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 結局、他にもあーでもないこ一でもないと繰り返していたので、二人が宿に戻った時には闇が総てを覆い尽くした後だった。宝石の方はライティエット達が町に長居はしないと聞いた店主が、急ぎの仕事も入っていないから最優先でやると、遅くても3日以内には仕上げると配慮してくれた。


 町はあれだけ賑やかだった昼間とはうって変わって、夜の静寂が支配している。各家の灯されたランプと酒場だけが唯一明るさを感じる事の出来る場所と言えた。

 夜道を歩む者などやはりこのウェイゼンでも居はしない。

 闇は薄まりつつあると分かっていても、魔族の襲撃が無いと分かっていても、やはり人々は闇が恐ろしいのだ。魔族が操る闇が完全に消えぬかぎり、人間に安息と呼べる夜は来ない。





 次の日の昼。

 二人はウェイゼンから徒歩2時間程かけてある場所に来ていた。

 目の前に広がるのは、この大陸で唯一闇色に染まっていない白い木の幹が立ち並ぶ『ラナスの聖迷林』。

 ウェイゼンの名が各地に轟き、魔族が襲撃して来ない理由がこの林である。

 隠れ里『シアン』を知らぬ人々にとって、そしてシアンが減びてしまった今となっては、ただ一つだけ残る最後の『聖域』となる場所である。

 魔族の侵入は勿論の事ながら不可能。それどころか大陸の住人でさえ最奥にあると言われる『ラナスの泉』まで行く事は叶わない。空を覆う闇の力さえ黒く染める事の出来なかった白く太い幹の木々が、入り込もうとする者を導き、同時に惑わし、入り口へと自然に帰してしまう。空からの侵入も同じ事で、林を覆っている見えない結界に触れてしまうと、何故か入り口に移動させられてしまう。

 だから林に近付く者は殆ど居ない。魔族など、少し離れた町の付近にさえ近付く事が出来ない。


 これはつまり、それほどまでに魔族と相反する力が強いと言う事になる。身体に流れる血の半分だけが魔族であるライティエットならまだしも、純血の魔族で、しかも公爵級かそれ以上の魔力を持つメーディエにとっては林の前に居るだけで相当辛い筈だ。

 重い頭痛と眩暈を感じながら、メーディエはライティエットのマントを掴む。


「ライ・・・此処で待ち合わせ?」

「いや、待ち合わせじゃない。・・・大丈夫か?やっぱり宿で待っていた方が」


 顔を覗き込んで見ると、メーディエはマントの上から腕を掴み、首を激しく横に振って抗議した。


「嫌・・・よ。傍に居るって、言ったんだもの。絶対に、いや・・・」


 ふう、と隣で溜め息が漏れる音が聞こえる。

 呆れられたと思い、メーディエは顔を下に向けてしまったが、実際はそうではなかった。呆れも少し入っていただろうが、ライティエットは微笑んでいたのだ。

 照れながら嬉しそうに。


「・・・分かった。少し、じっとしていろ」


 大きな掌がメーディエの額におかれ、同時に力の込められた言葉がゆっくり紡がれる。


「高責なる護りの光よ。我は彼の者の名を知る者。不要な光は空へと還り、戒めの光は地に去り伝えん」


 黒い手袋をしているのに、ライティエットの手が白い光を放っているのが分かる。メーディエの頭上に浮かんだ白金の魔法陣が光りながら身体を通って行く。それを感じると、頭痛と眩暈が一瞬にして消えていった。


 ライティエットはメーディエの額から離した手を下に下ろさず、そのままの高さで林の方へと向けて更に言葉を紡ぐ。


「我は今比処に現れん。血と意志を受け継ぎ、叶える者。護りの名を聴きて、惑わしの導きは消し去り、我を真実の地へ招きいれよ。かの者の名は『カリュシェード・ラナス・ターエラ』」


 ライティエットの言霊に応える様に白い木々が総ての葉を揺らし、幹の部分は純白の光を発する。

 メーディエはあまりの光に目を開けていられなくて、思わずぎゅっと瞑ってしまった。



 自分達に向けられ、過ぎ去っていく眩い光を追って、風が体を撫でる。温かな、抱き込まれるような心地良ささえ感じる優しい光は風と調和し、強さを落ち着かせてから在るべき場所である白い幹と戻って行く。


