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ほんわかとしていた空気が一気に張り詰める。
皆の意識が集中し、ミネリアに入室を許されたギルド職員はその空気に気圧されて書類を渡すと即座に逃げるようにして退室した。
「・・・・」
「ミネ、なんと書いてある?」
「ていうか捜索って・・・何があったのよ」
「あぁ、先ずは皆に説明しなきゃだね」
書類を真剣に読んでいたミネリアがシャロッテの問いに顔を上げる。そして他の代表2人にも視線をやってから詳細を語り出した。
「魔剣の使徒がね、現時点で1ヶ月以上、いや、もうすぐ2ヶ月になるか・・・討伐報告が上がってないんだよ」
「「「「えっ!?」」」」
「あの魔剣の使徒が?」
「「「不自然也」」」
魔剣の使徒は総勢7人と他のパーティーに比べて人数が多い。そのおかげか討伐と討伐の間の休息期間が短く、常に一定間隔で何かしらの討伐報告をあげている。このまま続けばハンター歴最長のシタヤと討伐数が並ぶのではないかと言われていたほどだ。
故に『白金ランクの討伐報告』と言えば先ず『魔剣の使徒』と言われるくらいであった。それが2か月近く無いとなれば、皆の驚きと疑問は当然と言えた。
「えぇ、私達もそう思いましてね。各地のギルドマスターに連絡を取って報告漏れが無いかとか、とにかく詳しく調べてもらったんです」
「そうしたらよ、最西の町『マエラ』での討伐報告と西の外壁門を出た所を見たのが最後で、それ以降は目撃情報すらなかったってんだ!」
「それは、ますます妙だな」
「あぁ、だから遭難と・・・魔族との交戦による全滅を視野に入れて、探索が得意な金ランクパーティー3組にマエラの町より更に西側のエリアを探してもらったのさ」
「その結果が、それなの?」
「いや、捜査隊のうち2組は何も見つけられずに帰還したよ。でも残り1組は、設定していた期限になっても誰も帰って来ず、3日過ぎて1人だけ帰って来た」
「たった・・・1人?」
「マジかよ・・・」
「そいつもギルドに運ばれた時には既に事切れておったって話だ・・・。金ランク歴も長くて地道に努力を続けてる良い奴らだった。そろそろ白金ランクに推薦しようと思ってたパーティーだったのによぉ!」
ガンッ!!と自分の太ももを叩いて悔しがるガーフィスに皆押し黙る。
ハンターは常に死と隣り合わせである故に、こう言った仲間達の死亡報告は日常茶飯事だ。
でもだからと言って、仲間の死の報告はいつまでたっても慣れるものではない。100年近く経っても、やはり悲しくて寂しい。同じ釜の飯を食い、酒を酌み交わした者たちであれば、それは尚のことである。
「けどな、さすが俺の見込んだ奴らよ!そいつは捜索記録を持ち帰ってたんだ!!」
「おかげで場所をエルザール大森林と特定、そこから更に匂いと魔力残滓で辿る事が出来ました」
「そして今日、憑依魔法の使い手たちを呼んで詳しい足取りを捜査してもらったのだが・・・その結果がコレよ」
涙声から一転、意気揚々と語るガーフィスに続いてモルドとミネリアが更に情報を開示し、最新の、ギルド職員が持ってきてくれた書類が机の上に広げられた。
書類の一枚は西側の詳細が描かれた拡大地図で、金ランクパーティーがマエラの町からどう移動したかが記されている。
エルザール大森林は西拡大地図のほぼ半分を占めるほどに巨大だ。故に道順には細かい地形や目印となるものが書き足され、更に経路の線に重なる様にして複数の点が書かれている。恐らく何かしら痕跡を発見した場所だろう。
その他の数枚の書類には文章と絵で細かい詳細が書かれていた。
【 エルザール大森林入り口付近。
森林内各所にてハンターの遺物と思われる荷物を発見。
数ヶ所で戦闘の形跡有り(絵の詳細有り)。
遺物等の荷物の発見数が20を超える。
行方不明になったのは2パーティーだけではないと推測。
ただし生存者は勿論、遺体も発見出来ず。
更に奥を捜索。
エルザール大森林中心付近。
金ランクパーティーと魔剣の使徒のメンバーを全員発見。
2パーティー以外のハンターらしき人物も数名発見。
ランクプレートを確認(番号掲載)。
番号照合による詳細確認を求む。
