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幕間2 ごはんはひとりよりも 〜ごろっと野菜のシチュー〜

体調不良と実家帰省が重なって更新が遅くなりました。

来月中頃には新章更新予定ですので、これからもよろしくお願いします!


※三夜から四夜の間。メーディエご立腹直後。




「・・・怒ってるのか?」


 俺の手を引いて前を歩くメーディエに声をかける。

 返ってくる答えは分かっているが一応、念の為。


「そうよ、見て分からない?」


 あぁ、やっぱり。

 どうしようか・・・行くのをもっと強く止めるべきだったかな。


「だから言っただろう、良い気分にならないと」

「えぇ本当にね!でも私の知らないところでこんな目に遭ってるよりかはマシよ。こうして連れ出すことも出来るし。大体なんなのあの人たち!魔族の心配ばっかりで誰もライの心配しないなんてっ!それにライのことを死神とか化け物とか、本当に最低だわ!!」


 コイツは、本当に・・・。

 こんな風に俺のことを自分のことのように怒ってくれたのは師匠(シタヤ)くらいだった。これからも、師匠だけだと思っていたが・・・。

 分からないものだな、人生ってのは。



「・・・ありがとう・・・メーディエ」



 自然と出た言葉に自分で驚いたが、悪くない。



「ぅ、え、ぁ・・・ら、ライ!!私お腹が空いたわ!!」

「は?」

「魔法いっぱい使ったしいっぱい怒ったし!とにかくお腹が空いたの!宿に戻る前にご飯食べましょう!」

「・・・さっさとここを出るんじゃなかったのか?」

「食事くらい良いでしょ?それで文句言ってくるようならもう一回威圧かけてやるだけよ!」


 威勢のいいことを言っているが耳が赤いままなので迫力ははっきり言って皆無だ。


 だがまぁ、そんなメーディエを見るのもまた、悪くないと思う。





「ここよ。このお店の女将さんが作るシチューが絶品なんですって!」


 メーディエが案内してくれた店は町の商店街から少し外れた所にある小さな食堂だった。

 まさに知る人ぞ知る、と言った場所にある店だが、一体どうやって知ったんだろう。


「買い出しで寄った薬屋の店主さんが教えてくれたの。元々薬剤師だった人がやってるお店なんですって。さ、入りましょう!」


 メーディエのコミュニケーション能力の高さに感心しながら、俺は彼女に続いて店に入った。

 店内は飯時ではないからか客は1人も居らず、ガランとしている。照明もカウンターの蝋燭だけで、そこに小さな子ども2人を抱えて必死に祈っている恰幅のいい女性が居た。

 エプロンをしているし、この人が店の女将だろうか?


「あの、お店・・・お休みでしたか?」

「ぇ、あ!い、いらっしゃ・・・アンタ、ハンターさんかい!?」


 女将はメーディエの声かけに顔をあげ、すぐさま俺に目が釘付けになって走り寄って来た。


「あ、あぁそうだが」

「魔族は!?でっかい燃える岩が空にあったんだ!!アレはどうなったんだい!?」


 あぁ、そうか・・・マルクスの襲撃は未然に防いだけど、あの魔法自体は目撃されている。情報が最前線で来るギルドも、俺たちがつい先ほどもう問題ないと伝えたばかりだ。この人が何も分からず不安なのは仕方がない。


「女将さん落ち着いて。大丈夫よ、もう脅威は去ったわ」

「ほ、ほんとうかい?」

「あぁ。・・・聞こえるか?ギルドの鐘の音だ」


 ちょうど良いタイミングで外から大きな鐘の音が聞こえて来た。

 これはギルドで鳴らす伝令用の鐘だ。

 緊急事態の時は間をおかずに連打、緊急事態が解除された時は間を空けてゆっくり3回鳴らす。今鳴っているのは勿論ゆっくり間を空けた音だ。


 まるで落ち着かせる様な鐘の音に女将はその場にぺたんと座り込み、子どもたちを抱えて泣き始めた。


「あぁ良かった・・・ありがとう、ありがとうね・・」

「かあちゃん、おそとでてへいき?」

「おうちなくならない?」

「うん、もう大丈夫だって。ハンターさん、知らせてくれてありがとうね」


 ・・・こうして、直接礼を言われる経験はあまりないから反応に困るな。メーディエはメーディエでそんな俺の様子を見て笑っているし・・・。


「あ!うちに食べに来てくれたんかね?ごめんなさいね、みっともないとこ見せて・・・すぐ準備するよ!ほら、お客さんご案内して!!」

「はーい!にいちゃんたちこっちすわってー」

「おみずもってくるねー」


 安心したからかすっかり調子を戻した女将はテキパキと動き出した。店内の照明に魔力を通していき、子どもたちは俺たちの手を引いて席まで案内したり、水の入ったコップを持って来たりしてくれる。