「お久しぶりです、カリュシェード殿」


 敬意の込められたライティエットの声で、メーディエは恐る恐る目を開けていく。そして今度は、閉じられなくなった。


 舞い落ちる雪のような純白色が美しい落ち葉。風が無ければ、動く物が無ければ、一枚の風景画と思ってしまいそうになる完璧なまでの自然美。 鮮やか白い色と光に満ちた、此処だけが別世界と思える空間。 白い木に囲まれて沸き出でる小さな泉は、周りの景色を映し出し、少ない陽光を反射させて辺りに撒き散らしている。聖迷林で生きる生命達、いや、この大陸に生きる全ての生命達の源がこの泉なのだと、教えられなくても感じ取る事が出来た。


『おぉ、これはこれは・・なんと懐かしや・・・。以前お会いしたのはどれ位前でしたかな、クロス殿』


 泉の真上に浮かんでいる霧のような蒸気の中から声と言い難い音が響く。随分とこもっている所為か性別の判断も難しい。

 メーディエは頭痛と眩暈が少しだけ甦るのを感じた。


「・・・五年、以上経っていますね」


 蒸気が集まり、塊となって形を作ると、泉の水が形の線に沿って覆い被さるように膜を張り始めた。水の膜は映る景色の色を貰い、蒸気は形と同時に色の鮮明さを増していく。


『もう五年・・・ですか。月日が経つのはなんと早いのでしょう』


 懐かしさを噛み締めるような、じわりと心に響く音。カリュシェードが完全に姿をかたどると音のこもりは無くなり、はっきりと聞き取れる声となる。

 メーディエはカリュシェードの姿を見て息を飲んだ。驚きよりも、光に溢れた美しいさと神々しさに。

 翡翠の瞳を持つ白緑色の翼竜。

 大きさは泉に下半身が沈めている為に分からないけれど、身長が2メートル近くあったシタヤの倍はあるだろう。背中に生えた四枚の翼は緑から白へと薄まりながら染まり、触角のような細く長い角が目元まで垂れ下がっていて先には深い翠色の結晶がついている。体毛は頭から背中にかけては髪のように細く長い毛なのだが、腕や胸の辺りは光沢のあるすべらかな半透明の鱗が覆っていた。


『あの幼かった貴方がこのように立派に育ち、可愛らしいお嬢さんを連れて来るなんて・・・。サァーラ殿にも見せてあげたかった光景です』

「・・・カリュシェード殿、からかわないでくれないか」


 少し困った様に眉を顰めるライティエットを、カリュシェードは目を細めて微笑む形でさらりと流す。


『あぁ失礼致しました、わたくしとした事がご挨拶が遅れてしまいましたね。初めまして、可愛らしい魔族のお嬢さん。わたくしはカリュシェード・ラナス・ターエラ。クロス殿の母上、サァーラ殿とは友人の仲でして。あ、どうぞお気軽にシェードとお呼び下さい』

「は、はい、初めまして!メーディエと申します!!」


 慌てて挨拶を返すメーディエ。

 頭痛が一気に再発する。痛みは少しも止んではくれずに、酷くなる一方だ。脳なんて痛みの所為で正常に働いてくれない。

 だが、そんな状態でもこれだけは分かる。

 目の前に居るカリュシェードがフェスティア大陸を守護する精霊の最高位であると言う事。

 しかも大陸の守護精霊達は魔族の大陸侵略時、デミルスの命令によってほぼ殺されたと聞いている。 残っているのは実体を持たない町の守護精霊と、このカリュシェードのみ。


 聖域に鎮座するフェスティア大陸全土を守護する最高位の精霊。

 それはつまり、大陸を支える 『生命の木』 の守護者であり、化身であり、言わば大陸そのもの。


 (でも、どうしてそんな方と・・・ーーーっ)


 そこまで考えて、 メーディエは急に体がふらつきその場に座り込んだ。視界は靄がかかったように輪郭が歪んで見える。


 ーあぁ、限界だ。


「メーディエ!?」


 地面に倒れそうになる体を大きな手と腕で支えられる。 声が少し遠くに感じたが、心配してくれているのが響きで分かった。





ここまで読んでくださってありがとうございます。

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