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前回に引き続き残酷な描写があります。ご注意下さい
ライティエットは生い茂る木々の太い枝や幹を足場にして移動し、あっという間に魔族の元へ辿り着く。そして高い木の上から飛び降りた勢いのままに真下にいる魔族へ剣を思い切り振り下ろした。
地面が揺れ、大きく抉れる程の衝撃を持った斬撃。
それは蝶のようにヒラリと避けられてしまった。魔族は笑みを浮かべてパチパチと拍手する。
「あははははは!すごいねすごいね!原住民はおサルさんだおサルさんだ!!」
ライティエットが続けて素早く斬撃を繰り出すも紙一重で躱わしていく。だがそうして避けるばかりで一向に反撃をしてくる様子はない。
見た目は若い、というより幼い。適当に切られた白とも金とも言い難い髪に青白い肌の少年だ。魔族故に年齢などあってない様なものだけれど、人間の感覚で見るなら10代の前半といったところか。メーディエよりもずっと幼く、金細工の装飾が美しい片眼鏡もその幼い見た目とそぐわず酷くアンバランスだ。更に着ている白衣も大人用なのか袖が長くて手が出ておらず、裾も浮かんでいなければ地面に着いて汚れていただろう。
「1人だけで来たの?仲間は良いの?もしかして、もしかして捨て駒とか?いたよ君みたいなヤツ、たっくさんいたよ。仲間を死人達の餌にして、1人で向かって来たヤツ、1人で逃げようとしたヤツ!」
魔族は本格的に宙を飛ぶわけでもなく、地面から10センチほど浮いて滑る様にして移動している。踊る様にクルクルと躱わすがルーフェンほど速くは無い。
その証拠にライティエットの斬撃は何度か当たっている。
「死んじゃったけどね!食べちゃったけどね!あはははははあははははは!!」
だが、当たっているのに魔族は仰け反ることも痛がることもしない。それどころか血も僅かにしか流れず、その傷が魔族特有の再生力で癒えることもない。
「(コイツ、まさか・・・)」
「ねぇねぇそれで君は?どうするの?殺すの?殺せるの?無理だよ無駄だよ、だってこの身は世界そのものだから!!」
「(間違いない、この魔族自身が既に死者だ!!)」
青白い肌は血が通っているとは思えない、傷もただ増える一方でいつまで経っても再生しようとしない。
メーディエの情報通りなら、この魔族は死霊使いだ。己を殺して蘇らせ、自ら不死の身体に仕立て上げた可能性がある。
ならば、戦い方は他の死者達と同じ筈。
ライティエットは片方の手に魔力で練り上げた冷気を纏わせ、大地に思い切り叩きつける。冷気はいくつもの巨大な氷の棘となって魔族へと一直線に走り、魔族の片足を捕らえた。
「あ、気づいたね。頭良いね。でもね、」
その隙を逃す事なく、動きの止まった魔族に向かっていくつもの高威力の火球を浴びせた。
「足りないよ」
「届かないよ」
魔族の言葉通り、ライティエットの魔法は魔族に届かず、己の作った氷の棘を破壊しただけだった。
魔族は氷に閉じ込められた足を引きちぎって空高く舞い上がっている。だが自分の力で飛んではいない。
「「僕『ら』は2人で1人の双子だから」」
もう一体の魔族が、巨大な猛禽類の羽と化した腕を広げて飛んでいた。そして触手のような足を何本も魔族に巻き付いて抱え上げている。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「でも足無くなっちゃったね」
「あぁ足無くなっちゃったね」
「直せる?」
「直せるよ。でも先ずは殺そう」
「そうだね殺そう」
空中で無邪気に笑い合う美しい少年少女がぐるり、と目と首を回してライティエットを見る。
「僕はリコルス・デューク」
「ボクはマグリス・デューク」
「「ようこそ、僕らの死の楽園へ」」
「異形の公爵級、だと?」
