5-7
被災された方々にお見舞い申し上げます。
一日も早い復興を心よりお祈り致します。
ここから数話の間、残酷な描写が続きます。
次の日。
「おかしいな」
「おかしいわね」
「・・・」
森林の中心地を過ぎ、沼地の付近まで進んだ辺りでライティエットとメーディエは口を開いた。
周囲に異常は無い。
沼地が近い為か地面が少しぬかるんでいて、そこに足跡が無数に残っている。全て方向がバラバラで無秩序な跡に、此処が間違いなく殺されたハンター達が徘徊している場所だと分かる。
だが情報にあったハンター達は一体も居ない。
それどころか
「ダンジョンが無い、森林のままだ」
魔族の魔力による土地の変質『ダンジョン化』をしていなかった。
魔族がテリトリーを作ると、そのテリトリー内となった場所は否応無しに魔力の影響を受ける。そうして魔族の思い描く通りの作りになり、城や迷宮と言ったダンジョンへと変化するのだが。
大森林に入ってから此処まで、ダンジョン化した場所が全く見当たらないのであった。
「もしかしてダンジョンを解いた?って、それはあり得ないわね」
「あぁ。ダンジョンは餌であり守りの砦でもあるからな」
「じゃぁ私たち以外の誰かに既にやられた、とか?」
「その可能性も考えたが、だからってすぐに元の状態に戻るわけじゃ無い。それに今思えば調査報告にダンジョンの詳細がなかった・・・師匠、これはもしや」
先程から黙って地面に片手を触れたままのシタヤにライティエットが声をかける。目を閉じて魔力を探っていたシタヤは目を開けたと同時に苦虫を噛み潰したような顔つきで周囲を睨んだ。
「ライ、お前さんの考えとる通りだ。・・・アレを見てみろ」
シタヤが指差す方を見ると、そこには薄闇色に染まった花々がいくつも咲いている。
「木蓮と曼珠沙華・・・」
咲いていた花は特に珍しくもない、どこでも見ることが出来る普通の花だった。
けれど2人はその花々を見た瞬間に元々していた警戒を更に強める。
2種類とも今は開花の時期ではないし、同時に咲くこともない。おかしいと辺りを探ったが、やはり周囲にそれ以外の異常は無く、魔力も感知出来なかった。
だがーー
「・・・改めて見ると数が多いですね。この花が群生している辺りがダンジョンの境界線・・・違うっ、増えてる!?」
それは一時のことだった。
「全くしてやられたわ・・・。わしらは既にダンジョンの真っ只中におるんだ」
四季関係なく、何かに呼応する様に開花して咲き乱れていく花々が異常さを教えてくれる。それに合わせてライティエット達も敵の魔力を感じ始めたが、やはり僅かにしか分からない。
そんな中で地面がボコボコと蠢き、木々が騒めき始めた。
「元々の土地に自分の魔力を順応させることでテリトリーであるダンジョンを隠しとったんだ。お前さん達が魔力を感知出来んのは恐らくその所為だろう」
「土地を変質させるのではなく、自分の魔力を変質させたってことですか?!」
「逆転の発想か・・・上手いことやってくれたな」
それぞれが驚きと悔しさで悪態をつく中、地面や森林の奥からハンター達がゾロゾロと出て来て3人を囲んでいく。
「予想はしていたが・・・」
「えぇ、本当に多い」
およそ100年間、怪しまれない程度に少しずつ、少しずつ集められていったハンター達。正確な数は分からないが500は優に超えているだろうか。
よく見れば明らかにハンターではない軽装の者や子ども、老人の姿が半数近くを占めていた。その者達は損傷が激しく、もう体の殆どが剥き出しの骸骨だ。調査では見つからなかったが、もしかしたらこの近辺にいくつか集落があって、ダンジョン化と共にその集落ごと飲み込まれたのかもしれない。
「帰還したら改めて調査の要請だな。憑依魔法もまだまだ改善の余地有りの様だし・・・全く報告が多くて困ったものだ」
「こうして逆手に取られて待ち伏せされてんだ。仕方ない」
「ありったけの軍勢を押し付けて、こちらの体力消耗を狙ってるんでしょうね」
「そんで最後は此処の連中と同じ仲間入りか?・・・懐かしい顔も居るかもしれんが、それは勘弁してほしいもんだ」
「それは向こうも同じだろうな」
「ライ・・・お前さんちょっと冷たさに拍車がかかっとらんか?」
「気のせいだろう。それより、魔族のお出ましだ」
ライティエットの視線の先、死人の軍勢の後ろで木蓮の枝に跨っている一体の魔族。
片眼鏡をかけて白衣の様な服を纏ったその姿は、一見すれば研究者の様であった。
