5-6
「ーー・・・と、言う訳なんだが「行くわよ」」
宿に戻って依頼内容を説明するライティエットにメーディエはズイっと詰め寄る。服の裾も掴んで、絶対離すものか!という意気込みすら感じられた。
「・・・置いて行くなんて言ってないだろう」
「今回はシタヤさんとの共同依頼なんでしょ?邪魔かもしれないじゃない」
「それは無い。師匠もお前の技量は分かっていた」
「それってつまり『完全なる変化魔法』を見破っただけじゃなくて抑えてる魔力まで読み取ったってこと?・・・恐ろしい人ね」
メーディエが使用している『完全なる変化魔法』はその見た目は勿論、魔力すら変化させるものだ。そのおかげでメーディエは何の弊害も無く町に入り、歩き回れているのだが。シタヤはその変化させて隠した筈の魔力を読み取っている。
これはいくら魔法に精通していても難しく、メーディエの本来の魔力を知っているライティエットでも不可能なことだ。
「あの人の恐ろしさはそれだけじゃないがな」
「そうなの?」
「あぁ、一緒に居れば嫌でも分かる。それより西の森の魔族に心当たりはないか?」
「侯爵級以上と思われる死人使い、だったかしら?思い当たる魔族が1人いるわ。と言っても、直接会った事は無いんだけど」
「リコルス・デューク。
ルーフェンとマルクスと並ぶ公爵級の死霊使いよ」
◆◆◆
会議から3日後。
シタヤから身体の鈍り具合を確認され、大丈夫というお墨付きを貰ったその日にライティエット達は旅立った。
先ず北の街シルビスから西の街マエラまでの移動はギルドに設置された転移魔法を利用。メーディエをミネリア達や他のハンター達と鉢合わせない様にする為に事前報告は一切しなかった。
ギルドの職員に今から使うから、で通してもらえたのは白金ランク故だろう。
ミネ達が悔しがるだろうな、と移動が終わってからシタヤが笑っていたので、ライティエットは即日行動を選んだ自分を大いに褒めた。
もちろん、コレは彼の中だけの秘密だ。
そうして到着したマエラで討伐準備を済ませ。更にギルドには2週間経っても帰還、もしくは何の連絡も無い場合はミネリアに報告を、と言う言伝も頼み、3人はエルザール大森林に足を踏み入れた。
◆◆
エルザール大森林に入ってから5日後。
「いやぁ〜ここ数日見せてもらったが嬢ちゃんの魔法は凄いな!!大したもんだ!」
「あ、ありがとうございます。でも私よりすごいのはシタヤさんですよ」
ライティエットが周囲を見張りながら結界を三重に張った上での休息中。
メーディエとシタヤはお互いの戦闘技量を褒めあっていた。
「今日は槍に大剣、昨日は弓にバトルハンマー、一昨日は投げナイフも使ってましたよね!モンスターの生態と場所に合わせて武器を使い分けるなんて、すごいです!」
「あぁ、便利な魔法石だろう?」
「確かにその魔法石も珍しくてすごいですが、私が言ってるのはシタヤさん自身ですよ」
左手を上げて見せるシタヤの手首には瑪瑙のような色合いの大きな石の腕輪が嵌められている。
これは魔法が込められた石で作られていて、持ち手の意思に合わせて様々な武器に変形する仕様だ。
完全に手ぶら状態でいるシタヤを不思議に思っていたメーディエだったが、彼がこれを使ってモンスターを倒しまくるのを見て度肝を抜かれたのは言うまでもない。しかもそれが多種多様の武器達となれば尚の事だ。
「作り出した武器を全部使いこなすなんて・・・それにお料理もお上手ですし、本当万能って感じ」
「お、なんだ嬢ちゃんにまで知れ渡ってるのか」
「え?何がですか?」
「『万能の狼王』、師匠の二つ名だ」
見張りを終えて側に戻って来たライティエットが2人の会話に加わる。
二つ名とは、ハンターが白金ランクに上がった時に与えられる名前だ。パーティーを組んでいたならそれがパーティー名として使われる。
現状、個人で二つ名を持つのはギルド代表の3人とライティエットとシタヤだけである。
「知りませんでした。じゃぁライにもあるの?」
「『黒銀の死神』」
「え、死神?・・・あ、じゃぁギルドで呼ばれてたアレって悪口じゃなかったの!?」
メーディエが思い出すのはアイリーの街のギルドでのやり取りだ。ライティエットを見て『死神』『化け物』と言っていたハンター達を思い出すと今でも腹が立つ。
「妬み込みだろうから、その考えで間違ってはないと思うがな」
「何それ、シタヤさんのと違って酷くない?」
「はははははは!まぁあだ名みたいなもんだからな。大体ワシだって万能の狼王なんてカッコよくて呼ばれだしたのはここ2、30年よ」
「そうなんですか?」
「昔は器用貧乏の問題児とか独りよがりの問題児とか出たがり問題児とか」
「・・・全部に問題児がついてますけど・・・」
「その通りだからな」
「やかましい!まぁアレだ、若気の至りというやつよ。ワシは一番になりたかったのさ」
「一番、ですか?」
「あぁ、ワシは大体なんでも出来た。けど力はガーフィスに劣る、武器も弓はミネに勝てん。他の武器も同じように専門の奴らには負けるし、魔法は視ての通り魔力が少ないだろ?だから何でも出来たが、誰にも勝てなんだのさ」
最早笑い話なのだろう。
語るシタヤ自身に悲壮感はまるで無い。
「それで随分荒れたもんよ。皆が必死に魔族と戦う中で、ワシだけが役立たずなんじゃないか、ってな」
だが、これだけ色々な事が出来るのに誰にも勝てない。いや、何をやっても勝てないからこそ、色々なものに手を出したのだ。
この使える武器の多さは、きっと当時のシタヤの焦燥感が形となったものなのだろう。
「そうだったんですか・・・」
「そんな中で言われたんだ」
『何でも出来るなら、器用さで一番になれば良いじゃない』
焦り、苛立つシタヤにかけられたたった一言。
この一言で救われ、世界が変わったことを、言った本人はきっと気付かぬままだっただろう。
『フォローの達人になるの。
シタヤならなれる、ううん、シタヤにしか出来ない事よ』
「ー・・・眼から鱗とはこの事よな。そっから皆のフォローに回る事を最優先にした。失敗もあったがまぁ器用だからな、すぐにどう立ち回れば良いかが分かったよ。おかげで器用貧乏から万能王に格上げしたって訳だ」
「ほぁ・・・すごい」
「ははは、そんな訳だから明日の嬢ちゃんのフォローは任せてくれ!ライ、お前さんはこっちを気にせず魔族を叩きにいくんだぞ?」
温め直したホットワインを受け取ったライティエットは急に話が振られたのも気にせず、当然とばかりに頷いた。
「元よりそのつもりだ」
「え、でも今回はシタヤさんが前に出た方が良いのでは?操られているハンターの数が不明なら私とライで広範囲魔法を使った方が・・・」
大森林の中に入って5日、先の探査で見つかった痕跡は順調に辿れている。明日には徘徊するハンターが目撃された中心地に着くだろう。
魔族が目撃された沼もそこからすぐ近くなので、明日の戦闘はほぼ確実と言って良い。
「ふっふっふ、嬢ちゃん、ワシの二つ名はひとつじゃないんじゃよ」
「問題児のことですか?」
「違う!!まぁ明日を楽しみにしておれ。面白いものを見せてやるからな」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。
少しでも面白いと思っていただけたら↓から評価、感想コメントなどをいただけると嬉しいです。




