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6-11




 闇が広がる森。

 小さなランプの光は足元だけを緩く照らすだけで先へと伸びてはいかない。木も道も何処に在るのか分からない、完全なる闇が広がっている。

 その闇の中をメーディエは青紫の炎が灯されたランプを持って歩いていた。


 行く先は分かっている。

 サァーラの墓。

 そこが今、ライティエットのいる場所だ。

 シタヤには方向も道順も聞かず、ランプだけを借り、話をしてくれた礼を言って出て来た。

 道は自然と分かる。ライティエットの通った道、微かに残る魔力の残滓を追えば良い。

 ライティエットの魔力は冷たくて、でも優しい。まるで月のようだ。最早慣れ親しんだこの魔力は察知さえ出来ればすぐに追う事が出来る。


 少し先の所でぼんやりと光る小さな光を見つけた。

 ライティエットがそこに居る。光を見つけていなくとも、恐らく分かっただろう。

 サァーラの墓は咲き乱れる灰色の花に囲まれるようにして建っていた。実際の色は純白なのだろう、と思われる花は5枚の花びらを月に向かって凛と広げ、僅かな光すら逃さぬように受け止めているようだった。

 そんな花畑の中で、ライティエットはじっと墓標を見つめていた。一度だけメーディエを横目で見たが、すぐに視線を元に戻してしまう。

 彼の隣まで行くとメーディエは何も言わずにランプを置いて座り込み、花を摘んで輪を作り始める。


「ー・・・聞いたのか?全部・・・」


 視線を変える事なく問うライティエット。メーディエも花輪作りを止める事なく、返事を返す。


「全部かどうかは分からないけど・・・まぁ大体は」

「そうか・・・」


 静寂が2人の間に生まれる。ライティエットは墓標を見つめたまま、メーディエは花輪作りに集中したまま。お互いに、一言も言葉を交わさない。

 再びライティエットが口を開いたのは、メーディエが花輪を完成させ、サァーラの墓標に飾り付けている時だった。


「・・・お前、どうするんだ?」

「どうするって・・・何を?」


 聞き返されてライティエットは少し困る。飾り付けを終えて立ち上がったメーディエから、自分の顔が見えない方向へと向き直り、言葉を紡いだ。


「聞いたんだろう。俺が魔族の血を引いてて・・、村を一つ、滅ぼしている事を」

「えぇ」

「だったら、嫌じゃないのか?こんな奴と・・・一緒にいるなんて・・ー」


 自分を追い込む言葉だ。

 彼は一体何度、自分をこうして追い込み、傷つけて来たのだろう。


「ライ!良く聞いて!!」


 両手を使って、ライティエットを無理矢理此方を向かせる。

 きっと自分は変な顔している。涙が出そうになるのを堪えているから。今から言おうと思っている言葉も、きっと変な声で言ってしまう。

 構わない、聞いて欲しい。

 自分の言葉を、思いを。


「私はずっと、貴方の傍に居るわ」


 やっぱり変な声だ、良い、それでも続ける。

 今、この時、この場所だからこそ、言わなければいけない。言わずには、いられないから。


「貴方が嫌がっても、私を嫌いって言っても離れない。貴方の気持ちなんて私には関係ない。私は・・・私は」


 溢れ出て来そうな涙で喉が詰まる。視界がぼやけてくる。ライティエットの顔が、良く見えない。


「どんな事があっても、ライの傍に・・・隣に、居続けるから・・・」


 頬に涙が伝って流れる。

 懐かしい、この気持ちをなんと言っただろうか。

 胸の辺りがあたたかい、けれど切ない。

 あの時からずっと、鍵をして閉じ込めていた未発達な心達。

 目覚めるのを待っていたかのように、閉じ込めていた反動のように、一気に溢れ出て来る。止める事が出来ないほどに、溢れ出て来る。


「・・・俺は、ずっと許されないと思っていた」


 ぼくは ひとをころしました


「何も知らない人達を・・・ーー母さんを。・・・この力で、俺の力で殺してしまったから」


 だから おもっていたんです


「自分の事を愛するなんて、思うなんて、許されないとーー」


 あいされる あいする

 そんなことすべてが ゆるされないとおもっていました

 でもぼくは シタヤにみまもられてて かあさんのあいにまもられて

 あいすることを おもいだしてしまいました



 けれど、だからと言って事実は変わらない。


 重い重い罪、消える事の無い、消すことの出来ない犯してしまった罪。


「許されるなんて思ってない。むしろ裁かれるべきだと、いつも・・・どんな時でも思っている。でも、だけどーーー」


 メーディエと一緒に生きたいと、思ってしまった。願って、しまった。


「本当ならどこか、人気の無い場所に置いていくつもりだった。俺に関わったら駄目だと・・・。でも、置いていけなかった、離せなかった。色々理由をつけて、後回しにして・・・、自分で自分の気持ちを誤魔化して・・・」


 こんな思いは許されない。自分で自分を許すことが出来ない。


「ヒトを殺して、母さんまで殺してしまったくせに。俺が、誰かを思う権利なんて無いんだって、分かっているのに・・・」


 かあさんーーぼくは だれかをすきになっても いいですか




『いつか、クロスにも大切な人が現れるわ。特別なんだって、思える人が』

『かあさんのたいせつなひとはシタヤ?』

『えぇ、それにあなただってそうよクロス』

『ぼくもかあさんがだいじだよ!もちろんシタヤも!ふたりがぼくのとくべつなひと!!』

『ふふふ、ありがとう。あなたは優しい子ね。・・・ねぇクロス、その優しさを、誰かを愛することを、どうか忘れないでいてね。とても大切なことだから』


 ーー どんなことがあっても 忘れないで ーー




「バカね、ライ。『生』と『死』、『誰かを思う心』。形は人それぞれだけど、この3つが私たち生命に平等に与えられた唯一のモノ、忘れてはいけない大切なモノなのよ?だから許すも許さないも無いの、権利だって同じ。全部全部、あなたの『心』次第よ」


 心の中が洗われていく。錆びついた扉を開けて、素直に、自分に正直になっていく。


 抱き締めて、その存在と温もりを求める。

 ずっと傍に居て欲しい、ずっと隣で微笑んでいて欲しい。


 大切なんだと、『特別』だと思うあなただから。




 今日のような日を、なんと呼べば良いのだろうか。

 月と2人だけが知っている、こんな幸福に満ちた日を・・・ーー。






第六夜 END

ここまで読んでくださってありがとうございます。これにて第六夜完結です!

所用とTRPGシナリオを書くのに集中しようかと思うので8月末まで夜想曲の更新はお休みいたします。

9月に以前書けなかった幕間を1話か2話書いて、その後で物語が大きく動く事となる第七夜を執筆していきたいと思いますのでどうぞお楽しみに!


誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。

少しでも面白いと思っていただけたら↓から評価、感想コメントなどをいただけると嬉しいです!

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