12
「あっ、もうお昼だ」
正午を告げる鐘が聞こえる。ユウシは人気のない図書室にて大きく伸びをする。目の前に開かれている本の題は『魔導教本【入門編】』。以前は人気で誰かしら借りていたために読むことは出来なかったが、今では少し待てばすぐに読むことができた。
「どうだろ、テイガ達、合格できたかな」
教本を閉じると、側にあった他の本と共に、元の棚にしまってゆく。時折どこから出したのかを思い出すのに苦戦しつつも全てを片付け、ユウシは図書室を後にした。
今日は春中月の1日。任意で試験を受けることができる日であり、テイガとモモコは魔法、フーシュは魔法に加えて座学の試験を受けていた。
「おぅ、お疲れさん」
「そっちこそ。試験、どんな感じだった?」
「まあまあ、それは中で座ってからにしましょ!」
食堂前にてユウシは3人と合流し、4人で空いている席を探す。通りすがりに生徒達の会話を聞けば、話題は専ら試験のことで、内容や出来についてを楽しそうに語らっていた。
テラス席を見てみれば、既に見知らぬ生徒達が談笑している。ユウシ達は初回以降、一度もテラス席を利用できていない。仕方なく二階で空いている席を見つけ、4人は腰を下ろした。
「まずはフーシュさんから聞こうぜ。座学の試験ってどんなだったんだ?」
「最初の学力診断のテストよりも問題はだいぶ少なかったよ。全部で100問。でも、おんなじぐらい難しかったな」
「それなら受けなくて正解だったわね、ふぅ、よかったよかった!」
「モモコちゃん……」
モモコに呆れた視線を向けるフーシュだが、生徒全体ではモモコ寄りの考えが多数派である。Eランクの生徒が必死に復習をすればDランクに上がれるぐらいには講義は既に為されているのだが、試験を受けた生徒は全体の1割より少し多い程度であった。
そんなことを知る由もないモモコは隣からの圧を気にして話を進めようと、ポケットからあるものを取り出した。
「それでねユウシ、魔法の試験は受けたらすぐに結果が出たのよ!ほら!」
「そうなの?……あ!Dランクになってる!」
モモコが学生証を起動させれば、表示される3つのランクのうち、魔法がEからランクアップしていた。テイガとモモコを見れば、2人の出した学生証のランクも上がっている。
「俺が受けたのはモモコの後だったんだけどな?モモコの力を込める声が聞こえてて、試験中に思い出して集中が途切れて大変だったぜ」
「なによ、こっちは真面目にやってたのよ!?」
「モモコちゃん、他の人もみんな笑ってたよ」
「そ、そんなこと言われたら今後気になっちゃうでしょ!」
「あはは」
ようやく羞恥心を覚えたモモコは今後、まずは静かにできるようになろうと決心した。そして3人に笑われて少し不機嫌なモモコは再び話題を逸らそうと試みる。
「そうだ!フーシュ、アンタはステータスどうだったのよ?私の見せて上げるから、教えてよ!」
「いいけど、全然自慢できるほどじゃないよ」
フーシュはそう前置きしてから、ユウシ達に見えるよう、モモコの学生証と並べて机の真ん中に学生証を置いて見せた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー
モモコ ステータス詳細
魔力: D
体力: D
攻撃力: C
防御力: D
敏捷: C
器用: E
魔適性: D(草)
幸運: D
ー・ー・ー・ー・ー・ー
ー・ー・ー・ー・ー・ー
フーシュ ステータス詳細
魔力: C
体力: E
攻撃力: F
防御力: E
敏捷: F
器用: C
魔適性: C(癒)
幸運: D
ー・ー・ー・ー・ー・ー
「おー、同じ女子でも結構変わるもんだな」
「モモコはフーシュさんより、テイガの方がステータス似てるね」
「あ、なるほどな?」
「なによ」
「いや?」
テイガは何も言わなかった。別にモモコは男っぽいもんな、などと思ってはいなかった。
「フーシュは器用さとか魔法とかが良いわね!」
「でも運動は苦手で、ステータスも低いのばっかりだから喜べないし、魔法も攻撃魔法は使えないから……」
「これからの講義で何かいい方法が見つかったらいいね!」
「はい、ありがとうございます!」
「ここまで見たらユウシのも見たかったのに、ホンット残念ね!」
「う、うーん、そーだね、あはは……」
2人のステータスを見比べ終えた後、モモコはユウシのステータスについて言及する。しかしユウシの学生証は、まだ先生の元から返却されていなかった。
