終-7
「ああ、やっとだ。妾の夢・・・光がやっと妾のモノとなる。その為にもまずは少数部隊を編成してフェスティア大陸に乗り込み、精霊王クラスの数を減らす必要がある。奴らが大地の魔力をクリエストラに送っているに違いないからな。だが、全てを殺しては駄目だ、すぐに気づかれる要因になりかねん。そうだ、せっかくだから我らの計画に必要な魔力炉にもなってもらおう。そうして徐々に減らした後に、大陸全体を闇で覆ってしまうのだ。この数値データからすると魔力回復は太陽や月と言った光が関係している筈。大陸一つを闇で覆う事の出来る魔法と装置を作らな」
声が、突如として途絶えた。
デミルスの背中に回していた腕も外し、俯き、ロに手を当てながら彼から身を離そうとする。カラーリアの異変と行動に少し慌てたデミルスは彼女が離れた分だけ距離を詰め、腕を掴む。
その瞬間、何か液体が床に落ちる音が聞いた。視線を下に向けると、紅い水滴がいくつも落ちて床を汚している。
血の気がサァと引いていく気がした。
目の前の事実を理解したくなかった。
視線をデミルスに向ければ彼は絶望の表情を浮かべて自分の手を見ている。口元を押さえていた手だ、それを見れば真っ赤に染まっている。ボタボタと音を立てて流れでる赤黒いそれは、止まる事を知らないのではと思わずにはいられなかった。
「カラーリア様! ! !」
身体が自分の意思に反して倒れていく。その身体を支えてくれたデミルスが聞いたこともないような悲痛な声で叫ぶ。
皮肉な事だった。
本当に皮肉なことに、クリエストラ大陸の秘密を解き明かしたその日に、急激な老いがカラーリアの体内を侵し始めたのだった。
そうして3年後、カラーリアは総てをデミルスに任せ、彼の手によってこの世を去った。
カラーリアの死をディルクファーム大陸の民は嘆かなかった。
何故なら総ての民が知っていたのだ。彼女が新たな身体を手に入れて復活する事を。
だが民の期待とは裏腹に、カラーリアの新しい身体となれる者は見つからなかった。
当然と言えば当然だ。
彼女は世界樹がその全てを捧げて作った最後の子ども。肉欲によって子孫を増やしてきた今のディルクファームの民とは最早身体の構造から違ったのだ。
それに気づかなかったデミルスは魔カ値も高くて美しい、カラーリアの核に拒絶反応を起こさない身体を捜す、もしくは産ませることに注力した。愛してもいない女を抱き、何人もの子どもを産ませた。
けれど当然のように誰一人として、カラーリアの核を受け入れられる者は産まれてこなかった。
更に、大陸の不幸はこれだけでは終わらなかった。戦争による被害と高度な機械化が止まる事無く進んだ事により、ディルファーム大陸自体が崩壊し始めたのだ。
デミルスは完全に大陸が崩壊する前に生き残った数万の民とまだ開発途中であった闇を生み出す装置を持ってフェスティア大陸へと飛ぶほかなかった。
そうして宇宙の彼方で誰に知られる事なく1つの大陸が消滅し、1つの大陸が闇に覆われる事となった。
フェスティア大陸に到着したデミルスは先ず潜伏していた研究者達と合流し、精霊王クラスの精霊達を捕らえ、幾つかの町を破壊。魔カ値の高い貴族1000体を柱にして大陸を闇で覆った。それと同時にカラーリアの新しい身体をフェスティア大陸内でも捜したが、種族の違いもあり、やはり見つける事は出来なかった。
カラーリアの核は、やはり『カラーリア』自身でなくては受け人れる事が出来ない。
ならば、彼女の生きた本物の身体を造ればいい。
最終的にデミルスが出した答えは、カラーリアの『クローン』を造りだす方法だった。
カラーリアの遺体は特殊な装置と魔法によって完全な形のまま保存されている。細胞はいくらでも採取可能だ。
ただディルクファームではない為、使える機械が限られており、身体が完全に出来上がるまでにかなりの時間を有した。その為、民にいらぬ期待と不安を持たせないようにと、この計画はデミルスを含めた数人の研究者と信頼の出来る一部の上級貴族のみで内密に行われた。
フェスティア大陸を侵略して約90年後。
クローン製作が始まって約50年が経過したその日、 新たな間題がデミルスに投げかけられた。
「デミルス様!大変で御座います!!」
部屋にノックもせず入って来たのはクローン計画に携わっている研究者の一人。彼が慌ててきた事で何が大変な事になっているのかは容易に想像できた。
「カラーリア様の御身に何かあったのか!?
