3-5
メーディエが、あちゃーっと言わんばかりに額に手を当てて天を仰ぎ、マルクスに至っては目を見開いて完全に固まってしまった。ただ疑問を口にしただけのライティエットは2人の様子に状況が理解出来ず、困惑する。
が、相変わらずそんな感情の変化が表情に出ることはなかった。
それでも何となくライティエットの心中を察したメーディエが、彼のマントをクイクイっと引っ張って小声で説明をしてくれる。
「えーっと、ライあのね?伯爵くらいまでは割とライの言う通り魔力量で決まる事が多いんだけど、侯爵と公爵になると、どちらかと言えば古い血筋とか血統とか・・・つまり本人の力量よりも、どこの、誰の血を継いでるかが優先されるのよ」
「そうなのか?ギルドでも聞いた事がない情報だ」
「でしょうね。実際侯爵以上になるともう両手で数えられるほどにしか居ないから、なかなか比べることも出来なかっただろうし。でも強い血を残すのに固執しているから、実際伯爵級よりも能力が高いのが殆どなのよ」
それを聞いてライティエットはチラリと目の前のマルクスに視線を戻す。
いつのまにか両手の魔力を霧散させ、完全に俯いてしまっている為に表情を見る事が出来ない。
「・・・つまりアイツはその『殆ど』に当てはまらない、例外ってことか」
「あぅ、まぁ・・・うん・・・そういうこと。あ、でも魔法はとても上手なのよ?難しい魔法も大体詠唱無しでと」
「うるさい黙れメーディエ!!!!!!」
俯くマルクスから叫び声と同時に再び魔力が発せられる。先ほど全力かと思われた魔力は更に膨れ上がり、業火のような、でも陽炎のようなそんな揺らめきをもってマルクスの身体から溢れて出てきた。
「・・・アンタなんかに・・・アンタなんかにフォローされなきゃいけないほど!!あたしは落ちぶれちゃいないわ!!」
それはいつ暴走してもおかしくないほど不安定で、既に相当な熱を帯びていた。その証拠に陽炎に触れた木の葉や地面の草が一瞬で燃えて塵と化していく。
「あたしが欲しいもの全部持ってて、それを分かろうともしないやつが!あたしのことは分かってやって憐れんでくれてるっての?はッ、優越感に浸ってんじゃないわよ!!」
「マルクス、違う!私はそんなつもりじゃ」
「黙れって言ってんでしょ!!?誰もが憧れたその魔力を、地位を、色を!簡単に捨てて、隠しやがってさ!!!でもね、アンタがアンタである以上、全部捨てたつもり!隠したつもりよ!!どんなにアンタ自身が拒んでも、所詮は口先だけのわがまま!!全てを手にすることはアンタが産まれた瞬間から決まってる決定事項!絶対に、何をどうやったって覆らない!!だからさっさと受け入れて、籠ん中に帰れってのよ!!あたしから全部奪ったやつが、自由まで手に入れてんじゃないわよ!!!!!!」
マルクスの声にまで魔力が乗り、音波となって耳を叩く。
いや、『刺して』くる。
分かっている、分かっているのだ。
耳をいくら塞いでも届いてしまうこの声のように、言葉のように。
どんなに逃げても、拒んでも、この身に宿るモノは絶対に消えはしない。
マルクスの言う通り、遠くない未来に自分は『全て』を手に入れて、『全て』を失う。
それでも、今ある自由とひと時の温もりを手放したくない。
そう思う事すら、過分に持ち過ぎるこの身では許されないというのだろうか。
メーディエの思いは音にならず、数度口を開いて閉じて、ただ俯くだけに終わった。
それでも無意識は彼女の思いを行動で示す。
今にも血が出そうなほどに噛み締められた唇と同じほどに、握り締められたライティエットのマント。
ライティエットは増した引っ張りの強さでそれに気付き、メーディエに視線を向けて僅かに目尻を緩める。そしてポン・・・、と彼女の頭に手を置いた。
急な温もりに弾かれるようにして顔を上げたメーディエとライティエットの視線は重ならない。既に前を、マルクスを見据えたライティエットの、それでも置かれたままの手の温もりがあまりに優しくて、メーディエは泣きそうになる。
『ここに居ていい』、と言ってもらえた気がして。
「・・・なるほどねぇ〜、ムカつくメーディエを更に調子つかせてんのはアンタね?なら、やっぱりさっさとアンタを殺して、メーディエをズタズタに引き裂いてやるわ!!」
「やれるものならやってみろ」
「吠えたわね、人間風情が!!!
新月より降り積もる光の粉。日蝕と共に帰す黒き旋律。紅の嵐に運ばれし破壊の力よ。全てが灰と化す地に罪の言葉を語らん!!いでよ、赤き宝玉、炎の柱。燃え盛りて戦曲を舞え!!!」
マルクスの頭上に火の塊が浮かび上がる。以前ライティエットが使った時のように複数ではなく、たった一つ。ただあまりに巨大で、火は赤を通り越して白く、今は見えぬ太陽のように発光していた。
「(普段詠唱なんて唱えないマルクスが詠唱!?なんて練度の紅蓮なの・・・さすが、『紅蓮の魔女』の異名は伊達じゃないわね)」
あまりの大きさと炎の密度に魔法の熟練者たるメーディエですら息を呑む。魔力量を生かした力技で良いなら出来なくはないが、マルクスと同じ程度の魔力量でここまでのモノを発動させるのはメーディエでも難しい。
だが、
「(ライに対してこれは悪手だわ。本来、紅蓮は数多の炎の球を相手に撃ち込む魔法。それをあえて一つにするだなんて・・・)」
数が多ければ避けきれずに何発か被弾してダメージを与えられるが、一つならば避けるのも容易い。
巨大にした事で逃げ道を塞いだつもりでいるのだろうがライティエットにはそれすら無意味だ。肉体強化魔法を施したライティエットのスピードは最早目で追うのが困難なレベルなのだから。
「これに耐えれるモノなら耐えてみなさい!!ーー『紅蓮』!!!!」
メーディエを下がらせたライティエットにその質量からは想像もつかないようなスピードで紅蓮が飛んでくる。それでも肉体強化の魔法をかけたライティエットからすれば簡単に避けられるモノであった。
しかし、ライティエットは動かない。
「・・・ライ?何してるの!?避けて!!」
メーディエの叫びも空しく、ライティエットはその場を微動だにしないままマルクスの紅蓮の炎に呑み込まれていった。
燃え盛る炎が空に届きそうなまでの火柱を上げる。ゴォォと唸るように燃える炎の中に、ライティエットの姿形を見つける事は出来なかった。
読んでくださってありがとうございます。
誤字脱字ありましたら知らせていただけると大変助かります。
少しでも面白いと思っていただけたら↓から評価、感想コメント等をいただけると嬉しいです。




