2-2
ーーパチン!!
「っ!!?ーーお前、今無詠唱で印付けようとしたな・・・」
「え?・・・えっ!!?」
「全く・・・、夜には戻ると思う。お前は待ってないで先に寝てろよ」
やれやれと呆れたように言いながら部屋から出て行くライティエットをメーディエは固まったまま見送った。伸ばしたままだった手を下ろして指先を見ると、少しだけだが赤くなって腫れている。
自分の放った魔力が、そのまま跳ね返ってきた証拠だ。
「人間が、私の魔法に気づいた上に、弾いたの?・・・ありえない・・・一体、どういうこと?」
◆◆◆
ギルドに向かって歩きながらライティエットは思考を巡らせる。
考えることはもちろん、メーディエのことだ。
どうやら彼女はハンターのエンブレムの意味を正確に理解しているようだった。
それならライティエットに対してもう少し警戒しそうなものなのだが・・・。
そういった様子が見られないと言うことは、簡単に倒されないだけの実力がある、彼と自分の力量差がどれほどのものなのかも正確に理解しているのだろう。
「(さっき詠唱無しの即起動で印を付けようとしてきたし、魔封じの鎖を外した時に感じた魔力量を考えたら攻撃魔法も相当な使い手に違いない。剣無し魔法のみの勝負なら確実に俺が負けるな)」
印とは対象に自分の魔力を着けてそれを目印に対象が今どこにいるのか、自分からどれだけ離れたかなどが分かる魔法だ。
魔法は基本的に脳内のイメージとそれに見合う魔力コントロールが出来ていれば詠唱無しでも発動させる事が出来る。
だが脳内のイメージとは得てして曖昧なものが多い。
故に詠唱という文字を入れ込むことでイメージを明確にし、正確に自分が行いたい魔法が発動出来る様にするのだ。特に補助系の魔法はイメージがしにくい為、ヒトも魔族も詠唱を唱える事が当たり前となっている。
それを無詠唱で、いとも簡単に放ったメーディエの実力は彼女の言う通り規格外、なのだろう。
「・・・となると、やはり面倒だが当分側で見張っているのが得策か・・・」
ため息混じりにそう結論付けたライティエットは大きな建物の前で足を止めた。
ライティエットの襟元にあるものと同じ、鷹のエンブレムが飾られた重厚感のある扉。
それを押し開いて中に入れば、血生臭い匂いが嫌というほど充満していた。空気も、押し潰されそうなほどに重々しい。
そしてその原因は部屋の半分以上を占領してその場に横たわっているハンター達だった。
ざっと見た限りでは全部で10名ほど。
重傷者は4人で魔法使い達が今も必死に回復魔法で治療を続けている。それ以外は身体全体に布がかけられていたが、明らかに人の身体にしては小さすぎるものもあり、正確な人数は数えられそうになかった。
生と死の狭間で彷徨う者達の唸り声。
激痛という苦しみからの解放を願っている声。
仲間の生を願い、死を嘆く者達の声。
常人ならば聞いているどころかこの場にいる事すら耐えられないだろう。
しかしライティエットはその中を顔色一つ変える事なく奥へと歩いて行った。
奥にはいくつかカウンターらしきものがあるが人がいるのは一つだけ。ライティエットはそこに亜空間収納から取り出した皮袋を置いた。
カウンターにいたのは白髪混じりの厳つい顔をした老人。老人は傷だらけの腕を伸ばして皮袋を開けると、軽く驚きながら中の物を取り出していく。そうして並べたモンスターや魔族の首を、老人は手配書と見比べながら鑑定していった。
「レベルの高いモンスターばかりじゃ・・・。こいつなんて隣町の森の大部分をテリトリーにしてた伯爵級の魔族じゃろう?さすが、白金ランクのハンターじゃな」
老人がライティエットのエンブレムを見ながら言った言葉にその場にいた者達が二度、驚く。
一つは倒された魔族の階級。
魔族には七つの階級が存在する。
大公爵
公爵
侯爵
伯爵
子爵
男爵
騎士
現在分かっている上位2つの階級情報は大公爵は1人、公爵は3人いるということだけ。
テリトリーは分かっておらず、存在自体確認されていない。故にハンター達の討伐目標は侯爵から下の5つで、ライティエットの討伐した伯爵級は上から二番目に強い魔族と言うことになる。
本来なら、パーティーを組んだハンターが死闘を繰り広げた上で勝てるかどうかのレベルである。
それを個人で討伐する。
それが二つ目に驚かれた理由、ライティエットのハンターランクである。
ハンターのランクは4つ。
白金
金
銀
銅
魔族側に比べて少ないと思うが、まず銅ランクになる為の条件が厳しい故に必然的に少なくなったと言える。技量としては銅ランクで魔族の騎士級、銀で男爵、金で子爵、白金で伯爵と同等と見て問題ない。
本来、魔族は魔力・身体能力共にこのフェスティア大陸の住人より優れている。魔族の騎士級と渡り合えるだけでも十分優秀な能力の持ち主と言えるのだ。
故に上位ランクは当然ながら少なく、最高位の白金に至ってはパーティーを組んだ状態でのランク付けで3組、個人に至っては2人しかいない。
ライティエットはその2人のうちの1人なのである。
「おい、今ギルドマスターが白金って言ったか?」
「え、本当に本物か!?」
「伯爵級を1人でってマジかよ・・・」
「黒マントって事は死神の異名持ちのーー・・」
先程とは違う意味でざわつくギルド内の様子にライティエットはため息を吐く。
目立つのは嫌いだーー、さっさと要件を済ませよう。
「ギルドが病院になったのはいつからだ。この辺りの魔族は随分前に師匠ーーシタヤとこの町のハンター達とで一掃したと聞いていたんだが?」
鑑定を終えて報酬を準備していた老人ーここのギルドのマスターらしいーは、ライティエットの質問に横たわるハンター達を見ながら答えた。
「あぁそうじゃ、忘れもしない・・・ワシの最後の仕事じゃったからな。10年前、3匹の子爵級が手を組んで町の周りを超巨大ダンジョンにしておってな、シタヤ殿とワシを含めた数人の金銀ランカーで数日がかりで討伐した。
ーー・・生き残ったのはワシとシタヤ殿だけじゃったが・・・。
それでも、それからは随分と平和じゃった・・・。なのに!!」
カウンターの上に置かれた握り拳が震える。力を込め過ぎて少し血が滲み出てきた拳の下では、カウンターがミシミシとひび割れて悲鳴をあげていた。
「・・・半月ほど前じゃ。急に以前と同じ場所でダンジョン化が確認された。すぐに調査隊を組んで調べに行かせたが、みんな殺されて城壁近くに捨てられておったよ・・・。
1人だけ虫の息じゃったハンターが最後の力を振り絞って教えてくれた
『私は次の侯爵候補の魔族ワークス・アールなり!我が手にかかって死ねる事を光栄に思え!』
と、笑いながらみんなを引き裂いていった・・・とな」
ざわつきがいつの間にか消え、今は啜り泣く声が響く。
その調査隊の残してくれて言葉を頼りに、上位ランカー達を集めて討伐に出たのだろう。
けれど結果はこの通り、ただ屍を増やしただけ。
まだ生きて帰って来れた者がいただけでも恐らく幸運と言える。
読んでくださってありがとうございます。
誤字脱字ありましたら知らせていただけると大変助かります。
少しでも面白いと思っていただけたら↓から評価していただけると嬉しいです。