「はいっ!!どうか急ぎ研究室へ!!」
研究者の言葉が終わる前にデミルスは立ち上がり、短く言葉を発すると、城の地下深くにある研究室に瞬時に移動した。
そこにはすでに計画に携わる総ての研究者達が揃っており、部屋の中心に置かれた巨大なガラスの筒を囲んで様々な議論の声を飛ばしあっていた。
筒の中は薄紫色の水で満たされ、幾つものコードに繋がれた5歳ほどの少女が入っていた。少女の腰より長い髪は満たされた水よりも少し濃い紫色で緩やかなウェーヴがかかっている。閉じられた瞼の裏に隠された瞳の色はきっと鮮やかな血に似た紅色に違いない。
まだ少女とは言え、誰もが見惚れてしまうその姿はまさにカラーリアそのものだとデミルスはいつも思う。
「デミルス様!もういらしていたのですね」
議論に夢中になっていた研究者達がデミルスの存在に気付く。 この声によって、彼は現実へと引き戻された。
「何があった?」
「実はカラーリア様のお体の中で異変が・・ これをご覧下さい」
そう言って渡されたのは少女のレントゲン写真。白い骨の線がはっきりと綺麗に映し出されている。 しかし、鎖骨の中心に本来ならば在ってはならない物が一緒に写し出されていた。
「まさか・・・これは、『核』か?」
声を震わせながらデミルスは問う。視線だけを、いつも自分がこの研究室にいる時に使っている机に向けた状態で。
「・・・はい、間違いありません」
机の上には宝石がいくつも散りばめられたランプの形をした魔道具が置かれていた。中では親指ほどの大きさの多層結晶体が紅い光を放って浮かんでいる。
それは正しくカラーリアの『核』。
この世に、カラーリアの核が2つ存在してしまったのである。
「つまりこういう事か・・・。カラーリア様のクローンを造る為に我らはカラーリア様のお体のあちこちから細胞を取り出し、遺伝子情報を採取した。その中に核の遺伝子情報も少なからず含まれており、遺伝子はその情報通り造ってはならぬ核まで創り上げてしまったと・・・」
「そのようにしか考えられません。デミルス様、これはある意味幸運ではないでしようか?」
「幸運だ。核が形成された、それはつまりこの培養液の中で何年も漬け込んで成長を促さずにすむと言う事だ。子どもと同じように成長してくれる。ただ間題は、今カラーリア様の核を移植してもあの小さな身体では持たぬと言う事。それと・・・・折角出来た核を取り除いてしまうのは勿体無いと言う事だ。そうは思わないかね、諸君」
デミルスの周りを囲み聞いている研究者達は笑顔で頷く。彼らの笑顔を見て、デミルスも黒い薔薇のように美しく微笑んだ。
「カラーリア様には世界樹さえ恐れ慄くお力を身につけて、この世に再び美しく復活して貰おうではないか」
こうしてカラーリアの核は少女の核の中に移植され、 魔力を封印された。
少女の身体が二つの核の魔力に耐え切れるほど充分に成長する、その時まで。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。
もしよかったら、下の、★★★★★の評価を押していただければ今後の励みになりますので、よろしくお願いします。作者をお気に入り登録や感想なども、していただければとても嬉しいです!
何卒よろしくお願いします!!!




