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ーーキンッ!!ーー
「ーッ!!!・・・・・・ぇ?」
金属の割れる音が響く。ナイフは二重になっている鎖の部分を的確に貫き、足に刃先を触れさせることなく鎖を破壊した。男はその破壊した部分から鎖を慎重に、けれど手早く外して治癒魔法をかけていく。
「・・・あなた、ハンターよね?なのになんで・・・。わたし、魔族だよ?」
「見れば分かる」
尖った耳、背中から生えたカラスのように黒い翼、耳の上から羊のような曲線を描いて生えている角、そしてスタールビーのような紅と金の鮮やかなグラデーションを描いた瞳。これらは全て魔族の女性、「魔女」と呼ばれる者たちの証だ。しかも鎖を外していく中で湧き上がってくる魔力量は桁違いに多く、未だ増え続けている。
「(この魔力量・・・間違いなく上級貴族クラスだ。今回倒した伯爵級の魔族より遥かに多くて濃密なこの感じからして、ほぼ確実に侯爵級だろう。そんな魔族の魔力をその辺りのモンスターと変わらぬ量まで封じ込める魔封じのアイテムなんて聞いたことがない。・・・魔力を封じてたのはこの鎖だけじゃない、恐らくこの鈴も・・・)」
男はそう考えながらも手を動かし、体全体の治療も進めていく。鈴だけは常に視野のどこかにいれているが、特に異常はなく、相変わらず鳴りもしないし揺れもしなかった。
「・・・目は正常なようね。でもそれなら尚更だわ、どうして助けてくれるの?」
「俺は本気の殺気を向けてこない限り殺さない。何より魔族特有の邪気みたいなのがない。お前、全然魔族らしくないな」
魔族の少女は目を丸くして固まる。そして頬を赤く染めながら、微笑んだ。
侮辱とも取れるであろう言葉を聞いたはずなのに、心底嬉しそうに。
花綻ぶ笑みはまるで、天使のようーーー。
「笑える余裕があるならもう大丈夫だな。もうそんな罠に引っかかるなよ」
その笑みに妙な安堵を覚えつつ、男は治療を終えてさっさと去ろうと立ち上がる。が、
「待って!!」
急にマントの裾を掴まれて危うく転びそうになった。男はギギ・・とキツめに睨みながら後ろを振り返るが、魔族の少女は全く気にしておらず、マントを掴んだままニコニコと笑って男の顔を覗き込んでいる。
「ねぇ、あなた旅をしてるハンターよね?この近くの町とかに定住してるハンターじゃないよね?」
「そうだが・・・?」
機嫌が悪そうにわざと冷たく答えるが、少女はもちろんこれっぽっちも気にしていない。
「連れて行ってくれない?あなたの旅に」
「断る。大体仲間を裏切っていいのか」
男の言葉に少女は初めて睨み返してくる。
「私は、魔族を仲間と思ったことなんて、1秒だってありはしないわ」
こちらを見つめる瞳が燃えるようにギラリと輝く。そこには強い意志と共に、魔族に対してのハッキリとした嫌悪が含まれているのが見て取れた。その心意気に男は悪くないと思うのだが、
「だからと言って、お前が魔族であることには変わりない。大体、その姿をどうにかしない限り、着いてくるなんて無理だろう」
正論をぶつけて諦めてもらうことを選んだ。
魔族は皆、黒い翼と尖った長い耳と角を持ち、瞳は女性が赤と金色の混合、男性が金一色と必ず金色の色彩が入っている。同じ様に翼と角は色形共に多種多様なれど獣人が、尖った耳はエルフの民が同じ特徴を持っているのだが、金色の色味が入った瞳だけは、魔族だけの特徴だ。
故に他の三つだけなら最悪獣人とエルフのハーフだと言って誤魔化せなくはないかもしれない。けれど瞳の色だけは、どうしたって誤魔化すことが出来ないのだ。
「つまり、この見た目をどうにか出来れば着いて行っても良いってことね?任せて!」
「任せろって、一体どうするつもりーーッ!?」
胸を張って自信ありげに少女は言うと勢いよく立ち上がってすぐさま魔力を操作し始めた。
「我が力を感知せし精霊たちよ。我が唱えし魔の法に不足なりし所あらば、その力借りることを願わん」
少女の足元に淡い紫色で描かれた光の魔法陣が描かれる。魔法陣はすぐさま光を強めて宙に浮かび上がり、少女の長いウェーブのかかった薄紫色の髪を波打つオーロラのように輝かせた。
「遥かなる魔の呪を地平にて我は唄う。抱きし思いと想像の御柱、天高き所より降りし赤き雨は我が身の真を流して幻の祖に帰らん」
「これは・・・!(完全なる変化魔法ーーあまりに複雑かつ緻密過ぎる魔力コントロールに魔法自体が未完成、もしくは失敗作と言われた補助系の最高位魔法・・・こんな、まだ二十歳にも満たないようなやつがどうしてーー)」
男が驚愕のあまり目を見開いている中で魔法は進み、魔法陣が二つに分かれて少女の身体を激しく上下に行き来する。
「赤き鋼の楔となりしモノは朽ち、新たなる鉄の楔を持ちて、願いし誓いを築かん!」
詠唱が終わると同時に一際大きな光が粒子となって溢れ、すぐに収まった。男が眩しさで思わず閉じた目を開けると、そこに魔族の姿は何処にも無かった。
背中に生えていた翼は跡形もなく消え去り、角も消え、耳は人族と同じく小さく丸い。そして紅と金の瞳は、髪色と同じアメジストのような美しい薄紫色に変化している。
どうだ!と、今にも声に出しそうな表情でこちらを見つめてくる少女の身体に、魔族の証は全く見当たらない。それはつまり、完璧にあの魔法を使いこなせているという証でもあった。
男は殆ど表情を変えなかったが、それでも称賛の拍手を送った。
「見事、としか言いようがない。変化した箇所に魔力の痕跡や乱れも感じないなんて・・・完全という名は伊達じゃないな」
「あら、人間にもこの魔法の事を知ってる者がいるのね・・・って、それよりも!どう?これなら貴方の旅について行けるよね!」
約束した覚えはないんだが・・・。男はそう思うがため息を吐いてその言葉を飲み込んだ。
今言ったところで恐らく聞かないだろうことは目に見えている。それならコソコソと隠れて着いて来られるより、見えるところで居てくれた方が対処もしやすい。これだけの魔法を使いこなしておきながら自分に何もしてこないのだ、少しくらい信用してもいいだろう。あとは何処か適当な町で置いていけばいい。
「無言は了承と取るわよ?あ、そうだ、貴方の名前を教えて?私は『メーディエ』よ」
「(さすがに家名は名乗らないか)・・・『ライティエット・リンテル』だ、長いから『ライ』で良い」
「よろしく、ライ!」
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