8-6
道具は核を保存する為に作られたこの世でたった一つしか無い魔法道具だ。
この中で保存せずに核を長時間外気に触れさせていると、自然に風化し、魔力も大地へと流れて吸収されて行ってしまう。
「これで、 こちらの準備はほぼ終わったな。 あとは 『人身御供』 が来るのを待つのみだ・・・」
「楽しみだわ。 実を言うとあたし、カラーリア様に呼ばれてから胸の高鳴りが一向に治まりませんの」
カラカラと心底楽しげに笑いながら、首のチョーカーの先に飾られた石についていた血を拭う。
「フフフ、そうか。だが、それは妾とて同じよ。こやつの心が奴を受け入れた事で強くなってしまい、封印のほころびが修復され始めた時はさすがにどうしたものかと思ったものだが。好都合にもイヤリングが壊れ、その状態で馬鹿な事に『ラナスの聖迷林』に足を踏み入れてくれた」
「お陰で、封印の弱まった隙にカラーリア様は、私とお父様にお声を飛ばす事に成功した・・・」
マルクスはカラーリアの膝に置かれ、今も白魚のような美しい指先で撫で続けられている父親の首を見る。何とも言えない感情が湧き上がって来るが、今はそれを表情には出さなかった。
「・・・カラーリア様を目の前にして言うのもなんですが、 ここまでメーディエがマヌケだとは思いませんでしたわ」
「別に構わぬよ、妾もそなたと同意見なのだからな。・・・ところでマルクスよ。妾の声に答えてくれたのはありがたい事だったが、良いのか?中身は妾でも身体は憎き恋敵であろう?」
カラーリアの言葉にマルクスは表情を曇らせる。
けれどそれは一瞬だけで、胸の石を握り締めると真剣な顔つきで言い放った。
「カラーリア様、あたしは今は亡き愛しいルーフェン様の夢を代わりに叶えたいのです。ですから、身体がメーディエであろうと何であろうと構いません。ディルクファームにとって唯一無二の女王・カラーリア様。貴女様にお仕えする事こそがルーフェン様の夢だったのですから。それにカラーリア様はあたしの憧れのお方、無理などしていません」
そして、言葉には出さなかったが、密かにこうも思っていた。
ルーフェン様を殺したお父様を殺せたのだから。
例えそれが一時的な死だったとしても・・・。
元から父親であるデミルスの事は好きではなかった。頭を撫でてもらった事も、抱き上げてもらった事も、優しい言葉をかけられた事も無い。
『愛情』と名の付くモノをもらった事など一度も無かった。
貰えなかった理由は既に解り切っている。
自分が父親の心から愛した人の核を身体に受け入れる事が出来なかったからだ。ただそれだけの為にこの世に産まれ、何不自由なく育てられてきたというのに、それが出来なかったから。
今でも鮮明に覚えている。
父親が自分を見る眼差しはいつも、どんな時も
ーーお前も駄目か・・・。
冷たかった。
◆◆◆
夜明けが、訪れる。
それはフェスティア大陸の住人全てが、願い、切望し、諦め、それでもいつかはと夢見た、真の夜明け。
誰も知らない。
これが、始まりの夜明けであることを。
これが、終わりの夜明けであることを。
どちらでもあり、どちらでもない夜明け。
本当の意味でどちらになるかを決めるのは世界を創りし神でも、大陸を任された世界樹でも、復活した黒き大陸の女王でも無い。
白い葉を落とし、朽ちかけ、範囲を極端に減らした聖域。そこで眠るたったひとりの男が決める。
世界の命運がその身にかかっていると眠る男は知らない。
ただ目覚めと共に自覚する。
後戻りが出来ないことも、自分がなにを望むかも。
全ては男の、ライティエットの選択次第。
世界に光が溢れる。
輝き、色彩を取り戻した世界でライティエットは目を覚ました。
第八夜 END
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