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7-6

2025年初投稿です。今年も宜しくお願いします!


前の「7-5」の最後に文章を少し追加しています。

短い文章ですが、読み直して頂けると幸いです。





「メーディエの・・・事?」


 清らかな風が吹き、辺りの木々を静かに揺らす。白い落ち葉と共にふわりと舞い上がる黒銀の髪の下で、右の黒い金の瞳が微かに鋭い光を帯びたように見えた。


『えぇ、単刀直入に申し上げましよう。メーディエ殿は貴方と同じ存在です』


 思考が、停止しそうになる。

 頭が一瞬真っ白になって、何も考えが浮かばず、ただカリュシェードの言葉だけが何度も繰り返された。


「今、・・・なんと?」

『貴方と同じ存在だと申したのです。メーディエ殿もある人物の次の身体なのですよ』


 頭の中で、妙な事が起きている。

 脳の半分は理解しようと懸命に動き、もう半分は認めたくないと、理解したくないと叫び、思考の妨害をして来ていた。

 そんな脳裏に思い浮かんだのはルーフェンの城での出来事。



ーー 妾はこの娘の中に眠るもう1人のメーディエ。真の闇を司る世界の主であり、世界そのものーー



「いったい・・・一体、誰の?」

『それは・・・ーーっ!?』


 言いかけた言葉をカリュシェードは止める。直後、周囲の木々がざわめいた。

 風によって起こるざわめきではない。まるで何かを振り払うかのように、恐怖し拒否するかのように激しく幹が揺れている。落ち続ける葉は黒く変色し、地に触れる頃には粉々の砂になって散った。


『そんな・・・、まさかこれは!!?』

「・・・聖域が・・闇に侵されている・・・」


 ライティエットの言葉を表すかのように、入り口付近から木々がどんどん闇色に染まり始める。根が闇を吸い上げているかの如く、じわじわと。

 入り口付近ー一時間的にまだメーディエが居てもおかしくはない。


『お行きなさい、クロス殿』


 一種の放心状態に陥り掛けていたライティエットをカリュシェードの強い口調が促す。


『行って、真実をその目で見て来るのです』


 背中を押す言葉に大きく頷き、ライティエットはすぐさま走り出す。その止まらぬ彼に向かって、カリュシェードはしっかりとした声音で語りかけた。


『必ず戻っていらっしゃい。その時、総てを話し、私の知る知識で貴方の持つどのような疑問にもお答え致しましょう』


 落ち葉と一部の木が黒く染まった聖域は一気に姿を豹変させる。

 ライティエットはこの変わってしまった聖迷林の姿を、儚いと思うと同時に、不覚にも美しいと思ってしまった。


 白の中の黒とは、なんと互いを映えさせるのだろうかと。


『例え何があろうとも、私はこの場で貴方を待っておりますから・・・』




 入り口までの道はこんなにも長かっただろうか。

 長い筈が無い、走れば数歩で行きつく筈だ。

 なのに、如何してこんなにも長く感じるのだろう。

 過ぎて行く隣接した木々達は、殆どが完全な闇色に染まり切ってしまっている。白色の光が、黒色の光に彩られる。目の前の幻を見せる結界にも黒色の亀裂がいくつも入り込んでいた。

 ライティエットは手を伸ばして、指先を結界に触れさせる。一呼吸遅れて周りの幹から弱々しくなった光が漏れ、本当の入り口へと送られた。

 一瞬だけ光に奪われた視界に、見慣れた薄い黒の景色が広がる。


 ただ一つ違うのは、血の色に似た深い紅色の巨大な立体球型魔法陣が、一人の魔族の女性を囲んで浮き上がっているという事。


 小刻みに生々しい音を鳴らし、描かれた魔法文字が音にあわせて縦横に移動して文字同士の複雑な交差を繰り返している。

 この魔法障は心臟だ。

 音は鼓動、魔法文字の動きは脈。総てが魔法陣の中にいる女性の心臓の動きなのだ。

 女性は自分の体を抱き締める格好で周囲を蠢く魔法文字を少しずっ体内に吸収するように取り込んでいっていた。文字が一つ体内に入る度に、心臟の鼓動を表す音は音量を増して行く。


