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「あー、やっぱりダメだった~」

「そりゃお前、今月は全然集中できてねえんだし当たり前だろ」

「そうよ、だから受けなくていいんじゃない、って何度も聞いたでしょ?」

「いや!でもこれは昨日遊んだからだよ!復習できてたらもっとできてたもん!」

「そうはいうけどよ、ユウシ。本番はこのあと、だろ?」


 食堂にて机を囲むユウシ達。ユウシは試験の出来の悪さに肩を落としたが、午前中の試験の内容は座学。ここ1ヶ月以上、ユウシが成功させたいと努力を続けてきたのは魔法であり、その試験は昼食を終えたらすぐだった。


 テイガ達が試験を受けることを知っているのは、昨日モモコの自己本位な観光に突き合わされて疲弊したユウシがうっかり口を滑らせたため。そのためユウシが杖に光を灯せたことは、既に薄々感づかれている。ユウシのサプライズお披露目はもう半分失敗していた。


「絶対合格しろよな!」

「上のランクで待ってるわね!」

「頑張ってね、ユウシくん!」

「うん!任せて!」


 楽しみこそ1つ減ってしまったが、そのぶん声援を貰えたと考えれば、むしろ気持ち的にはこちらの方が嬉しい。ユウシは自分の為だけでなく、応援してくれるみんなの為にも、確実に成功させようと心の中で意気込んだ。


「でもその前にごはん食べ終わらなきゃですね」

「お前はいつになったら足並み揃えられんだよ?」

「み、みんなが早いの!」

「ユウシ、量が多いなら」

「あげないよ!そんな目で見られても!」


 つい喋るのが楽しくて今日も今日とて1人、ご飯を食べるのが遅いユウシだった。


 - - - - -


「それじゃあお2人とも、頑張ってください!」

「いい報告待ってるわね!」

「ああ、また後でな~!」

「うん!」


 魔法の昇級試験を受けるユウシと、武技の昇級試験を受けるらしいテイガはモモコとフーシュに見送られ、それぞれ試験の会場へと足を運んだ。


 ユウシはグラウンドに立って周りを見渡す。座学の試験には多数生徒の姿が見受けられたが、魔法の試験に参加する生徒はあまりおらず、数えようと思えば人数を把握できるぐらいには少なかった。これについては昨日軽くテイガ達から話を聞いており、どうやらCランクへの昇級条件がいくつかある初級魔法を完璧にこなしたうえで、多少の応用を行うことらしい。


 いくら初級と言えどもテイガ達を含めて多くの生徒が苦戦しており、今回試験を受けるのはよっぽどセンスのあった者か、はたまた元からある程度魔法を使えた生徒ぐらいであった。当然Dランクへの昇級試験を受ける生徒はユウシの他はおらず、ユウシは周囲から講義で見慣れない生徒であるとして多少の注目を集めることとなったが、幸い試験官の先生は別であり、1人のユウシを気遣ったのか、試験場所は少し離れた建物の中であった。


 ほっとしたのも束の間、早速ユウシの名前が呼ばれ、ユウシは先生のもとへと歩いていく。両手で持っている白色の魔導石の杖は小刻みに震え、緊張するユウシの心理状態が垣間見えた。


 平日最終日の森の中、ユウシが初めて杖に光を灯した後も、ユウシは魔力を流すことを試みた。シガナもユカもやることがあったために、朝食でアドバイスをもらってからは部屋の中で1人で杖を手に試行を繰り返した。


 結果から言うと、ユウシは安定して光らせることはできていなかった。それも2回に1回などではなく、10回やって1、2回といったところ。それも目を瞑って想いを籠めなければ成功はせず、もしかしたら目を瞑っている間に成功していたのかもしれないが、ユウシは自信満々とは言い難かった。


 きっと大丈夫だろうけれど、万が一ということがあれば。ユウシはシガナに言われたことを思い出してなんとか暗い気持ちを外に追いやると、試験が行われる部屋の扉に手をかける。そしてゆっくり開けて中に入り、ユウシは挨拶しかけた口を噤んでしまった。


