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異世界から来た少女(1)

※R-15ほどではありませんが、PG-12程度の遠まわしな性表現、並びにごく薄めの残酷描写が出てくる話です。また、幸せ一杯のお話でもありません。更に、長文です。苦手な方は、即回避してください。

 一話の文章がかなり長いので、携帯ではかなり見辛いと思います。できれば、PCでの閲覧を推奨します。

 


 人生の転機がいつ訪れるのかなんて、きっと誰にもわからないのだろう。

 

 その転機を転機だと気がつかないで、そのまま見過ごしてしまうのが、ほとんどの人々。

 転機を転機だときちんと気がついて、それを最大限に活かして大きな成功を収めるのが、ほんの一握りの人たち。

 そして――あからさますぎる転機にわけもわからないまま翻弄されてしまって、その結果、信じられない事態に陥ってしまう、ごく少数の例外的な人たち。

 

 わたしは、3つ目のケースの人間だった。

 それが不幸なのか、それとも幸福なのか、よくわからないけど。

  

 元の世界に帰る方法がない以上、わたしにはこの世界で生きていくしかない。 

 

 だから、わたしはどんなことがあっても、この世界で生きていく。

 それがどんなに辛くても、そうしなくちゃいけないから。

 

 わたしの大切な、あの人――彼がわたしに、最期にそう望んだから。

 

 彼がいなくなってしまった、この世界で生きることを。



***********************************



 その日、わたしは学校から家に帰る途中だった。

 

 3年間通った高校を卒業した、春。

 卒業式の帰り道だった。

 

 わたしは友達と別れて、家路を急いでいた。

 家に帰ったら、荷物を置いて、着替えをして。

 すぐにまた、仲の良い友達と遊びに行く予定だった。

 わたしは県内の大学に進学が決まっていたけど、ほとんどの友達は県外に出て行くし、中には就職する子もいたから。

 夕方から始まるクラスの食事会まで、皆で遊ぼうって約束していた。


 卒業式に来ていた両親は、わたしよりも先に家に着いているはずだった。

 だから、わたしは家の鍵は開いているだろうと思って、そのまま家の玄関の扉を開いた。

 

 扉の向こうの景色は、いつも通りだった。

 今日の朝もわたしが慌てて靴を履いた玄関。その向こうに広がる、キッチンとリビングに続く廊下、2階へ上がるための階段。

 リビングからはテレビのワイドショーの音声と、両親の笑い声が聞こえていた。

 

 だからわたしは、何も考えず、そのまま足を一歩、家の中へと踏み入れた。

 

 まさかその一歩が、永遠に自分の生まれ故郷と決別する最初の一歩になるだなんて、全く予想していなかったんだ。



 わたしが一歩、家の中へと足を踏み入れた瞬間に。


 わたしの周囲の景色は、一変した。



***********************************


 

 キラキラとした、不思議な光が満ち溢れた、真っ白な世界。

 

 わたしは突然一変した周囲の景色に、呆然としながら辺りを見回した。

 普通に家の中に入ったはずのわたしは、何故か見たこともない建物の中に、大勢の人に囲まれて立っていた。

 夢でも見ているのかと思ったわたしは、呆然としたままで、昔テレビで見たアニメの中にこういう建物が描かれていたな、とぼんやりと思った。

 『光の神殿』――そんな感じの建物の中だった。実際、そういう名前の建物だったんだけど。

 

「なんだ?!」

「人が現れたぞ?!」

「巫女姫様、お下がりください!!」


 わたしの目の前には、踝まである長さの緩く波打つ淡い金色の髪をした、真珠色の肌、金色の瞳の、見たこともない美少女が立っていた。

 彼女もまた、わたしと同じような呆然とした顔をして、ぽかんとわたしを見つめていた。


 ここはどこ?あなたは誰?これは夢?


