第五夜 師父の思い
心の傷に 大小など無い
大事なのは
その傷とどう向き合い どう乗り越えていくのか
言うのは簡単
実際はとても難しく 時間もかかる
でもだからこそ 心にとって
とても大切なものへと 進化していく
とても幼い頃、この大陸の事を教えてくれたのは師匠だった。
『ーー・・・みんな、必死だった。精霊様たちは結界を維持する為にいっぱい死んじまって、仲間たちも壁を作ってる間に襲われたり殺されたりしてな・・・。どうにか守れたが、それでも半分近くは壊されちまったんじゃねぇかな。被害があり過ぎて未だに把握しきれてないんだ・・・。あちこち旅して来たが、今でもたまに見かけるよ。ボロボロに破壊された村の跡地をな』
いつもは遠慮なく、ガシガシと触れて来る大きくて力強い岩みたいな手。それがこの時だけは、弱々しく、壊れモノを扱うみたいに触れて来る。
『お前にも見せてやりたいなぁ。あのでっかくて果ての無い青空を、宝石が散らばったみたいにキラキラ光り輝く夜空を!・・・あるのが当たり前で、当たり前過ぎて気付いてなかった。アレが、自由の象徴だったんだって事をな・・・』
遠くを見る師匠の視線の先に、きっと望むものは見えていない。幼いながらそれが分かって、口を閉じた。
いつか、薄闇の晴れた本物の空を見てみたい。見せてあげたい。
師匠と、あの人に。
そんな大それた願いはすぐに、叶うことのない夢物語に変わってしまったけれど・・・。
◆◆◆
「ーー・・あぁ・・・夢、か・・・」
とても、懐かしい夢を見た。
10年、いや、もう20年近くか・・・。記憶が霞むほどに昔の、何も知らなかった愚かな頃の夢。
沈みそうになった感情を頭を振って眠気と共に振り払った。
そんな咄嗟に行った自分の行動に、クッと皮肉めいた笑みが溢れる。
「こんな感傷的な感情がまだ残っていたとはな・・・。本当、なんだって今更ーーイッ!!?!?」
ギュン!!と音が鳴る勢いで頭に何かがぶつかる。尖った部分が思い切り突き刺さってきたのか、痛みに思わず悲鳴が漏れた。
「〜〜ッ!!一体何がっーー・・・ぁー」
オレンジ色の鳥、の形をした手紙。ほんのり発光しているそれはすぐに伝達魔法だと分かる。手紙は先程の勢いは無いものの、今も嘴部分で指先をブスブスと刺して来ていて地味に痛い。
ちなみに付け加えると、普通の伝達魔法はこんな事はしない、絶対に。
「相変わらずおかしな魔法の使い方をしやがって・・・」
「ん・・・ライ?」
「あぁ、悪い。起こしたか?」
「ううん、だいじょうぶ・・・あ、それって」
体にかけていたマントの中がモゾモゾと動いて、メーディエが顔を出す。紅金の瞳がとろんとしていてまだ眠そうだ。
小さなあくびを噛み殺しながらメーディエはライティエットの指先を刺し続ける手紙に目を向けた。
「ふふふ、ライのお師匠様のお手紙はいつも元気いっぱいだね」
「手紙に元気はいらないだろう・・・」
「そう?私は楽しくて良いと思うけど」
クスクスと笑い続けるメーディエにライティエットはこっそり安堵のため息を溢す。
彼女がこんな風に笑えるように戻ったのはここ2、3日の話だからだ。
あの戦いの後、目覚めたメーディエは何も覚えていなかった。
いや、正確にはデミルスの襲撃もルーフェンの死も覚えていた。だが、豹変してしまった時の自分の行動も言葉も全く覚えていなかった。
それにライティエットは安心と同時に、警戒した。けれどメーディエは全く思い出す様子はなく、それよりもルーフェンの死に動揺してかなり情緒不安定になっていた。
『ごめんなさい、ごめんなさいライ・・・。自分でも、なんでか分からないの。だって、あんな城から逃げ出すくらい嫌いだったのに・・・貴方の事だってたくさんたくさん傷つけて・・・。本当、大嫌いな、はずだったのに・・・』
自分の感情に理解が追い付けず、何日もボロボロと泣くメーディエ。
そこにあるのが当たり前過ぎて気付いていなかった。今日見た夢で師匠が言っていたのと同じなのだろう。
失って初めて気付くのだ、自分にとってどれだけ大切だったのかを。
メーディエは泣いて、泣いて、うなされ眠れぬ夜を幾度も過ごして・・・。
数日経った頃にようやく、気持ちに折り合いがつけられたようだった。今は落ちていた食欲も少しずつ戻り、こうして笑みも浮かべるようになってくれた。
「私と旅をし始めてから一度も会ってないのでしょう、顔を見せてあげたらどう?キチンと留守番してるわよ」
「いや、別に会おうとかそういう手紙ではないから気にしなくていい。元気にしてるのかとか、今どの辺りだとか・・・基本そういう現状確認だ。今回もそんな感じだろう」
言いながらライティエットは動き回る手紙をベチン!と潰して止め、大人しくなったのを確認してから拾い上げた。
そして広げて読み始めてすぐ、彼の眉が僅かに眉間に寄せられ、難しい顔になる。
「ライ、どうしたの・・・ーーあら?」
あまり表情を変えないライティエットの、不機嫌とも取れるような顔の変化にメーディエは心配になる。
だがその思考はすぐ、上空から感じる小さな魔法の気配に止められてしまった。もちろん、ライティエットも気付いてメーディエと同じように視線を向ける。
「前言撤回だ。すまないが次の町では宿で待機していてくれ、買い出しもしなくて良い」
「え、え?どういう事?」
目の前に降りて来る、ほのかに発光した鳥、2通目の伝達魔法。師匠のモノとは違って大人しく、ゆっくりと降り立ったそれを、ライティエットは厳しい目つきで睨みつけた。
「ハンターギルドからの、召集命令だ」
新章スタートしました!
ついにライティエットの師匠登場になります!!
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