異形の魔族の出現にライティエットは驚き警戒する。双子と言っている様に顔は確かに瓜二つと言えるほどに似ているが、他は全く似ていない。
腕は猛禽類の翼、足はタコの様に何本も別れた濃い赤紫色の触手。そしてその体は明らかに成人した分かるほどに成長している女性の裸体だ。リコルスに感じたアンバランスさなど可愛いと思える程にマグリスは違和感の集合体で。ライティエットは嫌でもハンターギルドで聞いた異形の魔族達の噂を思い出す。
曰く、異形はランクの低い者ばかりで、獣と混ざったような醜い姿の者が多い。あまりに不自然なその姿に魔法実験か何かの合成なのではないか、と。
それを確かめる余裕はないが、この姿を見るにあながち間違いではないのだろう。
だが今はそれよりもこの2体の魔族をどう討伐するかだ。相変わらず魔力が上手く感じられない故に相手の攻撃の予測も出来ない。
そんな中で先程死人達が出て来たのと同じ反応が木々や大地から聞こえてくる。
「(また、何か来る!?)」
「目覚めの時間だよ」
「食事の時間だよ」
「いっぱい食べよう」
「いっぱい殺そう」
「そうすれば」
「みぃんなみんな」
「「お友達!!」」
リコルスとマグリスの言葉に反応して新たな死人、ではなくモンスターと動物達が姿を現す。
瞳に生の輝きはない。全て、ハンター達と同じ操られた死体だ。
「これだけの数をどうやって・・・。いや、貴様ら自身が死人なら命令は簡単か。『生者を襲え』、それだけで良い」
「そうだよ」
「よく分かったね」
「分かっても意味ないけどね」
「死んじゃうだけだけどね」
クスクスと笑う2人は蠢く動物とモンスター達を囃し立てるように空を舞う。
雄叫びを上げない遺体達はそれに呼応して、静かに、だが荒々しく、体を揺らしてライティエットに襲いかかる。
その様子を、少し離れた場所で死人の群れを相手にしていたメーディエとシタヤは目にした。
「ライッ!?」
「おぉおぉ、こっちほどでは無いがなかなかの大群だのぉ。動物まで操っておるのか」
「シタヤさん、此処をお任せして良いですか?私、加勢に行きます!!」
「はっ!?いや待て待て嬢ちゃんっ!!」
メーディエは叫びながら自分の周りに来ていた死人を一気に氷漬けにする。そして己に施した完全なる変化魔法をシタヤの目の前で解いて翼のある本来の姿に戻ろうとした。
それに気づいたシタヤは今にも飛び出しそうなメーディエの腕を慌てて掴んで止めた。
「な、なぜ止めるんですか!?」
「なぜも何も今下手に飛び出してみろ。ウィンティの攻撃に巻き込まれるぞ?不規則じゃから動きも読めんだろ?」
そういって精霊達の方を見るシタヤに釣られてメーディエもそちらを見る。
そこには風の精霊王ウィンティが手裏剣の数を更に増やし、死人達をバッサバッサと切っているところで。凄まじい速さで上下左右動き回る手裏剣をメーディエでは目で追う事が出来なかった。今飛び出せば確実にどれかに当たってそのまま切り刻まれてしまうだろう。
更に付け加えると
「あはは〜ーーははははーー〜ーっ!!!たぁのしいぃぃっ!!!!」
高笑いしながら手裏剣を操るウィンティに他の精霊達同様ちょっと怖くて引いてしまった。
「あ、うぅ・・・でもっ!」
「それに心配せんでも『今』のライなら大丈夫さ。以前までなら手を貸さなきゃならんかっただろうがな」
「え、どういう、事ですか?」
「なんだ、嬢ちゃんは闇の貴公子と戦ったあやつを見ておらんのか?今のライにあの程度の物量、なんの足止めにもなりはせんよ」
そう言って安心させるように言ったシタヤの視線はウィンティからライティエットに向けられている。
僅かな時間とは言え、ライティエットから目を離していたメーディエも慌ててそちらに視線を向けた。
メーディエとシタヤがしていた本当に僅かな時間の押し問答の間に、決着はついていた。
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