魔物の襲撃かと思ったよな」
「…………」
「皆さん、昨日の騒音と地震だが、とある魔物が関連していて、既に上位の冒険者達の手で解決している」
「よかった~、昨日怖くて眠れなかったもんね~」
「でもそんな魔物が近くにいるってこと……?」
「そんなの聞いたことないよな?」
「………………」
「……以上で連絡を終わる。なお、昨日連絡した生徒はこのあと職員室へ来るように」
「それではユウシさん」
「……はい」
「昨日言った通り、初級の魔法を安定して成功させるまで、その杖の使用を禁止する」
「分かりました……」
ユウシの魔法Dランク合格祈念として渡された、凄腕の魔法使いなら誰もが羨むような性能を秘めた杖。ユウシは副校長であるランクルにその使用を禁じられてしまった。
昨日響いた爆音は、どうやら街の中央近くまで響いていたらしい。もしもユウシが使っていたのが基本属性などであれば、こんなことにはならなかっただろう。しかしユウシの音球はその属性の名に恥じないような効果を発揮し、一時は街の自警団や兵士、冒険者達が街の危機であると判断して門の前に集まっていた程だった。
倒れたユウシを背負ったテイガとシガナが街に入ろうとして止められ、魔物の襲撃にあったのかと心配され、ようやくことの重大さを知る。その頃には目を覚ましていたユウシを下ろして謝罪をしたが、聞きなれない属性と嘘のような証言を初めは信じてもらえなかった。学生証を見せ、属性は信じてもらえてもステータスからまだ疑われ、所持していた杖の詳細と足元が覚束ないユウシの事情を説明したところでようやく信用され、なんとかそれ以上ことが大きくならずに済んだ。
ただこの話はそのときのように正直に話したところで信用されるまで時間がかかってしまうため、丁度先日強大な魔獣の襲撃があった件と重ねることで誤魔化すこととしたらしい。またユウシのレベルが実力以上に高い件について問われたとき、シガナが詳細をぼかしつつもこれまでの魔物の討伐やそれに至った経緯を告げるたことで同情され、実害が出ていないことからも今回は杖の使用制限の他は厳重注意のみで許されたのだった。
とはいえいろいろなところに迷惑をかけてしまったことは事実で、ユウシはこの日職員室に呼ばれるまでも周りの生徒達の会話を聞いてずっといたたまれない気持ちでいっぱいだった。
「魔法を使えるようになったことが嬉しい気持ちは分かるが、魔法は危険が伴うもの。今回はそれを身をもって体験しただろう。本来は魔法の講義を通して魔法使いの心構えや注意点を教えている。今後は今回の反省を踏まえ、より一層気をつけるように」
「は、はい」
「加えて、スライム相手に実力試しをすることのなら、失敗の恐れがあるうちは魔法の使用はできるだけ学校の敷地内のみとし、討伐は昨日話していたような別の方法をとることを推奨する」
「え?あ、分かり、ました」
「……話は以上だ、では今日も講義に励むように」
てっきり魔物討伐に出かけたことを咎められると思っていたユウシだが、ランクルの話し方はむしろその逆のようにも聞こえる。ポカンとしているユウシが瞬かせている目をじっと見つめることを最後に、ランクルはかけていた眼鏡を押し上げ、自分の席に戻って事務作業を再開した。ユウシはもう一度謝るように深く頭を下げてから職員室を後にする。それを見届けてから、ランクルに話しかける教師が1人。
「どうしましたか、ゼイド先生」
「いいんですか、街の外に出ることを禁止しなくても」
「ええ、街の近くなら問題はないでしょうし、遅かれ早かれ後期の講義で討伐は行うことになります」
「ですが、今は特に危険です。正直何が起こるか、分かりません」
ユウシの失敗を隠した強大な魔物の討伐。それは昨日街からそう遠くない街道に現れ、街へと積荷を輸送していた隊商の一団を襲った劣竜の一件。結果的に深手を負わせて撃退することに成功したものの、数台の馬車が潰れ、護衛の冒険者の半数以上が怪我を負い、うち1人は利き腕を失う大怪我であった。
「この近辺では1年に1度しか見なかった劣竜が、今年は春が終わる前に既に2度目撃されています。これは何かがおかしいです」
「ゼイド先生は杞憂しすぎではありますが、その件は冒険者ギルドの方で既に話し合いをして対策していますよ」
