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ディルクファームの世界樹の絶望と消失は他の大陸の世界樹に多大な影響を与えた。
感情共有による数年間の災害は勿論だが、産み落とされた『命』がどうなったのかが今後一切情報共有されないという事が世界樹達には初めての事で不安を呼んだのだ。
だが、ディルクファームの最も側にあり、最もその憎悪を受け取ったであろうクリエストラの世界樹は落ち着いていた。
凪のように静かに、憂なく、静観を貫く姿勢に他の世界樹達は落ち着いていった。そして唯一ディルクファームの様子を見ることが出来るクリエストラの世界樹に全てを委ねたのだった。
ーー・・・それから10年、20年と時は過ぎていった。
あの激震が嘘だったかのように特に変わりなく、しかし様々な文明が大陸事にそれぞれの特色を持って花開かせながら、日々は緩やかに過ぎていった。
そうして、100年が過ぎた頃ー・・・クリエストラの世界樹が揺らいだ。
それはとても僅かで、ヒトで言うところの小さな『驚き』のようなものだったのかもしれない。けれどもあの凪の如き落ち着きを持ったクリエストラの世界樹が揺らいだ事は他の世界樹を大きく驚かせ、即座の情報共有が求められた。
少しの間があって、帰ってきた情報は一つ。
『命が、ディルクファームの王となった』
たった一文だが、それだけで他の世界樹は全てを察した。
『命』とは、ディルクファームの世界樹が産み落とした最後の命のことだ、と。
その『命』は、母たる世界樹から受け継がれた知識と強大な魔力を武器に一からのしあがり、少しずつ仲間を集めてクーデターを起こしたのだ。
そしてそのクーデターは見事に成功。血筋による絶対王政を貫いていたディルクファームの王を排除し、自らが王となってディルクファームの頂点に君臨したのであった。
ディルクファームはどうなってしまうのかと世界樹達が心配する中、意外な事に『命』は善政を行う良き王だった。
階級を残しつつも優秀な人材を率先して雇用する政策を皮切りに、科学技術による空気汚染や土壌汚染の改善を推進、優秀な人材を育てるための学校の増設・無償化、各地域で不足気味であった病院の設立、新たな魔法の開発、科学技術と魔法技術の融合ー・・・などなど。
階級による格差・大陸全域の汚染・少子化が特に問題となっていたディルクファームはこういった政策によって一気に改善された。
平民達からの支持は当然のように高く、特権階級の者達もクーデターの協力者達を置いた事で反発どころか更に支持を上乗せするだけと言う状態。
誰も彼もが『命』を支持し、尊敬し、敬愛し、崇拝した。その様は、一つの宗教が誕生したと言っても過言ではなかっただろう。
最早『王』などと言う称号で収まる話ではなく、『神』の如き存在として『命』は、【カラーリア】はディルクファームの中心となったのだ。
【カラーリアこそディルクファームであり、
ディルクファームとはカラーリアのことである】
王として君臨し、民からそう言われるようになるまでたったの数年。
ひとりきりで産まれたカラーリアは、ディルクファームの『神』に、『世界樹』の存在に返り咲いたのである。
それは、カラーリアの産まれた時にあったであろう願望が、絶望した世界樹が渇望したものが叶った瞬間であった。
けれどカラーリアの心は、なぜか、満たされることはなかった。
満たされぬ理由が分からないまま、カラーリアは進み続けた。そして遂に魔法と科学を完全融合させた『魔科学』の確立に成功。
それにより、絶対不可能とされていた大陸間の移動を可能とする魔科学技術の結晶とも呼べる『宇宙船』を作り上げた。
まだ鏡合わせであるクリエストラとの距離での行き来が限界であったが、それでも創造の神々ですらこの世界の者達では難しいだろうと思っていたことを成し遂げたのだ。皆の注目が一気にディルクファームに集中したのは言うまでもなかった。
そうしてディルクファームとクリエストラの間で貿易が始まった。
今では全く違う文明を築いているが、元は全く同じ進化を遂げていた大陸だ。お互いに懐かしい物、目新しい物とを分け合い、交換し合い、それぞれの良いところを学び合い。
これから友好な関係であろうと盟約までなされた。
その後も順調に両大陸は仲を深め、互いの大陸を直接繋ぐ宇宙間トンネルの建設や、互いの魔力の融合は可能かの実験が行われたりもした。
残念ながら魔力の融合は上手くいかず、なかなか良い結果が得られずに実験は停滞を余儀なくされた。
だが、代わりに宇宙間トンネルの建設は順調に進んでいた。
もちろん宇宙間と言う未知の空間での作業は難航を極めた。時間も費用も当初想定していたものより増えに増え、莫大なものとなっていた。
それでもこの偉業を完遂させる為に、貿易開始から150年の節目の年に間に合うように、と。両大陸の総力を上げて工事は着々と進められた。
ーーそうして両大陸間での貿易が開始されてから160年目。
皆が願った150年は残念ながら少しばかり過ぎてしまったが、それでも両大陸を繋ぐ宇宙間トンネルは完成した。
トンネルの完成は両大陸で盛大に祝われ、彼方の世界樹達や創造神達もこの快挙と偉業を前に歓喜に震えたという。
そして祝いの席でこの偉業を成したディルクファームの女王カラーリアとクリエストラの教皇『ハインカーシェ・クリエストラ』とが初めて顔を合わせた。2つの大陸の王は握手を交わし、これからも続く友好関係を大陸中に示したのだ。
それはカラーリアが完成した宇宙間トンネルを史上初めて渡りきり、クリエストラ大陸の聖都エスティエーラの中心、偉大なる世界樹の前で行われた記念すべき瞬間であった。
まさにその瞬間、世界樹は絶叫した。
ディルクファームの世界樹の絶望と同じ、いや、それとは違う絶対的な恐怖と悲痛の叫び。
そして同じようにクリエストラの民も絶叫した。
握手を交わし、この場所に集まってくれたたくさんの民に対して笑顔を向けた教皇の首が飛んだ。笑顔のまま、舞台の上に血の花を咲かせて転がったのだ。
更に民が現状を理解する前に世界樹から火の手が上がった。それを至極楽しげに、笑い声をあげて見上げるのは舞台上にいたカラーリアただひとり。
その声を引き金に、世界樹とクリエストラの民は絶叫し、控えていたディルクファームの民が牙を剥いた。
阿鼻叫喚の地獄絵図とは、まさにこの状況を言うのだろう。燃える大樹を背に、逃げ惑う白い民と魔法と銃火器で蹂躙する黒い民。
両大陸の友好を示す場でのカラーリアによる宣戦布告。
両大陸の長い長い戦争の歴史はこうして始まったのであった。
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