15
「……ふぁぁあ」
目を覚ましたユウシは寝ころんだまま外を見る。時刻は太陽はまだのぼっておらず、周囲がうっすら明るくなった頃。一か月前ならこのまま二度寝していたに違いないが、最近はわき目も降らずに図書室に向かっていた。しかし、今日この日は二度寝こそしないが、いつもとは違うことがある。ユウシは大きく伸びをしようとして、身体に痛みが走った。
「いてっ、いてっ?いててっ!」
痛みを避けようと大袈裟に身体を動かせば、他の場所で痛みが発生する。それを繰り返し、結果的にベットの上で気をつけの姿勢を取ってユウシは固まった。最初こそ痛みの正体が分からず戸惑ったが、冷静に考え、それが筋肉痛であることに気が付いた。
「昨日、僕頑張ったよね」
筋肉痛を避けるようゆっくりと動き、机の上に置かれた学生証を起動させる。そこに書かれた自身のレベルを確認すれば、最初は1だった数字が5にまで上がっている。そういえば昨日の後半は足が速くなった気がするなどと思い返せば、ユウシの目は冴え、どんどんやる気は高まった。
「いよーっし!今週も頑張るぞー!いたっ」
昨日シガナと別れた際、今週の平日は毎日練習に付き合うと言ってくれていた。これを断ると街の外に出られずに魔物討伐がそもそもできなくなるために、申し訳なさがありつつも、ユウシは頭を下げてお願いした。
この日はシガナに早朝に食堂へ来てほしいと言われていた。そのためユウシは筋肉痛の痛みと戦いつつも、制服に着替え、荷物をまとめて扉を開けた。
「よっ」
「あっ。……」
扉を開けると、そこにはテイガが立っていた。目はまだ眠そうで、髪の毛は寝癖が立っており、まだ寝間着のままであるが、廊下に出てユウシのことを待っていた。ユウシはテイガたちの親切な申し出を断ったこと、最近避けてしまっていたことから、まるで喧嘩をした後のように、うまく返事をすることができなかった。
「久しぶりだな」
「うん」
「珍しく早起きだな、って、最近はずっとか」
「うん」
「今日も図書室に行くのか?」
「……ううん」
「違うのか」
ユウシはシガナに会いに行くことを伝えようとしたが、昨日シガナには、自身と練習していること、またその練習内容を他言無用とすることを約束していた。その理由は2つで、1つは単にシガナが目立ちたくないことと、もう1つは戦闘手段を持たないユウシを魔物討伐に誘っていることが伝わると、生徒には同じく手伝ってもらうように頼まれ、先生には危険であると罰を受けるかもしれないことであった。特に後者については恩を仇で返す行為にしかならないため、ユウシはテイガに正直なことをいうことが出来ず、罪悪感を更に募らせることとなった。
しかし、今のテイガはユウシをそこまで心配してはいなかった。なぜなら、普段なら起きないこの時間に目を覚ましたのは、隣人の嬉しそうな声を聞いたから。ただそれはそれとして心配していた気持ちもあるわけで。
「そっか、まあ俺からは何も言わねぇよ、言ってもどうせ、手伝わせてもらえねぇしな」
「う」
「あーあ、モモコもフーシュも心配してたなぁ、特にフーシュは気持ちが分かるって泣きそうになっててよ」
「えっ!?いたっ」
「ん?大丈夫か?」
「う、うん。ただの筋肉痛」
「筋肉痛?魔法の練習で?」
「そ、そうだよ」
魔物討伐という事情を知らなければ不思議でしかないことにテイガは首を傾げ、ユウシは詳細を伏せつつどう説明するか、頭を悩ませる。しかしテイガはそれ以上尋ねることはしなかった。
「まあお前もいろいろ考えてることはあるんだろ。ただこれだけは言わせろよな」
テイガはユウシの肩に手を置く。
「俺はお前の親友だ。つまらない遠慮はいらねえし、お前のことはいつでも応援してるからな」
「っ!……うん。うん、ありがと」