入学以降生徒たちのほとんどが見たことのない校長、クレイズはこの街の冒険者ギルドのトップであるギルドマスターでもあった。近年は魔物の増加に伴う対応等で忙しく、この日や入学式の日も、それぞれ劣竜の件を自ら王都へ共有しに行っていた。そのため最近は専らランクルが最高責任者として学校業務を運営しているといっても過言ではなかった。
「不安かもしれませんが、だからこそ生徒達の成長を促すためにも魔物討伐は必要なことでしょう、彼みたいな生徒ならそれはなおさら。そもそも今月末には魔物討伐大会があります。例年通りであれば、もうそろそろスライムの繁殖期ですし、採点討伐対象のスライムの倒し方を事前に調べておくのはなんらおかしいことではありませんよ」
「それは、そうかもしれませんが……」
「では、急ぎで作成しなければならない資料があるので」
「……失礼しました」
あまり自分勝手なわがままばかり言ってはいられない、とゼイドは自らの席へ戻っていく。気持ちを切り替え、不安ならそれが無くなるように教えなければ、と月が替わって初めての講義の準備に取り掛かった。そんなゼイドの姿をランクルは一瞥し、数値が羅列された資料に目を落とした。
- - - - -
「あ、来たわよ」
「お、どうだ、怒られたのか?」
「う、うーん、微妙」
朝食のために食堂へと入れば、テイガ達はまだ食事を食べずに待ってくれていた。食事を持って確保されていた席に腰を下ろし、4人は揃っていただきますの挨拶を口にする。
「ユウシくん、昨日は大丈夫でしたか?」
「う、うん、まあなんとか。でも、なんで歩けなくなっちゃったんだろ?」
「それはね、たぶん魔力欠乏症だよ」
「……ああ!本に書いてあったやつ!」
魔力欠乏症はその名の通り、体内の魔力が不足することにより発症する症状を指す。その症状は個人差はあるが、主なものには脱力や頭痛、吐き気、眠気があり、体内の魔力量が一定以上に回復するまで続く。原因としては魔力は生きる上で欠かせないものであり、足りなくなるとそれを補おうとして、他の身体機能を低下させ、魔力器官の働きを優先させるためだと言われている。
「そっかぁそれで倒れちゃったんだ」
「焦ったぜ、その後にあの爆音だもんな」
「ホンットびっくりしたわよ、あの音。心臓飛び出すかと思ったわ!」
「うん、ごめん……」
「初めてだもん、仕方ないよ」
ユウシの謝罪を許したモモコとフーシュ。4人の会話は続いてそれぞれの討伐がどういった様子だったのかに移った。
「俺は本当は剣で倒したかったんだけどよ、部屋まで取りに帰るのも面倒だったからユウシがやってたみたく棒で叩いて倒したぜ」
「1匹目で倒しちゃうし、スゴかった!」
「「え?」」
「あっ、いや、ナンデモナイデス……」
どうやら女子組も全員初めて見つけたスライムをそのまま倒せたらしく、ユウシはそれ以上はなにも言わずに縮こまった。
「でも魔法は使わなかったの?」
「いや、まだ安定しなかったしな。本当は2匹目以降でやってみたかったけどな」
「うっ」
「そうなの?ちなみに、私は魔法を使ったわよ!ね、フーシュ!」
「う、うん……」
同意を求めるモモコだったが、どこかフーシュの歯切れは悪い。ユウシとテイガはその点について、女子3人の詳しい討伐の流れと共に尋ねることとした。
「まずはユカにお手本を見せてもらったわ」
「お!ユカさんからだったのか!」
そういってどんな倒し方をしていたのか楽しみだったテイガだが、ユカのスライム討伐は一瞬で終わってしまったとのこと。
ユカはスライムを見つけると、相当離れていたが、その場で詠唱を始める。そして放たれた火球はまっすぐスライムの元へ届き、身体の中心に命中し、そのまま討伐に成功してしまった。
「すごいきれいな魔法だったね、モモコちゃん」
「あれは見とれるのも仕方ないって思っちゃったわね」
「だろ?だろ!?」
「うっさいわよ!」
「そっかぁ、ユカさん、ミドルスライムもすぐで、ギガスライム相手でもすごかったし、スライムなら楽勝に決まってるか」
「ん?ギガスライム?」
「あっ、いや!モモコは?モモコはすぐ倒せた!?」
「私?まあ、思ったより苦戦はしたわね」
最後の秘密がばれそうになったが、魔法による討伐成功を自慢したいモモコに救われ、ユウシはなんとか誤魔化すことに成功した。
モモコはスライムを見つけると、まずはユカのように離れた位置から球弾の魔法を放った。自信満々に射出された魔法だが、結果はそれに伴わず。半分ほどで逸れ始め、着弾したのはスライムの身体5個分ほど横の位置。
