刻む声 ――四七番目のリズ(3)
今回の話は読みにくい仕様となっておりますが、語り手の年齢等の諸事情によりこうなっております。なにとぞご了承ください。
なお、作中において人間の尊厳を著しく貶める言動や倫理に悖る行為等が出てきますが、これは創作上のものであり現実においてこれらの行為を肯定・推奨するものではありません。あしからず。
いち。
に。
さん。
「リズ、笑いなさい」
「はい」
よん。
ご。
ろく。
「駄目ねぇ。リズは本当に見た目だけなんだから。笑顔じゃないお人形さんなんて、可愛くもなんともないわ。ねぇ、そう思わなくて? ユレク」
「はい。そうですね」
「ふふっ、でしょう? お人形さんは可愛く微笑んでいるからいいのよ。悲しい顔のお人形さんなんて、見たくないわ」
なな。
はち。
きゅう。
「リズを部屋に入れてきて、ユレク」
「……はい」
じゅう。
『へや』のなかには、いつも、たくさんの、こえ。
いつも、それをききながら、『かず』をかぞえる。
でも、『じゅう』のつぎって、なんだっけ。よくわからない。
リズの『ばんごう』は、『ごじゅう』までいったら、『ぜろ』に、もどる。
でも、リズは、もどらない。
『ばんごう』は、もどるけど、いまのリズは、もどらないんだって。
ユレクが、いってた。
『しぬ』ってことは、そういうこと、なんだって。
リズには、よくわからない。
でも、ユレクがそういってたから、ほんとうのことなんだとおもう。
「ねぇ、ユレク。四七番目のリズが壊れたら、次は何で遊ぼうかしら。四八番目のリズはもう壊れてしまったの。新しいリズはまだないから、次はイリドにしましょうか。イリドはまだたくさんあったでしょう?」
「……あなたのお好きなように」
ユレクのいうことは、いつも、むずかしい。
リズも、『よみかき』と『さんじゅつ』をがんばったら、ユレクみたいになれるのかな。
ユレクみたいに、なれたらいいな。
* * * * * * * * * *
「見ろ、ゴミ」
ユレクが、『ほん』をみせてくれた。
いつもよむ『ほん』よりも、『もじ』がおおきくてすくない『ほん』。
ぱらぱら、めくって、みる。
びっくりした。
すごく、きらきらしてる。
「ユレク。きらきら」
「ああ?」
「きらきら」
「意味わかんねぇよ、ボケ」
きらきらしてるよ、この『ほん』。
そういったのに、ユレクにへんなかおで、じーっとみられた。
なんでだろう。
だって、『もじ』のかわりに、たくさんきらきらがあるよ、この『ほん』。
「……ああ、彩色されてるってことか。分かりにくい奴だな。死ね」
ユレクにあたまを“ごんっ”ってされた。
ごろごろ、ころがる。
でも、かべに“べしゃっ”ってなるまえに、とまった。
ごろごろするときにてをはなした『ほん』を、ユレクがもって、リズのほうに、きた。
ころがったまま、ユレクを、みあげる。
ゆらゆらゆれる、ユレクのかみ。
ユレクのかみも、きらきらだ。
リズのかみは、きらきらしてない。いいなぁ。
『よみかき』と『さんじゅつ』をがんばったら、リズもきらきらになれるかな。
「ゴミ、この絵本はお前にやる。何でこんなもんが混じってんのかわかんねぇけど、俺はこういうのは読まねぇから」
かおのうえに、『ほん』がふってきた。
はな、うった。リズのはな、へこんだかもしれない。
「『えほん』?」
「そうだ。これくらいならお前のすっからかんの頭でも一人で読めるだろ」
そういって、ユレクはくるっとせなかをむけて、でていく。
リズはユレクといっしょじゃないと、『おり』からでられない。でも、ユレクはひとりで、でていける。
リズは、ユレクがどこにいくのか、わからない。きいても、“がんっ”ってされるだけだから、きけない。
きらきらのかみが、ゆれている。
でていくユレクに、どうすればいいのかわからない。
『おり』のとびらが、しまるおと。
ユレクがいなくなる、おと。
『おり』のなかには、もう、リズだけしかいない。
ちょっとだけ、ぼんやりして、それから、よいしょとおきあがった。
