6-4
「・・・メー、ディエ?」
割り込まれて離れた反動でシタヤの手がライティエットの黒銀の髪から離れる。手に残ったのはサァーラと同じ髪の感触と眼帯だけだ。
ライティエットはすぐさま己の髪と手で右眼を隠しながら、突然割り込んできたメーディエの行動に驚いていた。
「ー・・・なくて良いです」
「え?」
鮮やかな金の星の煌きを宿す紅の瞳。その目に涙を溜めながら、メーディエは力強い声で講義する。
「話さなくて良いです!ライが、シタヤさんも!苦しいなら、悲しいならやめて下さい、辛いなら話さないで!私、そこまでして話してもらいたくないです、知らないままで良いです!私だって話せてないんだから構いません!だから、やめてください・・・これ以上、苦しそうにしないで・・・」
涙が、止まらなかった。
何故、2人がこんな苦しんでまで自分に『何か』を話そうとするのかが分からない。
何故、自分をそこまで信頼してくれているのか分からない。
自分は魔族で、この世界の敵だ。
認めたくはないが、それが抗いようのない現実だ。
それなのに、どうして・・・?
「知って欲しいんだ、俺のことを・・・でも」
後ろで小さく呟かれた声に、驚きながら振り返る。ライティエットは相変わらず右眼を隠したままで、見たことの無い、今にも消えてしまいそうな笑みを浮かべていた。
「ら、い・・・?」
「シタヤ、その・・・墓参り、行ってくる」
「そんなしょぼくれた顔をするな。久しぶりに顔を見せるのに今の顔のままじゃ笑われるか叩かれるかれるぞ?」
シタヤは頷き、ライティエットの頭を掴んで自分の肩の上に乗せる。
「今見せられる最高の顔で行ってこい。冷えてくるからマントも忘れずにな」
「あぁ・・・。メーディエ」
肩から顔をあげたライティエットが改めてメーディエを見た。変わらない笑みに、メーディエの心臓の早さが加速していく。
「ーーすまない」
ライティエットは椅子にかけたマントを掴み、空いた方の手でメーディエの頬に軽く触れる。そして入り口にかけてあった青いランプを持つと、一度も振り返ることなく出ていった。
乾いた木の扉の開閉音が響く。
余韻も消え、ライティエットの足音すら聞こえなくなった頃、メーディエは埃が蓄積した灰色の床にぺたりと力無く座り込んでしまった。
「じょ、嬢ちゃん!?」
慌てて手を差し出すシタヤ。だがそれを無視して、メーディエはシタヤのズボンにしがみついた。
「シタヤさん!ライは、ライはどうして・・・どうしてあんなに不安定なんですか!?あんな魔力まで揺らがして・・・なんで、いえ、一体何が、ライの心をあそこまで追い詰めているんですか?!」
いつの間にか止まっていた涙が、再び溢れ出てきそうだ。
近くにいた筈なのに、傍にいた筈なのに。ライティエットの消えてしまいそうな心の不安定さに、体内から漏れ出る魔力に影響する程の心の負荷に、少しも気が付かなかったなんて・・・。
「・・・メーディエ。お前さんはな、自分で知らんうちにあやつを支えておったんだよ。そしてこれはワシのわがままなんだが、これからは本当の意味であやつを支えてやって欲しいんだ。これが出来るのは、メーディエ、もうお前さんしかおらん」
時は既に夕刻を過ぎ、闇の時間がきている。
「だから・・・聞いてくれんか?ライティエットの、いや、『クロス』の過去を』
外は完全なる闇が支配を広げはじめていた。
激しかった雨が止み終わってすぐの所為か、空気が全体的に重く、身体中にじっとりとまとわりつくように感じられてならない。
小屋から出て少し歩いてから、ライティエットは空を見上げた。昔シタヤが語ってくれた『星』なるものは見当たらない。それよりも残った雲が空を覆い、いつもより空が近く感じるほどだ。
「あぁ・・・そういえば『あの日』も、こんな風に空気が重く感じる日だったな」
小さなランプに青紫色の灯りを灯し、広い森の闇の中へ1人歩き始めた。
一歩、また一歩と先へ足を進めて行くたびに、遠い遠い『あの日』の記憶を呼び起こされていく。
そして同じ頃、シタヤが床に座り込んでいたメーディエを椅子に座らせ、同じく過去の長い長い思い出話を語り始めていた。
下ろされていた厚い厚い記憶の幕が、音もなくゆっくりと上げられて行く。
重い雲が晴れ、月の儚い輝きが灯る空が、見えてくるようにーーーー。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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いつもの半分ほどの文章量ですが、キリが良いので今回はここまで。
次回から完全に過去話へと移行します。
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