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終-6





「・・・来たか」


 静かに、当たり前の事を声に出すという行為でより確実なものにする為に、カラーリアはそっと呟く。隣で控えていたマルクスも気配に気付き、紅い化粧を施した口元に薄く笑みを作った。

 カラーリアは背凭れ部分が天井近くまである巨大かつ細長い黒色の玉座に深々と座って体を預けている。天井を仰ぎ、丸いホール型の天窓を見ると、装飾として細かくはめ込まれた黒と赤のステンドグラスが陽光を受けて色を変えてから欠片となって床へと降り注いできていた。


「もうすぐ・・・もうすぐだ。あと少しの辛抱だぞ?デミルス・・・」


 自分を美しく彩る赤黒い光の雨に酔いしれたまま、 甘い声で囁く。

 常に手に届く場所に置かれた核の封印された装置を撫で、胸を高鳴らしながら『依り代』を迎える為に眼前を向いた。



 未知の船に入り込んだライティエットは硬質で滑らかな壁とライトで作られた廊下を歩く。あれだけ地上に魔族とモンスターを降らせておきながら、この船の中に入ってからそれらには一体も会わない。

 そんな中をライティエットは迷いなく進む。

 道順など知らない。けれど分かる。

 『彼女』は何一つ隠していない。まるで誘うように、道標になるように魔力を漂わせている。


 少し歩いた先、閉ざされた扉の前に着く。

 魔法文字がアーチを描くようデザインされた扉はライティエットが目の前に立つと同時に音もなく開いた。


 扉の先はガラスで出来たドームだった。

 下部に薄っすらと植物の蔓や花の模様が刻まれた半透明ガラス。上部は無色透明のガラスで覆われたそこは細かい所まで手入れの行き届いた広い黒薔薇の庭園。小さな噴水とテラスを囲んで円形のアーチを自然な状態で薔薇自身に作らせている。やわらかく辺りに香る花の匂いは人を酔わす濃密な香りに思えた。

 そんな庭園の奥はあまりに対象的だった。

 機械と大小様々なコードが木の根、もしくは蔦の如く壁、床、天井などを覆い尽くして張り付いている。夢のおかげで多少なりとも機械に見慣れたライティエットだったが、この異質な光景には何とも言えない圧力と嫌悪を感じた。

 更に奥に進むほど嗅いだ事の無い油の異様な匂いが強くなる。自然の、先程まで感じていた薔薇の香りなど一瞬でかき消される。

 聞こえてくる機械の振動音に全神経が反応して、肌がビリビリと疼くように痛くなった。


「良く来てくれた、ライティエット・・・。そなたの来訪を心より歓迎するぞ」



 機械群の中央、機械の一部と言うより心臓部のような出で立ちの玉座に腰を下ろしているメーディエがゆっくりとした口調で話し掛けてくる。

 彼女の容姿はたった一週間見なかっただけで、随分と印象が変わっていた。彼女が今着用している濃い赤と紫を主とした煌びやかなデザインのマントとドレスの所為なのかもしれないけれど、それでも根本的に何か違う存在に見えてならない。

 自分の知っているメーディエは「真昼の月」のような存在だ。白く儚い、けれど必ず変わらず、傍にいてくれる、その場に居るだけで安心と安らぎをくれる柔らかな女性。

 だが今は、色の深く濃い「紅い満月」を思わせる。見る者総てを酔わし、狂わせてしまう魔性の月。

 見せつけられるどんな表情も、動作も、声も、メーディエとは違う。自信に満ち溢れた、強すぎる光ようでじっとは見ていられない。

 しかし改めて見て実感する。

 これは服装の所為などではないのだと。こんな風に見えてしまうのは自分の心の変わりようの所為と、



「核の定着が順調に進んでいるんだな・・・」



そう、『核の定着』の所為だ。


 嫌でも認めなければならない現実。

 どんなに否定したくても、目の前に結果が表れ、見えてしまっている。


「フフ・・・まあな。もう少しでメーディエは消える」


 カラーリアの言葉にライティエットがピクリと反応し、身体を少しだけ震えさせた。確かに、あの様子だと残された時間はあまり無いだろう。


「さすがというか何というか、定着するのが早いな。元よりメーディエの身体に貴様の核が埋め込まれていた所為か、それとも・・・メーディエが貴様の身体から作り出された者、複製生物だからか?」


