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まだ残酷描写が続きますのでご注意下さい。
モンスターと動物達に囲まれたライティエットは眉を寄せて辺りを見渡した。周囲360度に加えて上空にも鳥類や鳥型のモンスターがいる。
逃げ場は、無い。
そんな中でライティエットが取った行動は己の周りを氷の結界で囲む事だった。
「かくれんぼかな?」
「かくれんぼだね」
分厚い氷の結界は透明度が無く雪の様に白い。おかげで中からは勿論、外からもライティエットの様子は見えない。それによってモンスター達は完全にライティエットの姿を見失い、厚い氷の壁を前に動きを止めてしまった。
「・・・出てこないね?」
「・・・何もして来ないね」
「弱虫さんだ」
「引きこもりさんだ」
「そこにずっと住むの?」
「凍えちゃーーーっ?」
ケラケラと笑って空を舞っていたマグリスの声が途絶える。
「ーーぇ?」
それを不思議に思ってリコルスが顔を上げるーー前に体から離れたマグリスの首と目が合った。
まるで鏡を見る様に。
同じ大きさの目の見開き。
同じぽかんとした口の開け方。
同じ驚きの表情。
なのに、上下が逆さまなのはどうしてなのか・・・。
「マグリスーーーーーーーっ!!!!?ぎゃっ?!?!」
愛しい半身の首に手を伸ばす。だが、自分を支え飛んでくれていた体が地面に急降下した事でその手は届かずに共に落ちた。更に触手が絡まっていた事で上手く受け身が取れず、リコルスの体はあちこちが折れ曲がって立ち上がるのすら困難な状態になってしまった。
それを氷の結界の隙間から見下ろす黒銀の瞳。
先程まで無かったその隙間は、ライティエットが放った刃の様な炎魔法が通った跡だった。
「なん、で?どうやって、僕達の位置を?あんなにマグリスが飛び回ってたのに」
「飛び回っていたからだ」
「え?」
「お前達は徹底的に魔力を隠している。だから魔力による探知は無理だ。なら動いている者の気配を探れば良い」
「はぁ!?それこそどうやってだよ!こんなにいっぱい友達がい・・・そうか、お前っだから閉じ籠ったのか!!」
「そうだ。『生者を襲え』という命令、生者をどうやって判別させているのかを考えた。候補は魔力と体温、だから氷の結界で体温を隠し、魔力を極限まで抑えた。そうしたら案の定止まって動いているのはお前達だけになった」
「・・・のれ、おのれおのれおのれーーーーっ!!!!」
「終わりだ、『紅蓮』」
ライティエットの魔法が氷の結界を破壊し、それでも勢いが落ちる事なくリコルスとマグリスの体を業火で包む。
魔力と温度を感知してモンスター達が動き出したが、『核』が燃えて死霊魔法の効果が消えたのだろう。急に動きを止めてバタバタと地面に倒れていった。
「ライ!!」
そのタイミングでメーディエとシタヤがライティエットの元に走って来た。2人に任せていた死人達も死霊魔法の効果が消え、皆地に伏している。
「大丈夫?怪我は?どこも怪我してない?!」
「嬢ちゃん落ち着け。どう見てもピンピンしとるだろ」
「あぁ、問題ない。お前の前情報通り、戦闘は得意ではなかったよ」
◆◆
北の街シルビスの宿にて。
『リコルス・デューク。
ルーフェンとマルクスと並ぶ公爵級の死霊使いよ・・・、ただ』
『ただ?』
『リコルスは死霊使いと同時に学者なの。いえ、どちらかと言えばそちらの面の方が強いと思うわ』
『つまり戦闘面はそこまでではない、と?』
『えぇ。前にマルクスと会った時にも話したでしょう?伯爵くらいまでは魔力量で決まる事が多いけど、侯爵と公爵になると古い血筋で決まるって』
『あぁ、言ってたな』
『リコルスは魔族の中でも一二を争うくらいに古い家系の血筋なの。もちろんその分魔力量は相当なものなんでしょうけど、ルーフェン程では無いわ。何より知に重きを置いた血筋だし、戦闘が出来るなんて聞いた事がないの』
『つまり純粋な戦闘ではなく、頭脳戦的な戦いになる可能性がある、ってことか』
