7-3
「ライティエットさん!アタシ達用事あるからこれで失礼するわね!」
「あ、あぁ、キャイがフラついてるが大丈夫か?」
「(アンタの所為だーーーッ!)大丈夫大丈夫!それじゃ今度討伐の話聞かせてね!行くわよみんな!」
「「ガッテン姉御!!」」
「ちょ、姉御いうなーーーッ!!」
バタバタと走り去って行く4人をライティエットは特に止めることなく見送った。
そして、彼らはこの町に長居するだろうから自分たち、特にメーディエと会わせないように気をつけなくては、と考える。
この地はライティエット達『白金』ランクが仕事で来ることはまず無い。魔族の被害が少ないのだから当然だ。
けれどこの町は工芸の町、細かな細工が得意な職人が数多くいる。それはつまり、ハンター達の必需品である武具を強化・保護する付与魔法の複雑な紋様を装飾として描き込める職人がたくさんいる、ということだ。
実際ハンター達が持つ様々な保護魔法が付与されたハンタープレートもここで作られている特注品であり。更にライティエットが着ている極細の針金が織り込まれたマントもこの町で作られた最高級品だ。
恐らく彼らも武具を新調するか、付与魔法の描き直しを頼みに来たかのいずれかであろう。白金ランクとなれば武具は全てフルオーダーだ。注文していた物を受け取りにきただけだったとしても職人の細かい微調整が入ってどうしても時間がかかってしまう。
「メーディエに言っておかないとな・・・」
そうぼやきながら、ライティエットは改めてギルドへと足を向けた。
「これ、食べるの?」
ギルドからの帰り際、偶然合流したメーディエにライティエットは問われた。
メーディエの視線の先にはライティエットに頼まれて買い込み、彼が合流早々に手から奪っていった数種類の果物が入った袋と、店の主が「お嬢さんは可愛いからね」と言って少しだけ値引きしてくれた極上ワインがある。
果物の数は勿論、こんなに良いワインを買ってこいと言われた事が今までなかったのでメーディエは不思議そうだ。
「いや、明日訪ねる人への土産だから食わない」
「じゃあ、明日にはもうこの町を出るのね」
納得したように言った言葉に、ライティエットはまた首を横に振った。
メーディエは首を傾げて考えるが答えが出ない。お土産をこのウェイゼンで買うと言う事は、訪ねる人がウェイゼンの住人ではないと思ったのだが。
地元の人間に地元の食べ物をお土産にしてもあまり意味が無い。それこそこの近辺に日帰り出来る村などが在るなら話は別だが、一番近くても馬車で3日、徒歩なら一週間以上かかる所にあった筈だ。
「一体何処に行くの?」
「・・・出来れば、連れて行きたくない。お前にとっては苦痛な場所だ」
メーディエの問い掛けに、ライティエットは少しだけ困ったような顔をして答えた。
その答えで、明日行く場所が何処なのかを察した。フェスティア大陸の地図を頭の中に記憶しているメーディエはウェイゼンの近くに自分が近付く事の出来ない場所が一つだけ在る事を知っている。
「・・・大体何処か分かったわ。でも絶対ついて行くわよ。ギルドや白金ランクのハンターと違って、正体がバレる訳じゃないもの」
「そう言うと思った。ま、『あの人』に顔を見せて、おいても損は無いか・・・。但し、辛かったらすぐに言え」
満面の笑顔と共にメーディエは大きく頷く。
実際行く場所の事を考えると、あまり長くは居られないだろう。もしかしたら離れる事になるかも知れない。
そうなってしまったら仕方が無い、我慢しなきゃいけない。けれどメーディエは、本当は片時も離れたく無いと思っている。
ライティエットに言ったあの言葉を守る為に、--自分の為に。
その後ニ人は宿に帰らず、一軒の工芸店を訪ねた。ギルドや食料品店で聞いた情報では、此処がこの町でも指折りの店らしい。
ちなみに情報提供者は二人の美貌と笑顔に惑わされた、宿屋、ギルド、食品店、酒屋の主(女将)達プラス、その時周りに居た客及びハンター達である。
工芸店の主も例外ではなく、ニ人が店の中に入って来た瞬間に目を奪われ、息をする事を忘れてしまっていた。
「宝石の加工を頼みたいんだが・・・」
ライティエットに声をかけられ、店主はやっと我に返る。 呼吸をするのを許されたかのように大きく息を吸い込み、いつもの自分を取り戻した。
「あ、 あぁ石の加工な! 出来るぞ、物によっちゃぁ3,4日かかっちまうが。石は持ってるのかい?」
まだ落ち着きの足りない口調をあまり気にせずに、 メーディエはライティエットから貰った2つの原石を取り出して見せる。
石を受け取った店主はすぐに表情を変え、急ぎ手袋と専用の眼鏡を用意して観察していく。
「・・・母石の色、大きさも十分、重量感から空洞や不純物も恐らく無し・・・。こいつはすげぇな、中の色によっちゃ一級品になる事間違い無しのコランダム石だ。 ・・・これほどの物は東地方のパンシェにでも行かなけりゃお目にかかれねぇぞ」
「パンシェ?・・・あぁ思い出した、パンシェだ。 そこで貰ったんだ」
ウェイゼンから山と大河を越えなければ辿り着けない東地方の鉱山の町『パンシェ』。
岩の精霊の守護を受けており、昔から周囲を囲む山から掘り出される宝石類で発展していっている町だ。
ライティエットはメーディエに出会う前は東地方を中心に旅をしていて、石はその時に貰った物である。 彼にとっては別にどうでも良い事を思い出した程度だったのだが、店主にとっては何とも嬉しい言葉だった。
「マジか!?そいつはすげぇぞ!!パンシェ産の石をこの手で加工出来る日が来ようとは!!ありがてぇ!!そうと分かれば店にある最高の金銀細工を使って仕上げねぇとな!あ、金は気にすんなよ?カット代さえ貰えたら十分だからな!!さぁさぁお嬢さん、注文してくれ!この宝石をどう加工するのがお望みだい?」
そう興奮気味に言いながら道具を並べて行く店主。事実、パンシェ産の石はウェイゼンに来る頃には殆どが加工されてしまっている。特に上質の原石など早々お目にかかれるものでは無いだろう。石を加工する職人として店主の熱の入り様はある意味仕方が無いと言えた。
「イヤリングにして貰いたいんです。カットは色によりますね。母石を取ってもらう事は出来ますか?」
「勿論、色を見る位ならすぐにな」
店主は小さなハンマーと針のように細い釘を取り出し、慣れた手つきで回りの母石を削って行く。削り取られた母石の間から見えた宝石の色は透明度の高い深い青紫色。光の当て方によって純粋な青や紫へと色を変える。
「こいつは・・・なんて見事なサファイアだ。光の反射を楽しむならガポションカットは止めとくべきだな。・・・プリリアント、ラウンド、オーバル・・・ ミックスカットも良いな」
さすが職人と言わんばかりに様々なカッティングの名をあげ、分かりやすいようにガラスで作られた標本箱まで出して来てくれる。しかしメーディエはそれらの標本には目もくれず、じっと宝石の色を見詰めながら自分が望む形を口にした。
「涙・・・、えっとつゆ型って言うんでしたっけ?それが良いんですけど、出来ますか?」
「つゆ型ってことはペンデロークカットか。勿論出来るとも!そいつが良いのかい?あ、そうだ。ついでに土台にする金銀細工も見て好きなのを選んでくれ!!」
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