第四夜 闇の貴公子
例えどんな理由が在ろうとも
渡したくなかった 傍にいたかった
嫌われても 嫌がられても
もう二度と 笑顔を向けてくれなくとも
こんな方法しか取れないことを許してほしい
どうか 君に幸あれ
ー某城内渡り廊下
「・・・」
「随分と、ご機嫌でございますね?」
「ん?分かるか」
「はい。僭越ながらも貴方様にお支えして数百年、ほんの少しばかりではございますが、御感情の機微が読み取れるようになったかと」
「そうか、もうそれほどに時が経ったか・・・」
「はい」
「・・・今宵は、月が良く視えるな」
「残る柱が二桁になりました故・・・」
「そうだな・・・。だが、間に合いそうだ」
「おぉ!それは、それは誠にございますか!?」
「うむ、近日中に我も動く。『アレ』を準備しておけ」
「は、御心のままに」
「(ことは順調に進んでおる・・・。今回こそ、確実に芽吹かせるのだ)」
◆◆◆
『フェスティア大陸』には魔族が建造した大小様々な建物が存在する。
建物は千人に及ぶ『闇を司りし柱』がそれぞれに作り出した迷宮であったり、その中心に建っているだけだったり。単なる球体から祠・家・門・舞台・橋・城など形も千差万別である。
けれどこれらがこの大陸中を闇のベールで覆う装置の要、正に『柱』であった。
そんな建物の一つが、大陸北地にある巨大な針葉樹の森に溶け込むようにして建っている。
城と呼ぶに相応しいその建物の主人は魔族はもちろん、ハンター達の間でもその名が知れ渡っている『ルーフェン・デューク』。
別名『闇の貴公子』とも呼ばれる、最強最悪の公爵級魔族の一角である。
城の最上階に設置された玉座に座るルーフェンを月の儚い光が美しく照らしている。
それは天井に作られた大きなステンドグラスの天窓から降り落ちてきた光とルーフェンのコラボレーション。まさに一枚の完成された絵画の如き風景だ。
あのマルクスが半狂乱になりながら暑苦しく語っていた通り、彼は美しい魔族であった。
画家が筆を投げ出すどころかぜひモデルにと全財産を貢ぎそうな程に美しい顔。純金を溶かし、星の瞬きも見て取れる黄金の瞳。紺色のマントの上に天の川の如く流れ煌めく金糸の髪。濃い青紫色の軍服から見え隠れする雪のように透き通った白い肌。天を貫かんとする黒鋼の尖った角は威厳に満ちており。額にある第三の目は月光と同じ白金で、鋭い眼光が他を圧倒して止まない。
ルーフェンは本当に、素晴らしいまでの美形なのだ。なのだが、
「ウフフ・・・ふふふふふふふ、メーディエ・・・あぁなんて愛らしい」
今の彼に美しさや威厳はどこからも、欠片さえも感じる事は出来ない。
大理石の磨き抜かれた台座に置かれた水晶球を覗き込んでいるのだが、そこにメーディエが映った時から鼻の下を伸ばしてニヤけている。
赤いワインの入ったグラスを片手に格好つけているのに全くしまらない。今の彼は『闇の貴公子』でも何でもない、ただの『エロ親父』、もしくは『変態』である。
長時間飽きないのか、と思われるくらいメーディエを眺めていたルーフェンだったが、そこにライティエットが映り込んだ瞬間表情は一変した。
「なんだ、この男は・・・」
ニヤけ顔はどこへやら、悪魔の如き険しく恐ろしい表情でライティエットを睨みつける。
ライティエットの側にいるメーディエは常に笑顔で、そのどれもが明るく楽しそうだ。ルーフェンはもちろん、こんな笑顔を向けてもらったことはない。
自分以外の、しかも魔族どころかこの大陸の人間が愛らしい笑顔を向けてもらえるなんて・・・。
「おのれ、原住民如きがメーディエの笑顔を独占しよって〜っ!!」
あまりの怒りに体から魔力が溢れ出て、目の前の水晶球だけでなく、天井のステンドグラスにまでヒビが入る。手に持っていたグラスは粉々に砕け散り、指の間からワインが血のように流れ落ちていった。
ルーフェンは濡れた手を軽く振って、指をパチンと鳴らす。部屋中に響き渡ったその音は長い廊下の奥まで反響していき、聞こえなくなった頃に違う、たくさんの羽音を鳴らす蝙蝠達となって戻ってきた。
真っ黒な身体に赤い目の蝙蝠達はルーフェンの前に降り立つとその小さな身体で臣下の礼を取る。
「我が僕達よ、汝らに命ずる!この男を抹殺し、メーディエを私のところへ連れ戻してこい!!」
高らかな命令を合図に蝙蝠達は揃って頭を下げ、すぐさま外へと飛び出していった。
この蝙蝠達の誘導によって最近のモンスターの異常発生が起きていたのだが。二人の見事なコンビネーションとギルドの活躍により、目的を達成することは出来なかった。
もちろん、これらの様子もルーフェンは全て水晶球で見ていた。
「メーディエの協力があるとは言え、あの数を仕向けて無傷とは・・・。それどころかマルクスの魔法を上書きするだと?」
探索が必要ないと言われながらも、こっそりと続けて見つけ出してみればこの状況。しかもたまにだが、こちらの遠隔魔法の視線に気付いて目を向けてくる事すらある。
「何者なのだあの男は・・・。もしやとは思うが、一度間近で確かめるべきかもしれないな」
ルーフェンは水晶球の映像を消すと、黒光りする翼を広げて薄闇の空の向こうへ飛び立って行ったのだった。
愛猫の介護に続いて家族と自分がコロナに感染と慌ただしい日々が続いております。
短い更新になりますが今年の更新はこれで最後と思われます。来年またよろしくお願いします♫
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