『恐らくね』
◆◆
「反撃無しで逃げる一方だったからなぁ。ワシも罠を警戒しとったんだが・・・」
「ダンジョンと魔力隠し以外は物量押しでしたね」
「多分自分を死人にした事で魔力の回復が出来なかったんだろう。だから魔力を隠して残量を分からなくし、あとは単純な物量で押すしか無かったのかもしれない」
敵の解析を3人でしているところへ精霊王達が集まって来た。手には袋を持っており、チャリチャリと金属音が響いている。
「シタヤ様、ハンタープレートを全て集め終わりました」
「おぉ、お前さん達ありがとうよ。またよろしくな!」
「はいよ、じゃーね」
「まったねぇ」
「・・・おつかれ」
「失礼いたします」
精霊王達はプレートの入った袋をシタヤに渡す。そしてライティエットの頭を一撫でしたり、ワシャワシャしたり、ぎゅっとしたり、もみくちゃを直してあげたりしてから、それぞれが司る物になって消えていった。
「・・・人気者ね」
「・・・子ども扱いの間違いだろう」
「ははは!違いない!!」
戦闘を終えて笑みをこぼし合う者達を、一対の目が見ていた。
首だけとなり、じわじわと燃えていっているマグリス。
彼女は3人を、特にライティエットをじっと見ている。身体の方は多くの炎に巻かれて炭と化し、もう触手一本動かせない。
死んだはずの脳細胞が見せるのは優しい双子の兄リコルスとの思い出。
古く高貴な血筋の生まれとして相応の魔力を持ちながら病弱だった自分と、頭は良いが魔力が少なく自力で飛ぶことも出来なかったリコルス。
お互いにお互いが無くてはならない存在で、常に2人は一緒だった。
自分達を貶し、見下し、罵倒する連中を見返してやりたくて、リコルスと一緒に書庫の本を読み漁った。
特に求めたのは不足する魔力と健康体を得る方法。
探して探して探して探して探して、結果、辿り着いた方法は肉体の融合だった。
メーディエは知らなかった事だが、異形の魔族を作り出した、正確にはその理論を確立させたのはリコルスである。
それは魔族の中で問題になっていた次世代の子ども達の魔力量の低下を補う策として発表後すぐさま取り入れられた。
実験体の第一号は、マグリスだった。
自分から、志願した。
理由は単純明快。兄の役に立ちたかった、兄と一緒に生きたかった。けれど、病弱な体では魔力量があっても不可能だと分かっていた。だからこそ、この融合の実験にかけた。
実験は成功。
マグリスは兄を抱えて飛べる健康な大人の体を手に入れた。動ける様になったその日は、一日中兄を抱えて飛び回った。2人で笑って、広がる世界を眼下に生きている事に涙した。
けれど、その幸せは長くは続かなかった。
無理矢理な融合による体の『拒絶反応』。
マグリスの体は何度もその拒絶反応を起こした。リコルスはその度に改善し、マグリスの体を作り替えた。
数度目の改善後、リコルスの融合理論は完璧となり、以後の融合で拒絶反応が出る魔族はいなくなった。
ただ、マグリスの体は幾度の融合手術で限界を迎えていて。最早、これだけは頼るまいと2人で決めていた家系の秘術『死霊魔法』を使うしか救う手立てがなかった。
そうして蘇ったマグリスを見て、リコルスは、壊れた。
『僕らは、2人で1人の双子なんだから』
そう言ってマグリスの目の前で死に、死霊魔法にて蘇った。
この時のマグリスの歓喜は、きっと誰にも分からない。
それから2人で楽園を作った。
死人しかいない世界。
誰も争わない、誰も急かしてこない、誰も貶してこない。
2人で作った、2人だけの美しい永遠の楽園。
あぁ、それが、無くなる。
リコルスは、自分の半身はもう、いない。
先に逝ってしまった。
自分も、もうすぐ逝く。
ならば、『友達』を連れて行こう。
2人の楽園を潰した奴を連れて、死者の国で今度こそ、永遠の楽園を!!
ーーードスッ
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