 玉座の後ろで恭しく控えていたマルクスが驚いた表情でライティエットを見る。 しかしカラーリアの表情は変わらない。けれど瞳が、すっと細くなっていき、見下すような眼光を向けた。


「一一ライティエットよ、お主・・・妾達の事を何処まで知っている?」

「総てだ」


 質問に対してライティエットは即答する。 彼の挑戦的な眼が、 カラーリアの瞳の奥に巧妙に隠されていた動揺の色を見抜いた。ロの端を軽く上げて、更に言葉を続ける。


「総て知っている。貴様が何者で、何を求めているのかも。貴様らの故郷『ディルクファーム大陸』に貴様が焦がれた『クリエストラ大陸』。そこに戦争を仕掛け、敗北し、神々に彼方に追いやられ、それでも諦めきれずに数多の大陸を調べ、そして此処・・・『フェスティア大陸』の秘密に気づいた」


 玉座に置かれたカラーリアの手がゆっくり、けれど強く握られていく。

 思い出されるのは彼方に追いやられて百年近く経った頃。宇宙間を移動出来る魔法を組み込んだ宇宙船を作り上げ、数多の大陸に自分の配下を送り込み、その調査結果と研究に勤しんでいた頃。






−−−研究室と化した自室。

 カラーリアは送られて来た様々な資料を手に取って機械に入れ、そこから出て来る数値データを尋常ではない速さで流し見ている。今見ているのは各大陸で採取された土の成分値で、戦争前と戦争後の差を見比べていた。


「・・ん?これは・・・」


 ある大陸の数値データに目が止まる。彼女の目はそのデータを凝視し、大きく見開かれていった。


「此処だ・・・此処に違いない・・・。デミルス、デミルスっ!!!」


 データが記されたタブレットを持ち、カラーリアは荒々しく扉を開けて求める者の名を呼んだ。廊下の壁に書かれたべージュ色の魔法文字が声に反応して琥珀色に光ると、連鎖反応のように他の魔法文字も光りだして広い屋敷中を駆け巡った。

 数秒後、魔法文字はデミルスの魔力を感知し、彼の居た場所のデータをカラーリアの持っている転送装置に送り込んでくる。装置はそれを受け取るとすぐさまカラーリアをデミルスの居る所まで転送した。

 デミルスがいたのはカラーリアの屋敷の地下にある広い古書室。転送装置の独特の音を聞き、デミルスは文献から目を離して目を向けた。けれど彼が見つける前に後ろから抱きつかれ、バランスを失いかける。

 こんな行動を自分にしてくるのはこの世で一人しかいない。美しい微笑を浮かべながら読んでいた文献を閉じて、正面で抱き締められるように向き直る。


「分かったぞ、デミルス!クリエストラの無尽蔵な魔力の秘密が!!」


 叫ぶと同時に持っていたタブレットを操作して自分の見つけたデータ部分を指で指し示す。

 そこに記されていたのは各大陸の土の成分値だ。


「ここを見てみろ、この大陸だけ戦争前後の土に含まれている魔カ数値に異常なまでの差がある。しかもこの差は、年を重ねるごとに小さくなってきているのだ」

「・・・という事は此処が・・・」


 カラーリアが言わんとしている事を理解したデミルスは、彼女の抱き締めている腕に無意識に力を込めてしまう。それを気にせず、カラーリアは自分の出した結果を嬉々として口に出した。


「そうだ、此処が無限の魔力の源、魔力の貯蔵庫だ。クリエストラの奴らはこの大陸から魔力を貰っていたのだ!この大陸が異常なまでに精霊が多いのもその為だろう。正に此処、『フェスティア大陸』はクリエストラの奴らにとって主からの恩恵そのものだ」

「おめでとうございます、カラーリア様!これで・・・やっと貴女様の夢が実現されるのですね」


 額にキスをしてデミルスはカラーリアを更に強く抱き締める。その強さに心地良さを感じながら彼女もまた彼を抱き締め返し、これからの計画を語り始めた。




ここまで読んでくださってありがとうございます。

誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。


もしよかったら、下の、★★★★★の評価を押していただければ今後の励みになりますので、よろしくお願いします。作者をお気に入り登録や感想なども、していただければとても嬉しいです!

何卒よろしくお願いします!!!


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