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第二夜 眠り姫

何年 何十年 時が過ぎ去ってしまっても 忘れる事はないだろう

ぬくもり やすらぎ そしてやさしさを 受けた日の事を

それが自分を救い 支え 守ってくれるものだと 信じているから


ー某城内深部



「ーーー・・・音が、聞こえぬ?」

「いかがされましたか?」

「音波が届かなくなった・・・・・・千里眼も、届かぬな」

「な!?それは誠にございますか!!?」

「もしやかの方に何か?」

「おい、早急に確認だ!!ルーフェン殿、ルーフェン殿を呼べ!!」


「(我の千里眼が届かぬなどあり得ぬ。もしや弾かれておるのか?それにあれの反応を消すなど我にしか出来ぬはずだが・・・いや、もう一人いるか。だがもし本当にそうだとしたら・・・)」


「ククク・・・これは、存外面白いことになったやも知れぬな」




◆◆◆



ーカラン、コロン、ガララン



「ほぁーー・・・」


 鳴り響く音と町の様子にメーディエは目と口をぽかんと開けて固まった。彼女の目の前には大小様々な材質の鳴子があちこちの軒下に吊るされていて、辺り一体に音を響かせている。


 此処は音の精霊が守護する町「リカラン」。

 大小様々な鳴子は音の精霊を崇めている証であり、これら全てが町の象徴でもある。


 フェスティア大陸は精霊信仰の深い大陸で、そこそこの大きさと住民のいる村や町には精霊の守護が必ずついている。住民は守護をしてくれている精霊を特に強く信仰し、その精霊の象徴となるものを城門や家や道などの至る所に飾るのだ。そしてそれが精霊への信仰と感謝の証となり、精霊の力が増して、守護もより強めてもらえる。

 そのおかげなのかは分からないが、魔族からの攻撃があって尚、多くの町が完全に破壊されたり、蹂躙されたりせずにすんでいるのはこの精霊の守護のおかげであると言われている。


「町に入るのは初めてか?」

「え、えぇ。精霊信仰については本で読んで知ってはいたのだけど、まさかここまですごいなんて・・・」


 彼女がそう言うのも無理はなかった。

 まず町に入る為の城門。ありとあらゆる材質で作られた鳴子がアーチを描いて門の柱に所狭しと飾られていて、門を通る時に耳がおかしくなるんじゃないかと思うくらいの音が鳴り響いている。

 そして町中。どの家の軒下にも鳴子が飾られているがこちらも数が尋常じゃない。窓辺にもびっしり飾られていて、風が吹こうものならガランガラン鳴って耳が痛くなるのは必須だろう。

 本来の鳴子が奏でる軽やかで可愛らしい音とは完全に無縁な状態であった。


「これ、みんな寝れてるのかしら」

「寝る時は耳栓必須だ、専門の店もいくつもあるぞ」

「・・・鳴子を外すという思考にはならないのね」


 なる訳がないだろう。


 という言葉を、ライティエットはあえて飲み込んだ。

 魔族の侵攻で大陸全土が黒く染められた時、同時に精霊達の力も弱まっていった。精霊の守護によって守られていた町や村は本来の守護の強さを発揮出来ずに大きな被害を受け、場所によっては完全に滅ぼされてしまった所すらある。

 だからこそ少しでも精霊達が力を取り戻せるように、過剰なまでの精霊装飾をしているのだ。


 弱った精霊を助ける為に、ーー自分達を守ってもらう為に。


 魔族の侵攻は、人々の純粋な信仰を、打算的な信仰に変えてしまった。


 そしてそんな状況に精霊達は、正確にはこの町の精霊達限定なのだが。

 ちょっと、いや、かなり、迷惑そうにしている。


「(元々一般人は精霊がそこにいるかが感覚的に分かる、っていう程度だから仕方ないんだが・・・。視える者としてはもどかしい限りだな)」


 『音』の精霊ではあるが、だからと言って四六時中やかましいものを求めている訳じゃない。無音や小さな囁きだって『音』だということを、その様々な『音』を音の精霊達が求めている事を町の住人達は忘れてしまっている。


