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終‐11


『・・・どうしても変えるのか?』

『うん、もう決めた。これから名乗る名も決めたよ。「ライティエット・リンテル」。ほら、古い詩人にライティエット・グラドールって人がいるだろ。大陸を思う詩をいくつも書いて、最終的に自殺しちゃった人。その人から勝手に取った。後ろはリンテルアルの花から』

『元々は血のように紅かったといわれる花か・・・』

『・・・すっと前に母さんに聞いた事があるんだ、俺の名前の意味。でも今の俺じや母さんの思いを叶えてあげられない。この名前に相応しい人間じゃないんだ。だから自分と向き合う意味で名前を変える。いつの日か、本当の名前を誇れるほど強くなれるまで・・・』



 全ての魔法が着弾し、雷が落ちたような爆発音と土煙が上がる。カラーリアは更に全方位の攻撃魔法を展開し、追撃の矢を放った。

 逃れることの出来ない攻撃の嵐。最早跡形も残らないのではないかと言うほどに過剰な量と魔力密度。

 それなのに、カラーリアの心は休まらない。

 自分の魔力が続く限り、攻撃の手を止めることが出来ない。矢の次の魔法陣を更に更にと展開する。


 濃くなるばかりで、少しも晴れない土煙。

 次だと狙いを定めたそこから、土煙を切り裂いて、ライティエットが飛び出してくる。傷を負い、体中あちこちが血で汚れている。追撃の矢は3対の翼に弾かれるが、同時に激しく爆発し、欠片がライティエットの身体や顔を掠める。

 だが、彼を止めるものではない。

 スピードは微塵も変わらず、むしろ増して、カラーリアへと迫る。


「お主如きに、我が願い!!我が野望!!!打ち砕かせてなるものかぁぁぁああああっ!!!」


 カラーリアの叫びに合わせて、数多の魔法陣が光り、発動するーーー。


「いや、打ち砕く。俺はその為にいる」


 ークロスー

 古代クリエストラ語で『人を想い、汝を想う者』


「俺は『クロス』」


 それよりも速く、半月型の閃光が彼女の身体を斜めに切り裂いて通り過ぎて行った。



「『クロス・クリエスティア・グレス』だ」



 剣を横に振った形のまま、名乗る事を決意した自分の真名をライティエット、いや、クロスは口にした。


 母の思いが込められ、シタヤが父であるという証にもなる真名。

 今やっと、この名を誇りに思える者となれた。


 展開していた魔法陣たちが、繊細なガラス細工が落ちたように粉々に砕け散る。

 壁にある機械がバキバキと音を立て、火を起こし、壊れ、砕けていく。

 おびただしい数のコードたちは、切り離されたトカゲの尻尾のように先から火花を散らし、床に転げて踊り狂う。

 天井のドームはヒビが入ると同時にバラりと割れ、破片が雨となって降り注ぐ。

 玉座の横にあった楕円形のガラスカプセルも同じように粉々に砕け、青緑色の水が洪水となって勢い良く流れ出て床を水浸しにしていった。



 総てを破壊する光速の閃光。



 それが確かに、カラーリアの身体を通っていった筈だ。

 けれど彼女の身体の何処にも、切られた箇所など見当たらない。

 血も出ない。

 痛みだって感じない。


 なのになぜだろう。

 カが、ぬけていく。

 目も、あけているはずなのに。

 ぼんやりとして、よくみえない。


ーー・・・パキッ・・・


 身体の中、 ちょうど鎖骨の中心辺りだろうか。

 何かがひび割れていく音が微かに聞こえる。


 それは、メーディエの核内に移植されたカラーリアの『核』。

 クロスが思い、願い。

 コランダムの閃光が切ったもの。それはカラーリアの核と、この城に蔓延る無数の機械達。


 『死』という単語が、カラーリアの頭をかすめる。

 一度死んでいる身である筈なのに、恐怖を、絶望を、押さえ切る事が出来ない。

 だってもう、誰も助けてはくれないのだ。

 カラーリアを甦らそうとしてくれる人は何処にもいない。

 自分は確実にーーーー『死ぬ』。



「ーー・・やぁ・・・いやぁぁあ、ぁああ・・・デミル、ス・・・・ひかり・・よ・・・どうして・・・な」



ーー・・・パキンッ!



 カラーリアの目が大きく見開かれる。

 彼女から紅色の魔力が、可視化した魔法文字となって体外へと一気に放出されていく。

 最後の文字が抜け出て霧散すると同時に、身体は支えを無くしてぐらりと揺らぐ。クロスはすぐ傍まで駆け寄り、その身体を腕の中に抱き抱えた。

 見開かれた瞳に最早光は無い。

 只々、涙が流れ、頬を伝い、床に落ちる。


 カラーリアが最後まで自分の為に、『光』を求めて流した涙。 その涙を指先で優しく拭ってやりながら、 クロスは短く詠った。




太陽は太陽を求む

周囲の輝きを羨み 我もと願い手を伸ばす


けれど太陽は知らぬ

それが己が光によって 生まれいでた物である事を

故に 太陽は己の光を知らぬまま

得られぬ光を求め続ける





 詩人『ライティエット・グラドール』が詠った詩だ。正にこの詩はカラーリア自身を表していると言えるだろう。


 哀れなカラーリア。

 求めていたモノはすぐ隣で微笑んでいたというのに、最後まで彼女はそれに気付かなかった。

 そう心で囁きながら玉座の横で青緑の水に浸り、転がっているランプ型の魔法道具に目を向けた。中に入っている黒い多層結晶体はクロスがこのドームに入って見た時よりも輝きを無くしているように見える。


「カラーリアのところへ行け、デミルス。貴様という『光』を、奴は待っている筈だ」


 言いながら魔法道具ごと剣を突き刺し、核を破壊する。砕かれた核は一瞬だけ淡い光を放ち、それから二度と光を宿す事は無かった。


 クロスは水の被害がない場所に支えていた軽い身体を横たえ、コランダムに注いでいた魔力を解く。そうすれば剣は元の無骨な色と形状に変わり、役目を終えたとばかりに自ら鞘に収まった。

 クロス自身も身体を荒れ狂うように駆け巡る魔力を少しずつ封印し、完全ではないが肉体の変化を戻す程度には抑え込むことに成功した。


「・・・はぁ・・・はぁ・・後で、シタヤと・・・精霊王達に、再封印・・頼まないと・・・」


 ガラガラと全てが崩れていく中、クロスは大きく息を吐く。

 そしてまだ眠る愛しい者の身体を再び抱き支えた。


 トクン、トクンと聞こえるのは、聞き慣れた心音。

 薔薇の香水の奥に隠れた彼女自身の優しい香り。

 目覚めた時に探し求めた温もり。



 やっと・・・取り戻せた自分の唯一。



 膝をついて目を閉じ、天井を仰ぐ。

 降り注ぐガラスと機械の破片達は、クロスの頬を伝う涙と共に床に落ちる。




 ーーーこれで、総て終わったのだ。









ここまで読んでくださってありがとうございます。

誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。


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