 まだ5歳くらいの双子?だろうか。役割分担がしっかりして慣れた感じだ。小さいのにきちんと母親を助けていて偉いな。


「ふふふ、ありがとう。お手伝い上手ね」

「えへへ〜」

「ごちゅうもんはなんですか?」

「お勧めのシチューがあると聞いて来たのだけど、あるかしら?」

「あるよ〜!!かあちゃんシチューふたつ〜っ!!」

「パンにつけてたべるともっとおいしいよ!!」

「あら、商売上手ね!じゃぁパンも貰おうかしら」

「はーい!かあちゃんパンも〜」

「はいよ、美味しいとこ選んで運んどくれ」

「「はーい!」」


 何というか、多分シチューよりこの子どもたちがこの店の売り上げに貢献している気がする。

 メーディエも同じ事を思ったんだろう。ちまちまと動く子どもたちを微笑ましいとばかりに眺めていた。


「はいよ、うちの看板メニュー!野菜のシチューだ!!サービスしといたからたくさん食べとくれ!」

「わぁ美味しそう!いただきます!!」

「・・・いただきます」


 けれどそんな考えは目の前にドンと置かれた器にこれでもかと盛られたシチューで吹き飛んだ。


 これは、確かに美味そうだ。


 少し茶色がかった牛乳のスープに大きめに切られたじゃがいも、人参、玉ねぎ、蕪、ブロッコリーがたくさん入っている。骨付きの鶏肉もあるが完全に脇役だ。そう断言出来るほど野菜がごろごろ入っていた。

 一口では食べられない大きさの野菜達に火は通ってるのかと不安になるが、スプーンを添えた瞬間にその心配が杞憂だと分かった。力を入れなくても切れるほど野菜は柔らかく、口に入れれば舌の上でホロリと解ける。


「・・・美味い・・・」


 他の野菜と鶏の出汁を吸ったじゃがいもはそれだけで完成した一品料理の様な美味さだ。

 そしてこの美味さを支えているスープもまたすごい。香りからして明らかに多種多様なハーブと香辛料が使われているはずなのにそれが見事に調和している。どれも主張して来ず、喧嘩して消し合わず、互いを尊重して引き立てあっている。

 こんな事が可能なのか?

 いや、さすが元薬剤師ということなんだろう。師匠が食べたら配合を根掘り葉掘り聞き出しそうだ。


 そんな風に素直に感心していたら、隣で食べていたメーディエの動きが止まっていた。

 メーディエの口には合わなかったか?と様子を見れば、違った。


 美味すぎて溶けてた、顔が。



「女将さん・・・これ、すっごく美味しいです・・・」

「ぁ、あぁそうかい?ありがとうね」


 外見が無駄に良い美少女のとろけ顔に同性の女将ですら動揺している。子どもたちに至っては・・・、あぁ可哀想なくらい真っ赤だ・・・。

 そういえばさっきギルドでも結構な人数を骨抜きにしてたしな・・・。やめてほしいんだが本人は完全に無自覚だ、どうしたものか。




 ・・・・・・・なんで、やめてほしいんだ俺は?



 別にメーディエがモテたところで俺には関係ないだろう。


 そうだ、関係ない。

 関係ない、はずなのに・・・。なんで、こんなにも胸の辺りがざわつくと言うか、モヤモヤするんだ・・・。



 俺は訳が分からないまま、大盛りのシチューを食べるのを再開した。

 うん、美味い。

 パンも浸して食べてみる。これも美味い。子どもたちが勧めてくる気持ちがよく分かる。



 この美味さで、胸のざわつきが消えてくれないかと願ったが・・・。

 残念ながら腹が満たされただけで、一向に消えることはなかった。






幕間2 ごはんはひとりよりも 〜ごろっと野菜のシチュー〜 END


ここまで読んでくださってありがとうございます。

誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。


執筆の原動力になるので、少しでも面白いと思っていただけたら↓から評価、感想コメントなどをいただけると嬉しいです。

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