憑依体で近づくも反応無し。
頭部及び胸部に致命傷痕有り(絵の詳細有り)。
以上から死亡は確定。
ただし、遺体は操られているのか森林内を無作為に徘徊。
エルザール大森林中心より西、ファルアの沼地。
魔族らしき人物を発見。
遠目による観察を開始。
直後、憑依の強制解除。
使い手気絶により捜索の続行不可能。
恐らく憑依体が殺されたと推測。
魔族の能力等の詳細を確認出来ず。
(魔族と思われる者の絵有り。
ただしほぼ輪郭のみで細かい描き込みは皆無) 】
「ーー・・・死体を操る、魔族か」
「資料にもありますが、これまで探しきれなかった行方不明者との照合を早急にすべきですね」
「あぁ、それにアイツらがやられてんだ。コイツは相当な手練に違いねぇ!」
「最低でも侯爵級・・・いや、場所的に噂ばかりで情報が得られなかった最後の公爵級かもしれんな」
「「「ミネリア様、御采配を」」」
「・・・・」
腕を組んで黙っているミネリアに視線が集まる。
ミネリアは右眼でゆっくりと全員を見渡し、その視線をライティエットで止めた。
「傷の状態は?」
「問題ないです」
「即答かい。シタヤ、後でこの子の傷と体の鈍り具合確認しとくれ」
「元よりするつもりだったが・・・わしらを指名か」
「ふん、分かってただろうに」
友人同士の気軽さで交わされる掛け合い。
こんな深刻な場面での深刻さの欠けたやり取りを遮るようにガタンッと椅子が跳ねて大声が上がった。
「ちょ、ちょっとまってくださいにゃ!ライ様はこの間公爵級と戦ったばっかりにゃんですよ!?」
「さすがにもう少し休暇取った方が良くない?」
「そうだぜ、代わりにオイラたちが行くよ!なぁガガル!」
「・・・」
「ガガルしゃん?」
威勢よく立候補する3人の横でガガルは1人無反応を貫く。蜥蜴族故に表情が読み取れないが、両目を閉じて口元を隠す彼は苦悩している様に見えた。
「言えガガル。リーダーはお前だろう」
「・・・ッ!」
「それにお前さんの冷静な判断が今までその子らを生かしてきたんだろうからな」
ライティエットとシタヤに促され、ガガルは大きく息を吐く。そして訳が分からないと言った表情の仲間達に向かって口を開いた。
「・・・僕ラ、無理」
「「ガガル(しゃん)っ!?」」
「な、なんでだよ?これ以上犠牲を出さない為にもオイラ達が!!」
「・・・仲間、斬レナイ」
「「「っ!!!?」」」
蜥蜴族特有の厳つい見た目に反して、高く、けれどどこか掠れた感じの声が3人に重くのしかかった。
資料からの情報だけでも21名のハンターが大森林を徘徊している。
だが、これは大森林内の一部を捜索しただけの話だ。実際の総数は恐らく倍以上、その中に自分が見知った者もいるかもしれない。
それが魔族と共に襲って来たら?
自分たちは一切の躊躇なく、切れるだろうか?
「アタシだって好きでライティエットを選んだ訳じゃないんだよ?だけど今回はこの人選以外有り得ないんだ」
「そうですね。操られてるハンター達がモンスターのように首を落とせば終わりとは限りません。最低でも四肢は落として、更に燃やすか凍らせるかしなきゃいけないでしょう」
「そうなれば数的にも広範囲魔法は必須だ。てことはそれが使えない天空の守人は外されるし、お前らはガガルに言われた通りだろ?」
何も返せず黙ったままの断罪の剣を誰も責めはしなかった。何故なら答えが出ないことが『答え』だから。
彼らはまだ若い。
年長者であるミネリア達としては例え死体であっても、仲間を斬る覚悟なんて本当はして欲しくないのだ。むしろ全てを分かった上で即答するライティエットが異常で、別の意味で心配になる。
だが、今回はそれを頼る他ない。
項垂れて、でも言い返せずに納得してしまった彼らをミネリアはわざわざ立ち上がって側に行き、頭を撫でた。
見た目年下の、けれど母親の様な眼差し。
けれどそれは、ライティエットとシタヤに向けられた瞬間、眼光鋭い頭首のものへと変わる。
「シタヤ、ライティエット。ハンターギルド頭首の名の下、エルザール大森林の魔族討伐を依頼する。ただし、己の命が最優先だ、いいね?」
「「了解」」
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