一度尋ねてはみたのだが、ゼイドが言うには、新規属性の魔力が魔導具に対応していないかもしれないとのことらしい。それで魔導具の製作者に詳細を尋ねており、数日中には戻ってくるとのことだった。
そんな理由を聞いて、分かったのか分かってないのか、残念がっていたモモコ。テイガとフーシュも同意しており、ユウシも同じ思いではあったが、同時に安心してもいた。
学生証がないということは、自身のステータスが見られないということ。周囲を見れば、同じように学生証を見せ合っている生徒達が見受けられ、その輪の中に自分が入れないのは少し寂しいが、他人にステータスを見られずに済むのなら、むしろ学生証が無い現状は良かったのかもしれない。……チクリ。
ユウシは首を振って雑念を払うとテーブルに手を突いて立ち上がった。
「さて、ご飯も食べ終わったことだし!そろそろ出ようよ!」
「あら、早かったわね」
「っつってもお前が最後だけどな」
「ねぇ、午後はみんなどうするの?」
「はい、はい!私は街で観光したいわ!」
先日の雨と草むしりのせいで外出できなかったことをずっと残念がっていたモモコは、他の案が出る前にと強く主張する。
特にすることのないテイガとモモコは賛成しようとしたが、先に口を開いたのはユウシだった。
「ごめん、僕は勉強しなきゃ。だから3人で楽しんできてよ」
「そりゃいいけどよ、ちょっと頑張りすぎなんじゃねぇか?」
「そうよ、今日の午前も、昨日も一昨日も、ずーっと図書室に行ってるじゃない」
1人、足並みを揃えられていないユウシは遅れを取り戻そうと必死になっていた。とりわけフーシュの話を聞いた直後であったため、熱意はかなり高い状態にある。
ただし結果に繋がっているかと問われれば、この後も図書室に行こうとする行動から答えは分かる通りである。テイガはユウシの僅かな調子の変化にも気付いていた。
「お前、ちゃんと集中して出来てるのか?何回も同じとこ行ったり来たりしてないか?」
「うぅ、そんなこと、な、くはないわけでもなければ」
「図星ってことね」
ユウシは誤魔化せなかった。言葉どころか、そもそも表情に出ている。テイガとモモコはため息をついた。
「これまでのんびりやってきたのに、急に切り替えてずっと勉強なんてこと、お前にはできねぇよ」
「そうよ、今日ぐらい遊んだって誰も怒らないわよ。ユウシも観光に行きましょ?」
「私は勉強するのが好きだったからできたけど、頑張りすぎても体によくないよ」
「……ごめん、そうだよね」
思っていたよりもいろいろバレていたことにユウシは驚き、また、心配をかけていたことに申し訳なくなったユウシは頬を手で叩くとにっこりと微笑んだ。
「よーし!それじゃあ今日はテイガのお金で買い物するぞー!」
「おー!」
「おー、じゃねぇよ!ふざけんな!」
そんな冗談で笑い合いながら、4人は食堂を後にし、久し振りに学校の校門へと向かうのだった。
- - - - -
「それで、何でこうなったんだろう……」
既に日は建物の陰に隠れ、空も橙色に変わり始めているアトイミレユの街。大通りは依頼から帰ってきた冒険者や、夕飯の買い物をしようとする民衆で賑わっていた。
タユニケロでは想像出来ないような活気あふれる通りの真ん中、ではなく端っこの方で、ユウシは1人、膝を抱えて黄昏ていた。
時は数時間前に遡る。4人は街に出る準備をするため、各自部屋に必要な荷物を取りに行くことになった。フーシュとモモコはそのまま戻ったが、テイガはユウシと部屋が隣ということもあり、ユウシを気遣い、荷物をまとめて持ってくると言い、ユウシの部屋の鍵を預かって1人で部屋に向かった。
そうなれば当然、ユウシは一番先に校門にたどり着く。着いて数秒は3人を待とうと学校の敷地内にいたのだが、外から聞こえる人々の声に惹かれ、門から先に歩みでてしまった。
そこにはタユニケロとは全く異なる街並みが広がっていた。
平らに均され、石レンガで舗装された道。規則正しく建ち並ぶ住宅や店。お洒落な服を着こなす住人と、鎧や魔物の素材で出来た防具を装備する冒険者。
タユニケロから来る際に一度見ているとはいえ、そのときのユウシは疲れがたまっていたために景色を楽しむことは出来ていなかった。加えて、昼間の街にはまた違った魅力があふれていた。
「……ん、なんだろうこの良い匂い」