ぺたぺた、かお、さわる。リズのはな、へこんでなかった。よかった。
はながへこんだら、ユレクに“ごんっ”ってされるかもしれない。
まえ、なんかいか、『へや』のなかで、はながへこんだことがある。
そのときも、あとでユレクに“ごんっ”ってされた。それで、あたま、“ぐりぐり”された。てのひらで、“ぐりぐり”。ユレクのかお、へんなかおになってた。
へんなのっておもって、みてたら、また“ごんっ”ってされた。いつもより、“ごんっ”っておおきなおとがしたから、びっくりした。それで、リズはねむっちゃって、めがさめたら、はなはもとにもどってた。でも、ユレクにまた“ごんっ”ってされた。
あんまりたくさん“ごんっ”ってされると、リズのあたまのなか、からっぽになっちゃうかも。
あたまって、あんまりつよく“ごんっ”ってすると、われて、なかみがでちゃうから。
リズのあたまのなかみは、たぶん、ちょっとしかないけど、それでも、でたらこまる。からっぽになったら、うごかなくなるから。それは、すごくこまる。
だから、ユレクにあんまり“ごんっ”ってされないようにしないと、だめ。
ゆかのうえにおちている、『えほん』をひろって、『ひょうし』をみる。きらきらの『もじ』。
ぱらぱら、めくる。『にんげん』の『さしえ』が、たくさん、たくさんある。それで、すごく、きらきらしてる。
あか。くろ。しろ。
ほかの、たくさんのきらきらは、よくわからない。あとで、ユレクにおしえてもらおう。
ユレクがよむ『ほん』にも、ときどき、『ちず』とか、『とうけい』とか、『さしえ』がある。でも、こんなにおおきく、たくさんはない。それに、きらきらしてない。
だから、きらきらの『えほん』は、なんだかへんなかんじ。
なんでだろう。
「おおかみ、と、おひめ、さま……」
『えほん』の『ひょうし』にかかれた『もじ』。
『おおかみ』って、なんだろう。
『おひめさま』は、しってる。まえに、ユレクがおしえてくれた。『えらいにんげんのおんな』なんだって。リズには、よくわからないけど。
ぱらぱら、ぱらぱら。
『もじ』じゃなくて、きらきらの『さしえ』をみる。
へんなの。
なんだか、おなかのなかが、ふわふわするみたい。
これ、なんなんだろう。ユレクにきいたら、おしえてくれるかな。
ぱらぱら、『えほん』をみていたら、ユレクのかみとおなじいろの、きらきらしたかみのけの『にんげん』が、『さしえ』にたくさんかかれていた。
ユレクのほうが、きらきらしてるけど。
そういえば、リズの《もちぬし》のめとユレクのかみは、おなじきらきらだ。でも、《もちぬし》のめは、ユレクのかみより、きらきらしてる。
リズは、《もちぬし》のめより、ユレクのかみのほうが、いいなぁっておもうけど。
このきらきらにも、『なまえ』があるのかな。リズは、あかと、しろと、くろしかわからない。
あとで、ユレクにきいてみよう。
きらきら、きらきら。
おなかのなかが、ふわふわする。へんだけど、いやじゃない。
ユレクに、たくさんおしえてもらいたいな。
はやく、もどってこないかな。
ユレクは、リズに、いつも「しね」っていうけど、《もちぬし》は「しね」っていわない。
リズは、しってる。ユレクがよませてくれる『ほん』に、『にんげん』は『しぬ』ってかいてあったから。
《もちぬし》は、リズに「しね」っていわない。「こわれた」っていう。
ユレクは、リズのことを「ごみ」とか「ばか」っていうけど、でも、『にんげん』にいうみたいに「しね」っていう。
だから、リズはユレクといっしょにいたい。
じょうずに、いえないけど、いっしょにいたい。
でも、これは、ユレクには、『ないしょ』。
《リズ》は《ユレク》のようになりたいと思っていた。
《持ち主》より《ユレク》の方が一緒にいたいと思う、その気持ちが何故なのかは知らなかったし、知りたいとも思わなかった。
多くの「どうしてだろう」と「わからない」を抱えたまま、《リズ》は生きていた。




