表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/85

8-4


 両大陸の戦争はカラーリアの予想に反して長く続いた。


 聖都エスティエーラの惨劇を皮切りにディルクファーム側の一方的な蹂躙が行われたが、予想よりも早く、そして強く、クリエストラ側の反撃が見られたからだった。

 カラーリアがその手で火を点けた世界樹は巨木故の水分量によりなかなか燃えきらず、更に迅速な消火によってその命は守られた。そして亡くなった教皇ハインカーシェの跡を継いだ枢機卿『ミンスハエラ』も即座に神聖軍を作り上げ、防衛と奪われた土地の奪還を命じた。

 それでも戦争初期の頃の神聖軍は見慣れぬ化学兵器にどうしても遅れを取っていた。

 だが、さすがは魔法に特化した大陸と言うべきだろう。すぐさま化学兵器の力の源が魔力を込めた魔石だと感知し、理解し、魔石を自動認識自動追尾で狙う魔法を編み出して反撃の勢いを強めていった。


 しかしその反撃は、カラーリアの予想の範囲内だった。クリエストラ側の軍の編成も、魔石を狙う新しい魔法の開発も。


 予想の範囲外だったのはクリエストラ側の魔力量と創造神達の介入だった。


 両大陸の魔力融合実験に置いて、クリエストラの民の魔力量は事細かに調査した筈であった。故にクリエストラ側の魔力を上回る十分な量の魔石と化学兵器を宇宙間トンネルを作っている間に出来うる限り量産し、魔力を空気中に産み出す世界樹も傷つけることで魔力の回復力を落とした。

 それなのに、クリエストラの民の魔法力は全く落ちる事は無く、更に創造神達が他の大陸の聖獣達を召喚してクリエストラに加勢までしてきた。


 そうした経緯で戦争はディルクファームの一方的な蹂躙からじわじわと形成逆転していき。遂にはこの戦争に置いて最も重要だった宇宙間トンネルが破壊されてしまった。


 もちろんディルクファームにはまだ宇宙船という技術がある。

 だがそれは魔石の自動認識自動追尾の魔法で簡単に落とされてしまうもの。感知されないように偽装を解こすことも可能だが、そうでなくとも数多の聖獣と魔法という叡智の前では宇宙船など空から飛んでくる巨大な的でしかなかったのだ。


 そしてトンネルが落ちて2つの大陸の繋がりが無くなったのを確認した創造神達は、ディルクファームを大陸ごと宇宙の遥か彼方へと飛ばした。

 200年以上続いた両大陸の戦争はこうしてクリエストラ側の勝利として幕を閉じたのであった。








 ーーカラーリアは、諦めなかった。


 広大な宇宙の彼方へ飛ばされても、クリエストラを、いや、この宇宙全てを手に入れる事を。


 世界樹達と創造神達がその執念を知ったのは残念な事にフェスティア大陸が闇に覆われてからだった。彼女の尽きぬ執念と、彼女を崇拝するディルクファームの民の忠誠心を、完全に読み違えていた。

 いや、誰が大陸ごと遥か宇宙の彼方に飛ばされて尚、足掻き、牙を向けてくると思うだろうか。


 神々が聖獣を召喚した時の魔力と、ディルクファームが大陸ごと移動させられた時の魔力を記録・研究した彼女は、宇宙間を移動出来る魔法を組み込んだ宇宙船を作り上げ、数多の大陸に自分の配下を送り込んでいたのだ。

 そうしてカラーリアは次のクリエストラ大陸侵略の準備を着実に備えていった。それなのに、彼女の姿はフェスティア大陸を侵略したディルクファームの民『魔族』の中にはなかった。



 彼女には頭脳があった。

 能力があった。

 地位があった。

 財力があった。

 多くの配下がいた。

 信頼出来る忠臣がいた。


 ただ、『時間』だけがなかった。




◆◆◆



 闇を切り裂き、逆に闇を濃くもする人工的に作られた自然では在り得ない光達。

 光り続ける物も在れば、消えては光りを繰り返すモノ、長く伸びて走り、帯を作りながら地を照らし、また暗い闇に戻したりしている光もある。そびえ建つ硬質な建物は縦に細長く、何本もの大小様々な枝で一つ一つが繋がっている。それは森の木々を思わせるほど密集していた。