「やあ、その後調子はどうだ?」

「ぜ、ゼイド先生」


 いつかの適性診断のときのように椅子に腰かけてこちらをみていた彼は優しく微笑んだが、どうしてもお互い、気まずい雰囲気を隠すことはできなかった。ユウシは冒険者を志す自分のことを慮った数々の提案を無視するように話を聞かなかったこと。ゼイドはユウシの気持ちを汲み取りきれず、誤った判断で深く傷つけてしまったこと。


 それぞれが罪悪感を抱えながらも日々をなあなあに過ごしてきたが、今日、その転換となりえる試験の場で出会ったことは偶然ではなかった。


「本来なら、今Dランクの講義を受け持っている俺がCランクへの昇格試験の対応をするべきなんだけどな、他の先生方に無理を言って代わってもらったんだ」

「そう、なんですね」

「昇級試験の受験届に君の名前があるのを見て驚いたんだ。それで話をせずにはいられない、ってな」

「……その、いろいろ考えて話してくれたのに、全部無駄にしちゃってすみませんでした」


 ゼイドがこちらをまっすぐに見つめる目を、ユウシは直視できなかった。しかしそれでも機会を作ってくれたゼイドに、ユウシは深く頭を下げた。


「いいんだ、俺はただ選択肢を示しただけで、最後にどうするか決めるのは結局君次第だからな」

「えっと、なら、よかった、です」

「……あー、そうだな、なんにせよ、試験を始めようか」


 ユウシとしてはこの時点である程度心は晴れていたが、ゼイドにはまだ1つ、今回の根本的な問題が解決していない。ゼイドはユウシが杖を前に構えて深呼吸をするのを見て、少し躊躇った後に口を開いた。


「今回、君がどういった意図でこの試験を受けたのかは正直なところ、俺にはまだ分からない」


 ゼイドはまだ、ユウシがこの1ヶ月の間に何をして、どこまで進展しているのかをほとんど把握していない。彼の物差しで測った彼の成長度合いでは、到底杖に光は灯すことができない。その筈だった。


「君は魔法を諦めず、夏の時期に成功か失敗かは分からないが、そのときに試験を受けに来るものとばかり考えていた。だから今回受けるのは、偶然、奇跡的に成功させることができたのか、それとも魔法を諦めて他の道に転向する決心のためか、はたまたその両方で、今回できれば魔法を、できなければ冒険者を優先する判断のためか。俺はそう捉えた」

「……」

「もしそれが、君が前向きに考えた結果なら、俺は嬉しいよ」


 -期待に応えられず、すみません。僕じゃ無理みたいです。

 -俺、ホントは魔法が使いたかったよ。

 -もう、疲れちゃった。せんせ、今までありがとね。


 今でもたまに頭をよぎる言葉の数々。本人の意思を尊重すべきなのか。将来生きやすい道を進めるべきなのか。現実を突きつけて諦めさせるべきなのか。未だにどうすることが正解だったのかは分からない。ただ、できることなら本人が納得できる道を、本人が自分で決めた道を歩かせてあげたい。


「ユウシくん、たとえ君が別の道を進んだとしても、俺は君の味方だ。いつでも相談に乗るし、分からないことがあれば遠慮なく尋ねてくれ。俺に、君の明るい未来を応援させてくれ」

「ゼイド先生……」


 真剣に話すゼイドの言葉から、ゼイドにも過去に何か、思うところがあったのだろうことがユウシにも察せられた。だが過去は過去で今更変えられないし、今のユウシには分かりようもない。ただ確実に言えるのは、ゼイドは自分の選択を否定したいわけじゃなく、尊重して寄り添ってくれる、心優しい先生であるということだ。


「ありがとう、ございます。……だけど、1つだけ違うところがあります」

「……?えっと、それは?」

「僕はみんなの力を貸してもらって、頑張りました。それは偶然とか奇跡とかじゃなくて、頼れる友達、それと、先生の言葉があったからです」


 1人じゃ何もできないような、情けない自分が持っていた魔法の才能は、立派で素晴らしいものだと。途中疑ってしまったこともあったが、原動力となったのはまちがいなくその言葉があったから。