風に乗ってきた香ばしい肉の焼ける匂いを嗅ぎつけ、ユウシは周りを見渡す。すると通りの反対側の方に、いくつかの出店を見つけることができた。
「タユニケロにもこういうお店はあったけど、売ってる数とか使ってるお肉とか、全然違う!」
まだ昼ご飯を食べたばかりだったために口の中で涎を飲み込むだけに留めたユウシだが、いつか必ず買いにこようと決心していた。
「あっちは八百屋さん!こっちは、あっ、魚を売ってる!あれは!?すっごい、見たことないもの売ってる!」
タユニケロもアトイミレユも共に海や川に隣接してはいないが、なにしろアトイミレユは流通の中継地点となる大都市。初めて見るもので溢れている街で、ユウシはタユニケロにはないものを見つけては、駆け寄って目を輝かせていた。
「はー、ね、やっぱり都会はすごいね、テイガ!……あっ」
親友に同意を求めようとして、初めてユウシは気付いた。今自分がどこにいるかも分からない、すなわち迷子になっていたことに。
そうしてなんとかラルドに帰ろうとするも、途中で目新しいものに引き寄せられてしまい、真っ直ぐ歩くことが出来ない。ましてやユウシは方向音痴であった。数時間後、日が暮れ始めても、まだユウシは学校に戻ることが出来なかった。
「……このまま続けてても、ラルドに帰ることはできない。いくら僕が人見知りで人と話すのが苦手だったとしても、どうにかして誰かに道を聞かないと……。……よし!」
時間がかかれば校門は閉まり、ラルドに入ることは出来なくなってしまう。流石に危機感を覚えたユウシは道行く人に話しかける決意をした。その意志が弱まらないうちに、気合いを込めて勢い良く立ち上がる。
「うお!急に立ちあがんじゃねえよ!」
「すみません申し訳ないですごめんなさい許して下さいーーー!!」
しかし目の前を歩いていた冒険者を驚かせてしまい、飛んできた大声に、ユウシはすぐさま謝ると再びしゃがみこんで頭を埋めてしまった。
あくまで驚いただけであり、特に怒ってもいなかった冒険者。まさかここまで怖がらせるとは思いもせず、ユウシの過剰な反応に逆に申し訳なさを感じ、優しく声をかける。
「おーい、大丈夫かー?……まあいーか」
だが自身は別に何も悪いことはしていないと思い返し、冒険者は変なものを見た、と時折振り返りながらもその場を後にした。
ユウシはその後、今度は近くに人がいなくなったことを確認してからゆっくり立ち上がる。そしてただそれだけのことで安心してほっと息を吐いた。
「……はっ、しまった!せっかく話しかけてくれたんだから、そのままあの人に道を聞けば良かった!?」
すっかり本題が頭から抜け落ちていたユウシはやってしまったと、がっくり肩を落とした。そのとき、耳に聞こえていた、だんだん大きくなる駆け足の音がピタッと鳴り止む。
「あれ?君、もしかして」
「え?」
ユウシが顔をあげるとそこには白い外套を羽織った小柄な人物立っていた。顔はやはりフードに隠されていてよく見えなかったが、しかしユウシの記憶には、その姿が鮮明に残っていた。
「あ、あなたは僕を助けてくれた……」
「やっぱり、竜に食べられそうになってた人!すごい偶然、てかどしたの?こんなところでしゃがんじゃって。お腹痛いとか?」
「あの、実は僕、ラルドから来たんですけど」
「知ってるよ?君、そこの制服着てるし、だいたいの話はあのとき御者に聞いてたから」
それで?と、続きを求めて外套の人はユウシを急かす。緊張しつつ言葉を選び、ふと相手を見ると、フードの隙間からチラリと顔が見えた。
その顔はそこまで年の離れていない少女のようで、竜を軽々と持ち上げていた光景が嘘のようだとユウシは目を瞬かせてた。しかし相手が首を傾げたことで優先しなくてはいけないことを思い出し、目の前の少女に慌てて尋ねる。
「それで、街を見ようと思って、ラルドから出てきたんですけど、その、迷子になっちゃって……ラルドってどこですか?」
「そこ」
「……え?」
彼女が指した方を見ると、そこにはラルドの大きな校門が見える。距離にして約百メートルしか空いておらず、ユウシはあんぐりと口を開いた。
「下しか向いてなかったから、全然気づかなかった……」
「あっははー、もしかして君、疲れてる?」
ユウシは自身が数時間の無駄な時間を過ごしたこと、そして戻ったときのテイガ達の説教を想像し、がっくりとうなだれた。少女は冗談のような話に本気で落ち込んでいるユウシを面白がり、彼に少し興味が湧いていた。
