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序章6 仕掛けられていた罠



 あたしは椎田きりんさんや警部さん達と共に魔神の発生場所である学校近くの小路にたどり着く。第一犠牲者のおばさんの血の跡が生々しく、路面に零れ落ちたその形をかたどるようにテープが張られている。

 


「……お母さんが見てる刑事ドラマなんかでよく見る光景だけど、こうして間近に見ることになるなんて……」


 あたしの素直な感想だ。……そして、一歩間違えればあたしがこうなる運命だったことに気付いてあたしは肝を冷やす。恐怖に体が打ち震え、脚ががくがくしてきた。

 

 その様子を察したきりんさんが、あたしの手を握る。

 

「落ち着いていかるちゃん。あなたはこうして生きてる、生きてる人間には死んだ人の為にも犯人への発見と処罰に協力する義務があるわ。……ここで、何があったの?」


「……知り合いのおばさんだったんです。犬を散歩していた時、あたしが挨拶をしたら犬が魔神に変わって……」


 怖い、涙が出て来る……ちくしょう、こんなのでスィーパーやれるの、あたし。

 

「突然、犬が魔神に変貌したのね。……ザイナ、どう思う」


「わしが思うに、第一犠牲者、あるいはその子に何者かが仕込んだのだと思うぞ。街の中には寺院の結界がある、力の弱い魔神が自然に発生する事はそうそう無い。実際、スィーパーの仕事の96%は誤報やいたずらの処理じゃしな」


「何者か?……というか、あれで力の弱い魔神なの?」


 あたしはザイナ様に問うた。


「うむ、あれは比較的下位の魔神、『獣の魔神』じゃ。……ここは街の中心部じゃし、姿を隠し、結界内部に入り込める魔神はより強力な魔神」


 ザイナ様が其処まで言った所で警部さんが紙タバコを取り出し、ライターで火をつける。

 

「そんなのが街中に居るとすると厄介だな。第一犠牲者のおばさんは食われちまったし、胃の中に遺留品があるとしてももう燃えている。尻尾は掴めんか」


 警部さんはタバコをふかしつつ、きりんさんの方に向きなおした。


「火の魔術師で済まなかったわね。でも……おやっさん、この子に何かが仕込まれている可能性はない?」


 きりんさんの言葉にビクリとするあたし。……もし魔神にあたしが乗っ取られていたら、どうなるんだろう。


「精霊様の調査でマナ的な異常は無かったのだろ、なら彼女は白だ」


 ……だけど、きりんさんは考え込むと、

 

「……だけど、本人の知らずして、隠すように衣服に仕込んだり出来るんじゃない?アイツらは根本的にはマナを伝搬する『情報』だから」


「既に魔術的な機構は発動していて、マナは正常化してしまっているという事じゃの」


 ザイナ様が補足する。

 

 ……隠すように仕込む……?衣服は、ないと思うけど……

 

 

 ……まて、よ……待ってよ。

 

 

「靴に……画鋲……」

 

 あたしは、今身につけているものの中で、学校の中では使っておらず細工が可能なものを思いついた。画鋲どころじゃない、とんでもないものが仕掛けられていたのかもしれない!

 

「どうしたの?」


 そのままあたしは右脚のシューズを脱ぎ、その裏面を確認してみる。

 

 

 ……裏面のソールに、黒い不気味な文字がびっしりと書き記してあった。

 

 

「な、何よ、これ……」

 

 あたしは、言いようのない衝撃を受ける。

 

「……何者かがそれを見るまでマナを固着する術式じゃ。何者かがそのマナに魔神を潜ませて、靴の裏が見られた時点でその対象に憑依させた、という事じゃな」


 つまり、靴の裏を見てしまったおばさんの犬が、魔神が憑依する対象になったって事……!?


「てことはザイナ様、明確に『あたしが狙われてた』って事?」


「そうじゃ。直接憑依させるにしろ、最初にそれを見た者に憑依させて襲わせるにしろな」

 

 ……冗談じゃない。あたしはそんな命が狙われるようなことしてないわよッ。挙句、無関係の人間を巻き込んで3人も……!