 そんな疑問符だらけの状態だったわたしも、ぽかんとしたまま彼女を見返した。

 周りにいた大勢の人々――後に、それがこの神殿の神官さんや巫女さんたちだと知ったのだけれど、当時のわたしにはよく分からない、白い服を着た人たちだった――は、美少女に慌てたように声をかけていた。でも、彼らはわたしと美少女がいる場所には、決して近寄って来なかった。

 それも当然のことで、これも後で知ったのだけれど、わたしと美少女は、彼女のみが立つことの許されている祭壇の上に立っていたのだ。

 そして、彼女がその祭壇の上で光の神に祈りを捧げている最中に、わたしが突然現れたらしい。


「――何をしている! その者から離れろ、レスティアナ!!」


 唐突に響いた、鋭く迫力のある大声にびっくりして、わたしはその声のした方向を見た。

 わたしから見て、正面の右側。光の影がかかっていて、少し暗くなっている扉の近くに、その声の主が立っていた。

 

 背中まであるだろう、真っ直ぐな濃い金色の髪。白い肌に、鋭くわたしを射抜く翡翠の瞳。

 背の高い男性だった。彼は、おとぎ話に出てくる騎士のような格好をしていた。そしてそれが、とてもよく似合っていた。

 神々しいまでの美貌というのは、きっとこういう人のことを言うんだろうな、なんて混乱状態のわたしが思ってしまうほど、美しい顔をした男性だった。男の人を見て「綺麗だ」なんて思ったのは、彼が初めてだった。

 

 その男性を見て、わたしの目の前にいた美少女は、小さな声で「お兄様」と呟いた。

 わたしは彼と美少女を交互にぽかんと見たまま、これは夢なんだろうか、いやでもわたしさっきまで家にいたはずだし、ちゃんと起きてたよね、などと自問自答していた。 

 ここが何処で、彼らが何者で、わたしがこれからどうなるのか、なんて、その時のわたしには全くわからなかった。


「レスティアナ、早くこちらに来い! ――アディート、あの者を捕らえよ」

「はっ」


 綺麗な男性に呼ばれて、美少女はわたしの方を心配そうな顔で見た後、彼の方へと小走りに去っていった。

 金髪の男性は、怖い表情のまま、わたしをじっと見据えていた。

 そして――そして、わたしはあの人と出会った。


「こちらに来ていただこう」


 冷たい目をして、呆然としたままのわたしの腕を掴んで拘束した、あの人。

 わたしと同じ黒い髪をした、背の高い男性だった。彼に命令した、綺麗な顔の男性よりも更に背が高かった。

 少し日に焼けた肌をした、短い黒い髪に薄い青色の瞳。少し冷たそうな印象を与える、怜悧で整った顔立ちをした、格好いい男性だった。

 彼は有無を言わさずわたしを拘束して、そのまま神殿の外にある王城の地下牢にわたしを放り込んだ。


 ずいぶん後になってから、からかいまじりにこの話をしたら、彼はとても困った顔をして、何度もこのときの態度をわたしに謝った。

 彼の主の命令だったし、神聖な光の神殿の祭壇に突然現れた不審者に対する態度としては、まぁ、確かに間違ってはいなかったと思う。彼は騎士だから、主君の命令に従ったのも、わたしに最初とっても冷たかったのも、全部仕方のないことだったんだ。

 でも、わたしだって好きであんな場所にいたわけではないし、そもそも何がなんだか全然分からない状態だったものだから、わたしは彼のことが、最初は怖くて怖くて仕方がなかった。

 ご飯も飲み物も与えられず、冷たくて暗い地下牢で一晩過ごしたあの日のことは、今でも時々夢に見る。あの日のわたしは、早くこの悪夢から目が覚めますようにって、何度も祈りながら必死に眠ろうとしたんだ。

 結局あんまり眠れなくて、翌日あの人に起こされて、これが夢じゃなくて現実なんだってことを彼らから説明されて理解するまで、わたしはずっとこの日あった出来事を夢だと思い込んでいた。


 だって、思ってもみなかったんだ。

 まさか、ごく普通に自分の家の中に入ろうとして、いきなり違う世界に飛び込んでいたんだ、なんて。

 

 

 これが、わたしがこの世界――なんという名前の世界なのかは分からないけど、とにかくわたしが生まれ育った地球とは全く違う世界だ――にある、大きな大陸に存在する数ある国の中でも大国として有名な、レガイア王国の『光の神殿』に現れた日に起きたことだった。


 

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