幕間3 ごはんはひとりよりも 〜鎮魂の青ワイン〜
お待たせいたしました。
執筆再開していきます!
※五夜から六夜の間。
「ぐ、あぁ〜・・・」
ぐぅ、と身体を伸ばしたところであちこちからパキポキと骨が鳴る音が響いた。
公爵級の魔族・リコルスとマグリスとの戦いから約1週間。
ハンターギルドお抱えの医師と精霊達に許しをもらい、ワシは今日ようやくベッドから出る事が出来た。
軽く柔軟をして身体を解していくんだが・・・。
やれやれ、すっかり鈍ってしまったな。
「こりゃ、さっさと追いついてライティエットに相手してもらわんとなぁ」
すでに旅立ったライティエットとメーディエは今どの辺りだろう?
あそこは山を幾つか越える道のりだからな、まだ全快ではないメーディエの体力を考えるとまだ半分くらいか。となれば、急げば追いつけるかもしれんな。
そんな事を考えながら着替えていると、ガチャリ、とノックもなく部屋の扉が開け放たれてミネリアが入って来た。
「シタヤ入るよ・・って、あぁ、精霊様方からお許しが出たのかい?良かったね」
「・・・ミネ、ノックぐらいせんか。着替え中じゃぞ?」
「ハッ!お主らの裸なんぞこれまで何度見たことか!今更だろう」
「ははは、それもそうか。ーー・・どうした?」
「いや、その傷で、良く無事だったと思ってね」
じっ、と胸元を見つめてきていたミネリアがポツリと呟く。
心の臓の真横に2つ、拳大の大きな穴の跡がそこにある。背中まで貫通したマグリスの長い角の跡だ。メーディエが必死になって治してくれた傷は完全に塞がっているが、こうして傷跡はしっかりと残っている。
ミネリアの言う通り、良く無事だったと。今こうして生きていられるのは奇跡としか言いようがない。
「そうだな、嬢ちゃん様々だ」
「魔族にやられた傷を魔族に治してもらったってのは何とも複雑なもんだがねぇ」
「あぁ、お前さんはやっぱり気付いたか」
「当たり前さね、アタシを誰だと思ってんだ?こんだけ魔力残滓がくっきり残ってたらいやでも分かるよ。だからお主への面会はアタシらだけに制限したんだ。医師にも口止めしてあるからね」
「世話をかけてすまんな」
「全くもってその通りだよ!サァーラにライティエットにクロス、それに加えてクロスの彼女までとは。本当にお主が紹介してくる子達はなんでこうも周りに口止めが必要な子ばっかりなんだ・・・」
「はっはっは、なんでだろうなぁ」
「笑い事じゃないわ!!」
バシンっ!!と剥き出しの背中が思い切り叩かれる。
実に良い音だ、他人がやられてる状況だったなら盛大に笑えるんだがなぁ。
「痛っ!!ミネ、ワシ一応病み上がりなんだが・・・」
「知らん」
「やれやれ・・・ところでミネよ、お前さんこんな文句をわざわざ言いに来たのか?」
「そんな訳あるか!お主達が持って帰ってきてくれたハンタープレートの照合が昨日やっと終わったからそれを知らせにきたんだよ」
「・・・どうだった?」
「この魔族は相当やり手だったようだね。・・・全部で349人、これが詳細だ」
そう言って渡された分厚い書類にワシは目を向けた。
そこにはハンタープレートに書かれた名前と階級、ギルドに残されたそのハンター履歴、つまりハンターになった年代と消息不明になった年代とが書かれていた。
前半は比較的最近の者達で占められ、後半に行くほどに年代も古くなり、知っている名前がいくつか見受けられた。
「・・・ディーズス、カイバ・・・アイツらも居たのか」
「あぁ・・・」
書類の1番下に書かれていた2つの名前に鼻がツンと痛む。
一緒にハンターギルドを立ち上げた仲間の名前だ。