不意にかけられた温かい言葉に、ユウシの目頭が熱くなる。これまで避けてしまっていた自分が恥ずかしくなり、親友と言ってくれたことに感謝の気持ちでいっぱいになった。
テイガもテイガで柄でもない言葉を言って恥ずかしくなったのか、ユウシの肩を強く叩いて、誤魔化すように振り返った。
「さーて、どっかの誰かさんの大きな声で起こされたから、今から二度寝でもするか!」
「あはは、ごめんね」
「ま、俺は魔法を使えてまだ余裕あるしな」
「一言余計じゃない?ねえ」
「はは、追いついてみろよな、んじゃ!」
テイガはそそくさと部屋に入り、最後に手だけ出してユウシに手を振ってから扉を閉めた。ユウシは閉まった扉を少しの間見つめ、大きく頷くと食堂に駆け出した。
- - - - -
「ずいぶん暖かくなってきたなぁ」
食堂に向かうまでの道中、外気に触れたユウシはしみじみと呟く。春後月まで残り一週間となり、1か月と少しで夏を迎える今日この頃、太陽がまだ低い位置にあっても、あまり肌寒さを感じなくなってきていた。とはいえ早朝であることには変わりなく、少し強い風が吹けば鳥肌が立ち、ユウシは食堂のある建物に急いで逃げ込んだ。
「この時間でも食堂は開いてるんだ」
この日ユウシが食堂に入ったのは、提示されている時間のおよそ2時間前。そんな時間でも食堂の扉は開いており、中に入って食事を受け取れるようだった。いつもなら生徒で賑わっている食堂も、早朝はとても静かである。ユウシが閑散とした室内を見渡していると、前から生徒が近寄ってきていた。
「おはよう、昨日はよく眠れた?」
「あ、シガナ、おはよう」
聞けばシガナは毎日この時間帯に食事を取っているらしい。また座学ランクもAであることから出席する必要が無く、選択している魔法の講義も、実質自由練習であるために、昼食も夕食も早めに食事をとっているとのこと。生徒たちの目撃が少ないと話題になっていた主な理由はこれだったりする。
「朝早くだとテラス席を広々と使えて心地が良いよ。ユウシも余裕があれば、あ、でもユウシは一緒に食べる友達がいるんだっけ」
「あー……うん」
最近は一緒に食べていないけれど。ユウシはその言葉は口にせず、小さく頷くのみだった。シガナはそんなユウシの様子を見て目を細め、何か言おうとしたが、先にユウシが話題を変えるように質問した。
「それよりさ、なんで今日は早めに食堂に来てほしかったの?」
「ああ、言ってなかったね」
シガナは既に食事を食べ終えていたらしく、ユウシが食事をもらう横に並んで歩く。もっと早起きなのか、とユウシは驚いたが口にはしなかった。
「やってほしいことと提案があってね、まずはやってほしいことだけど、ユウシには今週分の休学届を出してほしいんだ」
「きゅ、休学?」
「といっても、座学は試験前で学習内容を振り返るだけだし、魔法の講義は、まああって無いようなものだから。その時間を全部、魔物討伐に当てたいでしょ?」
「そっか、確かに」
毎月第4週は翌月の試験に備えた復習が行われる。そのため授業の内容は第1週から第3週の範囲と同じであり、新しく習うことはほとんどないに等しい。そのため連絡なしに欠席をする生徒も少なからずいるのだが、シガナは正規の手順を伝えていた。ユウシは納得し、休学届の手順を聞いた後、もう1つの理由について尋ねた。
「それじゃあ提案の方は?休学届とは別なんだよね?」
「そう。まあ詳しくは本人にも一緒に説明するか」
「本人?」
料理を受け取り、二階に上がった2人はテラス席に向かう。そこでユウシはテラス席に既に1人、生徒がいることに気が付いた。またその生徒には見覚えがあり、まさか、いやでも1人しかいないし、と見たものを信じられずにいた。
シガナはそんなユウシの様子を気にすることなくテラス席の扉を開ける。そしてその生徒がこちらを振り向き、目を丸くした後、露骨に嫌そうな顔をした。
