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微妙に困った顔をしているのを見てか、それとも彼女の性格を読んでなのか。どちらにせよライティエットはメーディエが何かを言う前に有無を言わせない言葉を言った。
「それ、返品不可だからな」
「はあ?ちょっ、でも・・・」
「変な遠慮しないで貰っておけ。この間の礼だ」
ライティエットの言葉に胸が痛んだ。
『お礼』など言って貰える立場ではない。
だってあの言葉は、単なるわがままでしかなくて。
どちらかと言えば、喜んでくれた事に対して自分がお礼を言うべきではないのかと思うくらいで。
でも、頬を少し赤く染めながら微笑んでくれているし。何より、やはりプレゼントが嬉しいから。
遠慮をするのが勿体無く感じてしまう。胸の痛さと同時に、 何か温かいモノも込み上げて来る。
「・・・ありがとう」
言葉と共に強く握り締めた手の中の小さな石から、 包み込まれるような暖かい魔力が感じられた。
この石との相性はきっと良いに違いない。
まだ見る事の出来ない石の色と輝きを思い描きながら、眼帯を締め直しながら先に進むライティエットの背中を風に押されるようにしてメーディエは追いかけた。
◆◆◆
隠里「シアン」の谷間から丸三日以上をかけて歩き続け、辿り着いた場所は金の精霊の守護を受けた町『ウェイゼン』。
金と聞くと煌びやに輝き、あちこちに金の装飾があしらわれているとイメージされがちだ。
しかしこの町を飾るのは繊細かつ温もりある装飾ばかりで。金はその装飾のアクセントや差し色で使われる程度。
金とは加工しやすく、どんな形にも、どんな物にもなれる。その事からかこの町は工芸の職人が多いのだ。
故に工芸品の交易が盛んで、大陸の中心地である霊峰『カリシュディア』に最も近い町でもある為、四大都市と交易路が繋がっている唯一の町でもあった。
特にウェイゼン産のアクセサリーや陶磁器はその名を知らぬ者は居ないほど有名で、地元以外の店では必ずと言って良いほど店頭で1番目立つところに飾られる。値段ももちろんお高く、皿一つの値段で酒樽が買えるほどだ。
更にウェイゼンは霊峰『カリシュディア』の恩恵なのか魔族の襲撃が少なく、周囲に迷宮が作られた事もない。お陰で町の住人は家の中に閉じこもる事も無く、ある意味平和な日常を過ごしている。町の整備された道には出店が並び、真の夜以外に人が絶える事は無いに等しい。
つまり真っ昼間の時間帯である今は、道に人が溢れていると言う事だ。
そんな訳でメーディエの眼には敵の襲撃以外に見た事が無い程の人数が映っている。その数に圧倒され、目とロは開きっ放しだった。
隣に居るライティエットは苦笑しつつも人の波の中へと入って行く。宿もハンターギルドも、この活気付いた道の先にあるのだ。慌てて追いかけるメーディエだが、人を避けるのに慣れていない為に何とも危なっかしい動きをして進むのに手間取ってしまう。ライティエットが気付いて手を掴んでやらなかったら、まず間違いなくはぐれて迷子になっていただろう。
「平気か?」
気遣いの言葉に少し慌てて頷く。心臟の鼓動が速くなったのは多分、気のせいではない。
「迷子になりたくなければ手を離すな。人が多いのはこの通りだけだ。十字路まで行けば人波は分散する」
ざわつき賑わう人々の声で溢れる中、ライティエットの中性的な声は響きを消される事無くメーディエの耳まで届く。ぶっきらぼうな言い方をしているが不安を取り除き、メーディエに笑みを戻させるには十分な言葉だ。
メーディエがぎこちなく手を握り返すと、ライティエットは早足で人の隙間を上手く通り抜けて行った。
言葉通り、十字路に出ると人は他の三つの大通りに分散され、密度は一気に減った。
メーディエの口からは安堵が無意識に零れる。
二人はそれからすぐに宿を取り、荷物を置いて共にそれぞれの目的の場所に向かった。ライティエットはギルドへ、メーディエは食材屋へ。
ギルドにもついて行くとメーディエは言ったのだが、ライティエットは決して了承しなかった。何故なら
「ライ様発見にゃ〜っ!!」
「うわ、マジでライティエットさんだ!」
「ほらほらっね!やっぱりいたにゃ〜っ!」
「アンタこの人混みでよく気付けたわね」
「・・・魔力察知、上ガッテル」
白金ランクのパーティー『断罪の剣』の気配を感じ取っていたから。
メーディエの完全なる変化魔法はその名の通り完璧だ。城壁などを警護している魔術師達は気付いていないし、以前共に行ったハンターギルドでも気付かれる事はなかった。
だが、それでも気付く者はいる。
シタヤやミネリアがその良い例だ。熟練のハンターになればなるほど、魔族の気配を覚え、魔法の気配にも敏感になる。
実際、メーディエが初めて会った時にボロボロに傷付いていたのも、変化魔法を使っていなかった上に勘の良いハンターに運悪く見つかってしまった所為だったりするのだ。
『断罪の剣』はまだ熟練とは言い難いが白金ランク。特にその中でもキャイは魔術師として魔力察知能力が高く、ガガルは蜥蜴族由来の勘の良さがある。直接会えばバレる可能性が高い。
「(別行動にして良かった)・・・この間ぶりだな」
「はい!ライティエットさんも無事で本当に良かったっす!!」
「シタヤ様の怪我はもう大丈夫なの?」
「あぁ、問題ない」
「良かったですにゃ〜!知らせを聞いた時は本当びっくりでぇ・・」
「無事デ、何ヨリ」
それぞれから心配と無事を喜ぶ言葉をかけられ、ライティエットの胸がほわりと温まる。
あぁ、自分に向けられていた声を、思いを、気付けずにいたのだな。
実際、大多数は皮肉や嫌味であっただろうけれど、それでもその中にあった真心にライティエットは気付けていなかった。
これからは気付いて、受け止めて、出来得るならば返していきたい。
その思いが、ライティエットを素直にさせていく。
「あぁ、心配をかけたな。ありがとう」
「「「「・・・・・・・・」」」」
ふわっと、小さいが柔らかな微笑みがライティエットの顔に浮かぶ。勿論、ライティエット自身に笑みを浮かべている自覚は無い。
だからこそ、自然に向けられた笑みに4人は見事に固まった。そして現状をゆっくり理解して、破壊力抜群のそれに、赤面した。
「え?!いえ!そんな!!お礼なんて!良いですにゃよ!!」
「そ、そうよ!!ていうか何!?急に笑わないでくれる!?」
「やべぇ・・・なんか開いちゃいけない扉が開きかけた」
「同意・・・」
女性陣はあわあわと慌て、男性陣は座り込んで必死に精神を集中させる。
以前までのライティエットを知っている者からすれば、劇的な変わりっぷりと言えるだろう。
元より強く、美しく、しかし本人が全身から棘を出しているかのような雰囲気で人を惹きつけなかった孤高の存在。それが今、その棘が無いのだ。
「(ちょ、ねぇねぇもしかして別人!?)」
「(否、らいてぃえっとサンノ気配)」
「(キャイはもう心臓がバクバクでクラクラですにゃぁ〜)」
「(色々聞きてぇけどオイラあのキラキラに耐えれる自信ねぇよ!)」
「(そんなのアタシだってそうよ!!)」
「(撤退、推奨)」
「(ふにゃ〜・・・)」
「(キャイーーっ!?)」
「(あ〜もう!仕方ないわね!)」
ちなみにここまで全てアイコンタクト。仲の良い仲間内だからこそ出来る技である。
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