あの当時はまだハンター自体が少なく、ギルドから捜索隊を出す余裕はなかった。それぞれの町のギルド同士の連携もうまく出来ていなくて、消息不明になってからすでに半年以上経っていた、なんていうのもザラだった。
「エルザール大森林の調査隊から昨日第一報が届いた。お主達の報告通り、完全に森林と同化したダンジョンで見分けが全くつかんと。大地に溶け込んでおった魔族の魔力が放出されていっておるから自分達でも気付けているが、そうでなければ先ず気付くことは出来んと言っておったわ」
「だろうな、精霊と契約しとるワシですら気付くのに時間がかかった。しかしあれから1週間経っとるのにまだダンジョンが解除されとらんのか」
「あぁそうらしい。無理矢理変質させている他のダンジョンと違って馴染み過ぎて魔力放出が通常より遅いそうだ。調査隊の見立てでは恐らく半月以上はかかるだろうとのことだよ。全く忌々しい、ダンジョンと分からないようにしていたなんて・・・おかげでこんなにもたくさんの子達が犠牲にっ!」
「ミネ・・・」
ギリっと、己の無くなった左眼部分に爪を立てるのはミネリアの癖だ。
ハンターギルドで1番の年長者であるからこそ、彼女が見送って来た者は誰よりも多い。当然、その分だけ魔族への憎しみも人一倍深いと言える。
そんな憎しみを抱いていながらライティエット、クロスとメーディエを受け入れてくれたのは憎しみ以上に深い彼女の懐の深さのおかげだろう。何故なら今回のメーディエの事だけでなくクロスの事も、ワシはミネリアに何も話してはいない。
けれど彼女は分かっている。分かった上でこちらに一切の追求をしてこないし、恐らく同じように気付いているガーフィスやモルド達の口止めをしてくれている。本当に感謝してもしきれない。
だからこれは、今のミネリアに必要なものだ。
「ミネ」
旅立つ前のライティエットに動けんワシの代わりに買って来て貰った物をミネリアに渡す。
受け取ったミネリアは、ハッと顔を上げ、それを抱きしめながら言った。
「ギルドの裏手で、待ってる」
「あぁ」
部屋を出ていくミネリアを見送ってからワシは改めて着替え、旅の準備を終わらせた。そしてミネリアに言われた通りの場所に少し買い出しをしてから向かう。
ギルドの裏手にはミネリアはもちろん、ガーフィスとモルド、他にも今だけ仕事の手を止めたギルド職員や数名のハンター達がいた。
皆、それぞれ手に青い物を持っている。
青い花、青い果物、青い陶器、青い服、青い帽子、青い刺繍のタペストリー、青い毛糸のショール、青い石の嵌められた道具などなど。
それをつい先日作られたばかりの墓石に飾っていく。
色んな色の青で飾られた墓石の下に遺体は無い。遺体の代わりに埋められたのは引取り手の無いハンタープレートだ。
遺体は殆どが持ち帰れる状態ではなかったから、恐らくエルザール大森林内で埋葬されている事だろう。だからこれは生きている者達の為の儀式だ。
飾り終えた墓石を前に皆が祈りを捧げる。
最後にミネリアが代表してワシが渡した物の口を開けた。
それは赤い色が鮮やかな大瓶のワイン。ミネリアはその大瓶の中にモレの実の果汁を搾り入れた。するとみるみるうちに瓶の中の赤色が鮮やかな青色へと変色していく。
そのワインはそれぞれに持ち寄った小さなグラスに少量ずつ注がれていった。
美しい青だ。
昔見た、自由の色。
今は誰もが焦がれる、解放の色。
それを掲げて、皆で飲み干す。
先立った先人達に敬意と誓いをもって。
流れた赤い血は無駄では無い
その血は、青い空を取り戻す為の道標となった
御魂よ、この薄闇の向こうにある青い空の下
どうか安らかであれ
幕間3
ごはんはひとりよりも 〜鎮魂の青ワイン〜 END
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