「というわけでお2人さん、こちらはユウシ、こちらはユカさんです」
「え、あ、よ、よろしくお願いします?」
「シガナさん?相手の方が男性とは聞いていませんでしたが。しかも……」
テラス席の生徒は異性を嫌悪しており、テイガが一目惚れした異国出身の女子生徒、ユカ。彼女は図書室での一軒を覚えており、ユウシの姿も記憶していたため、その姿を見るとすぐに周囲を警戒する。
「そこの人」
「……え、僕?」
「もう1人、前に一緒にいた男性はいませんよね?」
「テイガのこと?なら、えっと、いないです」
「……ほっ」
ユカは安堵の息をついたが、すぐに顔をしかめると、ユウシに厳しい視線を向けた。
「それでシガナさん、詳しい説明を聞いてもいいですか?」
「ぼ、僕も、聞きたいな」
「だよね、それじゃあまずは何をするかから話そうかな」
ユウシはまだ話についていけていないところもあったが、ひとまず料理を席に置く、置こうとする。
「すみません、離れてもらってもいいですか?」
「あ、はい、すみません」
ユウシは反射的に謝り、ユカから一番離れた席に腰を下ろした。その様子を見て、指示したユカは逆にポカンとしている。
「さて、じゃあユウシは食べながらでいいから聞いててね」
「うん」
「まず初めに2人とも知っててほしいんだけど、ユウシもユカさんも、どちらも魔物討伐は経験済みだから、そのことについては秘密にしないでいいよ」
「「えっ」」
2人揃って驚いた声。顔を見合わせ、ユカが睨み、ユウシが目を逸らす。逸らしはしたが、シガナの言い方から判断して、ユカの討伐はシガナと共に行っており、ユウシは男性嫌いのユカとシガナが一緒に行動したのか気になっていた。だが質問する間もなく、話は先に進んでいた。
「その上で今日からやりたいことなんだけど、二人には北門から歩いて1時間ぐらいのところにある森、≪常緑の森≫で、ギガスライムの討伐をしてもらおうと思うよ」
「ギガスライム?」
「シガナさん、それは危険では?」
ユウシは頭の中でその魔物を思い浮かべる。今まで見てきたスライムは4種類。スライムは手のひらより少し大きい程度、ミドル、ポイズン、アブゾーブスライムは地面から一般成人男性の腰上程度であったが、ギガスライムはどれほどなのだろう。ただ座学ランクCのユカは講義で詳しく習っていたのか、シガナに疑問を投げかける。
「ギガスライムは討伐ランクE。初級冒険者がパーティーを組んで安定して倒せる魔物です。それをあなたはともかく、実力も知らないこの方と一緒に行くのはかなり不安が残ります。それに私の属性は火属性。森では使えないのでは?」
「さすが座学Cランク、大方懸念点は言ってくれたね」
「Aのあなたに褒められてもなんとも思いませんが」
本当になんとも思っていなさそうなユカを見て、ユウシはこれが座学ランクの差なのか、と身に染みていたりする。そんなユウシでも討伐ランクについては知っており、ギガスライムの強さをなんとなく把握して息をのんでいた。
討伐ランクとは魔物の討伐の困難さを示す指標であり、下は人畜無害のH、上は測定不能級のOVERまで、10段階で分類されている。そのうち命に危険を及ぼす魔物のランクはCより上であり、Eランクはそこまでの危険性は無いとされてはいるが、このランクは簡単には倒せない魔物や戦闘で怪我をする可能性が高い魔物が多く該当しており、ユカの警戒は学生として模範解答ともいえる。
そんな提案を座学Aランクのシガナがする理由。ユカにはそれが分からなかったが、当然シガナは今からそれを説明するところであった。
