終‐8
そうして今この世に蘇ったカラーリアは忌々しげにライティエットを睨む。
「一一ただの魔力封印でしかなかった核の封印は自我を持ったメーディエ自身と彼女の成長における世話役を任され、お前ではなくメーディエを愛してしまったルーフェンによって変えられた。メーディエ自身の 『心の崩壊』。『メーディエ』という人格が死ぬ、もしくは眠りにつかなければ核の封印は解かれないという形だ。これはお前やデミルスの誤算だっただろうな」
ライティエットはカラーリアの横に置かれた小さな魔法道具を見ながら話す。異様な形で再会した実の父親に、もう動く感情はなかった。
そんな凪のような心情のライティエットを余所にカラーリアの握り締められた手が、爪が、椅子の肘置きをガリリッと音を立てて削る。
「ーー誰だ?……お主に妾達の事を語った愚か者は………」
カラーリアが静かに口を開く。 彼女の声と表情にはハッキリとした嫌悪と怒りが見られた。
「あぁ、いやそうだ、奴らか。奴らしかあり得ぬ。お主にアーシア・ファルスの歴史を、今は亡き我らの故郷のことを話せる者など、この大陸においてカリュシェード以外に考えられぬわ!すべての大陸に必ず生えているとされる『世界樹』、その化身にして守護者。全であり一である世界樹は離れていようとも互いに繋がっている。そして総ての大陸の歴史を木の『実』に記憶し、保存出来ると聞く。お主はその実をカリュシェードから授けられて食らったのであろう」
「あぁ」
「・・・屈辱だ。何という屈辱!!このような屈辱、あの戦場で感じて以来よ!!ライティエット、お主は見たのであろう?妾の総てを、妾の失態を、デミルスとの二人だけの時間を、記憶を!!お主がデミルスの依り代でなければ今すぐその首をはねて殺してやりたいわ!!」
怒りで立ち上がり、上から突き刺すように紅い瞳で睨み付けてくるカラーリア。
デミルスと自分だけが共有して持っていた筈の記憶、『思い出』。 それをライティエットに、自分達以外の人物に知られるなどと言う事は、大事に仕舞い込んでいた宝物を勝手に持ち出されて汚されたのと同意、いやそれ以上だ。
だからこそ許すことなど出来ない。
記憶を見せたカリュシェードが、その記憶を平然とした顔で知っていると語るライティエットが。
ギラギラと炎が燃えるが如く殺気と怒りに満ちたカラーリアの眼光をライティエットはまったく動じずに受け流す。
この態度がますます力ラーリアを怒らせると分かっていながら。
「殺してしまいましょうよ、カラーリア様」
「ーーマルクス?」
緊迫した空気の中で一人、妙に冷めた雰囲気を持ったマルクスがカラーリアに声をかける。
「さっさと殺しましょうよ。こいつがアタシ達に大人しく従うわけ無いのはもう分かりきってる事ですし、どうせお父様の核を移植するには殺さなきゃいけないんですから」
「それは、そうだが・・・デミルスの新しい身体だ。これ以上あの身体に傷を増やしとうない」
「大丈夫ですよ。そんなに大きく残るような傷をつけなければ良いのですから」
カラーリアの言葉に、けれどマルクスは引き下がる気はないようだ。彼女の言葉を無視して、ゆっくりとライティエットの方へ歩を進める。
冷淡で感情が見えない、まるで人形が笑っているような笑みを浮かべながら、片手に魔力を込め始めた。
「マルクス。お前・・・分かっているのか?自分がカラーリアに『呼ばれた』理由を」
マルクスがこちらに近付き始めたのを見て、ライティエットが間う。けれども彼女は気にせず、自分の行動を一つも止めようとはしなかった。
だからライティエットも同じく気にせず、言葉を続ける。
「カラーリアはお前を生け贄にする為に呼んだんだ。この大陸を消えない闇で覆う、その『闇』を半永久的に作り出す機械の動力源にする為に」
マルクスの動きが止まった。
魔法の構築が終わったのか、彼女の掌の上には黒い光球が空中で線を描いて舞っている。
マルクスはライティエットを前にして後ろを振り向いた。
彼女の視界にはカラーリアのいる玉座、更にその後ろに聳える巨大な機械。
大小様々なコードが剥き出しになった無骨なそれはこの部屋のドームの外にまで作られているようで、全容を見ることは出来ない。ただ、カラーリアの玉座の直ぐ横に四角い箱型の基盤が設置されており、そこで操作を行うのだとすぐ分かる。そしてその基盤の前に青緑色の水で満たされた楕円形のガラスカプセルが1つ、コードに繋がれた状態で置かれていた。
マルクスは前に向き直る。同時に黒い光球が描いた魔法陣の中に手を突っ込んて勢い良く腕を引いた。
ロの端を、微かに上げた状態で。
「・・・知ってるわよ、そんなこと」
魔法陣以外に何も無い、厚さも在りはしない空間から一本の剣が引き抜かれていく。それを見たライティエットは、この場に来て初めて表情を動かした。
「この機械が未完成だから動かす為に強い魔力を持つ者を生け贄にしなくちゃいけない事も、それに適しているのがこの『アタシ』だって事も。ぜーーー〜んぶ・・・知ってるわよ」
マルクスが亜空間から引き出した物。
それは紛うことなきルーフェンが使っていた魔剣『アダマス』。
ライティエットは知っていた。
彼女の首元を飾る黒いチョーカーに付いている石がルーフェンの核であると言うことを。
そして極めつけがこの剣だ。
ここまで見せつけられれば、マルクスがどれだけルーフェンを慕い、今も深く愛しているかが嫌でも分かってしまう。
だからこそ余計に分からなかった。
自分が利用されると分かっていながらも、カラーリアを呼び起こした事が。今もこうしてライティエットと対峙し、剣を向けてくる事が。
「ライティエット・・・アタシはね、もう良いのよ」
少し俯き加減になったマルクスが小声で喋りだす。表情は良く見えないが、声自体に力が無く、今にも消えてしまいそうだ。
「お父様を一時的とは言え殺せたから・・・遣り残した事、もう無いのよ。だから、本当は早く死にたいの。死んでルーフェン様の元に行きたい。・・・でも、ルーフェン様はアイツを守ってたけど、けど同時にディルクファームの復活も願ってた。だからーー」
一瞬、マルクスの体が視界から消える。
次に見えたのは
「このアタシが!!その叶わなかった夢を代わりに叶えて差し上げるのよ!!!」
声を張り上げ、目の前で剣を大きく振り上げて襲い掛かって来る姿だった。
以前の彼女からは想像も出来ないスピードにライティエットは驚愕しながらも何とか不意打ちの一太刀を避け、鞘から剣を抜いた。
止めろと叫ぶカラーリアの声がドームに響く。
だが今の二人にしてみると随分と遠くから微かに聞こえてくる程度のモノでしかない。
マルクスの剣技はハッキリ言ってでたらめだった。 隙が多いどころか、持ち方や構えの基本すら出来ていない。
今まで自分が得意としていた魔法だけを頼りにしていきていたのがよく分かる光景といえる。
それなのにライティエットがマルクスにまともな反撃が出来ていないのは、彼女の早すぎるスピードと剣自身の強さの所為だった。
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