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ーーカツーーーーン・・・カツーーーーン・・・
暗い、奈落の底に続きそうな長い螺旋階段に足音が木霊する。反響で上下左右、ありとあらゆる方角から届くそれは、歩く者の方向感覚を狂わせ、自ら奈落へ堕ちろと誘導しているかの様だ。
ルーフェンはその音を聴きながらも感覚を狂わせる事なく、螺旋階段の最後の段に降り立つ。
階段を中心に見事な円形を描いた地下室には数多の武器や鎧が飾られていた。
一つ一つガラスケースに展示された剣。
誰も着用していないのに剣を振り被ったり、鍔迫り合いの格好をとる鎧。
台の上に置かれた額縁の中で花の様に飾られたナイフの束。
どれもこれも美しく磨かれ、まるで芸術品を飾った美術館の一室を思わせる。
ルーフェンはそれらの中で唯一壁に飾られた、いや、壁に貼り付け、鎖でがんじがらめに縛られた剣の前に立った。
鞘も唾もない、武骨な灰色の曲刀。
部屋に飾られたどの武具も美しい装飾がされ、照明のランプの灯りの元で輝きを見せているというのに。その剣だけはそう言ったところがほぼなく、むしろ縛り付けている鎖の方が鈍い光を放っているほどだった。
「ーーあれは、やはりそうなのかい?『アダマス』」
手を伸ばし、鎖を避けて刀身に触れながら剣に語りかける。柄頭に着けられた唯一の装飾と言える透明の宝石が薄く明滅し、それに合わせて刀身も僅かに震え出した。
「あぁ、やはり共鳴しているね・・・。兄弟に逢えるのがそんなに楽しみか」
まるでルーフェンの問いに応える様に明滅の光が強まっていく。刀身の震えも強さを増し、鎖がチャリ、ギシッ、と悲鳴を上げ出した。
「しかしひとたび見えれば、互いを破壊し合わんと斬り合うのが君達の運命。それでも・・・ーー」
ーーバギンッ!!!!
激しい破裂音と共に鎖が飛び散る。
あまりの勢いに部屋に飾られたガラスケースが割れ、武具達が崩れて床に叩きつけられた。それらの音が部屋の反響によって鼓膜が破れんばかりにけたたましく響く。
ルーフェンは飛んできた鎖をあえて防御も避けもせずに受け止め、あちこち傷付きながら、フワリと目の前に浮かぶ剣を見続けた。
その表情がとても寂しげな笑みであったことを、知る者は誰も居ない。
◆◆◆
「ただいま、愛しいメーディ、ーーッ!!??!!!?」
ノックと共に扉を開けて部屋に入ったルーフェンは突然落涙し、膝からガックリと崩れ落ちた。
「地上に、女神が、舞い降りた・・・!!」
「・・・・・キモ」
ルーフェンの言う通りメーディエは女神の様に美しく着飾って、いや、着飾られていた。
そんなメーディエは今にも拝み出しそうなルーフェンをドン引きじと目で見下ろすが、ルーフェンからしたら単なるご褒美なのだろう。涙の勢いが只々増すだけであった。
なので完全無視と決め込み、彼女を飾っていた魔族のメイド達も主人の奇行に動揺する事なく礼をとって部屋から下がっていく。
そして唐突に始まる、号泣しながらのノンストップノンブレスな賞賛の嵐。
「美しい美しすぎるよ私のメーディエ!!シンプルなマーメイドラインが実に良く似合ってるね長く伸びたレースのトレーンが大輪に咲き誇る君を表しているよレース袖から薄っすらと見える白魚のような腕のラインが素晴らしい透け具合も完璧だ腰を飾る絹のリボンは君という花を彩れてさぞかし喜んでいることだろうね薄紫の髪もベールから透けて見えてまるで星を瞬かせた夜空の天の川だそういえばこのドレスはホルターネックだったはずつまり背中が丸見え背中を見ていいだろうかいやダメだそこは不可侵の領域私如きが見ることも触れる事も許されないそうだこれは後世に残すべき美の結晶だ画家を今すぐ画家を連れてきいやあぁぁぁあああぁぁぁあぁん!?!!??」