「まずはユカさんが魔物討伐する事情について話そうかな。ユウシにも分かるように振り返るけど、ユカさんは魔法志望で、高い魔力量と適性は持っていたけど、最初は加減が上手くできず、失敗を恐れてうまく練習が出来なかった。それに異性の視線を気にして集中できなかったから、学校の外で練習がしたかった。それなら魔物討伐で小さいスライムに魔法を当てることでまとめて問題を解決しよう、といった流れだったね」
「はい、その節はありがとうございました」
「そっかぁ、いいなぁ……」
「?」
同じく魔物討伐を経験したユウシのその言葉にユカは首をかしげるも、ユウシが魔法に憧れつつ武技を選択したのだと考えた。
「それでユカさんがギガスライムを討伐する意味は、まあ正直無いね」
「え?」
「あえて意味をつけるとしたら、より強力な魔法、もしくは高精度な魔法を使う必要が出てくる上に、森に被害を及ぼさないように今まで以上の集中が必要不可欠になる、といったところかな。あとはレベルアップによるステータスの向上とか?」
「なるほど……魅力的ではありますが、今すぐにそれをやる必要は感じないですね。幸い初級魔法なら殆ど失敗が無くなって学校でもできそうですし」
「まあ答えはユウシの事情を聴いてからでお願いするよ」
「その方の事情、ですか」
話を振られ、ユカの視線を受けたユウシは身を縮こまらせる。話を聞いたところ、ユカの悩みはユウシとは世界の異なる話であり、ユカの後に説明されることが辛いとまで言えた。
「ユウシの事情だけどね、ユウシはまだ、魔法が使えないんだ」
「魔法が使えない?ええと、その方は武技志望ではないんですか?」
「いや、魔法だよ。ユウシ、杖持ってたよね?」
「え、う、うん」
ユウシは笑われるのではないかと怯えながらも、渋々杖を取り、2人に見せる。すると2人揃って興味深そうに杖を眺め始めた。
「へぇ、貰った杖は無属性の杖なんだ」
「無属性の魔導石の杖なら、無属性の適性、または適性がない。ただ杖を貰えている以上適性は一定以上あるはずで、その方は珍しい無属性の適性を持っている、のですね」
「いやユカさん、ユウシの適性は音属性。他属新規属性だよ」
「!、ということは、この方が近年でたった一人の新規属性の適性者なんですね。ではなぜ魔導石は無属性の、もしかして二属性適性者で、片方はありふれた属性であったために珍しい他属性の魔法を使いたかったけれど」
「ユウシは単属性適性だよ」
「そう、なんですね、じゃあ……」
「えっと」
目を輝かせて杖から目を離さないユカはそんな様子に杖をしまうにしまえず、食事ができないユウシ。シガナに視線を向けると困ったような笑みでユカを見た。
「傍から見るとユカさんは異性に怖い女子生徒なんだけど、話してみるとそんなことはなくて、ただ魔法が好きで邪魔されたくないって感じなのかなって思うよ」
「魔法が好きで……魔法が好き?あっ、その、すみません」
シガナの言葉で我を取り戻したのか、ユカは恥ずかしそうに頭を下げ、沈黙した。ただちらちらと視線は杖に向いており、まだ何かしらを考えているであろうことはうかがえた。ユウシは杖をしまわず、机の空いているところに置いておくことにした。
「話を戻すよ。ユウシは適性こそ新規属性で珍しいけど、素のステータスが低くて魔法を扱えるようになるにはとても長い時間が必要になる。だからまずは魔物討伐を行うことでステータスを向上して、問題を解決しようとしてるんだ」
「なるほど……その、魔法が使えない大変さは、完璧には分かりませんが、ある程度は察せます。私からは軽い言葉しか言えませんが、頑張ってください」
「うん、ありがとうございます」
根は優しい性格なのか、魔法が使えないユウシに同情したユカは励ましの言葉を送り、ユウシも素直にお礼を返す。2人の関係性が多少前進したところで、シガナは頷いて本題に入った。
「それでね、ユウシは昨日、一日かけてそれなりにスライムの討伐をしたんだけどね」
