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4-4

なかなか更新出来なくてすみません。

すこし体調崩してました。

今後も更新が月一くらいのペースになるかもしれません。



 何者にも捕えられない風の如く、外壁門から町の外へと駆け抜ける。メーディエは街道から外れて道なき道を走り、人目のつかない崖の近くまで移動した。そこで周囲を念入りに確認し、探索魔法も発動させる。


 辺りには誰もいない、魔力の反応も無い。


 確認し終えたメーディエはその場にがっくりと膝と両手を地面につけ、探索魔法と自分の身にかけていた全ての魔法を解いた。

 他者の目から己の姿を消す『幻影魔法』。

 此処までの移動でかけた『身体強化魔法』。

 そして、ライティエットと旅を始めてからずっとかけ続けている『完全なる変化魔法』。

 魔族の中でも特に魔力量の多いメーディエではあるが、四つの魔法を同時に使用することは流石に厳しいものがあった。未だ膝と両手は地面についたままで荒い呼吸を繰り返しているのだが、一向に落ち着く気配はない。


「ゼェ・・・ハァ・・・私、バカだ。・・・幻影かけたんだから、ハァ・・・変化魔法、解けば良かった・・・」


 『完全なる変化魔法』をかけている間は翼を出し入れする事が出来ない。幻影魔法をかけた時点で変化魔法を解いていたならば、身体強化魔法をかけずに翼を使って素早く移動する事も可能だっただろう。

 幻影魔法自体はそこまで高位な魔法ではないので効果時間も短時間限定、周囲に魔力で幻影を視せるので魔力の強い者や勘がいい者には気付かれやすい。ただ魔法に置いてほぼ右に出る者がいないメーディエが使用したという時点でまず気付かれる事はない。


 普段ならその事に気づいていて、1番効率が良い魔法運用を選んでいただろう。

 けれどあの時のメーディエにそこまでの冷静さはなかった。


 そして今も



「あぁ、やぁっと見つけた。愛しい私のメーディエ・・・」



魔族本来の姿に戻っているが故に見つかってしまう可能性を、全く考えられていなかった。



「ルー、フェン・・・」


 金色の美しい男がそこには居た。


 探索魔法を切った瞬間に距離を詰めて来たのか、と悔しさで奥歯をギリリと噛み締める。


 そんなメーディエの様子など気にも止めず、ルーフェンはニコニコと笑みを浮かべて至極上機嫌だ。

 目尻を下げて自分を見つめる瞳が、溶けた飴のようにどろりと煌めいている。そこに彩られているのは甘く淡い恋心などという可愛らしい感情ではない。度を超えた執着、この身を雁字搦めにしてもきっと満足などしない異常者のそれだった。


「久しぶりだね、元気そうで何よりだよ」

「ち、近寄らないで!!」


 疲労困憊の体に鞭を打って魔法を放つ。

 だがあっさりと避けられて、一歩、一歩、ゆっくりと噛み締めるようにルーフェンはメーディエに近づいて来た。


「おっと、危ない危ない。ふふふ、相変わらず激しいね・・・あぁ本当、なんて愛らしい!!」

「こっちに来ないでよこの変態!!ロリコン野郎!!」

「変態にロリコンって・・・そんな、ひどいよメーディエ」


 言葉では傷ついたように言っているものの表情は変わらず満面の笑み。

 歩みも止まらず、メーディエへとその手が伸ばされ、


ーーパンッ!!


