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「ライティエット」
ルーフェンから名を呼ばれ、ライティエットも、聞こえていたメーディエも驚く。『魔族には遠く及ばない下等な原住民』と見下すのが常のルーフェンが個人の名前を呼ぶなど、恐らく初めての事ではないだろうか。
動きを止めて語り出すルーフェンにライティエットは僅かに驚きながらも警戒を緩めずに剣を構える。
「君が持つその剣がどういうものか、知っているかい?」
「急に何の話だ」
「まぁ聞きたまえよ。君の持つ剣はね、私が持つこの『アダマス』の、兄弟剣なのだよ!」
「・・・ッ!」
急にルーフェンが大きく身体を捻って剣を横に一閃する。刃先が冷気を纏って輝くのを見て、この間自分を閉じ込めた技だと見切ったライティエットは素早く避けて大きく距離を取った。
一瞬後に斬撃が走り、巨大な尖った氷柱が床から生え襲い、壁が一面ひび割れながら凍り付く。室内の気温が、特にルーフェンの周囲が一気に下がり、胸や腕から滴り落ちていた血が凍った。
これで止血が出来たとばかりに傷口達を撫でると、距離を取ったライティエットを追わず、やはりただ剣を向けて話を続ける。
「・・・今は、どうやら幾重にも封印がなされているみたいで本来の見た目とは全く違うね。だが、それは間違いなく伝説の名工とまで讃えられた『鍛師ラピス』が鍛え上げた名剣『コランダム』なのだよ。その証拠に・・・ほら、見たまえ」
「ーーッ!!?」
向けられていた灰色の刀身からジワリ、ジワリ、と紫色の魔力が滲み出てくる。その魔力は無数の尖った猛禽類の羽根のような形となって周囲に浮かび、ライティエットへ、正確にはライティエットの持つ剣へと狙いを定めて突撃して来た。
「はははっ!私のアダマスが今にも暴れだそうと悶え震えているよ!」
飛んでくる無数の羽根をライティエットは『雨粒の矢』で迎撃するがあまりに数が多くて捌ききれない。先程のルーフェンの攻撃であちこちに出来た氷柱を盾にもするが、殆ど意味なく破壊され、ライティエットは氷の床を転がるようにして避ける。
「くっ!!既に暴れまくってるだろうが!」
「まだまだ、こんなのは序の口だよ!」
「っ!?メーディエ結界を張れ!!巻き込まれるぞ!!」
「は、はい!!」
一瞬攻撃が止んだと思ってアダマスを見れば、更に魔力を蓄えてどす黒い色に変色した羽根が周囲を旋回していた。
明らかに突撃して来るだけでは終わらない様子にライティエットは叫び、メーディエも即座に反応して自分とライティエットに結界を張る。ライティエットは更に二重三重と結界を張ったが、羽根の突撃はその結界の一枚目に深く突き刺さり、貯めていた魔力を放出して爆発。2人分の多重結界はなんとかそれに耐え切るも、ライティエットは爆風で壁を破壊しながら隣の部屋まで吹き飛ばされた。
「ぐぅっ!!!?」
「ライ!!?」
「・・・ふむ、少しは発散出来たかいアダマス?でもそろそろ落ち着いてほしいな、私はライティエットと話がしたいからね」
ルーフェンは言いながらアダマスを床に突き刺し、柄に手のひらを当てて魔力を送る。見ているだけで凍えてしまいそうな蒼白い魔力が灰色の刀身を何度も包み込み、滲み出ていた紫色の魔力をゆっくりと落ち着かせていった。
そのルーフェンが動けない状態を利用してメーディエは自分の結界を解き、ヒラヒラのドレスの裾を思い切り引き裂いた。後ろでルーフェンがよく分からない叫び声をあげていたが無視してライティエットの側へと急ぎ駆け寄る。
「ライ!!ライッ!!無事!?」
「・・・あぁ・・・よ、っと。問題ない、派手に飛ばされただけだ。お前は下がってろ」
「でもっ!!」