 そして今日、先生の想いが籠められた言葉を聞き、ユウシは力を受け取った。今ならできる。ユウシは確信を得て、杖をその腕に抱く。


「先生、僕はこの立派な才能で、みんなに誇れる冒険者になります」

「……あ、ああっ」


 もう、見なくても分かる。胸から腕に、腕から杖に流れる力を感じ取れる。


 ユウシは改めて夢を思い描くとともに、魔法の昇格試験を合格した。


 - - - - -


「全員揃ったし、結果を教えてもらおうじゃあないの!」

「おし、まずは俺からだな!」


 ユウシとテイガが試験を終えて帰ってくると、4人は空き教室を探して席に着く。席に座るや否や結果の開示を要求するモモコに、テイガが我先にと口を開いた。


「俺は武技の試験で……無事!Dランクになれたぜ!」

「スッゴい!おめでとう!」

「講義を受けてないのに、さすがだね!」

「と、言ってもまあ、ある程度基本が出来てりゃよかったみてぇだな」


 武技の試験は試験官の先生と実際に模擬試合を行うこと。また、Dランクへの昇級条件は剣に振り回されず、指定した時間が来るまである程度戦えること。当然と言わんばかりに先生は手加減をしており、昇級できたとはいえ、先生に遊ばれているとしか感じなかったテイガは少し不満げである。


「あと次の番の奴はレシーナ先生が試験官でよ、俺は男の先生だったのに、ひどいと思わねえか?」

「知らないわよ。まったく、アンタは何のために試験を受けてんのよ?」

「「あはは……」」


 本当に不満なのは試験官の性別なのでは、と思ったが、きっと肯定されるだけなので、ユウシは敢えて言わなかった。それより、モモコが不機嫌になるだけで喧嘩に発展しなくてよかった、と安心するユウシとフーシュだった。


「で、このヘンタイはほっといて」

「誰が変態だっ」

「ユウシ、アンタはどうだったのよ?」


 そう、モモコも他の2人も、ユウシの結果は一番気になっていたことだった。視線が集められたユウシだが、背を丸めて俯き、小さくため息をつく。


「ゆ、ユウシくん?」

「アンタ、まさか……」

「おいおい……」


 ユウシは鼻をすすりながら震える手で学生証を取り出す。テイガは苦笑していたが、モモコとフーシュが不安になる中、ユウシは学生証を起動して3人に見せた。画面を覗き込む3人の目に映ったのは。


「魔法ランク……D!!」

「受かってたー!!」

「はは、だよな、おめでとう」

「なによもうー!ホンットに怖かったじゃない!!」

「お、おめでとうユウシくん!」

「みんなのおかげだよ、ありがとう!!」


 杖を光らせることに成功したユウシは無事Dランクとなり、本格的な魔法の講義を受ける資格を得た。テイガ達は祝福し、それはテイガ達の応援がなければ成し遂げられなかったことであるために、ユウシは心の底から感謝した。


 温かい雰囲気の中で、モモコはそのまえのちょっとした悪戯を本気で心配しており、それが嘘だと分かった今、なにかしら仕返しをしないと気が済まなかった。少し考え、目の前に無防備に出された学生証を見て、あることを思いつく。


「そういえばユウシのステータス、見てなかったわね」

「前は故障で見れなかったんだっけか?……お、今は普通に見れてるな?」

「あ、いや、それはちょっと、ほら。ね?」


 いくら魔法を使えるようになったとはいえ、自分のステータスが低いことに変わりはない。たとえ2人が昔から学生証を見ずともそのことを知っているとはいえ、フーシュはそもそも知らないことであり、2人にも学生証を見せることには抵抗があった。


 しかし学生証は既にモモコの手中にある。操作は本人しか受け付けないためにまだ安寧は保たれているが、このままだと諦めさせられて自ら操作するか、無理矢理操作させられるかの二択である。


「(こ、こうなったらフーシュさんになんとか)」

「あの、せっかくだしみんなの学生証を見せ合う?」

「いいわね!」

「あ、はい」


 ユウシの目論見は一瞬で崩れ去った。ユウシはおとなしく従った。


「じゃあせーのでだすわよ!」

「「「せーの!」」」


 4人は学生証を机に並べた。


 ー・ー・ー・ー・ー・ー


 テイガ ステータス詳細


  魔力: E

  体力: C

 攻撃力: D

 防御力: C

  敏捷: C

  器用: D

 魔適性: E(風)

