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4-7




 ルーフェンの城の門は鉄で蔓薔薇の装飾が描かれた美しい門だった。その門が『メーディエ』の名に反応して巻き付いた蔓を解き、閉じていた鉄の蕾が花開くと同時にカシャンと音を立てて開門する。


 いかにも豪華絢爛でメーディエ大好き全開なルーフェンの城の門だと、ライティエットは呆れを通り越してある意味で感心した。


 警戒しながら門を入り、城へと歩みを進める。

 しかしその警戒は無意味とばかりに何の妨害もないまま城の正面玄関まで辿り着いた。蔓薔薇の門と同じ蔓薔薇の生垣から玄関まで一切見張りはなく、罠も伏兵も見当たらない。



 だが、視られている。



 以前から時折感じていた視線を、今日は特に強く感じる。

 既に此処は敵の本拠地だ。元よりあちらも視ていることを隠すつもりなどないのだろう。


 ライティエットは玄関の扉に手をかける前に頭の中の情報を掘り起こした。

 ギルドに記録された公爵級の魔族の情報だ。


 テリトリーを持たない上に技量がそこまでではないマルクスを除いて、現在ほぼ確定している公爵級はフェスティア大陸の南西をテリトリーにしている魔族と、今ライティエットがいる北東をテリトリーにしているルーフェンの2体。


 南西の魔族は『そこに居る』ことが分かっている以外、何も情報がない。

 それに対してルーフェンは情報がそこそこ有り、迷宮(ダンジョン)の形状が『無限回廊』であるという事が分かっている。

 城門の簡易結果は情報になかったが、それ以外は今のところギルドの情報と差異は無い。ならばこの扉を開けた瞬間、延々と続く無限回廊に囚われて、いつのまにか外に放り出されるという未来が待っている筈だ。


 ルーフェンの迷宮(ダンジョン)はそれ故に殆ど誰も傷付かず、そして誰も攻略出来ない。



「だったら、最初から入らなければ良いだけだ」



 正しい道順がきちんと用意されているかどうかも分からない。いや、むしろ無い可能性の方が明らかに高いだろう。

 ならば、そんなものにわざわざ挑戦してやる必要はない。


 ライティエットは玄関に向けていた手を自分の後頭部に回した。

 

「ーー空の要、地の柱、沈黙の気の流れ。妨げられる事無きモノに、大いなる逆流を及ぼす器ーー」


 黒銀の髪の中から同じ黒銀色をした紐を取り出してスルリと解く。緩くなって肩に引っかかった紐と一緒に落ちたのは、黒地に銀の糸で緻密な魔法陣の刺繍が施された眼帯。


「ー光源の粒子の集まる場所、総てにおいて存在する自然という名の秩序。受けるは我が身、向かうは彼の地ー」


 眼帯の魔法陣は定められた位置から外され、一瞬だけ淡い光を放って消えた。

 直後、ライティエットの足元に銀色の模様が全く違う魔法陣が複数浮かび上がる。それらは重なるように、互いを破壊し合うように合わさって、一つの巨大で緻密な魔法陣へと変貌した。



「ーー導きたまえ!律と力が流れるままに!!」
















◆◆◆



「キャァ!!?」

「ぅ、くっ!?な、なんだこの光は?!」


 水晶玉から溢れ出た光はメーディエとルーフェンの視界を奪い、部屋全体を真っ白に塗り替える。


 だがそれは視界だけでなく、ルーフェンの正常な思考すら奪い去った。



「(なんだ、何が起きた?魔法だ、魔法を唱えていた。城には入らなかった。だが私は知らない、あんな詠唱は知らない。聞いたことがない。我らの大陸もこの大陸も、魔法は全て知っている。調べて覚えた、全て、記憶している。私が知らない魔法など存在しない。ならあれはなんだ?作ったのか?魔法は想像力だ、作れる、可能だ。だが難しい、時間がかかる。なのに奴はあの場で、即興で?作ったのか、作れたのか?なら一体どんな効果の魔法を)ーーッ!!?」

 


 自分が動揺しているのだとルーフェン自身が気付く前に、ーぞわっーと、全身に悪寒が走る。


 直感か、それとも本能か。


 ここで動かなければ危険だ、と脳が理解する前に身体が動いた。



「っがぁぁぁああぁぁ!?」



 左胸、心臓を僅かに外れた場所に剣が深く突き刺さる。そのまま右横に一閃される。だがその前に右へ回転して剣から身体を逃す。

 おかげで何とか身体を両断されずに済んだが、突き刺さっていた剣はルーフェンの動きを読んで一閃する方向を右横から斜め左へと瞬時に変え、彼の左腕を部屋の彼方へ切り飛ばした。


「ぐあぁっ!!?く、ぅッ、ふぅ・・・」

「ルーフェン?!何、何が起きているの?」

「ははは・・・なんて、大胆なことをしてくれるんだい」



 まだ視界が戻っていないメーディエの不安気な声が聞こえる。実際ルーフェンも視力はまだ完全には戻っていない。


 だが今目の前に、彼が、ライティエットがいるのだけは分かる。


「ライが・・・そこにいるの?」

「そうだよメーディエ、ははははは!驚いたな、私の迷宮に入らずこの部屋まで来るなんて・・・!一体どんな魔法を使ったのか、ぜひご教授願えないだろうか」


 飛んだ腕が壁にぶつかって落ちた音が響く。切り口からバシャバシャと滝のように血が溢れるが、ルーフェンはそれを気にもせずに残った右手で素早く己の剣を手に取った。


 ーーギャギンッ!!!


 刀身が激しく交差し、魔力の衝撃波が周囲を破壊する。


「別に、既存の魔法を組み合わせただけだ」

「ほぉ?」

「魔力探索魔法と転移魔法。アンタの魔力で覆われたこの城内部でメーディエの魔力は異質だ。ならそれを探し出してそこに飛べば良い」


 激しく鍔迫り合いをしながらライティエットがする説明にルーフェンは苦笑いを浮かべる。



 さも当然とばかりに、大したことのない、簡単なことの様に言ってくれるのか。



 魔力探査魔法は確かに難しいものでは無い。

 だが、転移魔法は空間属性魔法の中でも最高難易度を誇る高位魔法だ。己が行った事がある場所ならば魔力が届く範囲内で移動可能という魔法。

 先ずこの魔法を使えるだけでも周囲に大いに尊敬され、賞賛されて良いレベルだ。事実、魔族内でも使える者はほんの数人しかいない。

 それなのに、その魔法を更に他の魔法と組み合わせただと?同じ空間属性魔法とはいえ、早々に出来ることじゃない。


 しかもライティエットは2つの組み合わせだと言っているが恐らく正解には3つだ。2つの魔法だけでこの目を焼く様な光は放たない。こちらが視ていることを把握した上で、不意打ちが出来るようにわざと閃光魔法も織り交ぜたに違いない。



 恐ろしい。


 だがそれ故に、ルーフェンの予想が確信へと変わっていく。





ここまで読んでくださってありがとうございます。

誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。


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