向かうのを止めるメーディエを手で制し、ライティエットは周囲の瓦礫を押し除けてルーフェンの前に立つ。
ルーフェンは「足が生足が細い白い艶めかしいラインが・・・」などと気色悪い事をぶつぶつと言っていたが、ライティエットの姿を見て我に返る。そして意外そうな、けれどもどこか納得した様な表情で迎えた。
「うちのアダマスがじゃじゃ馬で悪いね。しかしもうすぐ落ち着くよ」
「魔力喰いの魔剣か・・・」
「その通り。そして本来なら君のコランダムも同じ性質だと記されていたのだけど・・・、随分と封印が強固ということかな。それに、今気にするべき事はそこじゃない・・・」
ようやく落ち着いて静かになったアダマスを改めて片手で持ち上げ、その切先をコランダムではなくライティエットに向ける。
無音で告げられた戦闘再開の合図に、2人は全く同時に床を蹴り上げた。
再び始まる激しい鍔迫り合い。
部屋の中を音速で縦横無尽に走り、剣を重ねる。半壊した部屋に響き渡る金属音と比例して、2人の間に血が舞い、氷に覆われた床を赤く彩った。
2人は酷く楽しげに、けれど声を出す事なく口の端だけを上げて笑った。
顔を汚す血を乱暴に拭い、ライティエットは飛び上がって上段から、ルーフェンはそれを受ける様に下段から剣を振るう。一際激しい剣の交わりを互いに押し切らんとしながら、ルーフェンは声を上げた。
「聞かせてくれたまえライティエット!!何故、我らの世界で作られたその剣を、フェスティア大陸の原住民である君が持っているのか!それにアダマスの攻撃を迎撃したり避け切ったりするだけで終わらず、耐える結界まで張っていたね!」
「結界はメーディエの分もあったからだろっ!」
「誤魔化すのはやめたまえ!君が張った分も耐え切っていたじゃないか!それにそれだけじゃない。即興で魔法を作り出す荒技といい、それを使った後にも関わらず肉体強化等の魔法を連発しても尽きない魔力量といい、君は明らかに、『異常』だよ?」
「・・・」
「とても人間とは思えないね。さぁ!私が納得出来る回答をしてもらおうか!」
ルーフェンが片腕とは思えない剛力で剣を振り斬る。だがライティエットはその前に剣を滑らせてルーフェンの懐深いところまで前進し、身を屈めて斬撃を避けた。そしてガラ空きになった胸を下段から斬り上げる。
「がぁっ!!?」
「・・・魔力は、俺だけのものじゃない。あと剣は、親から譲り受けた物だ」
「ふ、ふふ・・・一部、貰い物か。それに親、ねぇ?・・・その親とやらは、本当に君の・・ーーっ!!!?」
「「っ!!!!!!?」」
胸の氷が割れ、増えた深い傷を押さえるルーフェンの声が途中で途切れる。
だがそれをライティエットも、メーディエも、気にしない。
いや、気づかない。
気にする余裕が、ない。
城の真上、上空に何かがいる。
強大で、威圧的で、恐ろしい。
上を、見なければいけないのに、見れない。顔を、上げることが出来ない。
体は小刻みに震え、汗が滝の様に流れでる。
感情が荒れ狂うのを止められない。
そんな中、部屋の中が急に明るくなった事に気付く。
月の光ではない。太陽が昇るにしては早過ぎる時間だ。何より空を覆う闇の所為で、こんなにも強い光が地上に届くことは絶対に有り得ない。
ならば、この光はなんだ?
大きな光・・・巨大な、強力なーー『魔法』。
いち早くそれに気付いたライティエットは固まる身体を叱咤してメーディエの元に走る。まだ固まったままのメーディエを抱き込み、ありったけの魔力を込めた結界を先程よりも更に枚数を重ねて張った。
直後、辺りは蒼い閃光に包まれ、鼓膜が破壊されるような爆音が響き渡った。
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