途中で失敗したのに気づいたモモコは既にスライムに駆け寄っていた。しかしスライムは警戒態勢に入っており、接近に合わせて逃げ出していた。そうなればモモコはスライムを追いかけながら魔法を放つしかないが、走りながら魔法を構築できるほど、モモコは器用ではなかった。
「それで3回ぐらい当てるのに失敗したわ」
「でも倒したんだろ?」
「どうやったの?」
「それはね!他の初級魔法の『防壁』をアレンジしたのよ!」
自慢気に話すモモコだが、まだユウシはその魔法を見たことはない。ただ魔導教本で読んだページに説明が記載されており、それが壁を作り出す魔法であることは知っていた。モモコは自分の身を守るのに使われるこの魔法を、スライムの動きを制限するのに使ったという。
「まずはスライムが逃げる先に壁を作るでしょ?で、ぶつかって止まってる隙に、スライムの周りをぐるっと囲ったの!」
「そうか、あの魔法そんな使い方もできるんだな」
「へ~!どんなのか気になる!」
「でも、モモコちゃんの魔法は街の周りのスライムとは相性が悪かったの……」
「そうなの!ホンット大変だったんだから!」
四方を囲まれて動けなくなったスライムの上から、モモコは止めの球弾魔法を撃ち込んだ。しかしスライムに威力が足りず、スライムは攻撃を受けてもまだ元気そうにしていたのだ。
「ユカちゃんが言ってたけど、スライムにも属性があって、モモコちゃんが戦ってたのは草属性だから、同じ草属性の魔法に強かったんだって」
「そりゃ災難だったな」
「でもモモコは倒せたんでしょ?どうやったの?」
「それはもう、上からこう!よ」
椅子に座りながら行儀悪く足を持ち上げ、勢いよく足踏みしたモモコ。そう、魔法で倒せないと知ったモモコはすかさずスライムの上に着地するようにして、全体重で踏みつぶしたのである。ユウシとテイガはその光景を想像して身震いした。
「な、なんつーか。グロくね?」
「仕方ないでしょ、それ以外方法なかったんだから」
「いや、棒とかで、倒せたよ?」
「でも、足に触れた感触はなかなかひんやりしてて気持ちよかったわよ。ね、フーシュ」
「ううん、私は正直苦手だったよ」
「「!?」」
当たり前のようにフーシュにも感想を尋ね、フーシュも苦手とは言うが、踏みつぶしたことを否定はしない。つまりはそういうことである。
「ふ、フーシュも同じ方法で?」
「しょうがないじゃない、フーシュは癒属性なんだから」
「うん、モモコちゃんのおかげで倒せました!」
なんとも言えない気持ちになるユウシとテイガだったが、フーシュがいいならまあいいか、という結論に至るのだった。
「その後はどうだったんだ?」
「それはもう、次のスライムを探してたらうっさい音がして、近くのスライム全部逃げちゃったからそれどころじゃなかったわよ」
「あー、そういや俺らんとこはもっとすごかったよな」
「え、僕覚えてないや」
女子3人はユウシ達の姿が見えないぐらいには離れた場所で討伐を行っていたが、そんな距離でも大きな音にスライム達は反応して逃げ出した。ならば音源といえる着弾点付近はどうなっていたのか。
顔を上げたテイガが見たのは、見渡す限りの草原で、討伐後に魔物が消える際に放つ光が舞い上がる光景だった。
「正確に数は数えてないし、魔核も拾えずじまいだったけどよ。たぶん、1回の魔法で100匹ぐらいは倒したんじゃねえか?」
「そんなに!?」
「ふぇええっ、す、すごいです!」
「えへへ」
「よく考えたらとんでもねえ属性だよな」
知った当時は音なんかでどうやって戦えばいいのか考えもつかなかったユウシ達。だが杖や魔力量の影響が大きいのはもちろんあるが、ここまでの効果をもたらすものであることを知り、1日経った今でも思い返せば思わず身震いしてしまうほどだった。と、話をしていて思い出したことがあったテイガは3人に尋ねる。
「そういや全員討伐後の魔核拾ったよな?あれどうすんだっけ?」
「あ、僕がシガナとユカさんと行ったときはね、シガナがギルドに持ってって売ったよ!」
「ギルドか~、まだ行ったことねえんだよな~」
冒険者が仕事の依頼の受注、報告を行ったり、討伐した魔物の素材を持ち込んで売却したりすることができる、冒険者のための施設。冒険者になる前に一度は行ってみたいと思っていたテイガはその機会が得られたことで、嬉しそうに内部構造を妄想している。だがそう呑気に考えてはいけないことを知っていたフーシュが確認した。
