終-5
だからこそ、いや、そうでなかったとしても。
ライティエットは行かなくてはならない。彼女たちが待つ、『未知』の船へ。
そうして、向かう為に身体を構えようとした刹那、視界の端に鳥が映る。
伝達魔法の鳥だ。
既に全ての伝達を伝え終え、消えていると思っていたのだが、そうではなかったらしい。
視線を向けて一瞬待つが、声は再生されない。ならばといつもの、手紙が現れる時のように触れてやれば、鳥は閉じていた口を開いた。
【ーーーライティエット、今お主がどこにいて何が見えているのか、アタシには分からん。
けどそれでも言わせておくれ。防衛は任せろ】
「ミネリア頭首・・・」
【いや、違うな、こちらは防衛で手一杯だ、が正しいだろうね。
空の『アレ』に割ける戦力は、残念ながら無い。
だから、お主に任せるしかない。あの空の異形も、この大陸の命運もだ。
お主に背負わせてばかりで、本当にすまないね】
「いえ、それが分かっているだけでも大きい。貴方たちが守ってくれるなら、俺は何も気にせず戦えます」
これは記録された声だ。故に会話は成り立たないず、返す言葉はただの独り言になる。
それでも紡ぐ。
届くと、自分ならこう答えるだろうと、ミネリアならば分かってくれると確信しているから。
【さっきも、皆にも、伝えた。だが、一番お主に伝えたい。
生き残れ。
生きて、帰っておいでライティエット。
そんで今度こそお嬢ちゃんを紹介するんだよ!いいね!!】
最後の叫びと共に鳥は魔法文字となって消えた。
ライティエットは、笑う。
「あぁ、今度は必ず」
笑って、飛び立つ。
向かってくる魔族を、空を飛ぶ彼らを切り裂き、足場にして走り飛ぶ。
未知が迫る。
黒い悪夢、フェスティア大陸の恐怖の象徴。
それに今、ライティエットは一撃と共に飛び込んだ。
◆◆◆
ライティエットが伝達魔法を聴く少し前。
ーーハンターギルド会議室。
「あーーーーーーっ!!疲れた!!」
「お疲れ様です、ミネリア様」
「くっそ、余裕かましよって!!あんだけ伝達魔法使って魔力回復薬一本で済むとかどんだけ魔力効率がいいんだいお主は」
「ははは、それだけが取り柄でしたから」
「まったく、まぁ今は頼もしい限りだがね。昔を思い出して派手に暴れておくれ」
「えぇ、老体に鞭打ってやらせていただきますよ」
回復薬を一気飲みしたミネリアは窓から自分たちが飛ばした伝達魔法たちを目で追う。既に殆どが青空の向こうに飛んでいき、姿を捉えることは出来ない。
「・・・ライティエットは聞いたかね」
「聞かない事はないでしょう。律儀な子ですから」
「そうだね、あとは・・・」
そう言ってミネリアが2本目を飲み始めた時、空が陰る。その一瞬後、ガーフィスが駆け込んで来た。
「ミネリア!モルド!来たぞ!!!」
「これは・・・凄まじい数ですね」
「クソが、大昔を思い出すわい。あの時は何もできんかったな」
3人で揃って窓から外の様子を見ていれば、無慈悲なまでの数の魔族とモンスターたちが振ってきているのが分かった。
正にそれはフェスティア大陸が闇に飲まれたあの日の再現。幼き頃にその目で見ていたミネリアとガーフィスにとって、出来るなら二度と見たくなかった光景だろう。
だが、
「アタシも皆も、昔のように泣いてばかりの赤子じゃないんだよ!」
ミネリアの目に諦めも絶望も無い。むしろ燃えるような光を宿したまま、彼女は二人を引き連れて会議室から出る。
そこにはギルド職員と駆けつけたハンターたちが揃っていた。
「皆よく集まってくれた。これからの事を急ぎ伝えるから聞き漏らすんじゃないよ!」
「「「はっ!!!」」」
「よし、全ギルドに設置した転移魔法陣と通信魔法結晶は常にオープン!ハンターが少ない場所、怪我人多数の場所には随時ハンターと治癒師・薬師を派遣出来るように伝令役職員で連携を取れ!!」
「「「了解です!」」」
「他の職員は避難誘導を最優先だ!手が空いた奴から引退したハンターと薬師を首根っこ掴んで連れておいで!渋る奴がいたらアタシの命令だって伝えな!!」
「そりゃ良い!誰も逆らえんわ!!」
「うっさいよガーフィス!