「うん、レベルも5になったよ!」
「全然足りないんだよね」
「えっ」
言いにくそうにしつつもはっきり述べたシガナ。ユカも提案の理由を薄々勘づいたのか、納得して考え始めている。ただ1人、ユウシはまだ話についていけず、純粋に足りないと言われて落ち込んでいた。
「ユウシ、レベルアップでステータスの向上が狙えるって言ったでしょ?」
「うん」
「正しく言えば、具体的なレベルは個人差があるとして、一般的にはレベルが20上がって、ようやく1つステータスが上に上がるんだよ」
「……え?」
「もちろんその間も少しずつ上がってはいるんだけど、かなり微量だからあまり変わらないというか、ね。」
「じゃ、じゃあ、毎日5ずつレベルを上げれば、今週にはレベル20に」
「あの、レベルは高くなればなるほど上がりにくくなるのは習ってますよね?」
「……」
ユウシは思い出した。確かにそのようなことを先生が言っていた気がする、と。実際ユウシはスライムを30匹程度倒してレベル5になったが、レベルが1から2になるのと、レベルが4から5になるのとでは、必要な経験値量が倍以上異なる。
また、これも一般的に言われることだが、レベルは5の倍数ごとに必要な経験値量が更に増える。すなわち、4から5と5から6のそれぞれに必要な経験値量も、倍とは言わずとも、かなり増えるということだ。
「ちなみに昨日のペースでスライムだけを倒すなら、たぶんだけどレベル20は、まあ半年かなぁ」
「…………」
奇しくもそれはゼイドが提示した、学校の講義の方法にて魔法が習得可能な最速の期間とほぼ同じ。加えて、魔物討伐の方法は、レベル20は目的ではなく、あくまで通過点であり、むしろスタートですらある。
ユウシは裏切られたかのような表情の抜け落ちた真顔となり、ユカは励まそうにも何も言えなくなったが、シガナはなんてことないように話を続けた。
「ただ、これはスライムのみの討伐の話ね。最弱の魔物、スライムだと経験値が足りなすぎる。だから自分たちだけで倒すことができて経験値が美味しい、かつ生息場所が近いギガスライムの討伐をしようって話」
「……ギガスライムを倒すのだったら、レベルは大丈夫なの?」
「うん、自分の見立てだと、早ければ数日、遅くても2週間以内には20にまで届くかな~」
「!、そうなんだ……!」
まさか半年という長い時間がそこまで短縮されるとは思いもよらず、ユウシの目に希望が戻る。しかし大きなメリットには当然デメリットも付きまとう。
「でも話はさっきの討伐ランクに戻るんだけど、今までユウシが倒してきたスライムはHランクで10段階の最低評価。それがギガスライムに置き換わったら、まあ今のユウシが100人いても傷1つつけることはできないね」
「え、じゃ、じゃあどうやって」
「なるほど、理解しました。それで、その、……ユウシさん、だけでは倒すことができないから、私にも協力してほしいと」
「まあ、そういうことだね。どうかな、ユカさんに手伝いをお願いできるかな?」
ようやく話は最初に戻り、シガナは改めてユカに提案を受け入れてもらえるかを尋ねる。ユカは答える前に、残っていた懸念点を取り除こうと再び質問する。
「もう少し具体的に言うのであれば、私とユウシさんで疑似的にパーティーを組んで、討伐したギガスライムの経験値を分ける、ということですよね」
「そうだね」
「それは冒険者として好ましくないとされる、“寄生行為”に該当するのでは?」
「うん、否定はしないよ」
「寄生行為?」
シガナがユウシに分かりやすく説明する。寄生行為、それは弱い冒険者が強い冒険者と同じパーティーに入り、戦わずに経験値だけを貰うことでレベルを上げる行為。これが忌避されるのは、単にレベルを上げただけの冒険者は実力が伴わず、他の冒険者の足を引っ張りかねないためである。
