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※注意※

少々グロい描写があります。苦手な方はご注意下さい


 一度言葉を止め、ふうっと儚く息を吐く。自分の頭を肩に凭れさせたままの状態で少し潤みを含んだ瞳だけを動かし、男の顔を見上げた。


「それに、妾の老いた姿など見せとうない」


 時さえも入る余地が無い程に重なり合い続ける、血の赤と黄金に光る視線。男は視線を外さないまま力強く、自分よりも細く小さい身体を引き寄せて抱き締め、耳元で言葉を囁き聞かせた。


「貴女様のお身体は必ずや我が見つけ出しましょう。貴女様に見合う、強大な魔力を秘めた美しくも強い身体を。そして来世で、ご自身の長き夢を今度こそお叶え下さい」


 男は服の裾から刀身の細長い銀色のナイフを取り出した。抱き締めている腕の中に収まりきる背中を、ナイフを持ち直してから深く突き刺し、すぐさま引き抜く。

 そして傷口に長い指先を一本一本丁寧に入れ込んでいき、体内を彷徨わせた。手が動くたびに濡れた生々しい音が部屋中に響き渡り、身体が指の動きに敏感に反応して痙攣を起こし、血がボタボタと流れ出て真っ赤な水溜りを作る。

 体内を探らせていた指先が骨とは違う固い物に当たった。男はそれに触れ、感触を確かめ、微笑んで握り込み、そのまま手を身体から引き抜いた。

 ロと傷口から大量の血の塊が吐き出され、男の服やマント、床に置かれた様々な道具達を赤黒く染めていく。男は自分で立つ事が出来ずに倒れそうになる身体を優しく抱き留め、血がべっとりとついた唇に己の唇を深く重ね合わせた。

 そして名残惜しげに唇を離し、支えている身体を魅入る。


 これほどまでに血色の似合う者はこの方以外に居はしないだろう。紅い血化粧を施された我が愛しの君はなんと妖しく美しく、妖艶という言葉そのものを醸し出しているのだろうか。


 男は少しずつ冷たくなっていく身体の残り少ない温度を確かめるようにしながら、最後となる愛撫の印を首筋や鎖骨に残していった。


「ゴホッゴホッ・・・お主に、殺されるとは・・はあ・・わら、わは・・・幸せもの、だな・・・」


 咳き込んで血を吐きながらも切れ切れに発せられる言葉を耳にして、瞳と口元に美しい笑みを刻む。


「・・・再び・・・会えたとき、また・・わらわを・・抱きし・・て、くれ・・・デミルス・・・」

「ええ、必ず。それまで・・・暫しの別れです。カラーリア様」



 意識は此処で途切れる。

 そう、自分はこうして死んだのだ。忠臣であり愛する者であったデミルスの手によって。


 何とも懐かしい夢だ。

 あの時の唇の感触は、今だ鮮明に覚えている。

 変わらぬ感触を感じたい為に彼の唇を指先で触れ、形をなぞってから自分の唇を重ねた。変わらない、けれど違うとすれば温もりが無いというだけか。色も、もう青く染まり切ってしまっている。

 それでも愛しくて、何度も何度も重ね続けた。

 琥珀色の短髪に、褐色の頬に、夢で彼がしてくれたのと同じ首筋に。深い思いを込めてキスをしていく。

 返してはくれぬと分かっていながら。月の光が遠慮がちに降り注がれている窓辺に座り込んで。

 長くも短かった、あの『夢』の時を再現するように。




「失礼致します、カラーリア様」


 ノックと共にマルクスは部屋に入った。そして中の様子を見て、息を飲む。

 部屋はあまり広くはない。けれど綺麗に整頓され、花や装飾品も数多く置かれた淡い色を主とした寝室だ。

 灯りとなる物はあるのだけれど、どれにも火の灯りも人工の光も宿されていない。なのに、部屋の中は不思議にふわりとした柔らかく感じる光に包まれている。

 光源となっているのは窓から見える儚げな月光と、月に照らされた二色の髪。元から光を放っている琥珀色と、月光によって更に輝きを増した金色がかった紫色だ。

 幼き頃に何度も寝物語として聞かされていた父親とカラーリアの恋物語が、今まさに自分の目の前で再現されている。血で汚く汚れてしまっている自分がこの場所に居て良いのだろうかと、正直本気で困惑してしまった。

 神秘的過ぎて、近寄り難い雰囲気が辺りを覆い尽くしている気がしてならない。


「フフフ・・・。如何したのだマルクス?そんな入り口では遠かろう?遠慮せず此方へ来ると良い」


 呆然と見惚れていたマルクスの様子にカラーリアは笑いながらも手招きする。金縛り状態にあったマルクスはかけられた言葉によって我に還り、慌てて返事をしてカラーリアの元へと小走りで近付いた。


「その姿を見ると"食事"は終わったようだな。美味だったかえ?」


 血で真っ赤に染まっているマルクスを間近で見て、微笑んだままカラーリアは問うた。


「ハイ、とても美味でございました。さすがはお父様の血肉ですね。しかし、本当に宜しかったのですか?あたしだけが全部食してしまって」


 申し訳無さそうに答えるのだが、カラーリアはやはり変わらず微笑み続ける。


「構わぬよ。血肉にも多少なりと魔力が宿っておるのだからな。これ以上力をつけてしまったら、折角デミルスが用意してくれたこの新しい身体が壊れてしまうわ」


 確かに、と肯定の言葉を小さく笑って零してから、マルクスは片方の膝を床につけて、まだ血のついた両手をカラーリアに向けて献上するように差し出した。

 彼女の手の中には親指くらいの大きさの多層結品体があり、儚くも美しく感じる黒い金色の輝きを放ち続けていた。


「お受け取り下さいませ。・・・お父様の『核』でございます」


 核は自らの光と月光を反射させ、マルクスの掌とカラーリアの顔を七色に照らす。


「あぁ・・・ありがとう・・・」


 受け取ると共に今までキスをして宝物のように腕に抱いていたデミルスの頭部を膝の上にそっと置く。核はカラーリアの手に収まったのが嬉しいのか、より一層美しく輝いて見せた。


「あぁデミルス・・少しだけ・・・少しだけ待っていておくれ。そなたが妾の身体を作ってくれたように、今度は妾がそなたの身体を準備してやるからな」


 優しく、愛おしそうに何度も唇を触れさせてから、横に置いてあったランプの形をした魔法道具の中に核を入れ込む。

 水が入っている訳でもないのにポチャンという水中に落ちた音がして、核は輝きを緩めぬままゆっくりと底へ落ちて行った。カラーリアはそれを確かめてから蓋を閉め、少し名残惜しげに錠をかける。カチリと軽い音が静かに響いて、部屋の闇に吸い込まれた。

 カラーリアは道具の四隅に飾られた赤、青、黄、緑の四色の宝石に触っていく。すると、宝石は淡い光を宿し、その光達に導かせながら核はゆっくりと中心のところまで浮き上がってきた。最後に蓋についた半透明の黒い宝石に触れて一言だけ魔力を込めた言葉を口にすると道具自体が淡く発光し、その光が収まる頃には核も光を弱めていた。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。


もしよかったら、下の、★★★★★の評価を押していただければ今後の励みになりますので、よろしくお願いします。作者をお気に入り登録や感想なども、していただければとても嬉しいです!

何卒よろしくお願いします!!!


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