「君って新入生でしょ?適性診断終わった?」
「え、あ、はい」
「あれ、なかなか綺麗だったよね~。ま、あたしの属性はふっつーな水だったけど。君は?苦労してるってことはもしかして他属性?」
「そ、そうです」
「まじ?これまたびっくり。ちなどんな?」
「音、です。あ、音に関する属性です」
「音?聞いたことないかも、ってことは新規の方か。へぇ~、音って属性になりうるんだ~、知らなかったよ」
優秀な彼女でさえ初めて聞くような属性を自分が使えるということに、ユウシは改めて喜びを覚える。しかし、今は同じぐらいの不安と悲しみが押し寄せてくる。そんなユウシの表情の変化に彼女も気付いたようだ。
「どしたん、相談にのってあげよう。今日は時間があるからね!」
「相談、というか、まぁ、はい。あの、僕、まだ杖を光らせることができないんです」
「できない?診断で属性聞いたんでしょ?」
「はい、でもうまくいかなくって。勉強しても、まだ分かる気がしなくて……どうするのが正解ですかね」
「んー、ぶっちゃけ知らない!」
「はぇ?」
「だって私天才だったし!杖貰ったその日にできた、的な?なんてね!」
1人楽しそうに笑う少女。それなら劣竜を倒したことにも頷ける、と素直に受け取りかけてユウシは首を横に振った。
天才。軽い響きで出されたその言葉が重く残る。やはりこれはもしかして、と考えたくもない結論が見え隠れするユウシだが、少女の話は終わっていなかった。
「でもしばらくずーっと魔法が使えなかった友達がいてさ。なのに諦めようとしなくて。そしたらびっくり、いつの間にかいろんな属性の魔法使えるようになっちゃったんだよねー」
「そ、そんなことが?」
「そそ。しかも私よりも強くなっちゃって、あ、水属性は負けないけどね!で、何が言いたいかって、君もまだまだだいじょーぶ!魔法は誰にでも開かれる!あ、これその友達の言葉ね」
「魔法は誰にでも開かれる……」
ユウシは自分の鞄、その中にしまわれていた杖を見る。黙って考え込んだユウシを見て何か閃いたのか、少女は持っていた大きな袋を地面に置き、なにやらガソゴソとあさり始めた。
「あっ、これこれ!はいどーぞ!」
「?」
どうぞと言われて手を出せば、載せられたのは灰色がかった白い宝石のような石。とても透き通っており、石の向こうの少女の手がはっきりと見えるほどだった。
「コレクションにしようと思ってたんだけど、これあげるよ!もしかしたら役立つだろうし、そうじゃなくても御守り代わりにでもしてね!」
「……ええっ!?こ、こんな高そうなもの、貰えないですよ!?」
「良いって良いって。相談してくれたのに、友達の言葉だけで終わらすのはあたしが嫌っていうか?ほら受け取って!」
少女は宝石から手を離す。それは思ったよりも重量があり、ユウシは落とさないよう慌てて両手で抱えた。
「お、お礼はどう返せば……」
「え~?君もなかなか頑固だなぁ。あ、それじゃあその堅っ苦しい言葉遣い直してよ。その方が楽しいし。あと、いつか魔法見せて!その属性の魔法がどんななのか気になるから!」
「で、でも僕は」
「あー、それなら自己紹介して友達になった方が良いね!あたしはレミ、ゴホンゴホンっ、あー、そう!スリミレ!スリミレだよ!君は?」
「えっ!?あ、僕、ユ、ユウシで」
「オッケーユユウシ!ちゃーんと覚えたよ!」
「あ、違いま」
「言葉遣い!」
「は、うん!」
勢いに呑まれるまま間違った自己紹介をしたユウシは名前を訂正することも出来ず、しかしスリミレと名乗った彼女は満足したようで、大きな袋を抱えなおした。
「どう?ユユウシ、元気出た?」
「えっ、あっ……は、うん!」
「あははっ、そりゃよかったっ!」
彼女の行動は、一人落ち込んでいた自分を励ますためにやってくれたことだったのだと気付き、頭を下げた。頷くスリミレは笑うとラルドを指差した。
「それじゃあ急げ!門が閉まりかけてる!」
「嘘!?」
彼女の言葉にバッと振り向き門を確認するも、門は微動だにしていない。
「閉まってないじゃん!って、あれ?」
スリミレの姿はそこには無かった。すぐに辺りを見渡すと、彼女は少し離れた場所にいる。騙されたユウシを見てもう一度笑い、最後に大きな声で言った。
「ユユウシならきっとできるよ!頑張れっ!」
「ーっ!ありがとう!」