「わざわざ顔を出して見物に来るとは、随分と余裕だな」
「メーディエ、師匠。後ろは任せた」
「おぅよ」
「任せて!」
2人の返事を合図にライティエットは駆け出す。
壁となって押し寄せる死人達を跳躍一つで超え、密集する木々の枝を足場にして一直線に魔族へと向かった。
「さぁ嬢ちゃん。こんな年寄りが相棒で悪いが一曲付き合ってもらうぞ?」
「ふふふ、お手柔らかにお願いいたします」
背中合わせになったシタヤとメーディエは軽口を叩いて互いを鼓舞し、眼前の敵を見る。
メーディエは魔力を高めていき、シタヤは腕輪、ではなく腰のベルトに着けていた4色の薄い金属片をシャンッ!!と高く叩き鳴らす。
「来い!!フレイネ!ウォルネア!ウィンティ!アースラ!」
連続で4回。
金属の硬質で高い、けれど涼やかな音が波紋となって周囲に響き渡る。
その波紋に呼応してシタヤの周りに火の渦、水の渦、風の竜巻、植物と土の山が出来、それらはすぐさま人型へと変じて死人達の群れに突っ込んでいった。
『久々の顕現ねぇ!火力間違えちゃいそぉ』
『いけませんわよフレイネ、場所を考えてくださらないと』
『そうそう!今日はおれっちとアーくんの出番でしょ!』
『・・・・あーすら、がんばる』
蔦と葉の髪に土の手の少年アースラが先ず前に出てぬかるむ地面に両手を叩きつける。バリバリ!と魔力が通る音と同時に地面から大量の蔓や根っこが湧き出て来て死人達を雁字搦めにしていった。
『アーくん良い仕事っぷり!!んじゃおれっちも、せーっの!!』
次に前に出たのは顔以外全身が色とりどりの羽根で覆われた青年ウィンティ。彼は両掌の上と両足の下に竜巻で出来た手裏剣を作り出し、それを同時に飛ばした。目にも止まらぬ速さで飛ぶ竜巻の手裏剣は一瞬で数十体の死人達の首や手足を切り裂いていく。
『シタヤ様、残すのはハンタープレートだけで宜しいのでしょうか?』
「あぁ、それで構わん」
『御意に。フレイネ、プレート確保はわたくしがいたします。あなたはシタヤ様とこちらのお嬢様をお守りしなさい』
『はーい、まっかせて!』
濡れた紺碧の着物を纏った女性ウォルネアが炎の髪を靡かせる妖麗な女性フレイネに指示をしながら水の泡を操って死人達からプレートを回収していく。
『よろしくねん、可愛いお嬢ちゃん。邪魔はしないからあんたも好きにして良いわよぉ』
「え、えぇ?」
状況を飲み込めずに呆然としてしまったメーディエ。そこにハンターが襲いかかってくるが、その前にフレイネが指先をパチン!と鳴らして火だるまにしてしまった。
『ほら、ぼーっとしなぁい!ドンドン来るよぉ〜?』
「は、はい!」
喝を入れられて正気を取り戻したメーディエは改めて魔力を高めて魔法を構築。無詠唱で辺り一面、特にライティエットが向かった方向を中心に死人達を氷の柱の中に閉じ込めた。
『きゃは〜ッ!やるじゃなぁい!』
『お見事でございます』
『おねえちゃん、すごい』
『こら〜っ!よそ見してないでこっち手伝え〜っ!』
メーディエの魔法の威力にフレイネ達は拍手喝采。
しかしすぐにウィンティに怒られてそれぞれの役割を全うしていく。
「ははは、やかましくてすまんな」
「いえ、あの・・・シタヤさん、彼らはまさか・・・精霊、ですか?」
「そうだ、あいつらは地水火風の四大精霊の王達だ」
フェスティア大陸は精霊信仰の大陸だ。
町や村はそれぞれの地に住まう精霊達を崇め、彼らの欲するものを提供したり守ったりする。そうすることで町全体を守護をしてもらっているのだ。
つまり精霊が主体で上位、彼らの気分次第で守護は無くなると言って良い。もちろん友好的な彼らはそんな事はしないのだが、フェスティア大陸の住人と精霊はそういった関係性でこれまでも、これからも過ごしていく。
そう、メーディエは知識として持っていた。
なのに、これはなんだ。
明らかにシタヤが上位で、しかもただの精霊ではなく精霊王を喚び出していると?
あり得ない、おかしい。
だってこれは
「わしはこの大陸で唯一の召喚師、『精霊王の友』なのさ」
別の大陸の魔術ではないか。
また執筆が途絶えていましたが、本日から再開しています。
2024年、今年もどうぞ宜しくお願いします!
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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