シガナとしてもそれはユウシ本人のためにもならないことを理解しており、予想していたその疑問に頷いて答えた。
「だから例えユウシが20レベルになっても魔法が使えそうにないなら、それ以上はレベルを上げずに、また別の方法を試すことにするよ。ユウシもそれでいいよね?」
「うん、むしろありがとうだよ!」
「……次の質問ですが、先ほども聞きましたが、私の今の実力でギガスライムの討伐はできるのですか?」
「自分は十分できると思ってるよ。詳しい話をするなら、討伐ランクがEのギガスライムと言えども特別な属性を有さないスライムの成長体である以上、個体は基本属性や発展属性を有していて……」
「なるほど、つまり森林内部は草原以上に草属性のスライム種が多く生存していて、それらを狙うことで魔法による攻撃の効果を……」
「あの、2人とも?」
ユウシを置いてけぼりにして、聞き覚えの無い専門用語を交えて会話するシガナとユカ。ユウシは自分の入る隙がないことを悟り、静かに食事を食べ進めた。
「分かりました、ギガスライムの討伐についてはできることを前提として話をしようと思います」
「助かるよ」
「それでは、最後の質問ですね。ユウシさんは、魔法が好きなんですか?何が目的で魔法を練習しているんですか?」
「これはそうだね、本人に答えてもらうか」
「んぐ!?」
異性を近づかせないよう振る舞い、会話すら避けてきたユカ。そんな彼女が自身の力を貸してまで、ユウシと関わる必要は全くない。だがしかし、ユウシがシガナのように他の男性とは異なるというのであれば、その考えを多少は改めてもいいかもしれない。
そう思っての問いだったのだが、急に話を振られたユウシは驚いて喉に食事を詰まらせて呻いている。本当に大丈夫なのだろうか、とユカがジト目になるが、そんな考えはつゆ知らず、水を飲んで落ち着いたユウシは深呼吸をして想いを告げる。
幼い頃に勇者や英雄に憧れたこと、才能の無さを自覚したこと、そんな自分に適性診断で稀有な才能が見つかったこと、その才能を他人に自慢できるようになりたいこと。そして、優れた冒険者になって、人々の助けになりたいこと。
「今まではそんな風に思ってて、ずっと頑張って、頑張って、ずーっと頑張ってきたんだけど、今日、もう1つ増えたんだ」
ユウシは胸に手を当て、今朝受け取った応援の言葉を思い出す。
「僕を信じてくれた友達に、強くなった自分を見せて、その期待に応えたい。それで、信じてくれてありがとうって、胸を張って伝えたい。だから、僕は魔法を使えるようになりたい。魔法を使えるようになる」
思い出すだけで胸が暖かくなる。力がみなぎってくる、そんな気がする。今ならなんでもやれる、しかしそんな精神論だけでは魔法は使えなかった。だから今は頭を下げ、みっともなくても、頼りなくても、不甲斐なくても、手伝ってほしいと頼み込む。
「僕に、力を貸してください」
「…………」
訪れた沈黙の間、ユウシは頭を下げ続ける。ユカは口を開いて、閉じて、しばらく迷った様子を見せ、やがて決心してユウシを見た。
「分かりました、協力します」
「!、いいの?」
「はい、あなたを信じます」
「……やっっったあああ!!!」
「え」
「ありがとう!僕、ぜっっったいに頑張るから!頑張って頑張って頑張るから!いよーっし!まずはご飯を完食する!うおおお!!」
静まった空気が一転、いつもの楽し気なユウシに戻り、目を瞬かせるユカ。シガナはどちらのユウシも知っていたからか、温度差の違いに戸惑うユカを見て面白そうに笑っている。一通り笑った後、再び喉に食事を詰まらせて慌てるユウシとため息をつくユカを横目に空を見上げた。どこまでも青い空には雲1つなく、世界は光に満ち溢れていた。




