刻む声 ――四七番目のリズ(1)
今回の話は読みにくい仕様となっておりますが、語り手の年齢等の諸事情によりこうなっております。なにとぞご了承ください。
なお、作中において人間の尊厳を著しく貶める言動や倫理に悖る行為等が出てきますが、これは創作上のものであり現実においてこれらの行為を肯定・推奨するものではありません。あしからず。
「わらいなさい」
――……こえ
「わらいなさい」
こえ が きこえる
「わらいなさい」
こえ が いう ことば
「わらいなさい」
わらいなさい
「おまえはよんじゅうななばんめのりずです。さあ、わらいなさい」
よんじゅうなな ばん め の りず
「わらいなさい」
わらいなさい
「わらいなさい」
わらいなさい
わらいなさい
わらいなさい
でも わらう って よくわからない
どうしたら いいんだろう
わからない わからない
どうしよう
どうしよう
* * * * * * * * * * *
リズは、『よんじゅうなな』ばんめ。
いまのリズのまえに、『よんじゅうろく』のリズがいた。
でも、ほんとうは、『よんじゅうなな』より、もっと、たくさんのリズがいたみたい。
だから、ほんとうは、いまのリズは『よんじゅうなな』ばんめじゃない。
どうしてだろう。
リズの《もちぬし》に、「わからないことはユレクにききなさい」っていわれた。
だから、リズは、ユレクにきいた。
いまのリズは、ほんとうは、なんばんめのリズなの?
「ああ? 知るか。番号は五十までいったら零に戻るからな。お前が何十回目の零の後の四七番目かなんて誰にも分かるわけねぇだろ、クズ。大体、ゴミがいくつあったかなんていちいち数えるわけねぇだろうが。くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ。死ね」
ユレクに、あたまを“がんっ”ってされた。
かべに、ぶつかる。“べしゃっ”って、なった。
それで、ごろごろ、ころがる。
はなのあなから、あかいみずがでた。
おきようとしたら、ユレクに、おなかを“どんっ”ってされた。
へんなこえ、でた。
ぐぐぐって、おなかのなかにあったものが、のどのほうにあがってくる。
くち、を、ひらいていたから、そのままだした。ばしゃばしゃ、でた。
そしたら、ユレクにまた、あたまを“がんっ”ってされた。
かべに、ぶつかる。
また、“べしゃっ”ってなった。
「チッ、汚ねぇだろうが! 俺の足にまでかけやがって。蹴られたくらいで餌吐き出してんじゃねぇよ、ゴミのくせに!」
ユレクが、おおきいこえを、だす。
あたまのなか、びりびり、ひびく。
ぐわんぐわん、ゆれる。
ちかちか、へんなのが、あたまのなか、ひかる。
おきなくちゃ。
でも、てが、へんなふうになってる。
“ぐにゃぐにゃ”になってて、ゆかに、てをつけない。
おきれない。どうしよう。
ユレク。
あたまをうごかして、ユレクをみる。
ざりざり、ほっぺたが、ゆかにあたる。
ユレクの、あしがみえた。
リズの、くちのなかからでた、みずみたいなのが、ちょっとだけかかってた。
「気持ち悪ぃ目で見んな、クズ。助けてほしきゃ、声をあげて泣けよ! それで他の奴ら呼び込んで助けてもらえ! 俺に頼るな!!」
ユレクのあしに、また、あたまを“がんっ”ってされる。
ごろごろ、ころがった。
へんなこえ、でた。
がんがん、あたまに、へんなおとが、ひびく。
あし、と、て。すごく、あつい。
ユレクは、みえない。
さっきぶつかったかべが、めのまえにある。
リズのうしろに、ユレクがいる。
ユレクの、あるくおとがきこえる。
リズより、はやくあるく、ユレクのあるくおと。
でていく。
ユレクが、『おり』から、でていく。
おきなきゃ。
でも、てが、“ぐにゃっ”ってなる。
おきれない。
『おり』の、とびらがひらく、おと。
ユレクの、あるくおと。
とびらがしまる、おと。
ユレクのあるくおと、もう、リズには、きこえない。
どうしよう。
て、と、あし。すごく、あつい。
あたまのなか、がんがん、ひびく。ぐらぐら、してる。
どうしよう。
ユレク。
――こえをあげてなけ――
リズは、ユレクと《もちぬし》しか、しらない。
『ほかのやつ』って、どれだろう。
こえ、あげて、なく。
ユレクのいうことは、いつも、よくわからない。
「うう……」
なく。
って、どうやるんだっけ。
「うう……、ううう……」
こえ。
リズは、ユレクみたいに、おおきいこえがでない。
こえのだしかたが、よくわからない。
『こえをあげてなく』って、どうやるんだっけ。
「ううー……、ううー」
ユレク。
とびらのあるほうへ、からだをうごかそうとしたけど、でも、うごかない。
リズのからだは、いつも、かんたんにうごかなくなる。リズは、すごくよわい。
それが「おもしろい」って、リズの《もちぬし》はいう。でも、「あたまがわるすぎるからおもしろくない」とも、いう。
ユレクは、からだがつよい。いつも、うごく。それに、かしこい。
だから、《もちぬし》は、リズよりユレクのほうが『すき』。
『すき』ってなんなのか、リズは、よくわからないけど。
「ううぅ……、うう……」
リズのこえは、いつも、ちいさい。ちいさいって、ユレクにいわれる。
こえをあげて、なく。
しってる。
おおきいこえをだして、めから、みず、ぼろぼろこぼしたらいい。
でも、どうやるのか、よくわからない。
おきることも、できない。
どうしよう。
「うう、ううー……」
ユレクにいわれたとおりに、しようとしたけど、うまくできない。
「うー、うう……」
わらいなさい。
『もちぬし』がいつも、リズにいうことば。
こえをあげてなけ。
ユレクが、リズにいったことば。
どれも、うまくできない。
どうしよう。
どうしよう。
わからなくて、ぐるぐる、あたまのなか、ことばがまわる。
どうやったら、いいのかな。
わからない。どうしよう。
ぐるぐる、ぐるぐる、かんがえてた。
そしたら、だんだんねむくなってきて、いつのまにか、ねむっていた。
「…………おい、コラ」
ばしゃって、つめたいみずをかけられて、びっくりして、めがさめた。
リズのめのまえに、ユレクのあしがあった。
「……この、馬鹿。ゴミ。クズ。大ボケ。…………寝るなよ!!」
あたま、“ごんっ”ってされた。
それで、ちゃんと、めがさめた。
ユレクに、ぬのでごしごしされて、“ぐにゃっ”ってなったあしとか、てを、ながいぬのでぐるぐるまきにされて、へんなぼうで、かためられた。
「お前、いくら痛覚イカレてるからって怪我したままで寝るなよ。本当にグズでノロマだな。本気で目障りだ、とっとと死ね!」
へんなかおをしたユレクに、ほっぺた、“ぎゅーっ”ってのばされた。
ユレクのつめが、ほっぺたにくいこんで、あかいみずがでて、ぽたぽたおちた。
ユレクはリズに、いつも「しね」っていう。
《もちぬし》は、リズに「しね」っていわない。
だから、リズは《もちぬし》よりも、ユレクといっしょにいたい。
でも、それをいったら、ユレクにまた“がんっ”ってされそうだから、いつも、だまっている。
最初は、《リズ》という呼び名を与えられた。
何十回目かの零のあとに続く、四七番目の《リズ》だった。