 下から見上げれば枝は蜘蛛の巣のように見えなくもないだろう。地面は草も土も無く無機質に整備されていて固く、宙には筒状の道がいくつも浮かび、帯や円の形をした光を建物の中から排出したり、取り込んだりしていた。


 細く固い鉄の枠に細かで華やかな薔薇の装飾を施された大きなガラス窓の向こうで、懐かしき故郷の姿が眼に映し出されている。


 分かっている。

 これは『夢』だ。


 遥かなる昔、己の心の奥底に眠らせておいた大切なモノの中の一つ。

 多くの思い出達の中で一番鮮明に、今だ色褪せる事無く、忘れるなど在り得ない最後の記憶。


 自分が居るのは無駄に広くて、薄暗い自室の窓辺。部屋の天井に備え付けられた花弁の多い花でデザインされた繊細な装飾のシャンデリアには火が灯されておらず、それでも外から注ぎ込まれる光だけで中の様子が暗いながらもはっきりと見てとれた。


 乱雑している。

 お世辞だとしても綺麗に整頓されているなどと言う言葉は出てくる事はない。最新の魔法機具や古びた書物が壁に設置され天井まで届く巨大な本棚と机の上、床までも占領しきり、足の踏み場も無い状態になっている。磨けば青白く輝く大理石の床と、机の下に敷かれている白金糸で刺繍されたふかふかのカーベットが見えるまで片付けるのに、早くても一週間以上はかかるだろうか。

 まあ、元から片付ける気などありはしないのだけれど。

 じっと懐かしみながら外の景色を眺めていると、一面に小さな魔法文字が黒い絵柄として掘り込まれた大きな扉を叩く音が耳に届いた。

 いちいちノックなどしなくても相手から放たれる微かな魔力が扉の魔法文字に瞬時に感知され、反応に値する者だと勝手に開くようになっているのだが。何度言っても、扉の向こうに居る人物はノックを止めようとはしなかった。そして当然の如く、入って良いという言葉が返って来なければ扉が開いても人って来ないのだ。

 あまりにもこの人物らしい行動というか性格というか、つい笑みが零れてしまう。


「ふふふ、入れ」

「ーー失礼致します。ご機嫌は如何でしょうか、我が君」


 優しい笑みを此方に向けながら挨拶をして中に入って来るのは、整った美しい顔つきの男だ。

 見た目は三百歳を超えた辺り(人間で言う三十前半)で、濃い褐色の肌に琥珀色の柔らかな短髪と黄金色の瞳が色濃く映え、黒い軍服型の衣装と深緑のマントが更にこれらを引き立てている。両耳の上から生える角は美しい曲線を描き威厳という言葉を宿していた。


「何を笑っていらしたのですか?」

「いや、お主の癖はいつまで経っても治らぬままかと思ってな。・・・そこでは遠いぞ。もっと、近くに来てはくれぬのか?」


 甘え誘うように少し切なげに囁きながら、足元近くまで伸びた濃い金色がかった紫の髪を色っぽく手で流す。

 それに誘われるように男は足の踏み場も無い筈の床を慣れた動作で歩んで行き、自分のいる窓辺まで通り着いた。片膝を床につけて座り、床に触れてしまいそうになっている髪を掬い取って、己の唇を触れさせる。


「今宵もまた、貴女様は夜空に瞬く星々より美しい。しかしこの美しささえも永久(とわ)はないのですね・・・」

「ああ、そうだな。永久のモノなどこの世に在りはしない。妾にも、老いが訪れる」


 男を立ち上がらせ、そのしっかりとした肩にゆっくり凭れ掛かると自分の手の甲部分を食い入るように見詰める。薄っすらとではあるのが、白く透き通った素肌にいくつか消えそうに無い皺が刻まれていた。

 老いの兆しが体内の衰えから身体の表面にまで出始めているのだ。厳しい現状に表情が嫌でも曇る。

その手と細い肩を男は優しく包み込んで、手の甲の部分にそっとキスを落とす。


「老いるというのは本当に耐えられぬ事だ。魔力や知識があっても、身体が少しもついてこられぬなら意味が無い。 このままでは宝の持ち腐れと言うものよ。それに・・・」




ここまで読んでくださってありがとうございます。

誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。


もしよかったら、下の、★★★★★の評価を押していただければ今後の励みになりますので、よろしくお願いします。作者をお気に入り登録や感想なども、していただければとても嬉しいです!

何卒よろしくお願いします!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