終‐9
カラーリアは僅かだと言っていたが、人1人分の血肉に宿る魔力はその人物の魔力量によって異なる。
つまり、カラーリアには及ばないにしても強大な魔力を持っていたデミルスの肉体はその分大量の魔力を含んでいた。
それを丸ごと食らい、取り込んだマルクスの魔力量は当然格段に上がっている。以前と比べたなら全ての能力が数倍に跳ね上がっていると言っても過言ではないだろう。
そして更に『アダマス』だ。
刃の部分で切られることはなくとも剣自身が放つ力の余波が鋭利な衝撃波となって身体を切り刻んでくる。マルクスが剣の力を全くコントロールしていない為、 余波と言っても侮ってはいけない。
その証拠にライティエットの身体は一度も刃が触れていないというのに切り傷が増え続けている。
そしてそれは持ち主であるマルクス自身をも傷つける諸刃の剣となっていた。傷だけでいえば、攻撃を受けている筈のライティエットよりマルクスの方が多いくらいだ。
刀身を上手く躱しているライティエットに比べ、彼女は剣を持っている為に総ての余波をその身で受けているのだ。
「死ね!死ね!!死ねぇ゙ぇ゙ぇ!!!!!」
ライティエットは回避に徹して反撃をしない。そんな事をしなくてもマルクスは勝手に傷ついていく。
死ねと叫ぶ彼女こそが最早死に体だ。
それはまるで彼女の心中を体で表したようで、痛々しく、見ていられない気分にさせられた。
「なにしてるのアダマス!!!さっさとコイツを殺しなさいよ!!!!!」
マルクスの叫びに呼応するようにアダマスは羽の形をした刃を周囲に形成し、旋回する。それはルーフェンの城でも見たモノと同じで、相変わらずのドス黒い色と禍々しい魔力を放ちながらライティエットに襲いかかってきた。
だが、やはりルーフェンの時よりも精密度は格段に落ち、威力にもバラつきがあった。
恐らくアダマスとマルクスの相性が良くないのだろう。能力としてはルーフェンと同等レベルかそれ以上にまで跳ね上がっているであろうに、マルクス自身が己の魔力を上手く制御出来ていない、もしくはしていないとみえる。
「アハハははハハハははは!!!!そうよ、もっと、もっと喰らいなさい!!アタシの全てを!!!!!もっーーーっ!?」
周囲を破壊し尽くさんとばかりに飛び交い、襲い来る魔力の羽は彼女の言葉通りマルクスの魔力を一気に、急激に、喰らい尽くすモノだった。
その証拠とばかりに羽の猛攻の中、マルクス自身の攻撃スピードが僅かに落ちる。
そんな隙を、ライティエットが見逃すわけも無く・・・。彼は攻撃を掻い潜ってマルクスの懐へと入り込むと、自身の剣を下から上へと、思い切り振り上げた。
ガ、キィーーーーン・・・
高い金属音が響くと同時にマルクスの手から剣が離れ、宙を舞った。
アダマスは重力のままに落ちていき、床に突き刺さる。同時に、何かが切り裂かれる音が響き渡り、突き刺さった剣の隣に音の正体が転がってくる。
それは琥珀色の柔らかな髪で覆われた頭部。
頭を無くした胴体は血をふりまきながら倒れ、そのまま真っ赤な海に沈んで行く。
ライティエットは黒いチョーカーの飾り、ルーフェンの核の上からマルクスの赤く光る核を狙い、刃を突き刺す。
砕けた黒と赤の破片は血に染まり、もうどちらの物か判別出来なくなってしまった。
「後は・・・お前だけだ」
紅い水の滴る刀身を向けてライティエットは言葉を発する。カラーリアは大きく溜め息を吐きながら再び玉座に座り込み、頬杖をつくようにして片手で頭を抱えた。
「まったく、何ということだ。せっかくの生け贄が・・・まぁ良い、この大陸の民を数万人、犠牲にすればすむ話だ。それよりライティエット、良いのか妾に剣を向けても。妾を殺すという事は『メーディエ』も殺すという事だぞ?」