  幸運: E


 ー・ー・ー・ー・ー・ー

 ー・ー・ー・ー・ー・ー


 モモコ ステータス詳細


  魔力: D

  体力: D

 攻撃力: C

 防御力: D

  敏捷: C

  器用: E

 魔適性: D(草)

  幸運: D


 ー・ー・ー・ー・ー・ー

 ー・ー・ー・ー・ー・ー


 フーシュ ステータス詳細


  魔力: C

  体力: E

 攻撃力: F

 防御力: E

  敏捷: F

  器用: C

 魔適性: C(癒)

  幸運: D


 ー・ー・ー・ー・ー・ー

 ー・ー・ー・ー・ー・ー


 ユウシ ステータス詳細


  魔力: E

  体力: D

 攻撃力: F

 防御力: E

  敏捷: E

  器用: F

 魔適性: E(音)

  幸運: B


 ー・ー・ー・ー・ー・ー


「うわっ、ユウシほとんど平均以下じゃない」

「だ、だから見せたくなかったんだよぅ」


 そう言って不貞腐れた振りをするも、内心では防御力や魔適性など、以前確認したときよりもさらに上昇した項目があることを喜んでいた。


「なんていうか、攻撃力はフーシュと同じってのもそうだし、お前そこまで不器用だったか?」

「え?あれ!?前見たときより下がってる!?」

「ふぇええ!?そ、そんなことあるの!?」


 ユウシはギガスライム討伐の際、いくらか投げれば1つぐらい当たると思って投げた石が1つも当たらなかったのはそのせいなのか、と一周回って納得してスッキリしていた。ユウシが1人で疑問を解決したとき、モモコが一番下の項目を見た。


「でも、せっかく4人の中で唯一Bのランクがあるのがユウシなのに、それがパッとしない運ってのも残念な話よね」

「だな、その分が少しでも魔法に行ってりゃこんな苦労はなかっただろうにな」

「……ううん、そんなことないよ」


 幸運が果たして本当に意味がないのかどうか。その答えは既にユウシの中で出ている。


「自慢できる、頼れる友達と出会えたことが、僕にとっては幸運なことだし、この運が無ければ逆にこうはならなかったかもしれないから、ほんとによかったよ」

「そ、そう?」

「ならまあ、よかったよ、なあ?」

「ん?」


 ユウシの言葉を聞いたモモコとテイガが少し挙動不審である。思わず首を傾げるユウシだが、フーシュは理由が分かったようで、1人微笑んでユウシに教えた。


「2人とも、ユウシくんに自慢できて頼れる友達って言われたことが嬉しかったんだよ」

「あっ、え、そ、そうなの?」

「いや、聞くなよ、そこは」

「まあ、そりゃ、嬉しいわ、よ」

「……そっ、か」


 言われて意識すれば、途端に気恥ずかしさがこみ上げる。今までは日頃からそういうことを言ってもなにもなかったが、急に照れ臭い気持ちが出始める。なるほど、これが成長か。後にユウシは1人で振り返るが、この生暖かい沈黙を破ったのはモモコだった。


「あーもうおしまい!ね、ユウシ、アンタの杖が光るとこ、外で見せてよ!」

「私もみてみたい!」

「確かに、俺らはまだ1回も見てねえしな」

「分かった、見せてあげる!」


 4人、中でもフーシュを除いた3人は気持ち駆け足で外へ出る。そしてユウシが構える杖の前に3人が囲むようにして立つと、ユウシは深呼吸して杖を抱きしめるようにして握った。今回はユウシも目を開けており、自分の目ではっきりと、白色の魔導石が橙色に染まったのを確認できた。


