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序章4 急転、逃げろいかる



 放課後 ―

 

 

 みなちゃんは早々に一人で行ってしまった。もー、こういう時位頼ってくれてもいいのに!

 

 ……って言っても、りりあ相手にあたしが何が出来るかと考えると……はぁー。

 

「横暴!権力の乱用!」


 下駄箱でぷー垂れるあたし。ホント死ねばいいのに。一瞬りりあの下駄箱に画鋲でも仕掛けてやろうかと考えたけど、やめた。それこそ小学生だわ。

 

「はぁ、帰ろう」


 もうどうしようもない。みなちゃん大丈夫だといいけど……あたしは下駄箱の一番下の段にある靴を取り出すと(一応中に画鋲が入っていないか確認して!)地面に置く。

 

 ふと、視線を上げ、窓から中庭を覗くとそこに三好なかと安生くんの姿があった。

 

「……逢引きか。ま、お似合いの二人ね、ケッ」


 ちょっとムカつくので、あたしは靴を履き替え早々に正面玄関を出た。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 久々の一人での帰り道。陽の光はさんさんと歩道を照らし出し、そこかしこに存在する小さな水たまりが鏡のようにそれを反射する。

 

「まぶしい……」


 ……光は、まるであたしが歩いて踏みつけるのを拒むかのよう。

 

「……そんな馬鹿なことがあるもんか」

 

 あたしはそんな考えを振り切り、歩み始める。水たまりを躱しながら大股で歩むと、

 

「こんにちわ、いかるちゃん」

 

 後ろの方から近所のおばさんの声が聞こえた。いつものワン公のジローも一緒だろう。あー、今日は嫌な事ばっかりだったからワン子に癒されたい。

 

「こんにちわー」


 振り返って返事をする。…………あれ、今日はジローの顔が真っ赤なのね。

 

 

― 刹那

 

 

 あたしは気が付いた。おばさんの臀部が、噛みちぎられている事に。

 

「!!」

 

 散歩していたはずの犬が、衣服の破片と肉の塊を口にしている事に。犬の口が大きく裂け、おばさんを見る間に丸のみにしていく。その肉体は膨張し、体毛の一本一本がミミズ状の触手へと変わっていく。

 

「う、うわああああッ!!」


 驚愕、あたしはそのまま後ろにすっころんで尻餅を付いてしまった。奴は……その叫びで此方に気付いたらしい。顔を向けてくる。

 

「で、魔神デーモン……!!」


 『魔術師』になってからなら兎も角、今のあたしに適う相手じゃない。直ぐに立ち上がらなきゃ……ッ。それにしても、どうしてこんなところに。

 

 勇気を奮い立たせ、立ち上がる。立ち上がるが、と、兎に角逃げるっきゃない!!

 

「た、助けてぇッ!!」


 踵を返して全力疾走!!……後ろを気にしている余裕はないが、どうやら相手も走ってきているらしくて、蹄のような足音が直ぐ後方に聞こえる。

 

 場所は自宅周辺の閑静な住宅街。通りかかる人も少ないし、このまま家に帰っても安全な保障はない。近くに電話ボックスもいま思い出す限りはない。

 

「だとすれば……」

 

 まずは県道、大通りに出るッ!そして、通りかかりの人か大通りに面した交番でデーモンスィーパーに通報してもらう。これしかない!

 

 大通りに出ると、後方で何かが壊れるような音……どうも奴が電柱に当たったらしい。ラッキー、これで距離を稼げるッ!

 

 だけど、あたしの体力も限界に近づいている。と、兎に角、交番へッ!!

 

「お、お巡りさーんッ!!」


 交番のドアを開け、直ぐに締める。


「どうした……って、後ろを見れば聞くまでもないな。扉の下の方に鍵があるから、直ぐ締めるんだ」


 言われた通りにすると、あたしはその場で力尽き、へろへろになって前のめりに倒れた。

 

「はぁ、はぁ……」


 お巡りさんが名簿みたいなのを持って、あたしの傍に歩いてくる。


「やれやれ、疲れただろう。君、住所と名前を此処に書いてくれないか?いまスィーパーに通報するから」


 すると……

 

 

 ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

 

 

「嘘、まさか」


 ドアを、叩き壊そうとしてる……!?明確な殺意がなきゃ、出来る行動じゃないッ!!

 

 直ぐにあたしは立ち上がり、交番の奥へと入る。

 

「駄目だ、スィーパーに電話が通じない!」

 

 備え付けの黒電話の受話器を持つお巡りさんが叫ぶ。

 

「俺が時間を稼ぐ、フリーの方に連絡しろ!」


 名簿を持ってた方の人が、リボルバー銃をホルスターから取り出しつつ答えた。

 

 ……魔神に対して、拳銃、いや銃火器の加害半径では大した効果は望めない。これはスィーパーを目指す者にとって常識だ。火薬発射型の武器で奴らに対抗するには戦車砲並みの火力がいるって話。

 

「む、無茶です!」

 

 

 ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

 

 

 ドアがどんどんへこんでいく。

 

 

「無茶なもんか。魔神を狙うための訓練だって警察学校で習ったんだ。奴らの行動を阻害する事くらいは出来る」


 ……お巡りさんがそう言うなら、信じよう。だけど、それで何とかなるならスィーパーは要らないってことで……

 

 

 ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!バアアンッ!!

 

 

 ドアが前のめりに倒れると、あたしは始めて奴の全身を間近で直視することとなった。

 

 全長は2m程。犬の原型は一応残っているが、毛先の一本一本はぬらぬらと煌めき、まるで別個の生き物の様。脚には不揃いに長大な爪が生え、命を奪う形状をしている。目玉は飛び出し、悍ましさと共に何処かシュールな印象を与える。

 

「ひっ……」


 兎に角、恐怖。それしか覚えない……『死』という世界から解き放たれた猟犬が、あたしの命を摘み取りに来たというのか?

 

「糞ったれ!」


 お巡りさんが奴の脚に向けてリボルバーを発砲する。

 

 パンッ!!パンッ!!

 

 ……発射された弾丸は奴の肉へと食い込み……そのまま、ポンっと触手が取り出し放り投げる。全く、効いている様子は無かった。

 

「そんな馬鹿なッ」


 逃げようとするお巡りさん。

 

「こちら北署大徳交番。現在魔神と交戦中、兎に角直ぐに来てくれッ!依頼料は対策課に請求……岩田ッ!!」


 肉の引き裂く音に気付いて電話していたお巡りさんが顔を上げた時、既に発砲したお巡りさんは……腰から噛みちぎられ、無惨な状態になった上半身が此方に吹っ飛んでくる。

 

「うわああっ」


 ドサっという音と共に、もう頭の中が逃げなきゃという単語で埋め尽くされる。

 

「君は仮眠室ヘッ」


 お巡りさんが奥の部屋のドアを開け、あたしが入ると共にバタンっと大きな音を立ててドアを閉める。

 

「お巡りさんッ」


 数回の発砲音。

 

 

 ……その直ぐ後に、肉を叩き切るような音。悲鳴。……やがて、聞こえてくる咀嚼音。戦慄が、もう主の居ない2段ベッドが置かれた仮眠室を包む。死にたくない、死にたくない、死にたくない……!!!

 


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