最終夜 夜を想う曲
再生 破壊 創造
繰り返されるこの地に
星と呼ばれる大陸は幾つも存在する
その中で語られる全ての生命達の物語
星の数など追いつく事の出来ない
多くの物語達
今此処に流れ聴こえてくるものは
一つの物語を終えた者達の心を癒す音
小さな木箱から奏でられた
『夜想曲』
ライティエットは『夢』を視ていた。
悲しい、辛い、儚いと思ってしまう『夢』。
無くならない戦・暴動。
繰り返される、鳴り止まぬ争いの響きと叫び、轟く爆音。
そんな中で、様々な想いと底無しの願望が強く強く込められ、 交差し、 対立し続ける様があまりに残酷で虚しい。
知らなければならなかったのだ。
どうしても、 どんな事をしても。
知らなければならないと思った。
彼女が何の見返りも求めずに自分の事を受け入れてくれたように。自分も『彼女』達の事を知って、受け入れなければならない。
いや、 受け入れたい。
そう、 思ったから。決めたから。
長い長い一つの世界の歴史を遡り、また流れと共に見る事を繰り返す『夢』を、苦痛と怒りとも取れる負の感情に襲われながら。覚める事の無い、消える事の無い、脳に深々と刻まれて行く悲しい『夢』。
力の弱まった聖域の中、泉とカリュシェードが見守る中で、ライティエットは見続けた。
もう二度と目覚める事が出来ないのではと思っていた『夢』の世界から戻ってきたのは、あの『メーディエ』が『メーディエ』でなくなった日から5日を過ぎた頃だった。
眠るにはあまりにも長過ぎる時間。
この守られた聖域内でなければ餓死していたかもしれない。当然の事ながら身体は凝り固まり、動かすだけでパキパキと痛々しいまでの良い音があちこちの関節や骨で鳴らされた。
木の葉から落ちて来た冷たい朝露で目を覚めたのだが、爽やかな目覚め方の割に気分は悪く、身体もその気分と凝りの所為で随分と重たく感じる。
しかし当然と言えば当然である。戦乱と言える血の絶えぬ黒い夢を見ていたのだ。これで目覚めが少しでも爽やかに思えたら、自分の性格を嫌と言うほど疑ってしまうだろう。
けれど、ここまで思考を働かせておきながら自分がまだ夢の世界からちゃんと抜け出せきれていない事を、つまり、未だに寝ぼけていた事を思い知った。
普通だったら何日も何も見ていなかったのなら、身体の極度なまでの凝りや気分の悪さとか、目覚めが良いとか悪いとか、そんな事を考える前にこの「変化」に気付いて絶句すべきなのだ。
何故なら、彼の目の前で世界が、光っていた。
薄闇の黒を総て拭い去り、本来の『色』を宿して。
あまりの眩しさに、変わりように、眼が眩んで倒れそうになった。
ーー美しい。
こんなにも美しいもの、他に知らない。
どんなに見事なカッティングを施されて輝く宝石でも、この美しさの前では単なる石コロでしかないと思うほどに。
聖迷林は純白の白を取り戻し、隣接して立ち並ぶ木々達は、根元から小さな実や舞い落ちる葉の脈にいたるまで生の光を満たしていた。
ーーおかしい。何故、こんな事が。
あの時、 おぼつかない足取りでカリュシェードの所へ戻れば殆どの木々や草、土までもが暗い闇色の黒に侵されていた。
カリュシェード自身も身体の色と形を保てないほどに弱りはてており、 唯一小さな泉の水だけが何とか清らかな聖なる光を保てている、といった状態だったのだ。
それがどうして?