「でも、早く行って売った方がいいし、今週の休みの日にみんなで行く?」
「なによフーシュ、急ぐ理由なんてあるの?もっと数が溜まってからの方がよくない?」
「違うよモモコちゃん、それはね」
「魔核は時間の経過とともに魔物に戻る恐れがある、ということですわ」
「え?」
「れ、レイアさん!?」
理由をフーシュの代わりに答えたのはひと月以上顔を合わせていなかったレイアだった。後ろを見ればユウシに手を振るタリユスと不機嫌な様子のイアンもいる。予想外の遭遇にテイガが思わず席を立つ中、レイアは上品に一礼した。
「皆さん、お久しぶりですわ。それと、フーシュさんは初対面ですわね。レイア、と申しますわ」
「えっ、と、はい!初めまして、フーシュです!」
「れ、レイアさんはどうしてここに?」
これまた掲示板でも成績上位の生徒として名前を憶えていたフーシュは、こんな場所で出会えるとは思っておらず、テイガほどではないが声が上ずっていた。テイガはいつも通りに興奮しており、モモコの不機嫌な様に気が付かぬまま、レイアに用を尋ねる。すると、代わりにタリユスが説明した。
「僕たちは生徒が多い時間を避けようと、いつも少し遅い時間に食堂に来ているのですが、今日はテラス席ぶりにユウシ達を見かけたため、是非挨拶をしていこうと僕が提案しました」
「タリユス、ナイスっ」
「へ?あ、はい、どうも?」
テイガにグッドサインを突き出され、テイガがレイアに会えて嬉しいことを知らないタリユスはとりあえずといった様子で返事をかえす。
「レイア様、終わったならもう行きましょうよ」
「待ってイアン、もう1つだけ。皆さんは今、魔核の話をされていらしたけれど、もしかして皆さんも冒険者さんと一緒にスライム討伐を行ったのかしら?」
「冒険者さんと?」
「え、違うんですか?」
タリユスの話を聞けば、レイア達も休日を中心に何度かスライムの討伐を行っており、ただ街の外に行くためには許可が必要なため、安全の確保のために冒険者同伴の元で討伐を行っていたらしい。
「へー、そういうやりかたもあるんだ、知らなかったぁ」
「と、いうことは、ユウシさん達は違う方法で行った、ということですわね?」
「あ、その」
「話は変わりますけれど、あれから一度もシガナさんともお話できていないのですけれど、ユウシさん達はいかがかしら?」
「えっ!?」
「ユウシ、お前さぁ……」
言葉という言葉を発していないユウシだが、レイアは既に満足顔である。これにはつい先日同じ方法で同じことを聞き出したテイガも、自分のことを棚に上げて呆れた様子であった。
「では次シガナさんと会う機会があれば、是非私がもう一度、お話を伺ってみたいと言っていたことをお伝え願えるかしら?」
「うぅ、ま、まあ、それぐらいなら……」
「感謝しますわ。それではごきげんよう」
「ユウシ、またね」
イアンが舌打ちと共に一人で行ってしまったのを見て、レイアもまだ聞きたいことがありそうな様子ではあったが、4人にもう一度礼をしてからイアンの後を追った。タリユスもレイアについていき、見送ったユウシはため息をついた。
「僕、焦るとダメだ~。シガナ、怒るかなぁ」
「俺らに話したこともそんな怒ってなかったし、大丈夫だろ」
「だといいけど……」
「それよりさぁ」
恩を仇で返してしまっていないか心配になるユウシを横目に、テイガはレイアが上った階段を見つめる。
「ユカさんは人より早い時間に、レイアさんは人より遅い時間に朝食をとってる。なあ、俺はどっちを選べばいいんだ?」
「なんで私たちに聞くのよ」
「だよな、この2択なら申し訳ないけどユカさんに決まってるよな」
「そういうことが言いたいんじゃないわよ。……はぁ、ユカが性格悪ければよかったのに」
テイガの自問自答に突き合わされてモモコはやはり不機嫌そうだが、今回はテイガを強く咎めるような口調ではなかった。自分の発言に対するモモコの反応をある程度予想していたテイガは、しかし怒鳴られなかったことに目を瞬かせ、続くモモコの言葉に同じく昨日のことを思い出した。
「そういやこっちは午後もいろいろ叱られてたけどよ、そっち3人はどうだったんだ?」
「ん?……えー、知りたいー?」
「そりゃ、もちろんだろ。ユカさんがどんなものが好きだとか、知ってれば知ってるだけいいからな!」