 

「スィーパーさん」


 あたしは、きりんさんに呼びかける。

 

「ああ分かってる、犯人はかなりの確率で学校にいるわ。……ただ」


「ただ?」


 あたしはちょっと、首を傾げた。すると、奥からもう一人、誰か近寄ってくるのが分かる。ここは事件現場だから、関係者以外は立ち入り禁止の筈だけど……

 

「きりんは寺院に認められた正規のスィーパーじゃ無くてね。ボクと違って学校に入ったらそのまま不審者扱いなのさ」


「げっ、とたす」


 きりんさんがあからさまに嫌そうな顔をする。その人物はきりんさんよりも少し低い身長、おさまりの悪い青色のショートヘアーをヘアバンドで抑えた髪型。初夏だというのにボアネックのシャツを着たへんな人だ。

 

 ……そして、あたしは彼女を知っていた。えーと、えーと……

 

「お、おお、お久しぶりです、えーと、えだ……」


江良えらとたすだよ。洛亜さん」


 そうだった。江良とたす、父さんの後任のスィーパーだ……だけど、あれ、あれ?

 

「あ、あの、……きりんさん?あれ?スィーパーが……二人?」


 えと、確か基本的にそれぞれの寺院に所属するスィーパーは一人、だからスィーパーが寺院の管轄を超えて事案を担当する事は滅多に無いはず……なんだけど……

 

「あー、その、いかるちゃん。実を言うと、私正式に許可を貰ってスィーパーをやってるんじゃないの」


 ときりんさんが言ったところで、江良さんがしゃしゃり出てきた。


「魔神事案の多い都市部では彼女のような存在は必要なのさ。ハッキリ言ってシマを荒らされているのは癪に障るけどね」

 

「何よその言い分は。あんたがいっつも用事やら会合やらで留守にしてるから、私がその尻ぬぐいをしてるんじゃない」


「そう、感謝しなよ。ボクは君に案件をくれてやってるんだ。君のような外からやってきたハイエナにね」


「何よ、他の街からやってきたのはあんたも同じでしょ!それにハイエナとは何よハイエナとは!」


「君と一緒にしてもらっちゃ困るな、寺院のような官僚組織で外様の人間が地位を認めさせるには、上に気を遣う努力を欠かせないんだよ。さて、騒がしいから来てみたがそろそろ県警本部での魔神対策本部の会合の時間だ、失礼するよ」


 きりんさんと江良さんは激しい口論、と言うより単なる口喧嘩を始める……なんか、何と言うか実際この短髪ボクッ子ムカつく。みなちゃんがあんまりよく言わないのも納得だわ。


「たしか課長殿も出席されますよね。現場は部下連中とこのハイエナに任せて一緒に行きましょう」


 短髪は警部さんに呼びかける。

 

「んあ、そう言えばそうだな……じゃあなきりん、嬢ちゃんをちゃんと言えまで護送するのも依頼だからな、そこは手を抜くなよ」


 警部さんはそのままあたしたちから離れ、事件現場に呼びつけてあったタクシーへ乗車した。短髪もそれに同乗する。


「ちょ、ちょっと報酬は?」


「後で交渉してくれ」


「そんなー」


 ブブブブゥンとタクシーはそのまま走り去り、警部さんの部下達(例の魔神対策課とやらに所属しているのかな?)数人ときりんさん、そしてあたしがその場に残された(ザイナ様はいつの間にか消えてる。精霊様だし身を隠すのもお手の物なのかな?)。

 

「……ここじゃ落ち着かないでしょ、私達も行きましょ」


「そ、そうですね」


 ……よくよく考えたらこのきりんさんって人、ホント素性が不明だ。だけど……兎に角命の恩人だし、信用する事にしよう。第一、あの短髪より余程。

 

「きりんさんの方が、よっぽどお父さんに似てる気がする」


「ん?そうなの?」


「うん」


 この人が、師匠になったりしてくれないかなぁ……駄目か。

 

 

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