「おーっ、すげえ、ちゃんと成功したんだな!」

「もー、学生証で分かってたでしょ!」

「だとしても、よ。あんなにできなくて悩んでたのに、よく諦めずに頑張ったわね」

「うん、みんなの応援のおかげだよ!」

「オレンジ色の光、初めて見ました!」

「そっか、僕しか音属性の人、いないんだもんね!」

「で、どんなことしたらできるようになったって?」

「えっと、街の外行って魔物、あ」

「「「魔物?」」」


 まるで自分のことのように喜んでくれる反応が嬉しかったユウシ。一人一人に返事を返していると、テイガの巧妙()な罠に引っかかり、ついユウシは口を滑らせてしまった。なんとか全てをバラす前に気付き、慌てて口を塞いだものの、聞かれてはいけないところの1つは既に口に出してしまった。そして聞いていたのがテイガとモモコだけならもしかすると誤魔化せたかもしれないが、フーシュはそれだけで何をしていたのか予想がついてしまった。


「も、もしかして、魔物を倒してたの?」

「えっ!あっ、っと、なんていうか、えっと」

「マジか、その反応は正解ってことだな」

「なによ、そんな危険なことしてたの!?」


 フーシュの推測に対するユウシの反応からテイガに正解だと言い当てられてしまい、当然3人は驚愕する。他の生徒ならまだしも、先ほど見た通り、誰よりも低そうなステータスを持つユウシが魔物討伐を行うことは危険極まりないことであり、まして協力者の存在を知らなければその心配の度合いは最大級である。


 ユウシとしてはこれ以上心配させることは不本意なため、ギリギリ言えるところと言えないところを見極めつつ言い訳した。


「ちがくて、その、討伐したのはスライムだから、全然危険じゃなくて」

「確かにスライムなら倒すのは簡単だと思うけど、それだけでレベルって上がるの?」

「ん?どういうことだ?」

「たぶん魔物を討伐しに行ったのはお金とか、素材とかが目的じゃなくて、倒すことでステータスをあげようとしてたんだよね?」

「どうなの、ユウシ」

「は、はい、そうですぅ」


 威圧的なモモコの声に、ユウシは反射的にすぐ答えてしまった。このままではまずい、何か誤魔化さなければ。しかしいい方法を思い浮かばない。


「でもスライムは弱いから、ステータスを上げようと思ったらたくさん倒さなきゃいけないと思うけど……」

「そう!だからいっぱい倒した!」

「ほんとか?」

「う、うん!」

「これはあれだな、嘘は言ってねえけど、まだ何か隠してるな」

「えっ、い、いやぁ?」

「その通りって言ってるわね」


 ダメだ、この2人、僕のことを知りすぎている。ユウシはこれまで築き上げてきた友情を甘く見ていた。こうなったら嘘はつけないため、せめてシガナとユカの名前だけでも隠して話を進めよう。ユウシは決心した。


「そろそろホントのこと吐きなさいよ」

「じ、実はちょっと強いスライムも倒しに行ってて!」

「スライムより強いってなると、それこそミドルスライムとかか?」

「そうそう、それも!」

「「も?」」

「うわーーー!!」


 なぜ勘違いされそうだったのにわざわざばらしてしまったのか。テイガとモモコがフーシュにより強いスライムについて尋ねようとしたため、ユウシは強引にでも話を終わらせようと試みた。


「と、とにかく!その強いスライムを、えっと、……他、の人達に助けてもらって、頑張って倒したの!」

「達、ねぇ」

「1人じゃねえんだな?」

「ぎやあああ!!」

「で、名前を隠そうとして表現に悩んで、なんとか他って言った感じだな」

「すんなり出てこない辺り、案外学校の友達とか?」

「いやあああ!!」

「ユウシくん、私でも言い当てられてるって分かるよ……」


 焦って焦って焦りすぎているユウシの情報は、もはや全てが筒抜けと言っても過言ではなかった。


「ユウシ、もう諦めなさいよ。誰と一緒にやってたのよ?私の知ってる人?」

「も、もう言わないもん!秘密にしてって言われてるもん!」

「あー、なるほどな?それを先に言えよ。それならそこまで深堀りしなかったのに」

「そうよ。ここまで聞いておいてなんだけど、聞いて悪かったわね」

「う、うん……」


 まだ誰かは知らないが、相手の方からそのように言われているのであれば、テイガはこれ以上聞くつもりはなかった。それはそもそもテイガには心当たりのある人物がいるからだが、果たして、その人物がいなければどうなるのか。追及が終わって安堵したユウシを、モモコが襲った。