「メーディエは殺さない。 ・・・カラーリア、随分と強気だな。今にも泣きそうな顔をしているのに」
「?なにを一・・・っ!?」
反論しようとしたカラーリアの頬を一筋の光が伝う。
それは清らかな水の流れ。
他者の思いに触れ、理解し、同調してしまう優しく繊細すぎる心の表れ。すぐに消されてしまう一筋だけれど、これが何を意味していたかは充分に理解出来る。
「一つだけ、方法がある」
「なに・・・?」
「お前の中のメーディエを殺すことなく、お前だけを葬り去る方法だ」
「莫迦な。そのような方法、一体どこにあると!・・・っ!まさか」
嘲笑いから、一転、驚きの表情を見せるカラーリアにライティエットは剣を振って血を払い落とし、刀身を見せつけるようにして自分の目の前に掲けた。
「そうだ、この『コランダム』なら、それを可能にする」
「お主・・・まさか本気で『コランダム』の封印された力を使う気か!?」
カラーリアの間い掛けにライティエットは僅かに口の端を上げるだけで答える。
魔剣『コランダム』。
この剣が持つ能力は2つ。
1つは回復を遅らせる、もしくは癒やすことの出来ない傷をつける能力。
もう1つは『持ち主が願った物だけを斬る』能力。
その力は願えば神々の創り出したこの世界さえも切り裂くという。剣を作り出した『鍛冶師ラピス』でさえ、扱う事が不可能だったとされるこの能力は、最早伝説や与太話の類いと扱われ、信じる者など皆無に等しい。
だが、カラーリアは知っている。
コランダムにその能力が本当にあるという事を。それが幾重にも重ねられた魔法によって封印されていると言う事を。
「は・・・ハハハハ、アハハハハハ!!!!!笑わせるでないぞライティエット!いくらデミルスの実子であり、他大陸との交わりという『禁忌』によって生まれた異常魔力を持つ者であっても、所詮その身の半分に流れているのは下等な人間の血よ!!そんなお主にコランダムの封印が解ける筈がないわ!!!」
カラーリアに笑われ、可能性を否定されながらも彼の不敵な笑みは消えない。
ライティエットは何も言わずに一度剣を鞘に戻すと、自分の足首に巻かれた灰色の包帯に触れて一言詠唱を唱えた。魔力の込められた言の葉に反応した包帯はふわりと発光し、ひとりでにスルスルと解けていく。
ライティエットの行動の意味が分からず、カラーリアは内心首を傾げた。
「カラーリア、お前は俺の母親の存在が気にならなかったか?四人の精霊王達から加護を受け、更にこの大陸の守護者であるカリュシェード殿とも知り合いだったという俺の母親の存在が」
両足首の包帯が外れると同時にそれは光の粒子となって消えていく。ライティエットはそれを見送ると次は手首の包帯を同じようにして外し始めた。
封印の半分が解かれたことにより彼の身体が変化していく。耳は長く尖り、背中からは黒い翼が一対現れ、部屋を真横に切り裂くように広げられた。
「確かに気にはなっていたが・・・今ここで話すべき内容か?」
ライティエットから生えた翼の美しさに見惚れつつもカラーリアは間い返す。心の中で何か嫌な予感も感じながら。
「知っておいて損は無い筈だ。俺の母、ーー『サァーラ・クリエスティア』の事をな」
封印の包帯はあと1つ。両耳の上に細く尖った灰色の角が生えてくる。それは天を貫くように真っ直ぐ上を指していた。
「サァーラ・・・『クリエスティア』?・ ・・そんな、まさか!そんなことが!!!?」
「母の真名は、『サァーラ・ディエル・クリエストラ』。終戦後の神聖軍団長を務めたクリエストラ大陸の民だ」
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