ハンターたちはとにかく防衛に徹しろ!回復薬も惜しまず使え!死んじまったら意味ないからね!!」
「みんな最後の大戦だよ!!ハンターギルド流の、いや、フェスティア大陸流のお出迎えと行こうじゃないか!!」
「「「おぉ!!!!!!」」」
ミネリアの号令を合図にそれぞれの役割を果たさんと散っていく。それを見送ることなく、ミネリアは後ろに控えていた二人に声をかけた。
「さて、アタシらも移動だ。事前に話した通り、ガーフィスは北、モルドは南、アタシは東だ」
「承った。そうだ、『天空の守人』が西についたと連絡があったぞ」
「中央は『断罪の剣』が、シタヤ様も精霊王様たちを各所に分担済みとの事です」
「こればかりはシタヤ様々よな。あやつからの情報が無ければ準備も何もなかったわ」
「えぇ、本当に。では、私もそろそろ行ってきますね」
「おぅ、二人とも遅れを取るんじゃねぇぞ」
「誰にいってんだい。じゃぁまた、生きて会おう」
互いの拳をぶつけ合い、転移魔法陣でそれぞれの担当地へ移動する。
次に会う時は、恐らくすべてが終わった後。
ーーフェスティア大陸北部。
「ぃよっし!!まずは一発、どデカい挨拶をしとかんとなぁ!!」
ガーフィスがハンター達を連れて戦場に立つ。手には優に3mを超える超巨大・極長の戦斧だ。それを
「どっせい!!!!!!」
ただ力任せに振るった。
ガーフィスの眼前にいたモンスターの大群が薙ぎ払われ、戦斧が届いていなかった者も鋭い衝撃波で真っ二つに切り裂かれる。
そんなむちゃくちゃな攻撃を4,5回繰り返せば、戦斧の柄の部分にひびが入って割れた。それを好機と見て歩みを速めるモンスターを横目にガーフィスは
「よし!次寄越せ!!」
と、後ろに控えていたハンター数名に声をかけた。
「へい親方!!どんどんやっちゃってくだせぇ!!」
「こちらはすぐ直しときやすぜ!!」
そう言って、ハンター兼ガーフィスの弟子達が新しい戦斧を渡し、壊れた戦斧を受け取って修復に入る。彼が引退後も鍛冶師として努力し続けた成果が今、遺憾無く発揮されていた。
「おぅよ!!他の連中も、こんなジジィに手柄全部持ってかれんじゃねぇぞ!!」
活気ある声が、戦場に木霊した。
ーーフェスティア大陸南部。
「おやおや、これまた団体さんですね」
広がる湿原を少しばかり小高い丘から見下ろすモルド。広い湿原は本来なら美しい花を咲かせて人々の目を楽しませるのだが、今は巨大モンスター達に踏み荒らされ、見るも無惨な状態だ。
「このような場所で物量など、愚の骨頂ですよ。湿原とは地面が泥、水が豊富にあると言うことです。ならば、」
モルドの手から青白い雪の結晶を描いた小さな魔法陣が無数に浮かび上がる。それらはモンスター達の足下に飛ぶと同時に強烈な冷気を放った。
「全て凍らせてしまえば良い。ーー『永久氷華』」
ーーキンッ!!と全てが凍りつく音が響く。
全身が、もしくは下半身が氷像と化したモンスター達は全く身動きが取れない。彼らはただ呆然と、自分たちをこんな状態に陥れたモルドを見上げる事しか出来なかった。
「さぁ皆さん、さっさと破壊してしまいましょう。大丈夫、氷を砕くだけの簡単なお仕事ですよ」
にこやかに笑う白髪の老人にハンター達は尊敬と畏怖の念を抱いたのは最早仕方のないことで。
後に、元白金ランカーにして最高位の魔術師の力量は衰える事なく健在であったと、語られる事となる。
ーーフェスティア大陸東部。
「来よったな、虫どもが」
連なる山々の頂上。飛び交う魔族やドラゴン達を前にミネリアは恐れもなく堂々と立ってそれらを見上げる。
「鉱山地帯の此処の侵略はどうしたって飛ぶ連中になる。だから準備しておいたんだよ!コイツをね!!」
彼女の後ろに並ぶのは据え置き式の大型弩砲『バリスタ』。
原始的な兵器ではあるが、撃ち出される物と有能な狙撃手が揃えばその威力を何倍にも膨らませる大型兵器だ。それが総数50、山々の頂上に設置されている。
「さぁ!!思いっきり撃ち込んでやりな!!!!!」
ミネリアの合図で巨大な矢、いや、槍が撃ち出される。槍には貫通力を上げる魔法と複製の魔法が施され、放たれたと同時に一本が数十本にまで増える。そうして敵に槍の雨を食らわせる事が出来るのだ。
これは「断罪の剣」のシャロッテが得意とする戦術のバリスタバージョンであり、編み出したのは他でもないミネリアである。
貫通力の上げられた槍はドラゴンの硬い鱗を、魔族の結界を打ち破り、深々と肉体に突き刺さった。更に槍によって火薬や麻痺薬などが括り付けられ、槍を食らっていない者達にも被害を与えていく。
「交代で休みなく撃ち込め!!13号機は左に5度、28号機は上に7度修正!ーー放て!!!!」
片目のミネリアは肉体強化魔法を目に集中させ、50台全ての狙撃手をやってのける。
有能なギルド頭首は、狙撃手としてもあまりに有能であった。
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