「で、誰に秘密って言われてるのよ」

「えっと、って!!モモコぉ!」

「冗談よ冗談」

「ほんとにやめてよ!シガナに怒られちゃうから!」

「「シガナ、ね」」

「あっ……もうやだぁ……」


 ユウシは自ら名前を言ってしまったのだった。もう才能どうこうじゃなく、自分という人間全てがダメなのかもしれない。がっくりとうなだれたユウシがそんなことを思い始める中、フーシュがその名前について思い出したように尋ねる。


「えっ、シガナさんって、あの座学の成績1位の方ですか?」

「そうね」

「確かにユウシはシガナに気に入られてそうだったしな」

「そういえばそうだったわね」

「ねえユウシくん、シガナさんにどんなこと教えてもらったの?」


 勉強が好きなフーシュとしては、飛びぬけて頭がいいと噂されているシガナからユウシが何を教えてもらっていたのかが気になるところである。ぐったりしているユウシは質問されるも、フーシュが気になるような話の内容はあまり覚えていなかった。


「いろいろ教えてもらったけど、全部分かったわけじゃなくて、スッゴく難しい話もしてたよ。例えばえっと、あれ。ステータスで、魔適性が生まれたときに持ってるのと、あとから練習するのに分かれてるのとか」

「先天的魔法適性と後天的魔法適性の話?」

「そう、それ!」

「うわっ、一瞬で眠くなってきたわ」

「起こすのめんどいから寝るなよな~」


 難しい言葉に対するモモコの拒絶反応が彼女の眠気を刺激し、既に半分目を瞑っている。対照的に近くにそういった難しい話ができる友達がなかなかいないフーシュは、ユウシを羨ましく思っていた。


「魔物を討伐するときのコツとか、全部シガナが教えてくれたよ」

「そうなんですね。私も今後の参考にしたいんですが、何か役に立ちそうなことってありますか?」

「あー、難しい話始めるなら、俺ら先に行ってるからな」

「分かったー。でもうーん、僕がやったのは陽動で、他の大事なことはゆk」

「おいいまユウシなんつった!?」

「ふぇええ!?」


 また流れで名前を出してしまったユウシ。正確には出している途中ではあるが、ユウシは言い切ることができなかった。その名前を口にした途端、ユウシの目にはテイガが飛んできたと錯覚するほど、素早い移動でユウシの眼前に立っていた。ユウシの両肩を掴む力は強く、その目は大きく見開いて血走っている。夜に見たら子どもが泣き出しそうな顔で、テイガはユウシに詰め寄っていた。


「まさかユウシ、お前ユカさんと一緒に練習してたとか言わねえよな!?」

「え、えっと」

「嘘だろ、おいっ、どうやったんだよ!?」

「そ、それは」

「シガナか!?シガナが呼んだのか!?」

「な、なんで」

「おし、明日シガナを問い詰めよう。ははは、ようやく見つけたぞ、ユカさんへの手掛かりをー!!」

「ぐえっ」

「ゆ、ユウシくん、大丈夫……?」


 先ほどまでとは比べ物にならない速さでユウシの表情を読んだテイガの目には炎が燃えていた。シガナへの対抗心や手掛かりを無駄にはしないという決意、そしてユカへの情熱に溢れていた彼はユウシを離すと明後日の方向に駆け出した。解放されたユウシはフーシュに心配されつつ、地面に手をついて立ち上がる。


「大丈夫、だけど。……結局ほとんど全部喋っちゃったぁ」

「……あー、そう、ですね」

「次シガナに会ったらなんて言おう。それと、ユカさん、ごめんなさい……」


 遠い目をするユウシに、フーシュがかけられる言葉は何もなかった。フーシュがしてあげられることを挙げるとするのなら。


「すかー……すやー……」

「モモコちゃん、起きて、もう終わったよ」


 幸か不幸か、安らかに眠っていてテイガの暴走を知らないモモコを起こすことだけだった。

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