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序章8 宿題教えて!



 白く墜ち行く景色。夢の中だと何となく分かる。

 

 

「……目覚めよ、いかる」


 声が聞こえた。懐かしい、でもお父さんの声じゃない。威厳のあるりりしい女性の声。

 

「……あなたは、たしか……」


 確か、ティダニア様。お父さんの契約精霊だね。

 

「目覚めなければならん。もう時間はない」

 

「時間が無い?どういう事?」


「我を見つけるのだ、いかる。そうしなければ……そうしなければ、2日以内に破局が訪れる」


 2日以内に?どういう事?

 

「見つけるって言ったって……」


「精霊には依代が必要だ。いかるも見ただろう、ザイナの神出鬼没さを」


「う、うん」


 だけど、依代……?

 

「我々はいわば生きた情報だ。ザイナもまた、自分の興味とする情報によって具現化したりしなかったりする。精霊を召喚し、契約を結ぶための依代は何も物理的な存在に限らぬ」


「……そんな事、言われても……何を依代にあなたを現世に呼び戻せばいいんですか」


「それを見つけるのも試練。……2年間、我が残留思念はお主の中でこの日を待っていた。お前が覚醒の手前まで来てやっと、伝えることが適った」


「ちょ、ちょっと待ってください、ティダニア様!」


「今のお前の矮小なマナの器で伝えられる情報はここまでだ。……無事に我を召喚出来たら、次はその時に会おう」


「そ、そんな、ティダニア様ッ!」


 声はかき消え、……静寂が夢の中を支配する。てゆーか地味にディスられたし!

 

 ……依代は、物理的な存在に限らない。どういう意味だろう。

 

 やがて意識は、微睡のなかへ消えていった。



―――――――――――――――――



 ジリリリリリリリリッ!!!



 けたたましい目覚まし時計のベルが、あたしの意識を微睡から現世に引き戻す。

 

 はあー、あたしにとって至福の時間を良くも中断してくれたな、えいッ!

 

 

― 刹那

 

 

 オッケー、あたしの殺人チョップを喰らったアナログ式の目覚まし時計は、昭和158年7月1日午前7時30分をその2本の針で示しつつ、クソ煩いベル音を停止させた。

 

「はぁー、今日から7月かぁ」


 着替えて髪型をセットしつつ、昨日あったあれやらこれやらを思い返せば、直ぐに思い出すのはきりんさんの事だ。

 

 命を救われての鮮烈な出会い。ホント素直にああいう大人になりたいって思う。

 

「素敵な人だったなぁ」


 ちょっとお金にがめつそうな面はあったけど。

 

「…………」


 なにか、なにーか大切なものを忘れてるような気がして、あたしは記憶の隅から隅までサーチしてみる。

 

 あームカつく、次に思い出したのはあのりりあの美人であることは認めるけどすっげー小生意気な顔。

 

 あたしも自分自身結構トンデモないと思うのは、目の前で人が死んだのにその事はフラッシュバックとかしない事だった。フツートラウマになったりするぜ。一種のサイコパスなのかな、あたし。


「……あ」


 そうだ、宿題ッ!!



―――――――――――――――――



 お母さんの作り置いていった朝食のパン(今日は早番の様だ)を咥え、あたしは大急ぎで家を出る。兎に角戸締りをしてっ!ダッシュ!!

 

「いかるーおはって、ちょっ」


「ほめん、ひまひそいでうから!」


 気付いた時にはみなちゃんを追い越し、あたしは学校に到着した。

 

 時刻は7時45分。すぐさま靴を履き替え、残ったパンを呑みこみ、、

 

「とーっ」


 到着。お、やっぱりいたいた。

 

「おはよう、いかる。どうしたんだそんな息を切らして。というか今日は休まなくて良かったのか、昨日あんなことがあったばかりだろ?」


 教室に着くと、さとしがいつも通り早弁ならぬ早勉してた。コイツは優等生だから必ず家で宿題を済ませたうえで、学校に7時には来て予習するのだ。

 

「休みなんてとってどうすんのよ。それより……はぁはぁ、さとし、宿題教えて」


 あたしが息も絶え絶え絞り出した言葉に、さとしは椅子からスっ転げ落ちた。失礼な!

 

「あたたた……!全く、何事かと思えば」


 立ち上がりつつ、何だかんだでノートを鞄から出してくれるさとし。持つべきものは幼馴染よねー。

 

「いやーごめんね。昨日色々あったでしょ、それで帰って夕飯食べたらすぐ寝ちゃってさー」


「食べてすぐ寝ると太るぞ。お前背丈小さいんだから食べたらすぐお腹にでるから気を付けろよ」


「むっ」


 ふん、小さい小さい言ってられるのも今のうちよ、見てなさい。あたしは絶対にきりんさんみたいなスィーパーになってやるんだから。

 

「にしてもいかる。勉強ってのは本来、結果より過程が重要なものだぞ」


「なによ、あたしに説教?」


 ノートを書き写しながら、さとしの説教に反応するあたし。


「問題一つ一つを考えて解くことで応用力が身に付く。それが大人になって役立つ勉強だと俺は思うよ」


「……お父さんみたいな事言うのね」


「実際、昔いちろうさんに言われた事だからな」


 ……お父さん。

 

「ま、お前が考えたところでその背丈と同じでちっちゃい脳みそじゃ、直ぐ忘れ去られるだろーけどね」


「んだとーッ!」


「宿題ぐらいしっかりやって、自分の長所と短所を見つけないと進路も決まらないぜ。精々頑張るんだな」


 はあ……

 

「……見つける、か」


 ……依代、考えて見つかるようなものなんだろうか。だけど、昨日の話通りなら、ティダニア様の予測通りなら、この学校に巣くう魔神には、

 

「多分、短髪だけじゃ勝てない」


「ん、どした?」


「いや、何でもないよー」


 あたしが考え得る現実的な方策は、あたし自身の魔術師への覚醒なんて無茶な方法はほっといてきりんさんに依頼を出す事だ。でもそれには依頼料を出してくれるようお母さんを説得しなきゃ……

 

「うーん」


 それとも本当に依代を探すか……

 

 いずれにしても、ティダニア様もとんでもない宿題を出してくれちゃって。

 


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