小気味良い音を立てて払い除けられた。


「触らないで!!私は絶対、帰らないんだからね!!」

「どうしてだい、もう充分に下界は楽しんだだろう。さぁ私の城に帰ろう。それにーー」


 払い除けられた手を少しも気にせず、ルーフェンはメーディエの前に片膝をついて目線を同じ高さに合わせるように屈み込む。


「精霊の結界が張られた町から1人で出てきたって事は・・・そう言う事、なんだろう?」

「っ!!?」

「やっぱり、そうなんだね。メーディエ・・・どんなに頑張っても君は、籠の中の鳥なんだよ」


 急に消えた視線に込められた熱。

 紡がれる言葉は全てを見透かしているのにどこにも高圧的な雰囲気はなく、むしろ気遣いすら感じられる。



 とても、懐かしい目だ。


 まだ産まれて間も無い頃。

 たくさんの視線に晒される日常に疲弊していた頃。

 『メーディエ』という、名前が無かった頃。


 マルクスが唯一、メーディエに怒りや嫉妬、妬みの感情を向けてくれた様に。

 ルーフェンは唯一、メーディエに同情と憐れみの感情を向けてくれていた。


「ルーフェン・・・それでも、それでも私はっ!!」


 自分の身体を抱きしめて嫌だとぐずる姿はまるっきり子どものそれだ。勝手に溢れる涙は手に持った黒いマントに吸い込まれていく。

 この時になってやっと、メーディエはライティエットのマントをそのまま持ってきてしまった事に気がついた。


 ルーフェンに見つかってしまった時点で、いや、何も言わずに町を無断で出て来てしまった時点で、メーディエがライティエットの元に戻ることは出来ない。


 戻っては、いけないのだ。それはきっと彼の死を決定的にするのと同じだから。

 けれど、メーディエの心に宿る思いは違う。

 ライティエットの死なんか願っていない、これ以上巻き込めない、迷惑をかけられない。だからもう戻れない、もう会えない。


 でもーー



「ライのところに・・・かえりたい」



今すぐ、ライティエットに会いたい。





「ーーっがハ!!?」


 首が急に絞められ、身体ごと一気に宙へ持ち上げられる。涙と酸欠でボヤける視界の中でルーフェンが今まで見た事もない様な狂気に染まった状態で、メーディエの首を片手で締め上げていた。


「メーディエ・・・今、目の前にいるのは、この私だ。それなのに別の男の名前を呼んで、しかも帰りたいだって?ふふ、ふははははははははははははは!!・・・止めてくれよ、君のその可愛い唇を縫い付けたくなるじゃないか」

 

 美しく、妖麗な笑みを浮かべてこちらを見ているがその目は全く笑っていない。狂った感情のままにメーディエの細い首を締め付け、更に尖った爪も深く刺していく。

 空気を求めてパクパクと口を開くも、一向に肺には届かない。垂れる涎と爪が刺さって流れでた血がつたってルーフェンの手を汚していく。

 だが彼は気にしないどころか逆に歓喜の声を上げた。


「あぁ!あぁ!!良いね!!とても綺麗だよメーディエ!!!先ほどの涙も真珠の様だったが、君の身体から出たこの雫たちはオパールやルビーも霞んでしまう程の美しさだ!!このまま大地に落としてしまうなんてもったいない!!全部保存して私の部屋に飾っても良いだろうか!?あぁいやそれとも加工してアクセサリーにしようかなぁ!!」


 ただただ気持ち悪いだけの提案に酸欠で無くても頭がクラクラしてくる。


 これだからこの男が嫌いなのだ。

 本当に、心底、マルクスは趣味が悪いと断言したい。


 自分が好意を抱く者の首を絞めながら、流れ出る涎や血に興奮して、あまつさえ保存したいとか。変態も極めるとここまでくるのかと、気持ち悪いを通り越して最早不快以外の感情が浮かば無い。


ーーあぁでも・・・もうだめだーー


 その綺麗な顔を殴りつけて在らん限りに罵ってやりたいのに、意識を保つことさえ難しくなってきた。頑丈な魔族の身体は首を締め付けた程度で死にはしないが、やはり酸欠で意識は飛んでしまう。

 そうなれば次に気がついた時には、もうあの場所に戻されているだろう。


 豪華絢爛な調度品に幾つもの魔法陣が描かれた部屋。

 メーディエの為だけに作られた、でもメーディエの意思は完全に無視された鳥籠。


ーーいやだ、もどりたくないーー


 顔や手を引っ掻けば、この手は緩むだろうか。いやその傷さえもご褒美だと、喜ばせるだけな気がする。

 それにそんな事をすれば今この手にあるマントを手放さなくてはいけない。

 もう返せないならせめて、ずっと持っていたい。心の拠り所として、思い出を、いつか消えてしまうその瞬間まで覚えていたい。



ーーライ・・・できることなら、もうすこしだけ・・・ーー



 今にも抜けそうな力を手に込め、諦めと願いを思い描きながら、メーディエは目を閉じた。

















「メーディエ!!!!!」


ここまで読んでくださってありがとうございます。

誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。


少しでも面白いと思っていただけたら↓から評価、感想コメントなどをいただけると嬉しいです。

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