頭に被っていた黒いベールをメーディエは無表情で剥ぎ取ってペッと床に叩きつける。金糸で縁取られた薔薇の刺繍がぐしゃぐしゃに歪み。飾りとして着けられた透明の宝石は本来なら彼女の動きに合わせてシャラリと甘い音と輝きを奏でた筈だが、ジャラガシャと残念な音を立てて捨てられた。
「完璧な美の結晶ぐぁぁあああぁぁ〜ーーーーッ!!」
それよりも残念なルーフェンを放ってメーディエは部屋の奥にある天蓋付きのベッドに潜った。ルーフェンは捨てられたベールを持っておんおん泣きながら追いかけてくるがやはり完全無視。
実際、相手をしてもしなくても
「あぁぁあぁでも布団で丸まったメーディエも可愛いぃぃぃぃはぁはぁはぁ」
と、すぐに持ち直して気持ち悪い言動を吐くのだ。
己の精神疲労を考えても無視が1番である。
だが、これだけは聞いておかなければ。
「・・・それを、取りに行ってたの?」
「え?」
視線は向けず、けれど意識だけはハッキリとそれに向ける。
ルーフェンの腰に下げられた、豪華絢爛な彼に全く似合わない武骨な剣。
なんて、凶悪な物を手にしているのか。
「そんな物、わざわざ準備しなくても、ライは来な」
「来るよ」
剣を愛し子に触れる様に撫でながらルーフェンが間髪いれずに断言する。あまりに自信ありげな確信を持った発言に思わずルーフェンを凝視してしまった。
「どうして断言出来るの?ライのこと、何も知らないくせに」
「そうだね、私は何も知らない。ただ予想はしているんだよ。出来れば、当たって欲しくない予想だけどね・・・」
独り言の様に呟かれた言葉にメーディエは首を傾げる。
そんな時、何処から入り込んで来たのか一匹の蝙蝠が部屋に現れ、ルーフェンの手に降り立った。蝙蝠はキュルリと身体を丸めると黒い水晶玉に変化し、ぼんやりとした光を纏って映像を映し出す。
そこには森を抜けて此処の城門前に辿り着いたライティエットの姿があった。
「ほぉら、やっぱり来た」
「う、そ・・・ライティエット、なんで・・・っ」
「しかし思っていたより速い到着だね。まるで飛んで来たみたいだ」
予想が当たって嬉しげに笑うルーフェンを無視してメーディエは彼の手から水晶玉を奪い取る。映し出されたライティエットはちょうど城門を開けようと手を伸ばしていたところで、その手がバチンッ!!と大きく弾かれた。
口を押さえて叫び声を押し留めるメーディエ。
だが弾かれた本人であるライティエットは全く気にした様子がない。煙が出て火傷をしているであろう手を軽く振るだけ。目は城門に向けられたまま、何か呟いている。
『ーーやはり門に魔法が施されている・・・封印魔法、いや違うな、これは暗号による簡易結界かーーー【メーディエ】』
ライティエットの声を聞いた直後、城門はカシャンと軽い音を立てて開いた。
「はぁっ!?私の名前ですって!?ルーフェン、貴方一体考えてるのよ気色悪いっ!!」
「ふむ、さすがにこれは簡単過ぎたかな?ところでメーディエ、君は彼に『真名』を教えてはいないんだね」
悪態をついていたメーディエが大きく震えて固まった。
水晶玉を持つ手が震え、爪がカッ、カカッ、と不規則な音を鳴らす。
「・・・・・・教える訳、ないでしょう?大体、彼には全く関係ない話じゃない」
「果たして本当にそうだろうか」
ルーフェンの言葉にメーディエは彼を見つめる。
「メーディエ、彼は君が思っている以上に君と関係のある者かもしれないよ」
「どういう、こと?」
言葉の真意が分からない。
一体何を考え、何に気付いたのか。
知りたいのに、知りたくない。
「私はね、それが知りたくて彼をここに呼んだんだ」
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