「あっそ、じゃあ秘密にしとこ!ごちそうさま!」
「は?あっ、ちょ、待てよ!」
「ん!?んー!んー!!」
モモコは食器を重ねると駆け足で片づけに行き、テイガも話を聞き出すために慌ててその後を追いかける。今日も今日とてまだ完食していないユウシは口をいっぱいにしてたために引き留めることができなかった。
「ユウシくん、焦らなくても大丈夫だよ」
「……んん、フーシュさん、ありがとう。でも、僕もどうだったか気になるなぁ」
「ユカちゃんがですか?」
ユウシが頷けば、モモコを追いかけるテイガの苦労は無意味だと言わんばかりにあっさりと話すフーシュ。曰く、ユカの望みの魔導具屋で店主の老婆を交えて雑談した後、近くの出店で軽食を味わい、服屋やアクセサリーショップで残りの時間を楽しんだとのこと。
「魔導具屋はモモコちゃんは退屈そうだったけど、ユカちゃんから私の知らないことも教えてもらえたし、お店のご飯はモモコちゃんがたくさん食べてユカちゃん驚いてて、服屋さんはみんなで似合う私服を選びあったよ!ユカちゃんと話したのは初めてだったのに、とっても楽しかったよ!」
「そうなんだ~!いいなぁ、僕もテイガとかモモコじゃなくて、新しいそんな友達作りたいなぁ」
「シガナくんとか、ユカちゃんとかは?」
「2人とはまだ遊びに行ったりはしてないもんなぁ~」
「あ、私もお友達だよ?」
「……はっ、確かに!フーシュさんは勝手に前から友達って気がしてた!」
「えへへ、ありがとう」
悩みを打ち明けたり、手紙を貰ってまで励ましてくれたりするうちに、ユウシは無意識にすっかり気を許していたようである。これにはフーシュも照れたように感謝の言葉を口にし、1つ、まだ聞きそびれていたことを思い出してユウシに尋ねた。
「ユウシくんは、冒険者になるんだよね」
「そう!テイガとモモコと一緒に、スッゴい冒険者を目指して頑張るんだ!」
「えっと、冒険者はだいたい5人ぐらいでパーティーを作って活動するのは知ってる?」
「うん、だからできたらあと2人を見つけなきゃってテイガとは相談してた」
そこまで話してユウシはハッとした。魔法の勉強に必死になる余り、将来の仲間を探すことをすっかり忘れていたのだ。話した友達から考えても、誰一人として将来冒険者を目指すのかなどの質問をした記憶がない。次会ったらそれとなく聞いてみよう。そう考えていると、フーシュが小さく手を挙げたことに気が付いた。そして思いがけない提案をした。
「その。良かったら、私も仲間に入れてほしいな」
「え」
「えっと!前に私、レミリス様みたいな魔法使いになりたいなって言ったと思うんだけど、レミリス様は冒険者として依頼を解決して困ってる人を助けてきたし、昨日スライムを倒して、もちろんモモコちゃんに手伝ってもらってやっとだけど、頑張れば私でも魔物を倒せそうって、思ったの。それで、ユウシくんが今日、ここに来る前にテイガくんとモモコちゃんには相談してて、あとはユウシくんにも聞かなきゃってなって」
「フーシュさんも、一緒に冒険者になってくれるの!?いいの!?スッゴーい!そしたら難しいこと相談できるし、怪我しても大丈夫だから、とっても頼りになるね!」
「え、っと……つまり」
冒険者を夢見た自分がいた。レミリスの姿に憧れた自分がいた。だけど戦えるような筋力はなく、頼みの魔法も癒属性で、一時は違う道で、単なる魔法使いとしてレミリスを目指そうかとも考えた。
けれど、いざスライムを倒した時の達成感は大きくて。やっぱり冒険者になってみたくて。1人じゃできないから、力を貸してほしくて。テイガとモモコに相談してみたら、なんてことのない軽い答え。
「冒険者憧れてたのか、別に俺は気にしないけど」
「ってか、フーシュはもう一緒にやるもんだと思ってたわよ」
「ユウシ?そんなん聞かなくても良いっていうぜ?」
「むしろありがとうとか言いそうじゃない?」
「うん!仲間になってくれてありがとう!一緒にスッゴい冒険者になろうね!」
「っ!はいっ!こちらこそよろしくだよ、ユウシくん!」
こうしてユウシの冒険者活動を始める4人目の仲間が見つかった。2人は喜び、周囲の目に気付いて赤面し、それでも微笑みは消えず、きっと外で待っているテイガとモモコに報告しに行った。
そして昇級後の座学の講義に励んだ後。ユウシは初級魔法の実技に臨む。




