8-2
無限に広がる宇宙が出来上がった時、そこには何もなかった。
創造の神々はそこに、無数の『塵』をばら撒いた。
塵は少しずつ集まって形を成し、皿のように平らな丸いものが宇宙のあちこちに出来ていった。
ひと柱の神が戯れに、その皿のようなものに己が力を込めた種を一つずつ植えた。
種は植えられた皿のようなものを大地とし、己が育ちやすい環境を自ら作り上げていった。
種が芽吹けば、土ができて水が湧き。
葉が生えれば、風が吹いて大地を動かし。
枝や根が伸びれば、山ができて川が流れ。
幹が伸びて花が咲けば、風に吹かれて落ちた花びらから草木が芽吹いた。
そうして、種が立派な『世界樹』と育った頃。
多くの皿の大地が『大陸』と呼ぶに相応しい独立した世界へと進化していった。
そんな数多の大陸の中で、他とは明らかに違う大陸が2つあった。
他の大陸はそれぞれが観測出来ないほど遠く離れているというのに、その2つの大陸はまるで鏡合わせのようにぴったりと向き合って存在していた。
しかも世界樹が成長する速度も同じ、芽吹く植物も同じ、大地の形も同じだった。
ただ違うのは『色』だけ。
1つは光溢れる白色。
1つは闇に染まった黒色。
形は同じでありながら色だけが違う2つの大陸は、そのままお互いを似せ合うように成長し、最後に世界樹が同じタイミングで果実をつけた。
その果実には『命』が成っていた。
大地に受け止められた実は動物を産み、水に受け止められた実は魚を産み、風に乗って空を舞った実は鳥を産み、草花に受け止められた実は虫を産んだ。
それらの生き物もまた、2つの大陸は同じものでありながら色が違った。
白い大陸の生き物は白がメインとなった淡く薄い色合いのものが多く。
黒い大陸の生き物は黒がメインとなった鈍く濃い色合いのものが多かった。
そして数多の生命が大陸に溢れた頃、世界樹は果実の中から『ヒト』を産んだ。
産まれた『ヒト』には鳥のような翼が背中に生えていた。
当たり前のように白い大陸のヒトは翼が白く淡い色で、黒い大陸のヒトは翼が黒く濃い色だった。
ヒトは動物と共に大地を駆け、魚と一緒に水を泳ぎ、鳥と共に空を舞い、虫と共に草花を愛でた。
世界樹は生命の実を成しながら、呼吸と共に空気に魔力を混ぜ、同時に精霊を産んだ。
そうして命が巡るシステムが出来上がっていく中で、少しずつ大地を、大陸全土をヒトを中心とした生命達に任せ始めた。そのタイミングも、2つの大陸はほぼ同じであった。
空気に満ちた魔力と精霊達の力を借りてヒトは『魔法』を編み出した。その魔法で火を灯し、獲物を狩り、大地を耕し、文明を築いていった。
2つの大陸は色が違うだけで、それらすら同じだった。
ーー同じ筈だった。
だが2つの大陸は少しずつ、けれども着実に、全く違う道を歩み始めた。
恐らく明確な違いが現れ始めたのは、生活の基盤とも言える魔法の扱い方からだっただろう。
白い大陸のヒトは癒しや防御を目的とした魔法を多く使うのに対して、黒い大陸のヒトは破壊や攻撃を目的とした魔法を多く使い出した。更に黒い大陸は魔法以外の道具も多く作り出し、自分たちの生活をより便利に、快適にしようと身の回りだけでなく、大陸全土を開発していった。
その頃から、黒い大陸のヒトは性交によって子を増やしだした。世界樹はそれを受け入れるかのように生命の実を宿す数を年々減らしていった。
そうして、大陸が生まれてから幾星霜・・・。
あんなにそっくりだった2つの大陸は、相変わらず鏡合わせの位置でありながら、全く異なる大陸へとなっていった。
創造神と世界樹を崇め、教皇を中心とした宗教大陸。精霊を友とし、魔法を生活の基盤として発展させた白き大陸、名を『クリエストラ』。
ただ1人が王を冠し、ヒトが全てを支配・君臨した絶対王政の大陸。魔法と科学を基盤として発展させた黒き大陸、名を『ディルクファーム』。
鏡合わせの2つの大陸は、最早同じものなど皆無な全く別の大陸となったのだった。
ーー・・・そんなディルクファームの王都の片隅。
数多の生命を産み出し、けれど今を生きる命達に忘れ去られた世界樹がそこにあった。
周囲は開発に開発が進み、最早根元以外に土すら無い状態。昔の雄大で世界の中心そのものであった頃の面影も無く、葉も枝も殆ど落ちてしまったその姿は、ただ、朽ちるのを待つばかりとなっていた。
世界樹は見上げる。
己よりも高い高い建造物達の隙間、わずかに覗く空を。その更に向こうの宇宙を。
鏡合わせの、白く輝く大陸を。
世界樹は繋がっている。
全ての大陸の世界樹は、元は一つであったから。数多に分かれ、出会うことも叶わぬ果てにいようとも皆、繋がっている。
だから分かる、分かってしまう。
他の世界樹は皆、生きている。産み出した生命達に忘れ去られることなく、その周囲に温かな生命の温もりが途絶えることも無い。
命に、愛されている。
特に鏡合わせにあるクリエストラの世界樹の、なんと幸福に満ちたことか。
同じである筈なのに、同じであった筈なのに!!
世界樹に、ある筈のなかった感情が芽生える。
『憎悪』
世界を呪わんばかりのそれは他の世界樹に伝わり、それから数年間、全大陸が天変地異が起きたと思われるほどの災害に見舞われ、荒れに荒れた。
唯一、ディルクファームだけはそんな災害が起こることは無く、代わりに世界樹が数百年ぶりに生命の実をつけた。
世界樹の全てを込められて実ったそれは、宇宙の闇よりも更に深い闇色に染まっていた。
見れば狂ってしまいかねないほどの色と存在は、幸運なことに、既に忘れ去られた世界樹に関心を寄せる者がいなかったことで被害が出ることはなかった。
だが不幸なことに、数百年ぶりに産まれた生命の実は全く気付かれる事なく成熟し、誰に気付かれる事なく最後の命は産まれ落ちた。
母である世界樹はその瞬間に朽ち果てて崩れ去り、命は、誰に祝福される事なく、母の憎悪だけを宿して誕生してしまった。
命は周囲を見渡し、背中に生えた4つの翼を広げて飛ぶ。
一瞬にして高い高い建造物の上に降りて見下ろせば、産まれた命に気付くことなく、空気を汚し、魔力を貪り、己で己の首を絞める愚かなディルクファームの民が見える。
そして命は見上げる。
眼前に広がる空を、その更に向こうの宇宙を。
鏡合わせの、白く輝く大陸を。
美しいその大陸が、黒く染まる姿を夢想して、命は笑った。
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