「遅かったわねぇ。もうメーディエは帰って来ないわよ?」


 声をかけられ、視線だけをそちらに向ける。ライティエットの手には既に、剣が握られていた。


「確か、お前はマルクス・・ ・・帰って来ないとはどう言う事だ?」


 本当は分かっている。

 聞かなくても、理解出来ている。自らを『世界』と名乗った女の存在と言葉が、嫌と言うほど鮮明に思い出されているのだから。


「どうって、言葉通りよ?メーディエは、アンタの所には二度と戻って来ないわ。あそこに居るのは、もうメーディエじゃないもの」

「・・・何をした?」


 素早く剣を抜き、切先と殺気を共に向ける。

 マルクスの背筋に悪寒が走り、汗がじわりと滲み出るが、それでも後退りだけは何とか睨み返す事で食い止めた。後退りなど、自分の高い矜持が許さない。


「綺麗なブレスレットを付けてあげただけよ。あの子の為だけに特別に作られた『魂の拘束』と呼ばれるやつをね」

「無理やり・・・あいつの中に居た者を解放したのか・・・」

「ええ、呼ばれたから」


 『呼ばれた』と言う言葉に疑問を抱く前に、魔法陣の文字が総て女性の体内へと消える。

 魔法陣が消えた事で身体の支えを無くし、大地をめがけて落ちるが、寸前の所でライティエットが受け止めた。

 固く閉ざされていた瞳が開く。 鮮やかな血色の輝きを秘めて、此方を見詰めて来た。

 唇に笑みが浮かんだ。

 その笑みは変わらない、 メーディエの柔らかな微笑みだ。

 ほっと安心の溜め息がライティエットの口から漏れるのが聞こえる。



「また会えたな、ボーヤ」



 何も変わらない。

 声も、 姿も、 微笑みも、 メーディエのモノだ。

 なのに違う。口調はもちろん、纏う空気がメーディエではない。


 ライティエットの腕からするりと降り立った『それ』は足に地が触れる事を楽しみ、声に出して笑う。


「ははは、アハハハハハハ!!やっと、やっとだ!フフフ・・礼を云うぞマルクスよ。よくぞ妾を解放してくれた」


 花のように可憐な笑みをマルクスに向ける。

 驚いた事にマルクスはその場に片膝をついて頭を深く垂れると言う、君主に対してする最高の礼を行っていた。


「礼になど及びません。貴女様の解放の手助けができ、こうして貴女様と言葉を交わせる事が、何よりの褒美で御座います、『カラーリア』様」

「カラーリア・・・懐かしい響きだ。妾の、本当の名前・・・。フフ、ハハハハハハ!!!」


 メーディエが笑っている。至極、楽しそうに。

 なのに、少しも嬉しいと思えない。例え命令され様とも、このメーディエに何かしてやりたいと、一つも思えない。


「フフフ・・・あ、あ〜、すまんな可哀想なボーヤ。そなたは何も知らぬのだろう?妾は今とても機嫌が良いから答えてやるぞ、何が聞きたい」


 幼子に母親が接するような優しい口調で話し掛けてくる。ライティエットは言葉通りに問いを口にした。


「お前は・・、誰だ」


 本当はこんな事を言いたいのではない。

 心の中では言えない叫び声が何度も響く。 声を出すな、笑みを浮かべるな。

 違う、全部が違う。同じだけど、違う。彼女の体だけど、違う。聞いているだけで、行動を見ているだけで、胸が絞めつけられるように痛く、苦しい。


「ふむ、それを聞くならば心して拝聴せよ。妾の名は『カラーリア』。この娘の中で眠っておった魔族の最初で最後の女王である」


 掌がふわりと頬を包み込む。

 細くすべらかで柔らかい指先の感触。あぁ、一緒だ、メーディエだ。なのにどうして違う。


 苦悩の表情を浮かべ続けるライティエットに向かって、『カラーリア』は苦笑に似た笑みを浮かべる。


「・・・そなたには頭と心を整理する時間が必要なようだ。今は殺さずにいてやる、整理が出来たら天上まで来るが良い」

「カラーリア様、よろしいのですか?」


 背中の翼を広げ、今まさに飛び立とうとするカラーリアにマルクスは声をかけた。カラーリアの翼はメーディエの翼に比べて随分と大きく、色が黒でありながら紺にも紫にも見える不思議な色合いをしていた。


「構わぬ、妾達とて準備があるのだからな。ではな」


 目の前で勝手に話が進んでいき、二人の女は話すだけ話してから翼を羽ばたかせ、天女のように空の闇の中へ消えた。


 分からなかった、何もかもが。

 如何すれば良いのかも、何を考えれば良いのかも。

 運命の歯車が、軽快に回り始める。

 足掻く者達を引きずり、抵抗の努力をあざ笑うかのように。



第七夜 E n d



ここまで読んでくださってありがとうございます。

第七夜これにて完結です。

次回は幕間を挟むことなく第八夜に進みますので、どうぞお楽しみに!



誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。


もしよかったら、下の、★★★★★の評価を押していただければ今後の励みになりますので、よろしくお願いします。作者をお気に入り登録や感想なども、していただければとても嬉しいです!

何卒よろしくお願いします!!!


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