「魔族の所為なのは分かってるわ。でもさすがに精霊達が困惑しているのに飾り続けるっていうのはどうかと思うのだけど?」

「・・・視えるのか?」

「え?あ、えぇ、私は色々・・・その、規格外らしいから」


 そう言ってメーディエは目線を逸らす。規格外なのは『完全なる変化魔法』をいとも簡単に使った時点で分かってはいたが、魔族の中に精霊を見ることが出来る者がいるのは驚きだ。本人の口調からして彼女しかいないようだが、もしこれが他にもいるのなら、この大陸にとって脅威以外の何者でもない。

 ライティエットはメーディエのことをここで適当な理由をつけて置いていくつもりだったのだが・・・万が一の事を考えればこのまま一緒に連れて行った方がいいかもしれないと思い始めていた。


「でも貴方達フェスティア大陸の住人は普通に視えるのではないの?」

「いや、基本そこにいるのが分かると感じる程度だ。俺と師匠は視えるがな」

「え、そうなの?やっぱり本だけでは正しい知識とは言えないわね」


 こうしてメーディエの中の知識が更新されるということは、魔族達のフェスティア大陸に対する知識が正しく更新されるという事なのだから。





◆◆◆



「はぁ〜〜〜、久々のベッド〜」


 二人旅を始めてからずっと野宿続きだったのもあってか、メーディエは宿の部屋に着いた途端にベッドに飛び込んで感嘆の声を上げた。柔らかい布団にその身を預けてゴロゴロと転がる様は猫そのものである。

 ライティエットはそれを横目で見ながら必要な荷物をいくつか取り出し、ゴロゴロどころかゴロンゴロン転がっているメーディエの頭に小袋を乗せた。頭に乗った袋の感触は固く、チャリっと硬質な音が響く。


「ん、何?これは・・・お金?」

「お前のだ」

「!!?」


 そう言われてメーディエはガバっと身体を起こし、慌てて袋を受け取った。袋いっぱいに入ったそれは重く、相当の量のお金が入っていることが中身を見なくても分かる。


「ちょ、こんなに貰えないわ!!ただでさえここ数日の食糧や宿代だって出してもらってるのに!」

「気にしなくていい。こう見えて稼ぎはある」

「それは・・・そうなんだろうけど・・・」


 言い淀みながらメーディエが視線を向けたのはライティエットの襟元を飾る鷹のエンブレム。

 ライティエットはその視線に気づかぬフリをして話を続けた。


「この町には3日ほどいる、次の町までは大体1週間の旅路の予定だ。食糧や薬の買い出しをお前に頼みたい。ついでにお前自身の必要な物もここである程度揃えておけ。それはその為の金だ」


 おそらくこの数日間の中でライティエットが一番、たくさん喋った瞬間だった。しかしメーディエはそれよりもお願いをされたことに驚いて目を見開いている。


「難しいなら無理にとは・・・」

「ううん!大丈夫よ、任せて!!お買い物するのにおすすめの場所とか、いつも行ってるお店とかってある?あ、耳栓も買っておいた方がいいかしら?」

「あ、いや・・・特に贔屓にしてる店はない、好きにしてくれ。耳栓も、お前の分だけで良い。俺は持っているから」

「そうなのね、分かったわ。お買い物しっかりしてくるわね!!」


 初めて頼られたことがあまりにも嬉しくて、メーディエは満面の笑みで目をキラキラさせながら力強く答えた。あまりの勢いに呆気に取られたライティエットだったが、とりあえず任せて大丈夫だろうと判断して自分の剣と手荷物を持って立ち上がる。


「じゃあ俺はギルドに用事があるから。自分の物、買い忘れるなよ」

「えぇ、いってらっしゃい・・・・・・、ライ」

「?」


 先程の勢いはどこへ行ったのか、少し沈んだように聞こえる声に歩きかけた足を止めて振り返った。

 メーディエは貰った袋を両手でぎゅっと握りしめ、ライティエットを見つめている。


「・・・私のこと、置いていかないよね?」

「・・・あぁ、置いていかないよ」


 町での様子を見るまでは置いていく事を考えていただけに一瞬言葉に詰まったが表情には出なかった。メーディエはそんな彼を見て、扉に手をかけるライティエットの背中に手を伸ばす。




読んでくださってありがとうございます。

誤字脱字ありましたら知らせて頂けると助かります。


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