色が戻った事を素直に喜べないまま、辺りを念入りに見渡す。
光の中で土の色は薄く、落ちる草木の影の中では濃い。茶色とは陰陽によってこんなにも色の差餓死あるのかと初めて知った。
砂粒や石は一つ一つにそれぞれだけの色や模様を刻み込み、光を放っている。宝石でもないというのに輝く事を止めない。辺り一面に色とりどりの小さなガラスのビーズを撒き散らしたとしても、この大地を表現し切れないだろう。
咲き誇り実る花や木の実、そこら中に生える名も知らない小さな草花さえも特有の色と形を持ち、 鮮やかに、豊かに彩られている。
何度も何度も飽きる事無く辺りを見渡す。
何処を見てもあるのは見たことが無い、知らない色ばかりだ。
そして、 一通り見終わってから恐る恐る・・・『見上げてみる』。
闇色に染まっている空を。
記噫の中に鮮明に在り続ける、いつも、どんな時も、朝であろうと昼であろうと黒い闇に覆われ続けているモノを・・・ーーー。
ーーーーー空は、青かった。
さも当たり前のように透き通り、果てしなく青く輝いていた。
そして当たり前のように黒ではない白い雲が、生まれたての風にゆったりと気持ち良さそうに吹かれ、流されていた。
自分がずっと求めていたモノ。
母に優しい声の子守歌と共に聞かされていたモノ。
夢にまで見て、思い描いていたモノ。
それがすぐ目の前に広がっていた。
幼い頃、天井にあるあまり大きくない四角い窓からしか見た事が無かった黒い空。シタヤと母と精霊達が話してくれた闇に覆われる前の空の物語。
毎日、毎時間、刻々と刻まれる時の流れと共に変わる、鮮やかで美しい空の色の変化。 想像するだけで心が歓喜に震えたのを今でも覚えている。
この目で見てみたい、大好きで大切な『両親』に見せてあげたいと、ずっとずっと思っていた。
メーディエと出会う前までは、この想いだけが本当は脆く壊れやすい自分の精神を支えていた。
でも、如何してだろう。
思い描いていたモノなのに、長い時の中ずっと、それだけを求めていた筈なのに。
如何して、何故こんなにも、こんなにも涙が出そうになるほどに『寂しい』と感じてしまうのだろう。
如何して『違う』と、心が何度も叫ぶのだろう。
この空が『違う』というのなら、自分は今、何を求めているというのだろう。
ーーーライ
風が・・・花の甘くも優しい香りを含んだ風が、言の葉を運ぶ為に、想いの葉を届ける為に、身体全体を撫でて通り過ぎていく。
ーー私はずっと、貴方の傍に居るわ
声が総てを包み込み、体内に浸透していく。
風と声に応えて、自分が目覚めた瞬間が古来の記憶を呼び起こすように断面的に思い出された。
自分は捜していた。
無意識のうちに。
いつもなら目の前に、もしくは自分のマントの中に猫のように丸くなって眠っている者の姿を、体温を。
安らかな寝息をたてている筈の者を。
目で、手で、耳で。身体全部を使って、捜していた。求めていた。
ーー・・ライ、待ってるから・・
顔を片手で半面だけ隠し、木にもたれ掛かってからもう一度空を見上げる。
青く澄みきった空は、やはり『寂しい』と思えた。
考えてみれば当たり前の事だ。
たった独りで見上げているのだから。『寂しく』感してしまうのは、それ以外の感情が浮かんでこないのは当然と言える事なのだ。
彼女と、『メーディエ』と共に見上げなければ、折角のこの果てしない空も存在と意味を持たない。
笑いが、体の奥から込み上げて来る。
笑わずにはいられない、押さえられない。
こんなにも自分が『誰か』に溺れてしまうなんて思ってもみなかった。
母の時とは違う、心を大きく占めている喪失感。今ならきっと、あの時母を失ったシタヤの気持ちが、手に取るように分かる気がする。
ライティエットは上に上げていた顔と視線を真っ直ぐ前へと戻した。気持ちが落ち着いて、頭がこの空のように広く、隅々まで晴れ渡っていく。
もう、迷う事は無い。
自分のすべき事、したい事、求める事は、ただ一つなのだと分かったのだから。
遅くなりましたが、最終夜始まりました!!
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