手を振って応えたスリミレは大通りから裏路地へと姿を消した。ユウシはもう一度頭を下げると、ラルドにゆっくりと歩き出す。
「僕ならきっとできる。魔法は誰にでも開かれる、か」
劣竜を容易く倒すような魔法使いと、その実力に匹敵するらしい友達の言葉。それらは弱まっていたユウシの灯火を激しく燃え上がらせる。自然と笑みがこぼれたユウシは、いつの間にか走り出していた。
「よーし!僕もあんな風になれるように、とにかく頑張るぞー!おー!」
気合いを込めたユウシは手を掲げると、本当に門が閉じられる前にラルドへ向かって走り出した。
後少しと言うところで、話し合いをしている3人の生徒の姿が目に入る。ユウシはそれが誰だか分かると、スピードを上げて叫んだ。
「テイガ!モモコ!フーシュさーん!」
3人が振り返ると同時、ユウシは手前でジャンプし、テイガの目の前で着地した。そして先ほどの出来事を伝えようと、身振り手振りを動かして、直後頭に大きな衝撃を受けてうずくまる。
「いだっ!?」
「随分と楽しそうだな馬鹿野郎。で?こっちがお前を心配して校内を探し回ってたってときに、いったい何をしてたって?」
「……ごめんなさい」
目をつり上げるテイガとモモコに挟まれ、ユウシは門の前で正座をして反省し、通りの人々から奇妙な目で見られるのだった。
- - - - -
「ユユウシって子、面白かったし、将来が気になるなー」
月明かりに照らされた建物の影が道の大部分を覆い隠す街の路地裏。辺りに人気は無く、野良猫の鳴き声だけが空間を響いている。
そんな所を白い外套の少女、スリミレは1人、鼻歌を歌いながら歩いていた。しばらく歩いて止まったのは寂れた一軒の宿の前。
「ちやーす、おやっさん、やってるー?」
「やっとらんぞ、喧しいのは帰れぃ」
「おや、今日は遅かったね」
今にも壊れそうな扉を勢い良く開け、スリミレは酒場に入るかのように亭主に確認をとる。年老いている割に元気な亭主はスリミレを好ましく思っておらず、追い払う気満々でいる。だがちょうど階段を降りてきた女性が彼女をもてなした。
スリミレが手を振って答えつつ、ドアを閉めるとバキッと何かの破損音。振り返れば、とうとう耐えきれなくなったドアが倒れていた。スリミレはポカンとした後、ケラケラと笑い出した。
「おやっさーん、ほら買い換えだよ!せっかくだからあたしが払ったげるー!ピッカピカで可愛いの!」
「当たり前じゃ、小娘。それと変な見た目にしようとするでないわ」
「えー、でもボロっちぃじゃん、中は綺麗なのに」
「お主みたいな小娘除けには最適じゃろうて」
「ねぇユっぴぃ、なんでこんな変なとこで暮らしてんの?」
「はいはいレミリス、これ以上迷惑かけないの」
ユっぴぃと呼ばれた女性は子どもを叱りつけるようにスリミレの前に立った。スリミレは呼ばれた名前に対し、両手で大きなバツ印を作った。
「ぶっぶー!今はスリミレでーっす!」
「偽名の話?逆さにしただけじゃん……で?どんな心境の変化?もちろん良いことではあるけど」
偽名の意味を知っているのかと聞きたくなるほど安直な名前を聞いて顔をしかめるも、細かいことを気にしないスリミレ、もといレミリスが気を遣う場面があったのかと意外に思い、その意図を尋ねた。レミリスは自慢げに胸を張る。
「聞きたい?聞きたい?実はあたしと気が合いそうな友達ができたんだ~♪その子、ラルドの新入生で他属性持ち!それで~……って、あれ?そんな驚いた顔して、どしたの?」
「いやほら、あの子も今年、新入生だったでしょう?」
「あー!忘れてた!」
「お主ら、せめて部屋で話せ。他の客の迷惑じゃろ」
「えー、そんな物好きいないじゃん」
「こらっ」
生意気なレミリスの物言いに亭主の額に青筋が浮かぶ。女性は自身にも被害が及ぶ前に、レミリスを連れて階段を上り始めた。途中、レミリスが買い忘れにでも気付いたかのような調子で女性に告げた。
「あ、魔導石加工して貰ったあの魔核、その子にあげちゃったから、よろ~」
「えっ?それは、あなたのだから構わないといえば構わないけど……大事なコレクションだったのでしょう?良かったの?」
「うん!なんかビビっときたし!」
「早ぅ部屋に入れぃ!」
踊場から会話がダダ漏れなことに耐えかねたのか、亭主が怒鳴りつけ、2人は大人しく移動するのだった。数分後、泊まりに来たわけではないレミリスが帰るとき、また一悶着を起こすことになるが。




